No.380 - 似鳥美術館

過去の記事で、13の "個人コレクション美術館" を紹介しました。以下の美術館です。 No. 95バーンズ・コレクション米:フィラデルフィア No.155コートールド・コレクション英:ロンドン No.157ノートン・サイモン美術館米:カリフォルニア No.158クレラー・ミュラー美術館オランダ:オッテルロー No.167ティッセン・ボルネミッサ美術館スペイン:マドリード No.192グルベンキアン美術館ポルトガル:リスボン No.202ボイマンス・ファン・ベーニンゲン美術館オランダ:ロッテルダム No.216フィリップス・コレクション米:ワシントンDC No.217ポルディ・ペッツォーリ美術館イタリア:ミラノ No.242ホキ美術館千葉市 No.263イザベラ・ステュアート・ガードナー美術館米:ボストン No.279笠間日動美術館茨城県・笠間市 No.303松下美術館鹿児島県・霧島市 笠間日動美術館以外は、いずれもコレクターの名が冠されています。ちなみに最後の「松下」は、松下幸之助のことではなく、霧島市出身の医師、松下兼知かねとも氏です。 今回は、その "個人コレクション美術館" シリーズの14番目として、北海道・小樽市にある似鳥美術館のことを書きます。 小樽 似鳥美術館について語る場合、まず、小樽という都市の歴史から入るのが適切でしょう。小樽は、明治になってからニシン漁の拠点として発展を遂げました。多いときには年間1億トンの水揚げと…

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No.305 - フリック・コレクション

過去の記事で、13の "個人コレクション美術館" を紹介しました。以下の美術館です。 No. 95バーンズ・コレクション米:フィラデルフィア No.155コートールド・コレクション英:ロンドン No.157ノートン・サイモン美術館米:カリフォルニア No.158クレラー・ミュラー美術館オランダ:オッテルロー No.167ティッセン・ボルネミッサ美術館スペイン:マドリード No.192グルベンキアン美術館ポルトガル:リスボン No.202ボイマンス・ファン・ベーニンゲン美術館オランダ:ロッテルダム No.216フィリップス・コレクション米:ワシントンDC No.217ポルディ・ペッツォーリ美術館イタリア:ミラノ No.242ホキ美術館千葉市 No.263イザベラ・ステュアート・ガードナー美術館米:ボストン No.279笠間日動美術館茨城県笠間市 No.303松下美術館鹿児島県霧島市 笠間日動美術館以外は、いずれもコレクターの名を冠した美術館です。今回は、その "個人コレクション美術館" 続きで、ニューヨークにあるフリック・コレクションのことを書きます。 ニューヨーク ニューヨークはパリと並ぶ美術館の集積都市です。海外の美術館めぐりをしたい人にとって、パリの次に行くべき都市はニューヨークでしょう。そのニューヨークの美術館めぐりをする人が、まず間違いなく訪れるのがメトロポリタン美術館とニューヨーク近代美術館(正式名称:The Museum of …

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No.303 - 松下美術館

過去の記事で、12の "個人コレクション美術館" を紹介しました。以下の美術館です。 No. 95バーンズ・コレクション米:フィラデルフィア No.155コートールド・コレクション英:ロンドン No.157ノートン・サイモン美術館米:カリフォルニア No.158クレラー・ミュラー美術館オランダ:オッテルロー No.167ティッセン・ボルネミッサ美術館スペイン:マドリード No.192グルベンキアン美術館ポルトガル:リスボン No.202ボイマンス・ファン・ベーニンゲン美術館オランダ:ロッテルダム No.216フィリップス・コレクション米:ワシントンDC No.217ポルディ・ペッツォーリ美術館イタリア:ミラノ No.242ホキ美術館千葉市 No.263イザベラ・ステュアート・ガードナー美術館米:ボストン No.279笠間日動美術館茨城県笠間市 笠間日動美術館以外は、いずれもコレクターの名が冠されています。今回は、その "個人コレクション美術館" 続きで、鹿児島県にある松下美術館のことを書きます。 松下美術館の場所 松下美術館(鹿児島県霧島市福山町)は、鹿児島の錦江湾に面して東側にあります。鹿児島市内からみると桜島の反対側(大隅半島側)にあたります。 大隅半島にJRはないので、公共交通機関で行くとすると日豊本線の国分駅で降り(国分は京セラの最大の工場があるところ)、そこからバスに乗り換えて30分程度です。ただ、バスの回数が必ずしも多くない…

