格子多角形
まず用語の定義ですが、
| すべての内角が \(\pi\) 未満の凸多角形と、\(\pi\) を超える内角が一つでもある凹多角形の両方を含み、内部に "穴" がなく、自分自身と交差せず、平面上の閉領域を囲む多角形 |
とします(単純多角形と呼ばれます)。多角形の辺の数と頂点の数を \(n\) で表し、\(n\)多角形との言い方もします。さらに、
| x-y 平面で、座標 \((m_x,\:m_y)\) の2つともが整数である点 |
です。この格子点をもとに格子多角形を定義します。
| すべての頂点が格子点である多角形 |
以降、"多角形" と "格子多角形" を使い分けます。さらに、内部格子点と境界格子点を次のように定義します。
| 格子多角形の内部に完全に含まれる格子点。 | |
| 格子多角形の辺の上の格子点。頂点を含む。 |
境界格子点は、頂点と、頂点ではない辺上の格子点を区別しない定義であることに留意します。ここで、次の記号を定義します。記事全体でこの記号を使います。
| 格子多角形の面積 | |
| 内部格子点の数 | |
| 境界格子点の数 |
記号の意味は、\(\boldsymbol{S}:\) surface、\(\boldsymbol{I}:\) inner、\(\boldsymbol{B}:\) boundary です。このとき、次が成り立ちます。これが「ピックの定理」です。
ピックの定理 \(\boldsymbol{S}=\boldsymbol{I}+\dfrac{1}{2}\boldsymbol{B}-1\) |
ピックの定理 |
\(\boldsymbol{S}=\boldsymbol{I}+\dfrac{1}{2}\boldsymbol{B}-1\) |
この図の多角形の格子点をカウントすると、内部格子点(\(\boldsymbol{I}\):薄赤)が 46、境界格子点(\(\boldsymbol{B}\):黒)が 15 なので、面積 \(\boldsymbol{S}\) は 46+15/2-1=52.5 である。 |
多角形の(従って格子多角形の)面積を求める場合、3角形とか4角形に分割し、それぞれの面積を求めて合算する(あるいは余分なところを引き算する)のが普通でしょう。しかし上の定理は、そんなことはしなくても、格子多角形であれば格子点の数である \(\boldsymbol{I}\) と \(\boldsymbol{B}\) をカウントすればよいと主張しています。これは少々意外な定理です。
この定理の直感的な意味は、面積に対する内部格子点の寄与は1で、境界格子点の寄与は \(0.5\) という感じでしょう。しかし、すべての境界格子点の寄与が \(0.5\) ではないはずです。辺上の格子点は \(0.5\) かもしれないが、頂点はいかにも \(0.5\) より小さい。そのために \(-1\) という数があるのでしょうが、これがなぜ \(-1\) でいいのか、謎です。そもそもこの定理は頂点と頂点ではない辺上の点を全く区別していません。これでよいのか。
以降、この定理を証明しますが、「高校数学で理解する\(\cdot\cdot\cdot\)」シリーズの原則に従って、高校までで習わない事項は全部証明することにします。特に、上で定義した "凹多角形を含む一般の多角形" についての定理は、高校までの数学にほとんど出てこないと思うので、重点的に証明します。まず、格子多角形を含む多角形全般に関わる事項です。
多角形の「弦」
まず非常に基本的なところから始めます。一般に、凸多角形の頂点と頂点を結ぶ線を「対角線」と呼んでいます。対角線は凸多角形の内部を通ります。これを拡張し、一般の多角形でも頂点と頂点を結ぶ線分を対角線と呼ぶことはできます。しかし一般の多角形では、対角線が多角形の内部を通るとは限りません。以降の証明では、頂点と頂点を結ぶ線が多角形の内部を通るのか、そうでないのかが重要です。そこで、用語の意味を明確にするために、多角形の「弦」を次のように定義します。
定義:多角形の「弦」 多角形の頂点 \(A\) と 頂点 \(B\) を結ぶ線分 \(AB\) が次の条件を満たすとき、線分 \(AB\) を「弦」と呼ぶ。 線分 \(AB\) の2つの頂点を除く部分は、多角形の辺と共有する部分がなく、かつ完全に多角形の内部に含まれる |
このように多角形の弦を定義すると、次の定理が成り立ちます。
定理1:弦の存在 \(n\)多角形(\(n > 3\))には、少なくとも一つの弦が存在する。 |
【証明】
多角形の頂点のうち、内角が \(\pi\) 未満の頂点の一つを \(A\) とする。頂点 \(A\) と辺を構成している2つの頂点を \(B,\:C\) とする。\(n > 3\) だから、線分 \(BC\) は辺ではない。
\(\triangle ABC\) の内部に多角形の頂点が存在しなければ、\(BC\) と交差する多角形の辺は無い。もし\(BC\) と交差する多角形の辺 \(EF\) があったとしたら、\(\triangle ABC\) の内部に頂点 \(E,\:F\) はないのだから、辺 \(EF\) は \(AB\) か \(AC\) と交差することになり、"辺が交差しない" という多角形の定義に反する。従って、\(BC\) は多角形の弦である。
一方、\(\triangle ABC\) の内部に多角形の頂点が1つ、もしくは複数存在する場合、それらの頂点のうち、線分 \(BC\) との距離が最も大きい点を \(D\) とする。その \(D\) を通って \(BC\) に平行な直線を引き \(AB,\:AC\) との交点を \(D_B,\:D_C\) とする。そうすると、\(\triangle AD_BD_C\) の内部に多角形の頂点は存在しない。この状況において線分 \(AD\) を作ると、\(AD\) に交差する多角形の辺は無いと言える。
なぜなら、もし線分 \(AD\) に交差する多角形の辺 \(EF\) があったとしたら、\(EF\) の両端の頂点 \(E\) と \(F\) は \(\triangle AD_BD_C\) の外に存在するから、\(EF\) は必ず \(\triangle AD_BD_C\) の2辺と交差する。ということは、\(EF\) は \(AB,\:AC\) のうちの少なくとも一つと交差することになり、これは "辺が交差しない" という多角形の定義に反する。従って、線分 \(AD\) に交差する多角形の辺はありえない。つまり、\(AD\) は多角形の弦である。
いずれにせよ、多角形には少なくとも一つの弦が存在する。【証明終】
凸多角形であれば弦の存在は自明ですが、この定理は凹多角形でも弦が存在することを保証しています。この定理を使って、次の3角形分割の存在定理を証明します。
定理2:3角形分割の存在 \(n\)多角形(\(n\geq3\))は、重複部分のない3角形の和集合として3角形分割できる。これらの3角形は次を満たすようにできる。
|
【証明】
\(n\) についての数学的帰納法で証明する。数学的帰納法を使うため、まず多角形の定義を変え、内角が \(\pi\) である頂点(ここでは "疑似頂点" と呼ぶ)があってもよいものとする。
まず \(n\)多角形が \(n=3\) の場合、一つの3角形で多角形を "分割" でき、その3角形の辺は多角形の辺であり、3角形の個数は \(n-2=1\) だから、題意は成り立っている。
