No.241 - ウリ科野菜による中毒の危険性

No.178「野菜は毒だから体によい」の関連記事です。No.178で書いたことを要約すると次のようになります。 ◆植物は昆虫や動物から守るため、毒素をもつように進化してきた。 ◆これらの毒素のなかには人間にとって "ホルミシス" を起こすものがある。ホルミシスとは、少量を摂取すると有益だが、多量に摂取ると有毒になる現象を言う。 ◆ホルミシスを起こす毒素を少量摂取すると、人間の体はそれを排除しようとして活性化する。これが人体にとって有益となる。 ◆ホルミシスの一つの例だが、カレーの香辛料の一つであるターメリックに含まれるクルクミン(黄色の物質)は、脳において活性酸素を除去する抗酸化酵素の生産を促進するように働く。これがアルツハイマー病の直接原因であるベータアミロイドの蓄積を減少させる。 ターメリックに関して思い出しましたが、よく「インド人には認知症が少ない」と言いますよね。これは疫学的にも確かなようです。これもホルミシスの効果かも、と思ったりします。 しかしホルミシスの原因物質は「微量だと益になる」わけで、毒素であることには変わりありません。薬か毒かは一つの物質の表と裏です。そしてそれは植物が敵(昆虫や動物)を撃退するために発達せた "毒" が本来の姿なのです。 この「植物に含まれる毒」に関して、意外にも身近な野菜で中毒を起こす場合があるという記事を最近読みました。今回はそれを紹介したいと思います。2018年8月9日の Yahoo Newsに、 &em…

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No.240 - 破壊兵器としての数学

No.237「フランスのAI立国宣言」で紹介した新井教授の新聞コラムに出てきましたが、マクロン大統領がパリで主催した「AI についての意見交換会」(2018年3月)に招かれた一人が、アメリカの数学者であるキャシー・オニールでした。彼女は、 「Weapons of Math Destruction - How Big Data Increases Inequality and Threatens Democracy」(2016) 「破壊兵器としての数学 - ビッグデータはいかに不平等を助長し民主主義を脅おびやかすか」 という本を書いたことで有名です。Weapons of Mass Destruction(大量破壊兵器。WMDと略される)に Math(Mathematics. 数学)を引っかけた題名です(上の訳は新井教授のコラムのもの)。この本は日本語に訳され、2018年7月に出版されました。 キャシー・オニール 著(久保尚子訳) 「あなたを支配し、社会を破壊する、AI・ビッグデータの罠」 (インターシフト 2018.7.10) です(以下「本書」)。一言で言うと、ビッグデータを数式で処理した何らかの "結果" が社会に有害な影響を与えることに警鐘を鳴らした本で、まさに現代社会にピッタリだと言えるでしょう。今回はこの本の内容をざっと紹介したいと思います。なお、原題にある Weapons of Math Destruction は、そのまま直訳すると「数学破壊兵器…

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No.239 - ヨークの首なしグラディエーター

No.203「ローマ人の "究極の娯楽"」で、古代ローマの剣闘士の話を書きました。ジャン = レオン・ジェローム(1824-1904)が剣闘士の闘技会の様子を描いた有名な絵画「差し下ろされた親指」も紹介しましたが、今回はその剣闘士の話の続きです。 2004年8月、英国のイングランドの北部の町、ヨーク(York)で古代ローマ時代の墓地が発掘されました。この発掘の様子と、埋葬されていた遺体の分析が最近のテレビ番組で放映されました。 地球大紀行 WILD NATURE ヨークの首なしグラディエーター 2000年前に死んだ80人の謎を解く (BS朝日 2018年7月6日 21:00~21:55) です。これは英国の Blink Films プロダクションが制作したドキュメンタリー、"The Headless Gladiators in York(2017)" を日本語訳で放送したものですが、古代ローマの剣闘士に関する大変に興味深い内容だったので、その放送内容をここに掲載しておきたいと思います。なお、グラディエーター(=剣闘士)は英語であり、ラテン語ではグラディアトルです。 ヨークの首なしグラディエーター 2000年前に死んだ80人の謎を解く (BS朝日「地球大紀行」より。画像はヨーク市街) (site : annamap.com) 出演者 このドキュメンタリー番組は、ナレーションとともに8人の考古学者・人類学者が解説をする形をとっていま…

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No.238 - 我々は脳に裏切られる

No.149「我々は直感に裏切られる」で、極めて大きな数を私たちは想像できず、そのために直感が働かないという話を書きました。23人のクラスで同じ誕生日の人がいる確率は 50% 以上もあるとか(= バースデー・パラドックス)、10都市を巡回する全ての経路を総当たりで調べるのは家庭用パソコンで2秒で可能だが、32都市となるとスーパーコンピュータ "京" を宇宙の年齢(135億年)だけ動かしても絶対に不可能、といった話でした(総当たりでは不可能という意味)。これらの裏に潜んでいるのは日常生活とは全くかけ離れた大きさの数であり、それが直感に反する結果を招くのです。 今回は、それとは別の直感が裏切られる例をとりあげます。視覚が騙される例、いわゆる "錯視" です。もちろん錯視は昔から心理学の重要な研究テーマであり、数々の錯視図形が作られてきました。その多くは平面図形ですが、今回とりあげるのは立体の錯視です。 明治大学の杉原厚吉こうきち教授は数理工学が専門ですが、数々の立体錯視の例を作ってきた(= 発見してきた)方です。その杉原教授が日経サイエンスの2018年8月号に「立体錯視と脳の働きの関係」についての解説を書かれていました。大変興味深い内容だったので、それを紹介したいと思います。それは「我々が視覚によってまわりの立体物をどうやって認識しているのか」というテーマと深く関わっています。そしてこのテーマは人工知能の研究の重要な領域です。 エッシャーの不可能立体 杉原教授が立体の錯視に取り…

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No.237 - フランスのAI立国宣言

No.233/234/235 で、国立情報学研究所の新井紀子教授の著書「AI vs. 教科書が読めない子どもたち」(東洋経済報社 2018.2)の内容を紹介し、感想を書きました。その新井教授ですが、最近の新聞のコラムでフランスの "AI立国宣言" について書いていました。AIと国家戦略の関係を考える上での興味深い内容だったので、それを紹介しようと思います。コラムの見出しは、  仏のAI立国宣言 何のための人工知能か 日本も示せ   (朝日新聞 2018年4月18日) です。 パリでのシンポジウム 2018年3月29日、フランス政府はパリで世界の人工知能(AI)分野の有識者を集めて意見交換会とシンポジウムを開催しました。新井教授もこの会に招かれました。 日本ではほとんど報じられていないが、人工知能(AI)分野で、地政学的な変化が起きようといている。フランスの動向だ。マクロン大統領は3月末、世界中からAI分野の有識者を招き意見交換会とシンポジウムを開催。フランスを「AI立国」とすると宣言した。2022年までに15億ユーロをAI分野に投資し、規制緩和を進める。 招待された中には、フェイスブックのAI研究を統括するヤン・ルカンやアルファ碁の開発者として名高いディープマインド(DM)社のデミス・ハサビスらが含まれた。DMは今回パリに研究拠点を置くことを決めた。 新井紀子 朝日新聞(2018.4.18) "メディア私評" 欄 フ…

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No.236 - 村上春樹のシューベルト論

前回の No.235「三角関数を学ぶ理由」で、村上春樹さんが「文章のリズムの大切さ」を述べた発言を紹介しました。これは「小澤征爾さんと、音楽について話をする」(新潮社 2011。以下「本書」)からの引用でしたが、それ以前の記事でも本書の内容を紹介したことがありました。 ◆ No.135 - 音楽の意外な効用(2)村上春樹◆ No.136 - グスタフ・マーラーの音楽(1)◆ No.137 - グスタフ・マーラーの音楽(2) の3つです。本書は、指揮者・小澤征爾さんとの3回にわたる対談を村上春樹さんがまとめたものですが、その「あとがき」で小澤さんが次のように書いていたのが大変に印象的でした。 音楽好きの友人はたくさん居るけれど、春樹さんはまあ云ってみれば、正気の範囲をはるかに超えている。クラシックもジャズもだ。 小澤征爾 「小澤征爾さんと、音楽について話をする」 (新潮社 2011)の「あとがき」より 村上春樹「意味がなければスイングはない」 (文春文庫 2008) その "正気の範囲をはるかに超えた音楽好き" である村上春樹さんが書いた音楽エッセイ集(評論集)があります。「意味がなければスイングはない」(文藝春秋 2005。文春文庫 2008)です。内容はジャズとクラシック音楽に関するものが多いのですが、ウディー・ガスリー、ブライアン・ウィルソン(ビーチ・ボーイズ)、ブルース・スプリングスティーン、スガシカオもあるというように、フ…