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No.279 - 笠間日動美術館

今まで、バーンズ・コレクションからはじまって11の "個人コレクション美術館" について書きました。  No. 95バーンズ・コレクション米:フィラデルフィア  No.155コートールド・コレクション英:ロンドン  No.157ノートン・サイモン美術館米:カリフォルニア  No.158クレラー・ミュラー美術館オランダ:オッテルロー  No.167ティッセン・ボルネミッサ美術館スペイン:マドリード  No.192グルベンキアン美術館ポルトガル:リスボン  No.202ボイマンス・ファン・ベーニンゲン美術館オランダ:ロッテルダム  No.216フィリップス・コレクション米:ワシントンDC  No.217ポルディ・ペッツォーリ美術館イタリア:ミラノ  No.242ホキ美術館千葉市  No.263イザベラ・ステュアート・ガードナー美術館米:ボストン の11の美術館です。これらはいずれも19世紀から20世紀にかけての実業家か富裕層の美術愛好家が、自分が得た財産をもとに蒐集したコレクションが発端になっていました。美術館の名前にはコレクターの名が冠されています。もちろんコレクターが亡くなったあとは、コレクションを継承した親族やNPO財団、国や市が美術館として発展させ、所蔵品を充実させてきたケースが多々あります。 今回はその "個人コレクション美術館" の1…

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No.263 - イザベラ・ステュワート・ガードナー美術館

今までに10回書いた「個人美術館」の続きです。正確に言うと、コレクターの個人名を冠した「個人コレクション美術館」で、今回はアメリカのボストンにある「イザベラ・ステュワート・ガードナー美術館」です。 イザベラ・ステュワート・ガードナーと美術館の設立 イザベラ・ステュワート・ガードナー(1840-1924)は、ニューヨークの裕福な実業家の娘として生まれ、20歳のときにボストンのジョン・ガードナーと結婚しました。彼女は富豪であり、"クイーン" と呼ばれたボストン社交界の名士でした。1991年(51歳)の時に父親が死んで遺産を相続したのを契機に、本格的に美術品の蒐集を始めました(ステュワートは旧姓)。そして夫の死後、蒐集したコレクションを飾るために建てた個人美術館が、1903年にオープンしたイザベラ・ステュワート・ガードナー美術館です。彼女は4階の住居スペースで余生を送ったそうです。 イザベラ・ステュワート・ガードナー美術館の外観(上図)と中庭(下図)。現在は建物の横に新館が建てられているが、美術品はすべてガードナー夫人が1903年に建てた上図の美術館の内部にある。また、美しい中庭とそこから見る建物の景観も鑑賞のポイントである。上図の外観写真では、左下の方にサージェントの「エル・ハレオ」(後述)の図像が掲げられている。 美術館は、ボストン美術館の西、歩いてすぐのところにあります。15世紀ヴェネチアの大邸宅を模して建築されており、いわゆる「邸宅美術館」です。その意味では、ワシ…

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No.242 - ホキ美術館

「個人美術館」という言い方があります。これには2つの意味があって、 ◆一人のアーティストの作品だけを展示する美術館 ◆一人のコレクターが蒐集した作品だけを展示する美術館(以下、個人コレクション美術館) の2つです。今まで、バーンズ・コレクションからはじまって9つの "個人コレクション美術館" について書きました。  No. 95バーンズ・コレクション米:フィラデルフィア  No.155コートールド・コレクション英:ロンドン  No.157ノートン・サイモン美術館米:カリフォルニア  No.158クレラー・ミュラー美術館オランダ:オッテルロー  No.167ティッセン・ボルネミッサ美術館スペイン:マドリード  No.192グルベンキアン美術館ポルトガル:リスボン  No.202ボイマンス・ファン・ベーニンゲン美術館オランダ:ロッテルダム  No.216フィリップス・コレクション米:ワシントンDC  No.217ポルディ・ペッツォーリ美術館イタリア:ミラノ の9つの美術館です。これらはいずれもコレクターの名前を冠していました。また、フィリップス・コレクションとポルディ・ペッツォーリ美術館はコレクターの私邸がそのまま美術館となっている「私邸美術館」、ないしは「邸宅美術館」(ジャーナリストの朽木くちきゆりこ氏の表現)です。 今回はその「コレクター名を冠した個人…