次に、\(3\leq k\leq n\) の \(k\) のすべてで題意が成り立つとする。任意の \((n+1)\)角形 \(\alpha\) があったとすると、定理1により \(\alpha\) は少なくとも一つの弦をもつ。その弦を \(AB\) とすると、\(\alpha\) は、中に "穴" がなく閉領域を囲む多角形だから「辺\(AB\) を共有する2つの多角形、\(\beta\) と \(\gamma\) から成る」と見なせる。ただし、多角形 \(\beta\) と \(\gamma\) からみた頂点 \(A\)、頂点 \(B\) の内角は、ちょうど \(\pi\) になることもありうる。その場合は、\(\pi\) になる頂点を "疑似頂点" として論を進める。ここで、
| 多角形 \(\beta\) の辺の数:\(m_\beta\) | |
| 多角形 \(\gamma\) の辺の数:\(m_\gamma\) |
とすると、\(\beta\) と \(\gamma\) は、\(\alpha\) では辺ではない \(AB\) を辺として共有していることを考慮して、
\(\begin{eqnarray}
&&\:\:m_\beta+m_\gamma&=(n+1)+2\\
&&&=n+3\\
\end{eqnarray}\)
が成り立つ。\(\beta\) あるいは \(\gamma\) は最小の多角形の場合、3角形であり、\(m_\beta,\:m_\gamma\) の最小値は \(3\)である。そうすると上の式より最大値は \(n\)である。つまり、
| \(3\leq m_\beta\leq n\) | |
| \(3\leq m_\gamma\leq n\) |
であるから、帰納法の仮定によって、
| \(\beta\) は3角形に分割でき、3角形の辺は、\(\alpha\) の辺か、\(AB\) か、\(AB\) 以外の \(\alpha\) の弦である。また、3角形の個数は \(m_\beta-2\) 個である。 | |
| \(\gamma\) は3角形に分割でき、3角形の辺は、\(\alpha\) の辺か、\(AB\) か、\(AB\) 以外の \(\alpha\) の弦である。また、3角形の個数は \(m_\gamma-2\) 個である。 |
が成り立つ。従って、\(\alpha\)を3角形分割したときの3角形の個数は、
\(\begin{eqnarray}
&&\:\:m_\beta-2+m_\gamma-2&=m_\beta+m_\gamma-4\\
&&&=n-1\\
\end{eqnarray}\)
であり、またそれら3角形の辺は \(\alpha\) の辺か、\(AB\)(=\(\alpha\) の弦)か、\(AB\) 以外の \(\alpha\) の弦である。つまり、任意の \((n+1)\)角形 \(\alpha\) においても題意が成立している。従って、帰納法によって題意は正しい。【証明終】
「3角形の辺は、多角形の辺か、多角形の弦である」は、言い換えると「3角形の頂点は多角形の頂点である」ということです。つまり定理2は単に多角形が3角形に分割できるというのではなく、多角形の頂点だけを使った3角形に分割できることを言っています。どんな形の多角形でも、内部に新たな3角形の頂点を設けることなく分割できる。凸多角形なら自明ですが、一般の多角形でも成立するわけです。
ちなみに、3角形の内角の和は \(\pi\) です。従って、定理2から直ちに次が言えます。
この定理は、凸多角形であれば高校までの数学に出てくると思いますが、一般の多角形でも成り立ちます。
\(n\)多角形の内角の和は \((n-2)\:\pi\) である。 |
この定理は、凸多角形であれば高校までの数学に出てくると思いますが、一般の多角形でも成り立ちます。
多角形を3角形分割したときの弦の数をカウントしてみると、3角形の数は \(n-2\) なので、3角形の辺の総数は \(3(n-2)\) 個です。従って、多角形の辺になっていない「多角形内部の3角形の辺」の数は \(3(n-2)-n=2n-6\) です。「多角形内部の3角形の辺」は、それぞれ2つの3角形で共有されているので、弦の数は \(n-3\) です。まとめると、
\(n\)多角形(\(n > 3\))は、\(n-3\) 個の弦によって \(n-2\) 個の3角形に分割できる
と結論できます。このことから \(n\)多角形は少なくとも \(n-3\) 個の弦を持つことが分かります。もちろん、一般には弦の数はそれより多いので、3角形への分割は一意ではありません。ちょうど \(n-3\) 個の弦をを持つ \(n\)多角形であれば、3角形分割は一意に決まります。
弦の数が \(n-3\) 個の \(n\)多角形の例(\(n=4,\:5,\:6\))。このような多角形は3角形分割が一意に決まる。 |
ここで述べた定理1、定理2は、多角形の特別な場合である格子多角形にも適用できる定理です。以降は、その格子多角形についてのピックの定理です。
ピックの定理:格子長方形\(\cdot\)格子直角3角形
ここからが、格子多角形におけるピックの定理の証明です。ピックの定理を再掲すると、次の通りです。
\(\boldsymbol{S}=\boldsymbol{I}+\dfrac{1}{2}\boldsymbol{B}-1\)
|
まず、格子長方形と格子直角3角形でピックの定理が成り立つことを証明します。
定理3:格子長方形・格子直角3角形のピックの定理 格子多角形のうち、すべての辺が \(x\) 軸か \(y\) 軸に平行な長方形を「格子長方形」と呼ぶことにする。格子長方形はピックの定理が成り立つ。 また、格子多角形のうち、直角を挟む2つの辺が \(x\) 軸と \(y\) 軸に平行な直角3角形を「格子直角3角形」と呼ぶことにする。格子直角3角形はピックの定理が成り立つ。 |
【証明】
図において、点 \(O,\:A,\:B,\:P\) の座標は、
\(O\::\:(0,\:0)\)
\(A\::\:(a,\:0)\:\:a\geq1\)
\(B\::\:(0,\:b)\:\:b\geq1\)
\(P\::\:(a,\:b)\)
とする。長方形 \(OAPB\) において
\(\boldsymbol{S}=ab\)
\(\boldsymbol{I}=(a-1)(b-1)\)
\(\boldsymbol{B}=2a+2b\)
なので、
\(\boldsymbol{S}=\boldsymbol{I}+\dfrac{1}{2}\boldsymbol{B}-1\)
となり、ピックの定理が成り立っている。
\(\triangle OAB\)について、
\(\boldsymbol{S}=\dfrac{1}{2}ab\)
である。辺\(AB\)上の格子点の数(\(A\)点と\(B\)点を含む)を \(x\) とすると、
\(\boldsymbol{B}=a+b+x-1\)
\((\textbf{A})\)
である。また、\(\triangle OAB\) と \(\triangle PBA\) は相似形だから、それぞれの \(\boldsymbol{I}\) は等しい。長方形 \(OAPB\) の内部格子点の数は \((a-1)(b-1)\) なので、
\((a-1)(b-1)=2\boldsymbol{I}+x-2\)
\(ab-a-b+1=2\boldsymbol{I}+x-2\)
\(ab=2\boldsymbol{I}+a+b+x-3\)