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No.235 - 三角関数を学ぶ理由

No.233-4 で新井紀子著「AI vs.教科書が読めない子どもたち」の内容を紹介して感想を書いたのですが、引き続いてこの本の感想を書きます。 新井紀子 「AI vs.教科書が読めない子どもたち」(東洋経済報社 2018.2) 本書を読んで一番感じたのは「小学校・中学校・高校での勉強は大切だ」ということです。今さらバカバカしい、あたりまえじゃないかと思われそうですが、改めて「勉強は大切」と思ったのが本書を読んだ率直な感想です。それは、AI技術を駆使した東ロボくんの "勉強方法" や 模試の成績と関係しています。また本書で説明されている「リーディング・スキル・テスト」の結果とも関連します。なぜ勉強は大切と思ったのか、その理由を順序だてて書いてみます。 ここでは「勉強」の範囲を、東ロボくんがセンター模試と東大2次試験の模試に挑戦(2016年)した、国語・英語・数学・世界史・日本史・物理の科目とし、小中学校の場合はそれに相当する教科ということにします。もちろん学校での勉強はこれだけではありません。また各種の学校行事や部活も教育の一貫だし、何よりも集団生活をすることによる "学び" が大切でしょう。 以下、小中高校の「勉強」で我々は何を学ぶのか(学んだのか・学ぶべきか)を、何点かあげてみます。 論理的に考える タイトルを「三角関数を学ぶ理由」としました。三角関数は現状の高校数学では数Ⅲであり、従って大学入試では理系ということになりますが、もちろん三角関数でなくてもいいし…

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No.234 - 教科書が読めない子どもたち

(前回より続く) 前回に引き続き、新井紀子著「AI vs.教科書が読めない子どもたち」(以下「本書」)の紹介と感想です。本書は前半と後半に分かれていて、前半のAIの部分を前回紹介しました。今回は後半の「リーティング・スキル・テスト」の部分です。 リーティング・スキル・テストの衝撃 新井紀子 「AI vs.教科書が読めない子どもたち」(東洋経済報社 2018.2) 新井教授は日本数学会の教育委員長として、東ロボがスタートした2011年に大学新入生を対象とした「大学生数学基本調査」を行いました。その結果、問題が解けないのは問題文の意味を理解できていない(=読解力がない)のではという疑問をもちました。そして本格的に中高生を対象とした読解力調査をすることにしました。 リーティング・スキル・テスト(RST。Reading Skill Test)は新井教授が主導して行った世界で初めての調査です。RSTとはどんなテストか、本書にその問題が例示してあります。問題は「係り受け」「照応解決」「同義文判定」「推論」「イメージ同定」「具体例同定」の6つのジャンルがあります。それがどういうものか、問題のサンプルを本書から引用します。  係り受け  次の文を読みなさい。 天の川銀河の中心には、太陽の400万倍程度の質量をもつブラックホールがあると推定されている。 この文脈において、以下の文中の空欄にあてはまる最も適当なものを選択肢のうちから1つ選びなさい。 …

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No.233 - AI vs. 教科書が読めない子どもたち

今回は No.175「半沢直樹は機械化できる」と No.196「東ロボにみるAIの可能性と限界」の続きです。 No.175 で、オックスフォード大学の研究者、カール・フレイとマイケル・オズボーンの両博士が2013年9月に発表した「雇用の未来:私たちの仕事はどこまでコンピュータに奪われるか?(The Future of Employment : How Susceptible are Jobs to Computerization ?)」という論文の内容を紹介しました。この論文は、「現存する職種の47%がAIに奪われる」として日本のメディアでもたびたび紹介されたものです。それに関連して、国立情報学研究所の新井紀子教授が「半沢直樹の仕事は人工知能(AI)で代替できる」と2013年に予想した話を書きました。半沢直樹は銀行のローン・オフィサー(貸付けの妥当性を判断する業務)であり、銀行に蓄積された過去の貸付けデータをもとにAI技術を使って機械的に行うことが可能だというものです。 No.196「東ロボにみるAIの可能性と限界」ではその新井教授が主導した「ロボットは東大に入れるか(略称:東ロボ)」プロジェクトの成果を紹介しました。これは大学入試(具体的にはセンター試験の模試)を題材にAIで何ができて何ができないのかを明らかにした貴重なプロジェクトです。 新井紀子 「AI vs.教科書が読めない子どもたち」(東洋経済報社 2018.2) その新井教授が最近「AI vs. 教科書が読めない子…

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No.232 - 定住生活という革命

No.226「血糖と糖質制限」で、夏井 睦まこと氏の著書である『炭水化物が人類を滅ぼす』(光文社新書 2013)から引用しましたが、その本の中で西田正規まさき氏(筑波大学名誉教授)の『人類史のなかの定住革命』(講談社学術文庫 2007。単行本は1986年出版)に沿った議論が展開してあることを紹介しました。今回はその西田氏の「定住革命」の内容を紹介したいと思います。 定住・土器・農業 まず No.194「げんきな日本論(1)定住と鉄砲」で書いた話からはじめます。No.194 は、2人の社会学者、橋爪大三郎氏と大澤真幸まさち氏の対談を本にした『げんきな日本論』(講談社現代新書 2016)を紹介したものですが、この本の冒頭で橋爪氏は次のような論を展開していました。 ◆農業が始まる前から定住が始まったことが日本の大きな特色である。日本は、定住しても狩猟採集でやっていける環境にあった。世界史的には、農業が始まってから定住が始まるのが普通。 ◆定住の結果として生まれたのが土器である。土器は定住していることの結果で、農業の結果ではない。農業は定住するから必ず土器をもっているけども、土器をもっているから農業をしているのではない。 橋爪大三郎氏の論を要約 『げんきな日本論』より 日本の土器は極めて古いことが知られています。世界史的にみてもトップクラスに古い。この土器は農業とワンセットではありません。土器は定住とワンセットであり「定住+狩猟採集」が縄文時代を通じて極めて長期間続いたのが(…

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No.231 - 消えたベラスケス(2)

(前回から続く) 前回に引き続き、ローラ・カミング著『消えたベラスケス』(五十嵐加奈子訳。柏書房 2018)の紹介です。 フランシスコ・レスカーノ この絵は No.19「ベラスケスの怖い絵」で、スペイン宮廷にいた他の低身長症の人たちの絵とともに引用しました。 フランシスコ・レスカーノ (1636-38:37-39歳) 107cm × 83cm プラド美術館 岩に腰かけたその小柄な男の絵を見るとき、私たちは視線を上に向けなければならない。絵がその人物を持ち上げている。宮廷という陰鬱な牢獄から遠く離れ、スペインの山岳地帯にいる彼は、ベラスケスの絵の中で太陽の光に包まれている。 彼の名はフランシスコ・レスカーノといい、バルタサール・カルロス王子が4、5歳のときに、遊び相手として宮廷に雇われたと伝えられる。ともに過ごした年月で、小人であるレスカーノと幼い王子の背丈がちょうど同じになった時期があったことだろう。 ローラ・カミング 「消えたベラスケス」p.105 ボストン美術館にベラスケスが描いた『バルタサール・カルロス王子』の肖像がありますが(No.19「ベラスケスの怖い絵」に画像を掲載)、その左横に描かれているのがフランシスコ・レスカーノです(プラド美術館の公式カタログによる)。王子とほぼ同じの背丈であり、額が出っぱったレスカーノの顔の特徴がよくわかります。 レスカーノは、やさしい性格で誰からも好かれていた。深緑色の服を着た若者が彼だと言われて…

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No.230 - 消えたベラスケス(1)

今まで17世紀スペインの宮廷画家、"王の画家にして画家の王" と呼ばれるベラスケスについて5回書きました。 ◆No.  19 - ベラスケスの「怖い絵」 ◆No.  36 - ベラスケスへのオマージュ ◆No.  45 - ベラスケスの十字の謎 ◆No.  63 - ベラスケスの衝撃:王女と「こびと」 ◆No.133 - ベラスケスの鹿と庭園 の5つです。今回はその続きで、2018年に発売されたローラ・カミング著『消えたベラスケス』(五十嵐加奈子訳。柏書房 2018)を紹介します。著者は英国の美術評論家で、もとBBCの美術担当プロデューサーです。 ローラ・カミング 「消えたベラスケス」 五十嵐加奈子訳(柏書房 2018) 消えたベラスケス この本については中野京子さんが書評を書いていました。まずそれを引用します。日本経済新聞の読書欄からで、下線は原文にはありません。 芸術が魂に与える力を熱く 「消えたベラスケス」   ローラ・カミング 著 著者曰いわく、本書は巨匠の中の巨匠ベラスケスを称たたえる書である。 その言葉どおり熱い本だ。芸術作品というものは各時代の賛美者たちが熱く語り続けることで、次代へ繋つながれてゆく。ベラスケスはスペイン宮廷の奥に隠されていた時代にはゴヤが、公共美術館に展示されてからはマネが、その超絶技巧と魅力を喧…

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No.229 - 糖尿病の発症をウイルスが抑止する

今回は、No.225「手を洗いすぎてはいけない」と同じく、No.119-120「"不在" という伝染病」の続きです。No.119-120 をごく簡単に一言で要約すると、  人類が昔から共存してきた微生物(細菌や寄生虫)が少なくなると、免疫関連疾患(アレルギーや自己免疫疾患)のリスクが増大する ということでした。「衛生仮説」と呼ばれているものです。その No.119 の中に糖尿病のことがありました。今回はその糖尿病の話です。 糖尿病には「1型糖尿病」と「2型糖尿病」があります。我々がふつう糖尿病と呼ぶのは「2型糖尿病」のことで、肥満や過食といった生活習慣から発症するものです。もちろん、生活習慣から発症するといっても2型糖尿病になりやすい遺伝的体質があります。No.226「血糖と糖質制限」で書いた糖質制限は、もともと2型糖尿病を治療するためのものでした。 一方、「1型糖尿病」は遺伝で決まる自己免疫疾患です。幼少期から20歳以下の年齢で発症するので、小児糖尿病とか若年性糖尿病とも言われます。これは、膵臓すいぞうにある膵島すいとう(ランゲルハンス島)を攻撃する自己免疫細胞が体内で作られ、膵島のβ細胞で生成されるインスリンが作られにくくなり(あるいは作られなくなり)、血糖値が上昇したままになって糖尿病になるというタイプです。No.119 で、この「1型糖尿病」について次の意味のことを書きました。 ◆「1型糖尿病」は20世紀後半に激増した。 ◆「1型糖尿病」の発症…