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No.222 - ワシントン・ナショナル・ギャラリー

バーンズ・コレクションからはじまって、個人コレクションを発端とする美術館について書きました。 No. 95バーンズ・コレクションフィラデルフィア No.155コートールド・コレクションロンドン No.157ノートン・サイモン美術館カリフォルニア No.158クレラー・ミュラー美術館オッテルロー(蘭) No.167ティッセン・ボルネミッサ美術館マドリード No.192グルベンキアン美術館リスボン No.202ボイマンス・ファン・ベーニンゲン美術館ロッテルダム(蘭) No.216フィリップス・コレクションワシントンDC No.217ポルディ・ペッツォーリ美術館ミラノ の9つの美術館です。今回はその方向を少し転換して、アメリカのワシントン・ナショナル・ギャラリーについて書きます(正式名称:National Gallery of Art。略称:NGA。以下 NGA とすることがあります)。  なお上記の "個人コレクション美術館" 以外にも、バーンズ・コレクションから歩いて行けるフィラデルフィア美術館(No.96、No.97)について書きました。またプラド美術館の数点の絵画についても書いています(No.133、No.160、No.161)。 なぜワシントン・ナショナル・ギャラリーかと言うと、過去にこのブログでこの美術館の絵をかなり紹介したからです。意図的にそうしたのではなく、話の成り行き上、そうなりました。そこで、過去に取り上げた絵を振り返りつつ、取り上げ…

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No.217 - ポルディ・ペッツォーリ美術館

前回の No.216「フィリップス・コレクション」は、"コレクターの私邸に個人コレクションを展示した美術館" でしたが、そのような美術館のことをさらに書きます。前回も名前をあげた、ミラノにある「ポルディ・ペッツォーリ美術館」です。 ミラノ中心部の「私邸美術館」 ポルディ・ペッツォーリ美術館は、ミラノの貴族で美術収集家であったポルディ・ペッツォーリのコレクションを、その私邸に展示したものです。この私邸は美術品とともに、19世紀末にミラノ市に寄贈されました。 JALのサイトにあるミラノの中心部、東西約2kmの範囲の地図。主な美術館・博物館の位置が示されている。 (site : www.jal.co.jp) ポルディ・ペッツォーリ美術館 美術館はミラノ市の中心部にある。この写真で人が集まっているあたりにエントランスがある。 (site : www.grantouritalia.it) (site : www.amicimuseo-esagono.it) 場所はミラノという "歴史ある都市のど真ん中" で、そこがワシントン D.C. のフィリップス・コレクションと違うところです。フィリップス・コレクションは設立後に建て増しがされていて、2棟が連結された建物になっていますが、ミラノ中心部ではそれもできないでしょう。私邸としては大邸宅ですが、ミラノ、ないしはイタリアの他の著名美術館に比べるとこじんまりしています。 ここに収集されているのは18世紀以前の絵画をはじめ、…

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No.216 - フィリップス・コレクション

個人コレクションにもとづく美術館について、今まで7回にわたって書きました。  No. 95バーンズ・コレクション米:フィラデルフィア  No.155コートールド・コレクション英:ロンドン  No.157ノートン・サイモン美術館米:カリフォルニア  No.158クレラー・ミュラー美術館オランダ:オッテルロー  No.167ティッセン・ボルネミッサ美術館スペイン:マドリード  No.192グルベンキアン美術館ポルトガル:リスボン  No.202ボイマンス・ファン・ベーニンゲン美術館オランダ:ロッテルダム の7つです。今回はその継続で、アメリカのワシントン D.C.にあるフィリップス・コレクションを取り上げます。 フィリップス・コレクション フィリップス・コレクションが所蔵する絵について、今まで2回とりあげました。まず No.154「ドラクロワが描いたパガニーニ」では、ドラクロワの『ヴァイオリンを奏でるパガニーニ』という作品について、中野京子さんの解説を中心に紹介しました。 ウジェーヌ・ドラクロワ(1798-1863) 『ヴァイオリンを奏でるパガニーニ』(1831) フィリップス・コレクション (site : www.phillipscollection.org) この絵は「大アーティストが描いた大アーティスト」であり、パガニーニの音楽の本質までとらえているという話でした。さらにそ…

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No.202 - ボイマンス・ファン・ベーニンゲン美術館