である。ここに \((\textbf{A})\) 式の右辺を代入すると
| \(ab\) | \(=2\boldsymbol{I}+\boldsymbol{B}-2\) | |
| \(\boldsymbol{S}\) | \(=\boldsymbol{I}+\dfrac{1}{2}\boldsymbol{B}-1\) |
となって、格子直角3角形 \(\triangle OAB\) でもピックの定理が成り立つ。【証明終】
ちなみに、辺 \(AB\) 上の境界格子点の数(格子点 \(A\) 、格子点 \(B\) を除く)を \(p\) とすると、
\(p=\mathrm{gcd}(a,\:b)-1\)
\(\mathrm{gcd}\::\) 最大公約数
です。その理由ですが、辺 \(AB\) 上の境界格子点の \(x\) 座標の最小値を \(q\:(q > 0)\) とすると、その境界格子点の x-y 座標値は、
\(\left(q,\:b-\dfrac{b}{a}q\right)\)
です。この \(y\) 座標は、境界格子点なので整数です。つまり \(\dfrac{b}{a}q\) が整数です。\(\dfrac{b}{a}\) を任意の公約数で約分したものを \(\dfrac{b\,'}{a\,'}\) と書くと、\(q=a\,'\) ということですが、\(q\) は最小値なので、\(a\,'\) は公約数の最大値である \(\mathrm{gcd}(a,\:b)\) で \(\dfrac{b}{a}\) を約分した結果です。つまり、
\(q=\dfrac{a}{\mathrm{gcd}(a,\:b)}\)
です。\(x\) 座値が \(q\) である \(AB\) 上の点が境界格子点であれば、\(x\) 座値が \(2q,\:3q\). \(\cdots\) である \(AB\) 上の点の \(y\) 座標値は整数であり、それらは境界格子点です。つまり、格子点 \(A\) を含む(格子点 \(B\) は含まない)\(AB\) 上の境界格子点の数は、
\(\dfrac{a}{q}=\mathrm{gcd}(a,\:b)\)
です。従って、格子点 \(A\)、格子点 \(B\) を含まない 辺 \(AB\) 上の境界格子点の数は、
\(\mathrm{gcd}(a,\:b)-1\)
となります。\(a\) と \(b\) が互いに素( \(\mathrm{gcd}(a,\:b)=1\) )であれば、辺 \(AB\) 上の境界格子点は \(A\) と \(B\) だけです。以上をピックの定理に即して書くと、
| \(\boldsymbol{B}\) | \(=a+b+\mathrm{gcd}(a,\:b)\) | |
| \(\boldsymbol{I}\) | \(=\boldsymbol{S}-\dfrac{1}{2}\boldsymbol{B}+1\) | |
| \(=\dfrac{1}{2}(ab-a-b-\mathrm{gcd}(a,\:b))+1\) |
です。
ピックの定理の加法性
以下にピックの定理の「加法性」を証明します。多角形 \(\alpha\) が 多角形 \(\beta\) と \(\gamma\) を合体させたもので(いわば、\(\alpha=\beta+\gamma\))、\(\beta\) と \(\gamma\) が定理を満たすなら \(\alpha\) も定理を満たすという主張です。
定理4:加法性(その1) 格子多角形 \(\alpha\) がある。境界格子点の一つ、\(A\) から、\(k\)個の内部格子点を通って、\(A\) とは別の境界格子点 \(B\) に至る折れ線 \(P\) を考える。\(P\) に直線部分があってもよく、全体が直線であってもよい。また \(P\) は、内部格子点を全く通らない線分であってもよい(\(k=0\))。\(P\) 上にある格子点は \(k+2\) である。 格子多角形 \(\alpha\) は、\(P\) により、\(P\) を境界として共有する2つの格子多角形 \(\beta\) と \(\gamma\) に分割されたと考えることができる。そのため \(P\) を「分割線」と呼ぶことにする。 そうすると、もし \(\beta\) と \(\gamma\) がピックの定理を満たすなら、\(\beta\) と \(\gamma\) を "合体" させた \(\alpha\) もピックの定理を満たす。 |
【証明】
格子多角形 \(\beta\) について、
| 面積 | :\(\boldsymbol{S}_\beta\) | |
| 内部格子点数 | :\(\boldsymbol{I}_\beta\) | |
| 境界格子点数 | :\(\boldsymbol{B}_\beta\) |
と書くと、定理の前提によって、
\(\boldsymbol{S}_\beta=\boldsymbol{I}_\beta+\dfrac{1}{2}\boldsymbol{B}_\beta-1\)
が成り立つ。また、格子多角形 \(\gamma\) について
| 面積 | :\(\boldsymbol{S}_\gamma\) | |
| 内部格子点数 | :\(\boldsymbol{I}_\gamma\) | |
| 境界格子点数 | :\(\boldsymbol{B}_\gamma\) |
とすると、
\(\boldsymbol{S}_\gamma=\boldsymbol{I}_\gamma+\dfrac{1}{2}\boldsymbol{B}_\gamma-1\)
が成り立つ。一方、多角形 \(\alpha\) については、
\(\boldsymbol{S}_\alpha=\boldsymbol{S}_\beta+\boldsymbol{S}_\gamma\)
\(\boldsymbol{I}_\alpha=\boldsymbol{I}_\beta+\boldsymbol{I}_\gamma+k\)
\(\longrightarrow\:\boldsymbol{I}_\beta+\boldsymbol{I}_\gamma=\boldsymbol{I}_\alpha-k\)
| \(\boldsymbol{B}_\alpha\) | \(=\boldsymbol{B}_\beta+\boldsymbol{B}_\gamma-2(k+2)+2\) | |
| \(=\boldsymbol{B}_\beta+\boldsymbol{B}_\gamma-2k-2\) |
である。\(\boldsymbol{B}_\alpha\) の式では、ダブルカウントした \(P\) 上の格子点数 \(2(k+2)\) を引き、\(P\) の両端の格子点数 \(2\) を加算している。従って、
| \(\boldsymbol{S}_\alpha\) | \(=(\boldsymbol{I}_\beta+\dfrac{1}{2}\boldsymbol{B}_\beta-1)+(\boldsymbol{I}_\gamma+\dfrac{1}{2}\boldsymbol{B}_\gamma-1)\) | |
| \(=(\boldsymbol{I}_\beta+\boldsymbol{I}_\gamma)+\dfrac{1}{2}(\boldsymbol{B}_\beta+\boldsymbol{B}_\gamma)-2\) | ||