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No.228 - 中島みゆきの詩(15)ピアニシモ

前回の No.227「中島みゆきの詩(14)世情」を書いていて思い出した詩があるので、引き続き中島作品について書きます。《世情》という詩の重要なキーワードは "シュプレヒコール" でした。実はこの "シュプレヒコール" という言葉を使った中島さんの詩がもう一つだけあります。《世情》の34年後に発表されたアルバム『常夜灯』(2012)の第2曲である《ピアニシモ》です。 《世情》のほかに "シュプレヒコール" を使ったのは《ピアニシモ》だけというのは絶対の確信があるわけではありません。ただ CD として発売された曲は全部聴いているつもりなので、これしかないと思います。中島さんは詩に使う言葉を "厳選する" のが普通です。あまり歌詩には使わないような言葉ならなおさらです。34年後に "シュプレヒコール" を再び使ったのは、そこに何らかの意味があると考えられます。その意味も含めて詩の感想を書きます。 なお、中島みゆきさんの詩についての記事の一覧が、No.35「中島みゆき:時代」の「補記2」にあります。 ピアニシモ アルバム『常夜灯』の第2曲である《ピアニシモ》は、次のような詩です。 《ピアニシモ》 あらん限りの大声を張りあげて 赤ん坊の私はわめいていた 大きな声を張りあげることで 大人のあいだに入れると思った 大人の人たちの声よりも 男の人たちの声よりも 機械たちや車の音よりも ずっと大きな声を出そうとした だって歴史たちが示している シュ…

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No.227 - 中島みゆきの詩(14)世情

今年の正月のテレビ番組を思い出したので書きます。No.32 でも書いたテレビ朝日系列の「芸能人格付けチェック」(2018年1月1日 放映)のことで、今年久しぶりに見ました。No.32 で書いたのは、この番組の本質です。それは、  問題出題者は、高級品・高級食材に人々が抱いている暗黙の思いこみを利用して回答者を "引っかけ" ようとする。回答者は思いこみを排し、問題にどんな "罠" が仕掛けられているのかを推測して正解にたどり着こうとする。 としました。もちろんここで言う回答者とは「番組の本質が分かっている回答者」であり、そういう回答者ばかりでないのは見ていて良く分かります。そして、久しぶりに見て改めて感じたのは、番組の "フォーマット" の良さです。つまり、  回答者を順に Aの部屋とBの部屋に入れ、互いをモニターできるようにし、かつ視聴者は2つの部屋をモニターでき、最後は司会者が正解の部屋の扉を開けることによって正解者が驚喜するという、このテレビ番組のフォーマットが素晴らしい のです。このフォーマットがなければ全くつまらない番組になるでしょう。これを発明した人はすごいと思います。日本のテレビ番組のフォーマットは海外に輸出した実績がありますが(料理の鉄人など)、この番組も売れるのではないでしょうか。 今年の「芸能人格付けチェック」はGACKTチームとしてYOSHIKIさんが出演していました。GACKTさんは例によって全問正解で連勝記録を伸ばしていま…

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No.226 - 血糖と糖質制限

No.221「なぜ痩せられないのか」の続きです。No.221 で米国・タフツ大学の研究を紹介しました。食物のグリセミック指数(Glycemic Index。GI値)と肥満の関係です。GI値とは、その食物を摂取したときにどの程度血糖値(血液中のブドウ糖の濃度)が上昇するかという値で、直接ブドウ糖を摂取したときを 100 として指数化したものです。タフツ大学の研究結果は、 ◆高GI値の食物を摂取すると、その後に脳が空腹感を感じやすく、このことが原因となって過食になりやすい。 ◆被験者を集めて実験した結果、低GI値の食事メニューを半年間食べ続けると体重が平均8kg減り、脳が低GI値の食物により強く反応する(= 脳が欲ほっする)ようになった というものでした。この研究は、肥満(ないしはダイエット)と脳の働きの関係に注目しているのがポイントです。空腹感は人を生き延びさせる大切な脳の働きであり、ダイエットをするために空腹感と戦ってはダメです。そもそも空腹感が起きにくい(かつ健康的な)食事をすべきだということでした。 No.221 にも書いたのですが、「低GI値の食物 = 血糖値の上昇が少ない食物を食べてダイエットをする」というのは、いわゆる糖質制限と基本的には同じです。そこで今回は、血糖値と肥満の関係、糖質制限がなぜダイエットになるのかという基本的なところを振り返ってみたいと思います。こういった人間の体の微妙なメカニズムを理解することが、健康に生きるために大切なことだと思うからです。 …

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No.225 - 手を洗いすぎてはいけない

No.119-120「"不在" という伝染病」の続きです。No.119-120 ではモイゼス・ベラスケス = マノフ著「寄生虫なき病やまい」(原題を直訳すると「不在という伝染病」)の内容を紹介しました。ごく簡単に一言で要約すると、  人類が昔から共存してきた微生物(細菌や寄生虫)が少なくなると、免疫関連疾患(アレルギーや自己免疫病)のリスクが増大する ということでした。No.119 にも書いたのですが、実は上の主張を早くから公表し、警鐘を鳴らしていたのが藤田紘一郎こういちろう博士(東京医科歯科大学名誉教授)です。今回は、その藤田博士に敬意を表して、博士が最近出版された本を紹介したいと思います。「手を洗いすぎてはいけない - 超清潔志向が人類を滅ぼす - 」(光文社新書 2017。以下「本書」)です。以降、本書の内容の "さわり" を、感想とともに書きます。本書を一言で要約すると、  人は微生物が豊富な環境(体内と体外の環境)でこそ健康に生きられる となるでしょう。 人は常在菌と共生している 人体(腸や皮膚など)に住みつき、病原性を示さない細菌を「常在菌」と総称します。常在菌は食物の消化を助けたり、ビタミンを合成したり、免疫を活性化したり、病原菌の排除したり、皮膚を守ったりといった重要な働きをしています。つまり常在菌は人体と共生しています。本書では「人の90%は細菌」という試算が書かれています。どういうことかと言うと、 ◆常在菌の数は、腸…

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No.224 - 残念な「北斎とジャポニズム」展

No.156「世界で2番目に有名な絵」で、葛飾北斎の「富嶽三十六景」の中の『神奈川沖浪裏』が "世界で2番目に有名な絵" であるとし、この絵が直接的に西洋に与えた影響の一例を掲げました。No.156 で書いたのは、 ◆ドビュッシーの交響詩「海」。スコアの表紙に『神奈川沖浪裏』が使われているし、そもそも作曲のきっかけが北斎だと考えられる。 ◆ドビュッシーの家の室内写真。ストラヴィンスキーとのツー・ショット写真だが、壁に『神奈川沖浪裏』が飾られている。 ◆カミーユ・クローデルの彫刻作品『波』。 ◆『神奈川沖浪裏』を立体作品にした、ドレスデン街角のオブジェ。 ◆『神奈川沖浪裏』を童話に仕立てたスペインの絵本。 ◆サーフィン用ウェアの世界的ブランドである Quiksilver のロゴマーク。『神奈川沖浪裏』が単純化されてデザインされている。 でした。もちろん『神奈川沖浪裏』を含む「富嶽三十六景」や「北斎漫画」など、北斎の多数の作品が19世紀以降の西欧アートに影響を与えたし、北斎だけでなく日本の浮世絵や工芸品がヨーロッパに輸出されて、いわゆる "ジャポニズム" の流れを生んだわけです。 No.187「メアリー・カサット展」で書いたのですが、カサットは1890年にパリで開催された「日本版画展」に感激し、自らも版画の制作を始めました。No.187 では 喜多川歌麿の『青楼十二時せいろうじゅうにとき続 子ねの刻』とカサットの『The Fitting(仮縫い)』の対比、同じく歌麿の『行水…

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No.223 - 因果関係を見極める

No.83-84「社会調査のウソ」の続きです。No.83-84では主に谷岡一郎氏の著書『社会調査のウソ』(文春新書 2000)に従って、世の中で行われている "社会調査" に含まれる「嘘」を紹介しました。たとえばアンケートに関して言うと、回答率の低いアンケート(例:10%の回答率)は全く信用できないとか、アンケート実施者が誘導質問で特定の回答を引き出すこともあるといった具合です。そして、数ある「嘘」に惑まどわされないための大変重要なポイントとして、  相関関係があるからといって、因果関係があるとは限らない ということがありました。一般にXが増えるとYが増える(ないしは減る)という観測結果が得られたとき、Xが増えたから(=原因)Yが増えた・減った(=結果)と即断してはいけません。原因と結果の関係(=因果関係)の可能性は4つあります。 ①Xが増えたからYが増えた(因果関係) ②Yが増えたからXが増えた(逆の因果関係) ③X,YではないVが原因となってXもYも増えた(隠れた変数) ④Xが増えるとYが増えたのは単なる偶然(疑似相関) 相関関係がある場合の可能性 XとYのデータの動きに関連性がある場合の可能性。①XがYに影響する、②YがXに影響する、③VがXとYの両方に影響する。これ以外に、④単なる偶然、がある。図は伊藤公一朗「データ分析の力 因果関係に迫る思考法」より引用。 『社会調査のウソ』で谷岡一郎氏があげている何点かの例を振り返ってみますと(…