個人コレクションにもとづく美術館について、今まで6回書きました。  No. 95バーンズ・コレクション米:フィラデルフィア  No.155コートールド・コレクション英:ロンドン  No.157ノートン・サイモン美術館米:カリフォルニア  No.158クレラー・ミュラー美術館オランダ:オッテルロー  No.167ティッセン・ボルネミッサ美術館スペイン:マドリード  No.192グルベンキアン美術館ポルトガル:リスボン の6つです。いずれも19・20世紀の実業家の個人コレクションが美術館設立の発端となっています。今回はその続きで、オランダのロッテルダムにある「ボイマンス・ファン・ベーニンゲン美術館」をとりあげます。 美術館のロケーション オランダの美術館で No.158 で書いたクレラー・ミュラー美術館は、ゴッホの作品が好きな人にとっては是非とも訪れたい美術館ですが、この美術館はオッテルローという郊外の町の国立公園の中にあります。アムステルダムから公共交通機関を使うとすると、列車(直通、または乗り継ぎ)とバス2系統の乗り継ぎで行く必要があります。 それに対してボイマンス・ファン・ベーニンゲン美術館はロッテルダムという大都市の中心部にあり、アムステルダムからは列車1本で行けます。また途中のデン・ハーグにはマウリッツハイス美術館があるので、この2美術館をアムステルダムからの日帰りで訪問することも十分に可能で…

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No.192 - グルベンキアン美術館

個人コレクションにもとづく美術館について、今まで5回にわたって書きました。  No. 95バーンズ・コレクション米:フィラデルフィア  No.155コートールド・コレクション英:ロンドン  No.157ノートン・サイモン美術館米:カリフォルニア  No.158クレラー・ミュラー美術館オランダ:オッテルロー  No.167ティッセン・ボルネミッサ美術館スペイン:マドリード の5つです。今回はその "個人コレクション・シリーズ" の続きで、ポルトガルの首都、リスボンにある「グルベンキアン美術館」をとりあげます。今までの5つの美術館はいずれも、19世紀から20世紀にかけて事業で成功した欧米の富豪が収集した美術品を展示していて、コレクターの名前が美術館の名称になっていました。グルベンキアン美術館もそうです。 カールスト・グルベンキアン カールスト・グルベンキアン(1869-1955)は、イスタンブール出身のアルメニア人です。石油王と呼ばれた人で、石油の売買で膨大な財を成しました。そして美術品のコレクターでもあった。晩年、グルベンキアンはポルトガルに移住し、遺言によって遺産と美術品がポルトガルに寄贈されました。それを元にグルベンキアン財団が設立され、財団は美術館だけでなく、オーケストラやバレエ団の運営、各種の芸術・文化活動を行っています。 以上の美術館設立の経緯は、何となく No.167 で紹介したティッセン・ボルネミッ…

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No.167 - ティッセン・ボルネミッサ美術館

個人コレクションを元にした美術館について、今まで4回書きました。 No. 95バーンズ・コレクション No.155コートールド・コレクション No.157ノートン・サイモン美術館 No.158クレラー・ミュラー美術館 の4つで、いずれもコレクターの名前がついています。今回はその "個人コレクション・シリーズ" の続きで、スペインのマドリードにあるティッセン・ボルネミッサ美術館です。 マドリードの美術館 マドリードには3つの有名美術館があります。 ・プラド美術館 ・ソフィア王妃芸術センター ・ティッセン・ボルネミッサ美術館 ですが、この3つの美術館はそれぞれの所蔵作品に特色があります。プラド美術館は古典絵画(18世紀かそれ以前)とスペインの近代絵画(19世紀)が充実していてます。ソフィア王妃芸術センターは、20世紀のモダンアートが中心です(『ゲルニカ』がある)。 それに比較してティッセン・ボルネミッサ美術館は、古典からモダンアートまで幅広い作品が揃っています。特に、他の2つにはない19世紀の(スペイン以外の)印象派・後期印象派の絵、および18世紀以前のオランダ絵画が充実している。その意味で、3館をあわせると西洋絵画の幅広い美術史がカバーできます。 ティッセン・ボルネミッサ美術館 (白い建物は増築された部分) ティッセン・ボルネミッサ美術館の設立経緯 ティッセン・ボルネミッサという名称は、スペイン語にはそぐわない感じの、ちょっと変…