| \(=(\boldsymbol{I}_\alpha-k)+\dfrac{1}{2}(\boldsymbol{B}_\alpha+2k+2)-2\) | ||
| \(=\boldsymbol{I}_\alpha+\dfrac{1}{2}\boldsymbol{B}_\alpha-1\) |
と計算でき、\(\alpha\) においてもピックの定理が成り立つ。【証明終】
なおピックの定理は、多角形の頂点と辺上の格子点を区別せず、すべて境界格子点として扱います。従って、\(\alpha\) を、境界格子点 \(A\) から境界格子点 \(B\) に至る折れ線 \(P\) で \(\beta\) と \(\gamma\) に分割したとき、\(A\) または \(B\) が \(\beta\) または \(\gamma\) の頂点にならないとしても、ピックの定理は成立します。証明に影響はありません。
定理4の証明では、格子点(境界格子点、内部格子点)の数に関する加減算しか使っていません。従って、\(\gamma=\alpha-\beta\) の状況で \(\alpha\) と \(\beta\) が定理を満たすなら、\(\gamma\) も定理を満たします。具体的に式で証明すると以下です。
定理5:加法性(その2) 格子多角形 \(\alpha\) を分割線 \(P\) によって、2つの格子多角形 \(\beta\) と \(\gamma\) に分割したとする。もし \(\alpha\) と、分割された一方の \(\beta\) がピックの定理を満たすなら、もう一方の \(\gamma\) もピックの定理を満たす。 |
【証明】
格子多角形 \(\alpha\) について、定理の前提により、
\(\boldsymbol{S}_\alpha=\boldsymbol{I}_\alpha+\dfrac{1}{2}\boldsymbol{B}_\alpha-1\)
が成り立つ。また、格子多角形 \(\beta\) についても、
\(\boldsymbol{S}_\beta=\boldsymbol{I}_\beta+\dfrac{1}{2}\boldsymbol{B}_\beta-1\)
が成り立つ。格子多角形 \(\gamma\) については、
\(\boldsymbol{S}_\gamma=\boldsymbol{S}_\alpha-\boldsymbol{S}_\beta\)
\(\boldsymbol{I}_\gamma=\boldsymbol{I}_\alpha-\boldsymbol{I}_\beta-k\)
\(\boldsymbol{B}_\gamma=\boldsymbol{B}_\alpha-\boldsymbol{B}_\beta+2k+2\)
である。以上をもとに \(\boldsymbol{S}_\gamma\) を計算すると、
| \(\boldsymbol{S}_\gamma\) | \(=(\boldsymbol{I}_\alpha+\dfrac{1}{2}\boldsymbol{B}_\alpha-1)-(\boldsymbol{I}_\beta+\dfrac{1}{2}\boldsymbol{B}_\beta-1)\) | |
| \(=(\boldsymbol{I}_\alpha-\boldsymbol{I}_\beta)+\dfrac{1}{2}(\boldsymbol{B}_\alpha-\boldsymbol{B}_\alpha)\) | ||
| \(=\boldsymbol{I}_\gamma+k+\dfrac{1}{2}(\boldsymbol{B}_\gamma-2k-2)\) | ||
| \(=\boldsymbol{I}_\gamma+\dfrac{1}{2}\boldsymbol{B}_\gamma-1\) |
となり、格子3角形 \(\gamma\) においてもピックの定理が成り立つ。【証明終】
定理2、定理3、定理4、定理5 が証明されたので、あとは一気にピックの定理の証明まで行けます。
ピックの定理:格子3角形
定理6:格子3角形のピックの定理 格子3角形においてピックの定理が成り立つ。 |
【証明】
格子3角形が鋭角3角形の場合、それは、格子長方形から3つの分割線を用いて3つの格子直角3角形を "取り去った" ものである。
また、格子3角形が鈍角3角形の場合、それは、格子長方形から4つの分割線を用いて、一つの格子長方形と3つの格子直角3角形を "取り去った" ものである。
定理3より、格子長方形と格子直角3角形はピックの定理が成り立つ。従って、定理5(加法性:その2)によって格子3角形でもピックの定理が成り立つ。【証明終】
格子3角形 |
任意の格子3角形は、色で示した分割線によって、格子長方形から格子直角3角形、あるいは格子長方形を順々に取り去って作れる。従っ定理5(加法性:その2)によって、任意の格子3角形でもピックの定理が成り立つ。 |
ピックの定理
定理7:ピックの定理 格子多角形においてピックの定理が成り立つ。 |
【証明】
定理2により、\(n\)辺(\(n > 3\))の格子多角形は、\(n-3\) 個の弦によって \(n-2\) 個の3角形に分割される。これらの3角形は、頂点はすべて格子多角形の頂点なので格子3角形である。
定理6によって格子3角形(\(n=3\))はピックの定理が成り立っている。また、定義により弦は定理4(加法性:その1)で言う「分割線」の一種である。従って、定理4により、格子多角形(\(n > 3\))はピックの定理が成り立つ。
以上により、すべての格子多角形(\(n\geq3\))でピックの定理が成り立つ。【証明終】
再度、ピックの定理を示すと、
\(\boldsymbol{S}=\boldsymbol{I}+\dfrac{1}{2}\boldsymbol{B}-1\)
|
です。この定理の左辺 \(\boldsymbol{S}\)は、面積という連続値であるはずのもの(実数値か、有理数)です。一方、右辺に出てくる \(\boldsymbol{I}\) と \(\boldsymbol{B}\) は点の数という離散値(整数値。カウントできる値)です。連続値(であるはずのもの)と離散値がイコールで結ばれている。そこに意外性があるのでした。
1899年
ゲオルク・アレクサンデル・ピック(1859-1942)はオーストリアの数学者です。Wikipedia によると、ピックは、プラハのカレル大学(プラハ大学)にアインシュタインを数理物理学の教授として招聘した責任者だったとのことです。ユダヤ系の家系だったため、1942年、82歳のときに強制収容所に送られ、死亡しました。ナチスのホロコーストの犠牲者の一人です。
「ピックの定理」が論文に書かれたのは 1899年のことです。1899年といえば完全な "現代数学" の時代です。その時代に、高校までの数学で理解できる(中学生でも十分理解できる)定理が出されたことになり、これは極めて珍しいと思います。
高校までの数学の多くは、2000年以上前のギリシャ数学の時代のものです。高校の微分・積分になってようやく17世紀の数学が出てくる。
要するに2000年以上、ピックの定理に気づく数学者が誰もいなかったということです。そこにこの定理のユニークさがあるのでした。
| 基本格子3角形によるピックの定理の証明 |
ここからは、ピックの定理の別証明を書きます。今までの証明より長くなりますが、ピックの定理がなぜ成り立つのか、その原理が理解できる証明です。