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No.222 - ワシントン・ナショナル・ギャラリー

バーンズ・コレクションからはじまって、個人コレクションを発端とする美術館について書きました。 No. 95バーンズ・コレクションフィラデルフィア No.155コートールド・コレクションロンドン No.157ノートン・サイモン美術館カリフォルニア No.158クレラー・ミュラー美術館オッテルロー(蘭) No.167ティッセン・ボルネミッサ美術館マドリード No.192グルベンキアン美術館リスボン No.202ボイマンス・ファン・ベーニンゲン美術館ロッテルダム(蘭) No.216フィリップス・コレクションワシントンDC No.217ポルディ・ペッツォーリ美術館ミラノ の9つの美術館です。今回はその方向を少し転換して、アメリカのワシントン・ナショナル・ギャラリーについて書きます(正式名称:National Gallery of Art。略称:NGA。以下 NGA とすることがあります)。  なお上記の "個人コレクション美術館" 以外にも、バーンズ・コレクションから歩いて行けるフィラデルフィア美術館(No.96、No.97)について書きました。またプラド美術館の数点の絵画についても書いています(No.133、No.160、No.161)。 なぜワシントン・ナショナル・ギャラリーかと言うと、過去にこのブログでこの美術館の絵をかなり紹介したからです。意図的にそうしたのではなく、話の成り行き上、そうなりました。そこで、過去に取り上げた絵を振り返りつつ、取り上げ…

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No.221 - なぜ痩せられないのか

No.178「野菜は毒だから体によい」で、なぜ野菜を食べると体に良いのかを書きました。野菜が体に良いのは各種のビタミンや繊維質、活性酸素を除去する抗酸化物質などが摂取できるからだと、我々は教えられます。それは全くその通りなのですが、No.178に書いたのは野菜には実は微量の毒素があり、それが人間の体の防衛反応を活性化させて健康につながるという話でした。微量毒素は "苦い" と感じるものが多く、ここから言えることは、苦みを消すような品種改良は "改良" ではなくて "改悪" だということです。 この話でも分かることは、人間の体の仕組みにはさまざまな側面があり、それを理解することが健康な生活に役立つということです。No.119-120「不在という伝染病」で書いたことですが「微生物に常に接する環境が人間の免疫機能の正常な働きを維持する」というのもその一例でしょう。 今回はそういった別の例を紹介します。肥満の原因、ないしは "なぜ痩やせられないのか" というテーマについての研究成果です。日本ではBMIが25以上で肥満とされていますが、肥満は糖尿病、高血圧、心臓病などの、いわゆる生活習慣病を誘発します。従ってダイエット方法やダイエット食に関する情報が世の中に溢れているし、ダイエット・ビジネスが一つの産業になっています。 なぜ肥満になるのか。その第1の原因は消費エネルギーが摂取エネルギーより小さいからです。その差がグリコーゲンとして肝臓に蓄えられ、また体の各所の細胞や脂肪細胞に蓄えられる。簡…

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No.220 - メト・ライブの「ノルマ」

No.8「リスト:ノルマの回想」でとりあげたリストの『ノルマの回想』(1836)は、ベッリーニ(1801-1835)のオペラ『ノルマ』に出てくる数個の旋律をもとにリストが自由に構成した曲でした。 実は今まで『ノルマ』を劇場・オペラハウスで見たことがなく、No.8 を書いた時も一度見たいものだと思ったのですが、その機会がありませんでした。ところが先日、メト・ライブビューイングで『ノルマ』が上映されることになったので、さっそく見てきました。No.8「リスト:ノルマの回想」からすると7年越しになります。以下はその感想です。 ベッリーニのオペラ『ノルマ』(1831初演) ベッリーニのオペラ『ノルマ』のあらすじは、No.8「リスト:ノルマの回想」に書いたので、ここでは省略します。ドラマの時代背景とポイントを補足しておきますと、紀元前50年頃のガリア(現在のフランス)が舞台です。 古代の共和制ローマは紀元前58年~51年、カエサルの指揮のもとにガリアに軍隊を進め、いわゆる「ガリア戦争」を戦いました。この結果、ガリア全土がローマの属州となりました。この過程を記述したカエサルの「ガリア戦記」は世界文学史上の傑作です。その直後のガリアがこのオペラの時代です。 ガリアの住民はケルト民族で、ドルイド教を信仰しています。オペラではドルイド教の巫女みこの長がノルマ、巫女でノルマの部下にあたるのがアダルジーザ、ローマのガリア総督がポリオーネで、この3人のいわゆる "三角関係" でドラマが進行して…

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No.219 - リスト:詩的で宗教的な調べ

今までフランツ・リスト(1811-1886)の曲を3つとりあげました。今までフランツ・リスト(1811-1886)の曲を3つとりあげました。 ◆No.    8 - リスト:ノルマの回想 ◆No.  44 - リスト:ユグノー教徒の回想 ◆No.209 - リスト:ピアノソナタ ロ短調 の3作品です。No.8 と No.44 は、それぞれベッリーニとマイヤーベーアのオペラの旋律をもとに自由に構成した曲で、どちらかというとリストの作品ではマイナーな(?)ものです。一方、No.209 は "傑作" との評価が高い曲ですが、今回は別の傑作を取り上げます。『詩的で宗教的な調べ』です。他にも有名な作品はありますが、なぜこの曲かと言うと私が持っているこの曲の CD(イタリアのピアニスト、アンドレア・ボナッタ演奏)について書きたいからです。それは後にすることにして、まず『詩的で宗教的な調べ』について振り返ってみます。 詩的で宗教的な調べ 『詩的で宗教的な調べ』はリストが19世紀フランスの代表的詩人、アルフォンス・ド・ラマルティーヌ(1790-1869)の同名の詩集(1830)に触発されて作曲した、全10曲からなるピアノ曲集です。1845年(34歳。初稿)から1853年(42歳。最終稿)にかけて作曲されましたが、曲集の中の「死者の追憶」の原曲は1834年(23歳)の作品であり、足かけ20年近くの歳月で完成したものです。 …

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No.218 - 農薬と遺伝子組み換え作物

No.102-103「遺伝子組み換え作物のインパクト」で、農薬と遺伝子組み換え作物(=GM作物)の関係について書いたのですが、その続編です。前回は、新たな除草剤の使用がそれに耐性をもつ "スーパー雑草" を生み出す経緯でしたが、そのスーパー雑草に対抗する除草剤の話です。  GMは Genetically Modified(=遺伝子組み替えされた)の略。 農薬とGM作物を使った農業 まず、No.102-103「遺伝子組み換え作物のインパクト」の復習です。アメリカで始まった「農薬と遺伝子組み換え作物(GM作物)をペアにした農業」は次のような経緯をたどってきました。  第1段階:除草剤 "グリホサート" の開発  ◆1970年にアメリカの農薬会社・モンサントは除草に使う "グリホサート" という化学物質を開発し、これを「ランウンドアップ」という商品名で売り出した。 ◆グリホサートは植物の葉に直接散布することによってすべての植物を枯らす効果を発揮する。除草剤というより、強力な "除植物剤" である。 ◆すべての植物を枯らすため、グリホサートが使えるのは作物の芽が出る前である。作物の芽が出る前に生えてきた雑草に対してグリホサートをあたり一面に散布することで雑草を駆除できる。 ◆作物が成長したあとでは「あたり一面に散布」はできない。畑に分け入って人手で雑草を取ったり、他の除草剤を使う必要がある。 この第1段階は、長年にわたって行われて…

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No.217 - ポルディ・ペッツォーリ美術館

前回の No.216「フィリップス・コレクション」は、"コレクターの私邸に個人コレクションを展示した美術館" でしたが、そのような美術館のことをさらに書きます。前回も名前をあげた、ミラノにある「ポルディ・ペッツォーリ美術館」です。 ミラノ中心部の「私邸美術館」 ポルディ・ペッツォーリ美術館は、ミラノの貴族で美術収集家であったポルディ・ペッツォーリのコレクションを、その私邸に展示したものです。この私邸は美術品とともに、19世紀末にミラノ市に寄贈されました。 JALのサイトにあるミラノの中心部、東西約2kmの範囲の地図。主な美術館・博物館の位置が示されている。 (site : www.jal.co.jp) ポルディ・ペッツォーリ美術館 美術館はミラノ市の中心部にある。この写真で人が集まっているあたりにエントランスがある。 (site : www.grantouritalia.it) (site : www.amicimuseo-esagono.it) 場所はミラノという "歴史ある都市のど真ん中" で、そこがワシントン D.C. のフィリップス・コレクションと違うところです。フィリップス・コレクションは設立後に建て増しがされていて、2棟が連結された建物になっていますが、ミラノ中心部ではそれもできないでしょう。私邸としては大邸宅ですが、ミラノ、ないしはイタリアの他の著名美術館に比べるとこじんまりしています。 ここに収集されているのは18世紀以前の絵画をはじめ、…