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No.158 - クレラー・ミュラー美術館

前回もそうでしたが、"個人コレクション"を元にした美術館について、今まで3回書きました。 No.95バーンズ・コレクション No.155コートールド・コレクション No.157ノートン・サイモン美術館 の3つです。その "個人コレクション・シリーズ" の継続で、今回はオランダのオッテルローにある「クレラー・ミュラー美術館」について書きます。 ロケーション クレラー・ミュラー美術館のロケーションは、以前の3つの美術館とは "真逆まぎゃく" と言っていいてしょう。その "特徴" は ◆アムステルダムから「行きにくい」所にある ◆国立公園の中にある の二つです。 クレラー・ミュラー美術館は、オランダの「デ・ホーフェ・フェルウェ国立公園」の中にあるのですが、アムステルダムから行くには、列車でエーデ・ワーゲニンゲン駅まで行き、そこからバスでオッテルローに向かい、さらにバスを乗り継いで国立公園の入り口まで行く必要があります。 (Google Map) 冒頭に掲げた3つの美術館が都市の中心部にごく近く、メトロかバス1本(ないしは近距離タクシー)で行けるのとは大違いです。オランダの著名美術館と比較しても、アムステルダム国立美術館とゴッホ美術館はトラムの発達した市内にあるし、マウリッツハイス美術館は首都のデン・ハーグの駅から徒歩圏内、ボイマンス・ファン・ベーニンゲン美術館も大都会のロッテルダムの駅から歩いて行けます。フランス・ハルス美術館はハーレム(アムス…

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No.157 - ノートン・サイモン美術館

今までの記事で、個人コレクションをもとにした美術館について書きました。 No.95バーンズ・コレクション No.155コートールド・コレクション の2つです。今回はその "シリーズ" の続きとして、アメリカのカリフォルニアにあるノートン・サイモン美術館のことを書きたいと思います。 電車で行ける ノートン・サイモン美術館はロサンゼルス近郊のパサデナにありますが、ポイントの一つはロサンゼルスのダウンタウンから電車で行けることです。 ロサンゼルスの観光スポットと言うと、クルマがないと行けないところ、ないしは大層不便なところ(バスの乗り継ぎなど)もあるのですが(ディズニーランド、ナッツベリーファームなど)、ノートン・サイモン美術館に関しては2003年にメトロの「ゴールドライン」が開通し、電車で行けるようになりました。ダウンタウンのユニオン駅から乗って「メモリアル・パーク」という駅で下車します。 パサデナ・オールドタウン メモリアル・パーク駅からノートン・サイモン美術館までは約1.2~3kmの距離ですが、是非、歩いていきましょう。というのも途中に "パサデナ・オールドタウン地区" があるからです。 パサデナは高級住宅街ですが、その中のオールドタウン地区は、昔からのレンガ造りの建物を生かした街づくりがされています。ここには各種のショップやアート・スポット、レストラン、カフェが立ち並び、大変おしゃれな感じのエリアです。そもそもパサデナ・オールドタウンがロサンゼル…

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No.155 - コートールド・コレクション

前回の No.154「ドラクロワが描いたパガニーニ」で紹介した絵画『ヴァイオリンを奏でるパガニーニ』があるのは、アメリカのワシントン D.C.にあるフィリップス・コレクションでした。また以前に、No.95 でバーンズ・コレクション(米・フィラデルフィア)のことを書きましたが、これらはいずれも個人のコレクションを美術館として公開したものです。 個人コレクションとしては、日本でも大原美術館(大原孫三郎。倉敷市。1930 ~ )、ブリヂストン美術館(石橋正二郎。東京。1952 ~ )、足立美術館(足立全康。島根県安来市。1970 ~ )などが有名だし、海外でもノートン・サイモン(米・カリフォルニア)、クラーク(米・マサチューセッツ)、フリック(米・ニューヨーク)、クレラー・ミュラー(オランダ)、オスカー・ラインハルト(スイス)など、コレクターの名前を冠した美術館が有名です。 こういった個人コレクションで最も感銘を受けたのが、ロンドンにある「コートールド・コレクション」でした。今回はこのコレクションのことを書きたいと思います。実は以前、知人に新婚旅行でイギリスに行くという人がいて、ロンドンの「おすすめスポット」を尋ねられたことがありましたが、私は「コートールド・コレクション」と答えました。新婚旅行から帰ってから、その方に「よかった」と、たいそう感謝された記憶があります。 サミュエル・コートールド サミュエル・コートールド(1876-1947)は、イギリスで繊維業を営んだ実業家で、フ…