| 基本格子3角形 |
まず、新たに「基本格子3角形」を定義します。
| 内部格子点が無く、境界格子点が3つの頂点だけの格子3角形 |
格子3角形は、その境界格子点と内部格子点を使って、基本格子3角形に分割できます。内部格子点がある格子3角形があったとすると、その内部格子点の一つから3角形の3つの頂点に線を引くと、格子3角形は3つに分割されます。この分割によって、全体の内部格子点は1個以上減ります(境界格子点は増えることがありうる)。この操作を続けていくと内部格子点がない格子3角形に分割できます。
その上で、頂点ではない "辺上の境界格子点" のある格子3角形があったとすると、その境界格子点の一つから辺の対角に線を引きます。すると、格子3角形は2つに分割され、頂点ではない境界格子点が一つ減ります。この操作を続けていくと「境界格子点は頂点だけで、内部格子点がない格子3角形」、つまり基本格子3角形だけに分割できます。
基本格子3角形に分割する操作 |
内部格子点の一つから3角形の3つの頂点に線を引くと、格子3角形は3つに分割され、この分割によって全体の内部格子点は 1以上減る。境界格子点は増えることがありうる(左)。内部格子点が無くなった段階で、辺上の境界格子点から辺の対角に線を引くと、格子3角形は2つに分割され、頂点ではない境界格子点が一つ減る(右)。 |
定理2により、多角形は頂点だけを使って3角形に分割できます。もちろん、格子多角形も格子3角形に分割できる。従って、次が成り立ちます。
定理8:基本格子3角形分割の存在 格子多角形は、境界格子点と内部格子点を使って基本格子3角形に分割できる。 |
基本格子3角形の例は、たとえば、
\((0,\:0),\:\:(1,\:0),\:\:(1,\:1)\)
の3角形で、\(\boldsymbol{S}=\dfrac{1}{2}\)、\(\boldsymbol{I}=0\)、\(\boldsymbol{B}=3\) なのでピックの定理が成り立っています。これを拡張して、
\((0,\:0),\:\:(1,\:0),\:\:(k,\:1)\) \((k\):整数)
の3角形も基本格子3角形で、面積は \(\dfrac{1}{2}\) であり、ピックの定理が成り立っている。もちろん、基本格子3角形はこれだけれはありません。
そこで、すべての基本格子3角形の面積が \(\boldsymbol{\dfrac{1}{2}}\) であることが言えれば、定理8(基本格子3角形分割の存在)と定理4(加法性:その1)があるので、任意の格子多角形でピックの定理が成り立ちます。以降、この考えでピックの定理を証明します。そのための準備として、2つの公式・定理を確認しておきます。
準備1:3角形の面積
x-y 平面において、原点 \((0,\:0)\) を \(O\) とし、点 \(A\) を \((a_x,\:a_y)\)、点 \(B\) を \((b_x,\:b_y)\) とするとき、\(\triangle OAB\) の面積は、
\(\triangle OAB\) の面積\(=\dfrac{1}{2}|a_xb_y-a_yb_x|\)
で計算できます。\((a_x,\:a_y)\)、\((b_x,\:b_y)\) はすべて実数値です。これは高校数学の範囲のはずなので証明はしませんが、以降、使います。証明するとしたら、ベクトル \((a_x,\:a_y)\) と \((b_x,\:b_y)\) の内積と、2つのベクトルのなす角度 \(\theta\) のコサイン値 \(\mathrm{cos}\theta\) の関係を使うのが妥当でしょう。
準備2:1次不定方程式の解の存在
整数係数の一次不定方程式、
\(ax+by=c\) (\(a,\:b,\:c\neq0)\)
は、\(c\) が \(\mathrm{gcd}(a,\:b)\) の倍数のときのみ整数解をもちます。これは、No.355「高校数学で理解するガロア理論(2)」の「不定方程式の解の存在」(21B)で、ユークリッドの互除法を使って証明しました。この定理から、
\(ax+by=1\) (\(a,\:b\neq0)\)
\((\textbf{B})\)
は、\(a\) と \(b\) が互いに素のときに整数解があります。この不定方程式の解の一つ(特殊解)を \((x_0,\:y_0)\) とすると、この解に、
\(ax+by=0\) (\(a,\:b\neq0)\)
\((\textbf{C})\)
を満たす \((x,\:y)\) を加算しても、\((\textbf{B})\) 式の解であることには変わりません。\((\textbf{C})\) 式を満たす \((x,\:y)\) は \((kb,\:-ka)\) (\(k\) は \(0\) を含む整数)です。つまり不定方程式の一般解 \((x_k,\:y_k)\) は、
\(x_k=x_0+kb\)
\(y_k=x_0-ka\)
(\(k\) は \(0\) を含む整数)
です。この一般解を以下の証明で使います。
以降、基本格子3角形の面積が \(\dfrac{1}{2}\) であることの証明を2つの方法で行います。「証明その1」では「不定方程式の解の存在定理」を使います。一方「証明その2」では使わずに、基本格子3角形の定義だけから証明を行います。「3角形の面積の公式」は両方で使います。
基本格子3角形の面積(証明その1)
証明したいのは次です。
定理9:基本格子3角形の面積 すべての基本格子3角形の面積は \(\dfrac{1}{2}\) である。 |
【証明】
格子3角形を x-y 平面上で平行移動したり、\(\pi/2\) の回転、\(x\) 軸や \(y\) 軸、\(y=x\) の直線や \(y=-x\) の直線で線対称変換をしても、その幾何学的性質は変わらない。従って、格子3角形の3頂点の座標を \((0,\:0)\)、\((a,\:b)\)、\((c,\:d)\) とし、\((a,\:b)\) は \(x\) 軸を含む第1象限にあるものとしてよい。格子3角形の面積は、
\(\dfrac{1}{2}|ad-bc|\)
である。この式から、すべての格子3角形の面積は \(\dfrac{1}{2}\) の整数倍であることがわかる。そこで、背理法を使って、基本格子3角形で面積が \(\dfrac{1}{2}\) でないものがあると仮定して矛盾を導く。
背理法の仮定
基本格子3角形に、面積が \(\dfrac{1}{2}\) でないものがある
面積が \(\dfrac{1}{2}\) でない基本格子3角形を \(\triangle OAB\) とし、
\(O\::\:(0,\:0)\)
\(A\::\:(a,\:b)\) \((a > 0,\:\:b\geq0)\)
\(B\::\:(c,\:d)\) \((B\neq O)\)
とする。\(\triangle OAB\) は鋭角3角形と鈍角3角形の両方を含む。さらに \(B\)点の位置について「\(\overrightarrow{OA}\) を反時計回りに \(\pi\) 未満の角度だけ回転させると \(\overrightarrow{OB}\) の方向と一致する」との条件を加える。これをベクトルの外積で表すと、2つのベクトル、
\(\overrightarrow{OA}=(a,\:b,\:0)\)
\(\overrightarrow{OB}=(c,\:d,\:0)\)
の外積は、