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No.216 - フィリップス・コレクション

個人コレクションにもとづく美術館について、今まで7回にわたって書きました。  No. 95バーンズ・コレクション米:フィラデルフィア  No.155コートールド・コレクション英:ロンドン  No.157ノートン・サイモン美術館米:カリフォルニア  No.158クレラー・ミュラー美術館オランダ:オッテルロー  No.167ティッセン・ボルネミッサ美術館スペイン:マドリード  No.192グルベンキアン美術館ポルトガル:リスボン  No.202ボイマンス・ファン・ベーニンゲン美術館オランダ:ロッテルダム の7つです。今回はその継続で、アメリカのワシントン D.C.にあるフィリップス・コレクションを取り上げます。 フィリップス・コレクション フィリップス・コレクションが所蔵する絵について、今まで2回とりあげました。まず No.154「ドラクロワが描いたパガニーニ」では、ドラクロワの『ヴァイオリンを奏でるパガニーニ』という作品について、中野京子さんの解説を中心に紹介しました。 ウジェーヌ・ドラクロワ(1798-1863) 『ヴァイオリンを奏でるパガニーニ』(1831) フィリップス・コレクション (site : www.phillipscollection.org) この絵は「大アーティストが描いた大アーティスト」であり、パガニーニの音楽の本質までとらえているという話でした。さらにそ…

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No.215 - 伊藤若冲のプルシアン・ブルー

No.18「ブルーの世界」で青色顔料(ないしは青色染料)のことを書いたのですが、その中に世界初の合成顔料である "プルシアン・ブルー" がありました。この顔料は江戸時代後期に日本に輸入され、葛飾北斎をはじめとする数々の浮世絵に使われました。それまでの浮世絵の青は植物顔料である藍(または露草)でしたが、プルシアン・ブルーの強烈で深い青が浮世絵の新手法を生み出したのです。絵の上部にグラディエーション付きの青の帯を入れる「一文字ぼかし」や、本藍とプルシアン・ブルーをうまく使って青一色で摺るといった手法です(No.18)。プルシアン・ブルーが浮世絵に革新をもたらしました。 そして日本の画家で最初にプルシアン・ブルーを用いたのが伊藤若冲だったことも No.18「ブルーの世界」で触れました。その若冲が使ったプルシアン・ブルーを科学的に分析した結果が最近の雑誌(日経サイエンス)にあったので、それを紹介したいと思います。 伊藤若冲『動植綵絵』 宮内庁・三の丸尚蔵館が所蔵する全30幅の『動植綵絵』は、伊藤若冲の最高傑作の一つです。この絵を全面修復したときに科学分析が行われ、プルシアン・ブルーが使われていることが判明しました。その経緯を「日経サイエンス」から引用します。以下の引用で下線は原文にはありません。 伊藤若冲の代表作『動植綵絵』は、1999年度から6年間にわたり、大規模な修理が行われた。絹に描かれた絵から裏打ちの和紙をすべてはがし、新たに表装しなおす「解体修理」だ。作品を裏からも見…

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No.214 - ツェムリンスキー:弦楽4重奏曲 第2番

No.209「リスト:ピアノソナタ ロ短調」からの連想です。No.209 において、リストのロ短調ソナタは "多楽章ソナタ"と "ソナタ形式の単一楽章" の「2重形式」だと書きました。そしてその2重形式を弦楽でやった例がツェムリンスキーの『弦楽4重奏曲 第2番』だとしました。今回はそのツェムリンスキーの曲をとりあげます。 ツェムリンスキーについては No.63「ベラスケスの衝撃:王女とこびと」にオペラ作品『こびと』(原作:オスカー・ワイルド)と、それにまつわるエピソードを書きました。今回は2回目ということになります。 ツェムリンスキー(1871-1942) アレクサンダー・フォン・ツェムリンスキー(1871-1942)はウィーンに生まれたオーストリアの作曲家です。指揮者としても著名だったようで、ウィーンのフォルクス・オーパーの初代指揮者になった人です。作曲家としての代表作品は各種Webサイトに公開されているので省略します。 このブログで以前とりあげた当時のウィーンの音楽人との関係だけを書いておきます。まず、No.72「楽園のカンヴァス」でシェーンベルク(1874-1951)の「室内交響曲 第1番」について書きましたが、ツェムリンスキーの妹がシェーンベルクと結婚したため、ツェムリンスキーとシェーンベルクは義理の兄弟です。また No.63「ベラスケスの衝撃:王女とこびと」で書いたように、マーラー(1860-1911)の夫人のアルマはツェムリンスキーのかつての恋人でした。No.9…

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No.213 - 中島みゆきの詩(13)鶺鴒(せきれい)と倒木

前回の No.212「中島みゆきの詩(12)India Goose」では、India Goose(= インド雁がん)という詩にちなんで "鳥" が出てくる中島みゆきさんの楽曲を振り返りました。これはオリジナル・アルバムとして発表された作品の範囲であり、また、漏れがあるかも知れません。 実は前回、鳥が出てくる中島さんの楽曲で意図的にはずしたものがありました。2011年に発表された38作目のアルバム『荒野より』に収められた《鶺鴒(せきれい)》という曲です。今回はその曲をテーマにします。まず題名になっている鶺鴒せきれいという鳥についてです。 なお、中島みゆきさんの詩についての記事の一覧が、No.35「中島みゆき:時代」の「補記2」にあります。 セキレイ(鶺鴒) セキレイ(鶺鴒)はスズメより少し大型の、日本で普通に見られる鳥です。自宅近くの県立公園でも見かけます(セグロセキレイ)。街中でも見かけることがある。鳴き声はスズメをちょと長くした "チュ~ン" というような感じです。ピンと伸びた細長い長方形の尾が特徴で、この尾をしばしば上下に振る習性があります。それが地面をたたくようにも見える。セキレイのことを英語で Wagtail と言いますが、wag は振る、tail は尻尾で、セキレイの習性を言っています。 "鶺鴒" とは難しい漢字ですが「角川 大字源」によると、"鶺" は "たたく"(=拓、啄)、"鴒" は "打つ" の意味だとあります。地面をたたく・打つように長い尾を上下さ…

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No.212 - 中島みゆきの詩(12)India Goose

前々回の No.210「鳥は "奇妙な恐竜"」では恐竜から鳥への進化に関する最新の研究成果を紹介しました。その中で、鳥は恐竜から引き継いだ "貫流式" の肺をもっていて、極めて効率的に酸素を吸収できることを書きました。その証拠に、ヒマラヤ山脈を越えて渡りをする鳥さえあります。そして全くの余談として、中島みゆきさんがヒマラヤ山脈を越える "インド雁" をモチーフにして作った曲《India Goose》に触れました。 「恐竜から鳥への進化」と「中島みゆき」は何の関係もないのですが、このブログでは過去に12回、中島みゆきの詩について書いているので、思わず余談を書いたわけです。そこで《India Goose》という詩についてです。 なお、中島みゆきさんの詩についての記事の一覧が、No.35「中島みゆき:時代」の「補記2」にあります。 インド雁 まず India Goose とは何かですが、そのまま訳すと "インドの雁がん、ないしは鵞鳥" で、これは「インド雁(学名 Anser Indicus)」という鳥のことです。学名の Anser は雁、Indicus は "インドの" という意味なので、英訳すると India Goose になります。ただし英語ではインド雁のことを "Bar-headed goose" と言います。名前のごとく頭に黒い縞(=bar)があるのが特徴で、他の雁とはすぐに見分けられます。 インド雁 (Wikipedia) インド雁はモンゴル高原が繁殖地で…

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No.211 - 狐は犬になれる

前回の No.210「鳥は "奇妙な恐竜"」と同じく、進化に関連したテーマです。今までに生物の進化について No.210 を含めて3つの記事を書きました。  No.  56 - 強い者は生き残れない No.148 - 最適者の到来 No.210 - 鳥は "奇妙な恐竜" の3つです。この中の No.148「最適者の到来」でイヌを例にとって、高等生物はその内部に(具体的には遺伝子に)ものすごい変化の可能性を秘めている、としました。No.148「最適者の到来」は、アンドレアス・ワグナー・著『進化の謎を数学で解く』(文藝春秋。2015)を紹介したものですが、この中で著者はチャールズ・ダーウィンの『種の起源』に関連して次のように書いています。 『種の起源』の第一章全体が、人間の育種家がつくりだしたイヌ、飼いバト、作物品種、鑑賞用の草花の多様性への驚嘆に満ちている。人間が単一の共通祖先であるオオカミに似た祖先から、それもわずか数世紀のうちに、グレートデーン、ジャーマンシェパード、グレイハウンド、ブルドッグ、チャウチャウのすべてをつくりだすことができたというのは、考えてみるとまったく驚くべきことである。 アンドレアス・ワグナー 『進化の謎を数学で解く』 (垂水雄二・訳。文藝春秋。2015) イヌは、1万年ほど前に(あるいはもっと以前に)人間が(今で言う)オオカミを家畜化したものです。そして家畜としての品種改良が本格的に行われたのは、たかだかこ…

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No.210 - 鳥は "奇妙な恐竜"