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No.97 - ミレー最後の絵(続・フィラデルフィア美術館)

前回の No.96「フィラデルフィア美術館」の続きです。この美術館について、もう一回書くことにします。 Philadelphia Museum of Art East Entrance 側より ( site : press.visitphilly.com ) フィラデルフィア美術館のような「巨大美術館」を紹介するのは難しいものです。有名アーティストの作品がたくさんあるので、いちいちあげていったらキリがありません。そこで前回はあえて「あまり有名ではない画家の作品」を取りあげ、最後に1枚だけ(超有名画家である)アンリ・ルソーの作品を紹介しました。 しかし、ちょっと考え直しました。有名アーティストの作品をあげていったらキリがないけれど、 有名画家の、代表作とは言えないし傑作でもないけれど、印象に残る絵 なら何点かあげられると思ったのです。今回はその「印象に残る絵」という視点での紹介です。もちろん個人の印象です。 なお以下に取り上げる絵画は、フィラデルフィア美術館が所蔵している作品であって、常に展示されているとは限りません。美術館は展示状況をウェブサイトで公開しています。 カサット(1844-1926) まずフィラデルフィア出身のメアリー・カサットが「馬車で行く婦人と少女」を描いた作品です。 Mary Stevenson Cassatt(1844-1926) 『A Woman and a Girl Driving』(1881) (89.7 x 130…

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No.96 - フィラデルフィア美術館

フィラデルフィア美術館 前回の No.95「バーンズ・コレクション」の続きです。バーンズ・コレクションから歩いて行ける「フィラデルフィア美術館(Philadelphia Museum of Art)」について書きます。 Philadelphia Museum of Art ( site : www.visitphilly.com ) フィラデルフィア美術館は、所蔵点数も多い全米屈指の「大美術館」です。3階建ての2階と3階が展示スペースになっていて、それぞれ約100の展示室があります。西洋美術では中世から現代アートまでがあり、また東洋・アジアの美術もある。江戸期の日本画も所蔵されているし、館内には日本の茶室まで造営されています。ちゃんと見るには1日がかり(でも時間がないほど)です。 しかも近くには別館があり、さらにバーンズ・コレクションとの間にはロダン美術館があって、この3つのミュージアムが共同運営されています。つまりフィラデルフィア美術館のチケットで3館に入場でき、チケットは2日間有効です。2日がかりで見学しなさいということでしょう。良心的なやり方だと思います。 しかし我々は前回に書いたように「ニューヨークからの日帰り」を前提にしているので「フィラデルフィア美術館の見どころ」だけに話を絞ります。バーンズ・コレクションと同じジャンルである「19世紀のヨーロッパ美術」と「アメリカ美術」です。 ちなみに、フィラデルフィアはアメリカ独立宣言が起草され採択された都市で…

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No.95 - バーンズ・コレクション

前回の No.94「貴婦人・虎・うさぎ」の最後の方で、アンリ・ルソーのウサギの絵を紹介しましたが、この絵を所蔵しているのは、アメリカのフィラデルフィアにある「バーンズ財団 The Barnes Foundation」でした。今回はこの財団が管理するバーンズ・コレクションのことを書きます。 バーンズ・コレクションは、現在はフィラデルフィアの中心部に近い財団の「施設」に展示され、公開されています。施設の正式名は「The Barnes Foundation Philadelphia Campus」のようですが、以降、この「施設」も、その中の「展示作品」も区別せずに「バーンズ・コレクション」と表記します。 アメリカの美術館を訪れる もしあなたが美術好きで、美術館を訪れるのが趣味で、海外旅行の際にも美術館によく行き、かつ、パリやローマには行ったので、今度はアメリカに行くとします。 アメリカの有名美術館は、ヨーロッパ絵画、特に19世紀以降の近代絵画の宝庫です。ヨーロッパ絵画に興味があるなら、パリ、ロンドン、アムステルダム、ローマ、フィレンツェ、マドリードに旅行するだけでは不十分であり、特に近代絵画をおさえておくためにはアメリカに行く必要があります。2011年に日本で開催された「ワシントン・ナショナル・ギャラリー展」の宣伝文句に「これを見ずに、印象派は語れない」とありましたが、これは大袈裟でもなんでもなく、事実をストレートに言っているに過ぎないのです。 そのアメリカの有名美術館を訪…

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