\(\overrightarrow{OA}\times\overrightarrow{OB}=(0,\:0,\:ad-bc)\)
であり、条件によってこのベクトルは右ネジの法則に従って \(z\) 軸の正方向を向いているから、
\(ad-bc > 0\)
である。従って \(\triangle OAB\) の面積は、
\(\dfrac{1}{2}(ad-bc)\)
となる。
まず、\(A\) 点が \(x\) 軸上にない(\(b\neq0\))として論を進める。
\(\triangle OAB\) は基本格子3角形なので、\(O,\:A,\:B\) 以外の境界格子点はなく、また内部格子点もない。背理法の仮定により、面積は \(\dfrac{1}{2}\) ではないので、\(1\) 以上である。また、境界格子点がないので、\(a\) と \(b\) は互いに素、つまり、\(\mathrm{gcd}(a,\:b)=1\) である。ここで、
\(\overrightarrow{OC}=\overrightarrow{OA}+\overrightarrow{OB}\)
である点 \(C\) を定めると、\(\triangle CBA\) は鏡映を含めて \(\triangle OAB\) と合同だから、\(\triangle CBA\) には \(C,\:B,\:A\) 以外の境界格子点がなく内部格子点もない。従って、平行四辺形 ▱\(OACB\) には \(O,\:A,\:C,\:B\) 以外の境界格子点がなく、内部格子点もない。また、その面積は \(\triangle OAB\) の面積の2倍なので、仮定により \(2\) 以上である。そこで、辺 \(OB\) 上に点 \(P\) を設け、\(P\) を通って辺 \(AB\) と平行な直線を引き、直線と辺 \(AC\) との交点を \(Q\) とする。
仮定により ▱\(OACB\) の面積は \(2\) 以上なので、直線 \(\mathrm{L}\) を、辺 \(AB\) と平行で ▱\(OAQP\) の面積がちょうど \(1\) になるように決められる。点 \(X\) は直線 \(\mathrm{L}\) 上の任意の点で、\(Y\) は \(\overrightarrow{OY}=\)\(\overrightarrow{OX}+\)\(\overrightarrow{OA}\) を満たす点である。そうすると、▱\(OAYX\) の面積も \(1\) になる。 |
この \(P\) の決め方であるが、▱\(OACB\) の面積は \(2\) 以上なので、▱\(OAQP\) の面積がちょうど \(1\) になるように \(P\) の位置を定めることができる。そのようにして作った直線を \(\mathrm{L}\) とする。そして、直線 \(\mathrm{L}\) 上に任意の点 \(X\:(x,\:y)\) をとる。さらに、
\(\overrightarrow{OY}=\overrightarrow{OX}+\overrightarrow{OA}\)
である点 \(Y\) を定める。そうすると、▱\(OAYX\) の面積も \(1\) であり、\(X\) の位置が直線 \(\mathrm{L}\) 上のどこにあっても、面積が \(1\) である。この ▱\(OAYX\) の面積は \(\triangle OAX\) の面積の2倍である。また、\(\overrightarrow{OA}\) を反時計回りに \(\pi\) 未満の角度だけ回転すると \(\overrightarrow{OX}\) の方向と一致させられるから、\(\triangle OAX\) の面積は \(\dfrac{1}{2}(ay-bx)\) である。従って、
\(2\cdot\dfrac{1}{2}(ay-bx)=1\)
\(ay-bx=1\)
\(ay-bx=1\)
が成り立つ。この式は、1次不定方程式 \(ax+by=1\) と同じ形をしており、\(\mathrm{gcd}(a,b)=1\) だから、\((x,\:y)\) には整数解がある。その整数解の一つを \((x_0,\:y_0)\) とすると、一般解は \((x_0,\:y_0)\) に \(ay-bx=0\) の整数解を加えたものだから、
\(x_k=x_0+ak\)
\(y_k=y_0+bk\)
\(y_k=y_0+bk\)
| \(k\) は \(0\) を含む整数) |
である。つまり、整数解 \((x_k,\:y_k)\) は直線 \(\mathrm{L}\) 上に等間隔で並んでおり、座標が整数なので格子点である。これら整数解=格子点の \(x\) 軸方向の間隔は \(a\)、\(y\) 軸方向の間隔は \(b\) であり、また \(\overrightarrow{PQ}=\) \(\overrightarrow{OA}=\) \((a,\:b)\) だから、線分\(PQ\) 上には少なくとも一つの格子点が存在することになる。
これは、▱\(OACB\) には \(O,\:A,\:C,\:B\) 以外の境界格子点がなく、内部格子点もないということと矛盾する。この矛盾をきたしたのは、基本格子3角形に面積 \(1\) 以上のものがあると仮定したことによる。
従って、\(\triangle OAB\) の面積が \(1\) 以上ということはなく、\(\triangle OAB\) の面積は \(\dfrac{1}{2}\) である。
点 \(A\) が \(x\) 軸上にある場合、\(A\) は \((a,\:0)\) であるが、\(a > 1\) だと、\(OA\)上に境界格子点があることになるので、\(a=1\) である。\(a=1,\:b=0\) として、上と同じ論考を進めると、直線 \(\mathrm{L}\) 上の任意の点は、
\(y=\pm1\)
を満たす(\(x\) は任意の値)。従って、\(\mathrm{L}\) 上の整数解は、
\(x_k=k\)
\(y_k=\pm1\)
\(y_k=\pm1\)
| \(k\) は整数) |
であり、これらは格子点である。つまり、格子点が直線 \(\mathrm{L}\) 上に間隔 \(1\) で並んでおり、線分\(PQ\) 上のどこかに格子点が存在することになる。これは、▱\(OACB\) には \(O,\:A,\:C,\:B\) 以外の境界格子点がなく、内部格子点もないということと矛盾する。
従って、\(A=(1,\:0)\) の場合も、基本格子3角形の面積は \(\dfrac{1}{2}\) である。この場合、点 \(B\) は \(y=\pm1\) の直線上の格子点のどれかである。【証明終】
この証明は「不定方程式の解の存在定理」を使い、また背理法による証明です。しかし、この2つともを使わずに、基本格子3角形の性質だけを使って証明することも可能です。それが次です。
基本格子3角形の面積(証明その2)
証明したいことを再掲します。
定理9:基本格子3角形の面積 すべての基本格子3角形の面積は \(\dfrac{1}{2}\) である。 |
【証明】
基本格子3角形が直角3角形の場合、直角である頂点が原点 \(O\) で、\(x\) 軸上に頂点 \(A\)、\(y\) 軸上に頂点 \(B\) があるとすると、基本格子3角形の定義により、辺 \(OA\)、辺 \(OB\) 上には頂点以外の格子点が無いのだから、\(A=(1,\:0)\)、\(B=(0,\:1)\) である。つまり面積は \(\dfrac{1}{2}\) である。