日経サイエンス (2017年6月号) 今までに生物の進化に関する記事を2つ書きました。  No.  56 - 強い者は生き残れない No.148 - 最適者の到来 の2つですが、今回はその続きです。2017年6月号の「日経サイエンス」に恐竜から鳥への進化に関する解説記事が掲載されました。英国エディンバラ大学の古生物学者、ステファン・ブルサット(Stephen Brusatte。アメリカ国籍)が書いた「羽根と翼の進化」です。最新の研究成果をふまえた、大変興味深い内容だったので、その要旨を紹介したいと思います。 始祖鳥 そもそも鳥の祖先は恐竜ではないかと言われ出したのは、今から150年も前、19世紀の半ばです。きっかけは、鳥の "先祖" である "始祖鳥" の発見でした。 1860年代、ダーウィンの親友の1人で最も声高な支持者だった英国の生物学者ハックスリー(Thomas Henry Huxley)は、鳥類の起源の謎に挑みはじめた。ダーウィンが1859年に『種の起源』を出版してからわずか数年後、独バイエルンの採石場で労働者が割った石灰岩の中から1億5000万年前の骨格が現れた。爬虫類のような鋭いかぎ爪と長い尾、鳥のような羽毛と翼を併せもつ動物の化石だった。 始祖鳥(Archaeopteryx)と命名されたこの動物が、やはりその当時に見つかりはじめていたコンプソグナトゥス(Compsognathus)などの小型肉食恐竜に不気味な…

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No.209 - リスト:ピアノ・ソナタ ロ短調

今までにフランツ・リストの曲を2つとりあげました。 ◆No.  8 - リスト:ノルマの回想 ◆No.44 - リスト:ユグノー教徒の回想 の2つですが、そもそもローマのレストランのテレビでやっていた「素人隠し芸大会」で、オペラ「ノルマ」の有名なアリア「清き女神よ」を偶然に聞いたことが発端でした(No.7「ローマのレストランでの驚き」参照)。 この2つはいわゆる "パラフレーズ" 作品です。つまりそれぞれ、ベッリーニのオペラ「ノルマ」とマイヤベーアのオペラ「ユグノー教徒」のなかの数個のアリアの旋律をもとに、それを変奏したり発展させたりして自由に構成した作品です。まさにオペラを観劇したあとに、それを回想しているという風情の作品です。 今回は方向性を全く変えて、同じリストの作品ですが「ピアノ・ソナタ ロ短調」を取り上げます。なぜこの曲かというと、恩田陸さんの小説『蜜蜂と遠雷』に出てきたからです。この小説は直木賞(2016年下半期)と本屋大賞(2017年)をダブル受賞したことで大きな話題になりました。 恩田陸「蜜蜂と遠雷」 (幻冬舎 2016) 蜜蜂と遠雷 『蜜蜂と遠雷』は、日本での国際ピアノコンクールに参加した4人のコンテスタント(16歳、19歳、20歳、28歳の4人)を中心に、彼らをとりまく友人、師匠、審査員なども含めた群像劇です。これらコンテスタントのなかで、マサル(=マサル・カルロス・レヴィ・アナトール。19歳)の演奏曲目に、リス…

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No.208 - 中島みゆきの詩(11)ひまわり

今までに中島みゆきさんの詩について11回、書きました。次の記事です。 No.  35 - 中島みゆき「時代」 No.  64 - 中島みゆきの詩( 1)自立する言葉 No.  65 - 中島みゆきの詩( 2)愛を語る言葉 No.  66 - 中島みゆきの詩( 3)別れと出会い No.  67 - 中島みゆきの詩( 4)社会と人間 No.  68 - 中島みゆきの詩( 5)人生・歌手・時代 No.130 - 中島みゆきの詩( 6)メディアと黙示録 No.153 - 中島みゆきの詩( 7)樋口一葉 No.168 - 中島みゆきの詩( 8)春なのに No.179 - 中島みゆきの詩( 9)春の出会い No.185 - 中島みゆきの詩(10)ホームにて 今回はその続きで《ひまわり“SUNWARD”》を取り上げます。なぜかと言うと、前回の No.207「大陸を渡った農作物」で、アメリカ大陸原産で世界に広まった農作物として向日葵ひまわりに触れたため、この曲…

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No.207 - 大陸を渡った農作物

前回のNo.206「大陸を渡ったジャガイモ」の続きです。アンデス高地が原産のジャガイモは16世紀以降、世界に広まりました。もちろん日本でもジャガイモ料理は親しまれていて、肉じゃがやポテトサラダ、ポテトコロッケなどがすぐに浮かびます。ジャガイモはドイツの「国民食」であり、ジャガイモのないドイツ料理など想像もできないわけですが、ドイツだけでなく世界中の食卓にあがっています。 フライド・ポテト(アメリカでフレンチ・フライ、英国でチップス)とその仲間も世界中で食べられています。ベルギーに初めて旅行したとき、食事のときにもベルギー・ビールのつまみにも、現地の人はフライド・ポテト(ベルギーで言う "フリッツ")にマヨネーズをつけて食べていました。極めて一般的な食べ物のようで、それもそのはず、フライド・ポテトはベルギーが発祥のようです。 ムール貝の白ワイン蒸しとフリッツ。これを食べないとベルギーに行ったことにならない(?)、代表的なベルギー料理(Wikipedia)。 ジャガイモと同じようにアメリカ大陸が原産地で、16世紀以降に世界に広まった農作物や食品はたくさんあります。No.206「大陸を渡ったジャガイモ」で、世界で作付け面積が多い農作物は、小麦、トウモロコシ、稲、ジャガイモだと書きましたが、そのトウモロコシもアメリカ原産で、その栽培種は中央アメリカのマヤ文明・アステカ文明で作り出されたものです。 トウモロコシ トウモロコシは食用にしますが、それよりも重要なのは飼料用穀物として…

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No.206 - 大陸を渡ったジャガイモ

前回の No.205「ミレーの蕎麦とジャガイモ」で、ミレーの『晩鐘』に描かれた作物がジャガイモであることを書きました。小麦が穫れないような寒冷で痩せた土地でもジャガイモは収穫できるので、貧しい農民の食料や換金作物だったという話です。今回はそのジャガイモの歴史を振り返ってみたいと思います。 ジャガイモは、小麦、トウモロコシ、稲、に次いで世界4位の作付面積がある農作物です。1位~3位の「小麦・トウモロコシ・稲」は穀類で、保存が比較的容易です。一方、ジャガイモは "イモ" であり、そのままでは長期保存ができません。それにもかかわらず世界4位の作付面積というのは、寒冷な気候でも育つという特質にあります。これは、ジャガイモの原産地が南米・アンデス山脈の高地だからです。 そのアンデス高地でジャガイモはどのように作られているのでしょうか。以下、山本紀夫氏の著作「ジャガイモとインカ帝国」(東京大学出版会。2004)からたどってみたいと思います。  山本紀夫氏は国立民族学博物館(大阪府・吹田市)の教授を勤められた方です。植物学と文化人類学の両方が専門で、ペルーのマルカパタという村に住み込んで農耕文化の調査をされました。また家族帯同でペルーに3年間滞在し、ペルーの首都・リマの郊外にある国際ポテトセンター(ジャガイモの研究機関)で研究されました。ジャガイモを語るには最適の人物です。 インカ文明を支えたジャガイモ ジャガイモ文化を育はぐくんだのは南米のインカ文明です。最盛期のイ…

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No.205 - ミレーの蕎麦とジャガイモ

落穂拾い No.200「落穂拾いと共産党宣言」の続きです。画家・ミレー(1814-1875)が描いた傑作『落穂拾い』ですが、No.200で書いたその社会的背景や当時の評判をまとめると以下のようになります。 ◆落穂を拾っている3人は最下層の農民であり、地主の許可なく農地に入り、刈り取りの際にこぼれた小麦の穂を拾っている。地主はその行為を黙認しており、そういった「喜捨きしゃの精神」は聖書の教えとも合致していた。 ◆この絵は当時から大いに人気を博し、数々の複製画が出回った。 ◆しかしパリの上流階級からは社会秩序を乱すものとして反発を招いた。「貧困の三美神」という評や「秩序を脅おびやかす凶暴な野獣」との論評もあった。詩人のボードレールは描かれた農婦を "小賤民パリアたち" と蔑称している。 ◆その理由は当時の社会情勢にあった。「共産党宣言」にみられるように労働者の権利の主張が高まり、社会の変革や改革、革命をめざす動きがあった。ミレーのこの絵は、そういった動きに与くみするものと見なされた。この絵は当時の上流階級からすると「怖い絵」だった。 ジャン=フランソワ・ミレー(1814-1875) 「落穂拾い」(1857) (オルセー美術館) ミレーは社会運動に参加したわけではないし、労働者や農民の権利や社会の改革についての発言をしたことはないはずです。画家はシンプルにバルビゾン周辺の「農村の実態」を描いた。 しかし描かれたのが「最下層の農民」ということが気にかかり…

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No.204 - プロキシマ b の発見とスターショット計画

今まで科学雑誌「日経サイエンス」の記事に関する話題を何件か書きました。振り返ってリストすると以下の通りです  No. 50絶対方位言語と里山  No. 70自己と非自己の科学(2)  No.102遺伝子組み換え作物のインパクト(1)  No.105鳥と人間の共生  No.16910代の脳  No.170赤ちゃんはRとLを聞き分ける  No.177自己と非自己の科学:苦味受容体  No.178野菜は毒だから体によい  No.184脳の中のGPS 日経サイエンス 2017.5 なぜ科学に興味があるかというと、科学的な知見が人間社会の理解に大いに役立つことがあると思うからです。その観点でリストをみると、ほとんどが生命科学の記事であることに気づきます(No.50、No.105以外の全部)。また No.50(絶対方位言語)は心理学の話(人間の認知のしくみと言葉の関係)、No.105は人類学の話なので、これらのすべては「生命・人間科学」と一括できます。「生命・人間科学」の知見が人間社会の理解に役立つのは、ある意味では当然でしょう。 しかし「生命・人間科学」とは全く違う分野のサイエンスが社会や人間の理解につながることもあると思うのです。その意味で、今回は全く違った分野である天文学・宇宙物理学の話を書きたいと思います。最近の「日経サイエンス 2017年5月号」に掲載された記事にもとづきます…