そこで以降は、基本格子3角形が鈍角3角形(一つの内角が \(\pi\) より真に大)であるとして話を進める。
鈍角3角形では、最長の辺を対角線とする長方形を必ず作れる。そこで、原点を \(O\) とし、第1象限に鈍角3角形である基本格子3角形 \(\triangle OEB\) を図のようにとる。最長の辺を \(OB\) とし、\(OB\) を対角線とする格子長方形を ▱\(OABF\) とする。このような配置で一般性を失うことはない。
\(\triangle OEB\)は基本格子3角形とする。\(\triangle OEB\)の内部に格子点は無く、また線分\(OE\)、\(EB\)、\(BO\) の上にも両端を除いて格子点は無い。 |
以下、\(L(\:)\) という記号を用いる(\(L\):lattice 格子)。この定義は
\(\boldsymbol{L(XY)}\)
辺 \(XY\) 上の格子点の数。両端点を含む。
\(\boldsymbol{L(XYZ)}\)三角形 \(XYZ\) の格子点の数。境界格子点と内部格子点を含む。
\(\boldsymbol{L(XYZW)}\)四辺形 \(XYZW\) の格子点の数。境界格子点と内部格子点を含む。
である。以下、格子直角三角形 \(\triangle OAB\) の格子点 \(L(OAB)\) を、2通りの方法で計算する。
\(L(OAB)\) の計算:その1
\(\triangle OEB\) は基本格子3角形だから、辺\(\boldsymbol{OB}\) 上の格子点は点 \(\boldsymbol{O}\) と 点 \(\boldsymbol{B}\) だけである。従って、\(L(OAB)\) は \(L(OABF)\) の半分に \(1\) をプラスしたものである。
\(L(OAB)=\dfrac{1}{2}L(OABF)+1\)
\(L(OABF)\) は、
\(L(OABF)=(a+1)(b+1)\)
であるから、
\(L(OAB)=\dfrac{1}{2}(a+1)(b+1)+1\)
となる。
\(L(OAB)\) の計算:その2
\(\triangle OEB\) が基本格子3角形なので、\(L(OAB)\) は \(L(OABE)\) に等しい。▱\(OABE\) は2つの格子直角三角形と格子長方形から成るので、これを用いて \(L(OABE)\) を計算できる。 |
\(\triangle OEB\) は基本格子3角形だから、辺\(OB\) 上の格子点は点 \(O\) と 点 \(B\) だけであると同時に、\(\boldsymbol{\triangle OEB}\) に内部格子点はない。従って、
\(L(OAB)=L(OABE)\)
である。つまり、\(L(OAB)\) を求めるには \(L(OABE)\) を計算すればよい。▱\(OABE\) は、斜辺上に格子点がない2つの格子直角三角形 \(\triangle OCE\)、\(\triangle DBE\)、および ▱\(CADE\) で作られているから、
\(L(OABE)\)
| \(=\) | \(L(OCE)+L(DBE)+L(CADE)\) | |
| \(-L(CE)-L(DE)\) |
である。\(-L(CE)-L(DE)\) はダブルカウントした部分を引く意味である。この式の各項は次のように計算できる。
| \(L(OCE)\) | \(=\dfrac{1}{2}(c+1)(d+1)+1\) | |
| \(L(DBE)\) | \(=\dfrac{1}{2}(a-c+1)(b-d+1)+1\) | |
| \(L(CADE)\) | \(=(a-c+1)(d+1)\) | |
| \(L(CE)\) | \(=d+1\) | |
| \(L(DE)\) | \(=a-c+1\) |
この \(L(OCE)\) と \(L(DBE)\) の計算式は、辺 \(\boldsymbol{OE}\) と 辺 \(\boldsymbol{EB}\) 上には頂点以外の格子点がないことを前提としている。これで \(\boldsymbol{\triangle OEB}\) が基本格子3角形であることのすべての条件を使ったことになる。以上を用いて計算し、整理すると、
\(L(OABE)\)
\(=\dfrac{1}{2}(a+1)(b+1)+\dfrac{1}{2}(ad-bc)+\dfrac{3}{2}\)
が得られる。これは \(L(OAB)\) に等しいはずである。
2通りの方法で計算した \(L(OAB)\) は等しいので、
\(\dfrac{1}{2}(a+1)(b+1)+1\)
\(=\dfrac{1}{2}(a+1)(b+1)+\dfrac{1}{2}(ad-bc)+\dfrac{3}{2}\)
\(\dfrac{1}{2}(bc-ad)=\dfrac{1}{2}\)
この式の左辺は、\((0,\:0)\)、\((c,\:d)\)、\((a,\:b)\) を反時計回りの頂点とする3角形の面積であり、\(\triangle OEB\)の面積である。つまり、
\(\triangle OEB\)の面積\(=\dfrac{1}{2}\)
である。従って、基本格子3角形の面積は \(\dfrac{1}{2}\) である。【証明終】
不定方程式と基本格子3角形
基本格子3角形の面積(証明その1)では、「不定方程式の解の存在」の定理を用いて基本格子3角形の面積が \(\dfrac{1}{2}\) であることを証明しました。実はこの逆である、
任意の基本格子3角形の面積が \(\dfrac{1}{2}\) であれば、\(\mathrm{gcd}(a,\:b)=1\) である 整数 \(a,\:b\:\:(a,\:b\neq0)\)を係数とする2変数の1次不定方程式、 \(ax+by=1\) は整数解をもつ。 |
も言えます。格子多角形は整数の方程式と関係が深いので、これが成り立ちます。その証明をします。
【証明】
まず、\(a,\:b\) が自然数で \(\mathrm{gcd}(a,\:b)=1\) の場合を考える。原点を \(0=(0,\:0)\) とし、\(A\) 点を第1象限の \(A=(a,\:b)\) とする。\(\mathrm{gcd}(a,\:b)=1\) だから線分\(OA\) 上には両端を除いて格子点は無く、従って \(OA\) を基本格子3角形の一つの辺とすることができる。
線分\(OA\) を含む直線を \(\boldsymbol{y}\) 軸の正の方向に平行移動させ、最初に格子点とぶつかったところで止めて、その直線を \(\mathrm{L}\) とする。かつ、直線 \(\mathrm{L}\) 上の格子点で第1象限にあるものの一つを \(B(x_0,\:y_0)\:\:(x_0,\:y_0\):整数\()\)とする。
\(\mathrm{L}\) の作り方から、線分\(OA\) を含む直線と 直線 \(\mathrm{L}\) に挟まれた内部の領域には格子点が無い。つまり、線分\(OC\) や線分\(AB\) 上には両端を除いて格子点が無く、\(\triangle OAB\) の内部にも格子点が無い。従って \(\triangle OAB\) は基本格子3角形であり、仮定によって面積は \(\dfrac{1}{2}\) である。そうすると、3角形の面積の公式により、