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No.203 - ローマ人の "究極の娯楽"

今まで古代ローマに関する記事をいくつか書きました。リストすると次の通りです。  No. 24ローマ人の物語(1)寛容と非寛容  No. 25ローマ人の物語(2)宗教の破壊  No. 26ローマ人の物語(3)宗教と古代ローマ  No. 27ローマ人の物語(4)帝国の末路  No.112ローマ人のコンクリート(1)技術  No.113ローマ人のコンクリート(2)光と影  No.123ローマ帝国の盛衰とインフラ  No.162奴隷のしつけ方 発端は、No.24-No.27 で塩野七生氏の大作『ローマ人の物語』の感想を書いたことでした。ローマ人の宗教だけに絞った感想です。また、No.112、113、123 はインフラストラクチャ(のうちの建造物)の話で、その建設に活躍した古代ローマのコンクリートの技術のことも書きました。No.162 は奴隷制度の実態です。 今回はこの継続で、古代ローマの円形闘技場で繰り広げられた闘技会のことを書きたいと思います。「宗教 = ローマ固有の多神教・キリスト教」や「巨大建造物・コンクリート技術」は、古代ローマそのままではないにしろ現代にも相当物があり、私たちが想像しやすいものです。奴隷制度は現代では(原則的に)ありませんが、奴隷的労働はあるので、それも想像しやすい。 しかし大観衆が見守る円形闘技場での "剣闘士の殺し合い" は現代人の想像を越えていて、そこが非常…

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No.202 - ボイマンス・ファン・ベーニンゲン美術館

個人コレクションにもとづく美術館について、今まで6回書きました。  No. 95バーンズ・コレクション米:フィラデルフィア  No.155コートールド・コレクション英:ロンドン  No.157ノートン・サイモン美術館米:カリフォルニア  No.158クレラー・ミュラー美術館オランダ:オッテルロー  No.167ティッセン・ボルネミッサ美術館スペイン:マドリード  No.192グルベンキアン美術館ポルトガル:リスボン の6つです。いずれも19・20世紀の実業家の個人コレクションが美術館設立の発端となっています。今回はその続きで、オランダのロッテルダムにある「ボイマンス・ファン・ベーニンゲン美術館」をとりあげます。 美術館のロケーション オランダの美術館で No.158 で書いたクレラー・ミュラー美術館は、ゴッホの作品が好きな人にとっては是非とも訪れたい美術館ですが、この美術館はオッテルローという郊外の町の国立公園の中にあります。アムステルダムから公共交通機関を使うとすると、列車(直通、または乗り継ぎ)とバス2系統の乗り継ぎで行く必要があります。 それに対してボイマンス・ファン・ベーニンゲン美術館はロッテルダムという大都市の中心部にあり、アムステルダムからは列車1本で行けます。また途中のデン・ハーグにはマウリッツハイス美術館があるので、この2美術館をアムステルダムからの日帰りで訪問することも十分に可能で…

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No.201 - ヴァイオリン弾きとポグロム

前回の No.200「落穂拾いと共産党宣言」で、ミレーの代表作である『落穂拾い』の解説を中野京子・著「新 怖い絵」(角川書店 2016)から引用しました。『落穂拾い』が "怖い絵" というのは奇異な感じがしますが、作品が発表された当時の上流階級の人々にとっては怖い絵だったという話でした。 その「新 怖い絵」から、もう一つの絵画作品を引用したいと思います。マルク・シャガール(1887-1985)の『ヴァイオリン弾き』(1912)です。描かれた背景を知れば、現代の我々からしてもかなり怖い絵です。 ヴァイオリン弾き マルク・シャガール(1887-1985) 「ヴァイオリン弾き」(1912) (アムステルダム市立美術館) "ヴァイオリン弾き" というモチーフをシャガールは何点か描いていますが、その中でも初期の作品です。このモチーフを一躍有名にしたのは、1960年代に大ヒットしたミュージカル「屋根の上のヴァイオリン弾き」でした。シャガールはミュージカルの制作に関与していませんが、宣伝にシャガールの絵が使われたのです。もちろんミュージカルの原作者はロシア系ユダヤ人で、舞台もロシアのユダヤ人コミュニティーでした。 この絵について中野京子さんは「新 怖い絵」で次のように書いています。 緑色の顔の男がまっすぐこちらを見据え、三角屋根の上に片足を載せリズムを刻きざみつつ、ヴァイオリンを奏かなでる。ロシアの小村。木造りの素朴な家が点在し、屋根にも広場にも雪が積もる。煙突からは…

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No.200 - 落穂拾いと共産党宣言

No.97「ミレー最後の絵(続・フィラデルフィア美術館)」で、フィラデルフィア美術館が所蔵するミレーの絶筆『鳥の巣狩り(Bird's-Nesters)』のことを書きました。その継続で、今回はミレーの "最高傑作" である『落穂拾い』(オルセー美術館)を話題にしたいと思います。実は『落穂拾い』と『鳥の巣狩り』には共通点があると思っていて、そのことについても触れます。  ちなみに、このブログで以前にとりあげたミレーの絵は『鳥の巣狩り』『晩鐘』『死と樵きこり』(以上、No.97)、『冬』『虹』(No.192「グルベンキアン美術館」)ですが、それぞれミレーの違った側面を表している秀作だと思います。 まず例によって、中野京子さんの解説によって『落穂拾い』がどういう絵かを順に見ていきたいと思います。 貧しい農民と旧約聖書 ジャン=フランソワ・ミレー(1814-1875) 「落穂拾い」(1857) (オルセー美術館) この絵に描かれた光景と構図について、中野京子さんは著書「新 怖い絵」で次のように解説しています。 大地は画面の七割を占め、厚みを帯びて広がっている。『晩鐘ばんしょう』と同じく、明暗のコントラストが鮮やかだ。夕暮れのやさしい陽ひを浴びた豊穣ほうじょうな後景と、影の濃い貧困たる前景。麦藁むぎわらが天まで届けとばかりに積み上がった後景と、やっとの思いで集めた数束が画面右端に見えるだけの前景。干し草のかぐわしい匂いが漂う後景と、じめじめした土の臭いを感…

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No.199 - 円山応挙の朝顔

No.193「鈴木其一:朝顔の小宇宙」で、メトロポリタン美術館が所蔵する鈴木其一(1795-1858)の『朝顔図屏風』のことを書きました。2016年9月10日から10月30日までサントリー美術館で開催された「鈴木其一 江戸琳派の旗手 展」で展示された作品です。 実はこのすぐあとに、もう一枚の "朝顔" を鑑賞する機会がありました。円山応挙(1733-1795)が描いた絵です。根津美術館で開催された『円山応挙 -「写生」を超えて』展(2016年11月3日~12月18日)に、その朝顔が展示されていました。今回はこの展覧会のことを書きます。 この展覧会は応挙の画業を網羅していて、多数の作品が展示されていました。国宝・重要文化財もあります。その中から朝顔を含む4作品に絞り、最後に全体の感想を書きたいと思います。 朝顔図 円山応挙 「朝顔図」 天明四年(1784)51歳 (相国寺蔵) 並んで展示されていた『薔薇ばら文鳥図』と二幅一対の掛け軸で、この二幅は元々 "衝立て" の両面だったと言います。朝顔の銀地に対して、薔薇文鳥は金地でした。 この絵は、画面右下のほぼ4分の1に朝顔を密集させ、それによって銀地の余白を引き立てています。朝顔の蔓は左方向横と左斜め上に延び、銀地を心地よく分割しています。花と葉の集団は画面の右端でスパッと切断されていて、さらに右への朝顔の広がりが感じられます。"完璧な構図" といったところでしょう。 "完璧な構図" と書きましたが、これは日…

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No.198 - 侵略軍を撃退した日本史

No.37「富士山型の愛国心」の中で元寇(文永の役:1274年、弘安の役:1281年)についてふれたのですが、今回はその継続というか、補足です。 最近の新聞に、元寇について近年唱えられた説の紹介がありました。日本の勝因は「神風」ではなかったという説です。それを紹介したいと思います。 日本の勝因は「神風」ではなかった くまもと文学・歴史館の館長・服部英雄氏(日本中世史)は著書の『蒙古襲来』(2014年、山川出版社)で「神風=暴風雨」説を否定し、学界の内外にセンセーションを巻き起こしました。 (神風が勝因という)見方は修正が必要らしい。くまもと文学・歴史館の服部英雄館長(日本中世史)は、文永の役について「モンゴル軍が日本に攻め寄せた夜に嵐が来て翌朝撤退したと書く本が多いが、そんな史料は存在しない」と主張する。 元になったと思われるのは『八幡愚童訓』という鎌倉時代の史料。だが、「夜中に神が出現し矢を射かけたため、蒙古はわれさきに逃げ出した」といった内容だ。さらに、西暦換算すると、モンゴル軍の襲来時期は11月で台風のシーズンではない。「寒冷前線通過に伴う嵐が来た可能性はある。でも、それで大量の軍船に被害が出たという記録はない」という。 では、なぜ撤退したのか。「攻略が思うようにいかない場合、冬の前に帰国する計画だったのでは。軍勢の数も900隻・4万人とされてきたが、これは搭載されたボートなどを含めた数字。実際は112隻、将兵は船頭を含めて1万2千人ほど」と服部館長。…

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No.197 - 囲碁とAI:趙治勲 名誉名人の意見

2016年3月、韓国のイ・セドル九段とディープマインド社の「アルファ碁」の5番勝負がソウル市内で行われ、アルファ碁の4勝1敗となりました。イ・セドル九段は世界のトップクラスの棋士です。コンピュータはその棋士に "勝った" ことになります。この5番勝負とアルファ碁については次の三つの記事に書きました。 No.174ディープマインド No.180アルファ碁の着手決定ロジック(1) No.181アルファ碁の着手決定ロジック(2) その8ヶ月後の2016年11月に、今度は日本最強の囲碁プログラム、DeepZenGoと趙治勲ちょうちくん名誉名人の3番勝負(第2回 囲碁電王戦)が開催され、趙名誉名人の2勝1敗となりました(11/19, 11/20, 11/23の3戦)。"人間側" の勝利に終わったわけですが、日本の囲碁プログラムが互先たがいせんでプロ棋士に勝ったのは初めてです。第1回 囲碁電王戦(2014)ではプロ2人とアマ名人相手に1勝もできなかったことを考えると、格段の進歩だと言えます。 以上の、アルファ碁 対 イ・セドル九段、DeepZenGo 対 趙名誉名人の棋戦を、趙名誉名人本人が振り返ったコラム記事が新聞に掲載されました。実際に囲碁プログラムと互先で戦ったトップ棋士の意見として貴重なものです。また大変に興味深い内容だったので、以下にそれを紹介したいと思います。 なお、DeepZenGo の前身は日本の有名な囲碁プログラム、"Zen" です(市販されている)。それに深層学…

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No.196 - 東ロボにみるAIの可能性と限界

No.175「半沢直樹は機械化できる」で、国立情報学研究所の新井紀子教授をリーダとする「ロボットは東大に入れるか」プロジェクト(略称 "東ロボくん")の話を書きました。東ロボくんの内容ではなく、プロジェクトのネーミングの話です。つまり、 ◆プロジェクトの存在感を出すために、是非とも "東大" にしたかったのだろう(本来なら "ロボットは大学に入れるか" でいいはず)。 ◆新井教授は「ロボットは東大に入れない」と思っているのではないか。その証拠にプロジェクト名称が疑問形になっている。 の2点です。 「ロボットは東大に入れるか」プロジェクトは2011年に開始され、2013年からは模擬試験を受験しています。2016年11月14日、今年の成果発表会が開催されました。以下はその内容です。 国立情報学研究所ニュース(NII Today)No.60(2013.6)。特集「ロボットは東大に入れるか」の表紙 東大は無理、MARCH・関関同立は合格可能 まず、新井教授が朝日新聞デジタルに寄稿した文章から引用します。 今年も「東ロボくん」の受験シーズンが終わった。今年ついに、関東ならMARCH(明治、青山学院、立教、中央、法政)、関西なら関関同立(関西、関西かんせい学院、同志社、立命館)と呼ばれる難関私大に合格可能性80%以上と判定された。だが、東京大学には及ばなかった。現状の技術の延長線上では、AIが東京大学に合格する日は永遠に来ないだろう。 新井紀子 朝日…

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No.195 - げんきな日本論(2)武士と開国

(前回から続く)江戸時代の武士という特異な存在 橋爪大三郎・大澤真幸 「げんきな日本論」 (講談社現代新書 2016) 第16章「なぜ江戸時代の人びとは、儒学と国学と蘭学を学んだのか」には、江戸時代における武士が論じられています。まずイエ制度にささえられた幕藩体制の話があり、その中での武士の存在が議論されています。以下のようです。  幕藩体制  徳川家康が作った「幕藩体制」において、日本は300程度の独立国ないしは自治州(藩)に別れ、各藩は徴税権、裁判権、戦闘力を持っていました。圧倒的な軍事力は幕府にはありません。直接国税もない。それでいて250年ものあいだ平和が続いたのは驚異的です。なぜ平和が維持できたのか。 《大澤》 「空気」ってあるじゃないですか。空気を読むとか。空気は、全員の総意だという想定になっていて、誰もがそれを前提に行動するわけですが、実は個人的には全員、空気と違っていることを思っているということがあります。しかも、そのことを、つまりほとんどの人が個人的には空気とは違った見解をもっているということを誰もが知っている。それでも空気は機能し、人びとの行動は空気に規定される。幕藩体制にこれに似たものを感じます。 この場合、空気に帰せられている判断は、徳川家(幕府)がずば抜けて強いということ。関ヶ原の戦いに勝った以上は、徳川家が圧倒的に強い、ということになっている。まあ、強いことは強いんですよ。しかし、その強さは、相対的なもので、絶対に勝…

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No.194 - げんきな日本論(1)定住と鉄砲

No.41、No.42で2人の社会学者、橋爪大三郎氏と大澤真幸まさち氏の対論を本にした『ふしぎなキリスト教』(講談社現代新書 2012)を紹介しました。この本はキリスト教の解説書ではなく、"西欧社会を作った" という観点からキリスト教を述べたものです。社会学の視点から宗教を語ったという点で、大変興味深いものでした(2012年の新書大賞受賞)。 橋爪大三郎・大澤真幸 「げんきな日本論」 (講談社現代新書 2016) その橋爪氏と大澤氏が日本史を論じた本を最近出版されたので紹介したいと思います。『げんきな日本論』(講談社現代新書 2016)です。「二匹目のドジョウ」を狙ったのだと思いますが、社会学者が語る日本史という面で数々の指摘があって、大変におもしろい本でした。多数の話題が語られているので全体の要約はとてもできないのですが、何点かをピックアップして紹介したいと思います。 ・・・・・・・・・・ そもそも我々は「日本論 = 日本とは何か」に興味があるのですが、それは本質的には「自分とは何か」を知りたいのだと思います。日本語を使い、日本文化(外国文化の受容も含めて)の中で生活している以上、"自分" の多くの部分が "日本" によって規定されていると推測できるからです。 「日本とは何か」を知るためには「日本でないもの」や「諸外国のこと」、歴史であれば「世界史」を知らなければなりません。社会学とは簡単に言うと、社会はどうやって成り立っているか(成り立ってきたか)を研究する学問であり…

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No.193 - 鈴木其一:朝顔の小宇宙

No.85「洛中洛外図と群鶴図」で尾形光琳の『群鶴図屏風』(フリーア美術館所蔵。米:ワシントンDC)を鑑賞した感想を書きました。本物ではなく、キヤノン株式会社が制作した実物大の複製です。複製といっても最新のデジタル印刷技術を駆使した極めて精巧なもので、大迫力の群鶴図を間近に見て(複製だから可能)感銘を受けました。 「鶴が群れている様子を描いた屏風」は、光琳だけでなく江戸期に数々の作例があります。その "真打ち" とでも言うべき画家の作品、光琳の流れをくむ江戸琳派の鈴木其一きいつの『群鶴図屏風』を鑑賞する機会が、つい最近ありました。2016年9月10日から10月30日までサントリー美術館で開催された「鈴木其一 江戸琳派の旗手」展です。今回はこの展覧会から数点の作品をとりあげて感想を書きます。 展覧会には鈴木其一(1795-1858)の多数の作品が展示されていたので、その中から選ぶのは難しいのですが、まず光琳と同じ画題の『群鶴図屏風』、そして今回の "超目玉" と言うべき『朝顔図屏風』、さらにあまり知られていない(私も初めて知った)作品を取り上げたいと思います。 鈴木其一『群鶴図屏風』 鈴木其一「群鶴図屏風」 ファインバーグ・コレクション (各隻、165cm×175cm) 鈴木其一「群鶴図屏風・左隻」 鈴木其一「群鶴図屏風・右隻」 この屏風を、No.85「洛中洛外図と群鶴図」で紹介した尾形光琳の「群鶴図屏風」(下に画像を掲載)と比較すると以下のようです。 …

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No.192 - グルベンキアン美術館

個人コレクションにもとづく美術館について、今まで5回にわたって書きました。  No. 95バーンズ・コレクション米:フィラデルフィア  No.155コートールド・コレクション英:ロンドン  No.157ノートン・サイモン美術館米:カリフォルニア  No.158クレラー・ミュラー美術館オランダ:オッテルロー  No.167ティッセン・ボルネミッサ美術館スペイン:マドリード の5つです。今回はその "個人コレクション・シリーズ" の続きで、ポルトガルの首都、リスボンにある「グルベンキアン美術館」をとりあげます。今までの5つの美術館はいずれも、19世紀から20世紀にかけて事業で成功した欧米の富豪が収集した美術品を展示していて、コレクターの名前が美術館の名称になっていました。グルベンキアン美術館もそうです。 カールスト・グルベンキアン カールスト・グルベンキアン(1869-1955)は、イスタンブール出身のアルメニア人です。石油王と呼ばれた人で、石油の売買で膨大な財を成しました。そして美術品のコレクターでもあった。晩年、グルベンキアンはポルトガルに移住し、遺言によって遺産と美術品がポルトガルに寄贈されました。それを元にグルベンキアン財団が設立され、財団は美術館だけでなく、オーケストラやバレエ団の運営、各種の芸術・文化活動を行っています。 以上の美術館設立の経緯は、何となく No.167 で紹介したティッセン・ボルネミッ…

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