\(\dfrac{1}{2}|ay_0-bx_0|=\dfrac{1}{2}\)
\(|ay_0-bx_0|=1\)
が成り立つ。ここで、\(B=(x_0,\:y_0)\) は第1象限にあり、また、点 \(B\) の決め方から線分 \(OB\) の傾きは線分 \(OA\) より大だから、
\(\dfrac{y_0}{x_0} > \dfrac{b}{a}\)
である。従って、
\(ay_0 > bx_0\)
であり、ということは、
\(ay_0-bx_0=1\)
である。つまり、不定方程式、
\(ax+by=1\)
は、\(x=y_0,\:\:y=-x_0\) の整数解をもつことが分かった。
ここまでは \(a,\:b\) が自然数であったが、もし、\(a\) が負の整数であれば、\(a\,'=-a\) とおいて \(x=-X\) の変数変換をし、\(b\) が負の整数であれば、\(b\,'=-b\) とおいて \(y=-Y\) の変数変換をすれば、不定方程式は、
\(a\,'X+b\,'Y=1\) (\(a\,',\:b\,'\) は自然数)
の形に書き直せる。この方程式には上の論証により \((X,\:Y)\) の整数の解があるから、\((x,\:y)\) の整数解もある。以上により、\(\mathrm{gcd}(a,\:b)=1\) のとき(\(a,\:b\neq0\))\(ax+by=1\) は整数解をもつ【証明終】
基本格子3角形に関するここまでの話でわかることは、
| 基本格子3角形の面積が \(\dfrac{1}{2}\) である | |
| \(\mathrm{gcd}(a,\:b)=1\) のときに \(ax+by=1\) が整数解をもつ |
の2つは、一見、幾何と代数の別の話に見えるが、実は同じことなのです。「基本格子3角形の面積(証明その2)」では、不定方程式を持ち出さずに、基本格子3角形の定義だけから、その面積が \(\dfrac{1}{2}\) であることを証明しました。それはすなわち、「\(\mathrm{gcd}(a,\:b)=1\) のときに \(ax+by=1\) が整数解をもつ」ことをユークリッドの互除法を使わずに証明したことになるのでした。
ピックの定理:基本格子3角形による証明
以上で、すべての基本格子3角形の面積は \(\boldsymbol{\dfrac{1}{2}}\) であることがわかったので、これを使ってピックの定理が証明できます。
定理7:ピックの定理 格子多角形においてピックの定理が成り立つ。 |
【証明】
定理8(基本格子3角形分割の存在)により、格子多角形は基本格子3角形に分割できる。定理9(基本格子3角形の面積)により、すべての基本格子3角形の面積は \(\dfrac{1}{2}\) である。そうすると、
\(\boldsymbol{S}=\dfrac{1}{2}\)
\(\boldsymbol{I}=0\)
\(\boldsymbol{B}=3\)
なので、基本格子3角形はピックの定理、
\(\boldsymbol{S}=\boldsymbol{I}+\dfrac{1}{2}\boldsymbol{B}-1\)
を満たしている。定理4によりピックの定理には加法性があるから、基本格子3角形の集合体で表現できる格子多角形でもピックの定理が成り立つ。【証明終】
一つの基本格子3角形から始まって、基本格子3角形を次々と追加していき、最終的に目的の格子多角形に至るプロセスを考えてみます。最初は基本格子3角形が一つなので、
\(\boldsymbol{S}=\dfrac{1}{2}\)
\(\boldsymbol{B}=3\)
\(\boldsymbol{S}=\dfrac{1}{2}\boldsymbol{B}-1\)
です。この式に \(-1\) の項が出てきます。
何個かの基本格子3角形の集合体があったとき、そこに新たな基本格子3角形を追加するには、まず、頂点を一つ追加し、それと既存の頂点2つを結ぶ方法があります。この操作では、
\((\boldsymbol{S}\)の増加\()=\dfrac{1}{2}\)
\((\boldsymbol{B}\)の増加\()=1\)
であり、
\((\boldsymbol{S}\)の増加\()=\dfrac{1}{2}(\boldsymbol{B}\)の増加\()\)
の関係があります。\(\boldsymbol{I}\) は変化しません。さらに別の追加の方法があって、それは既存の頂点2つを結ぶことで基本格子3角形を一つ増やす方法です。これによって、一つの境界格子点が内部格子点に変化します。つまり、この操作では、
| \((\boldsymbol{S}\)の増加\()\) | \(=\dfrac{1}{2}\) | |
| \((\boldsymbol{B}\)の増加\()\) | \(=-1\) | |
| \((\boldsymbol{I}\)の増加\()\) | \(=1\) |
であり、
\((\boldsymbol{S}\)の増加\()=(\boldsymbol{I}\)の増加\()+\dfrac{1}{2}(\boldsymbol{B}\)の増加\()\)
です。結局、基本格子3角形を追加していく過程において、
\(\boldsymbol{S}=\boldsymbol{I}+\dfrac{1}{2}\boldsymbol{B}\)
という関係が常に保たれています。ただし、初期状態の基本格子3角形が1個だけのときの \(\boldsymbol{-1}\) は最後まで残る。これが、基本格子3角形の視点からの、ピックの定理の意味でした。
| ファレイ数列 |
ここから、ピックの定理と基本格子3角形に関係が深い「ファレイ数列」について書きます。ファレイ数列(Farey sequence)とは、
\(\boldsymbol{0}\) 以上 \(\boldsymbol{1}\) 以下の既約分数で、分母が \(\boldsymbol{n}\) 以下のものを小さい順に並べたもの |
です。\(n\) が数列の次数(order)で、以降、\(n\)次のファレイ数列を \(F_n\) と書くことにします。また、数列の長さを \(|F_n|\) と書きます。なお、\(0\) を示す \(\dfrac{0}{1}\) と、\(1\) を示す \(\dfrac{1}{1}\) は既約分数とは言いませんが、数列の最初と最後に含めます。例をあげると、
\(F_2=\left(\dfrac{0}{1},\:\dfrac{1}{2},\:\dfrac{1}{1}\right)\)
\(|F_2|=3\)
\(F_3=\left(\dfrac{0}{1},\:\dfrac{1}{3},\:\dfrac{1}{2},\:\dfrac{2}{3},\:\dfrac{1}{1}\right)\)
\(|F_3|=5\)
\(F_4=\left(\dfrac{0}{1},\:\dfrac{1}{4},\:\dfrac{1}{3},\:\dfrac{1}{2},\:\dfrac{2}{3},\:\dfrac{3}{4},\:\dfrac{1}{1}\right)\)
\(|F_4|=7\)
\(F_5=\left(\dfrac{0}{1},\dfrac{1}{5},\dfrac{1}{4},\dfrac{1}{3},\dfrac{2}{5},\dfrac{1}{2},\dfrac{3}{5},\dfrac{2}{3},\dfrac{3}{4},\dfrac{4}{5},\dfrac{1}{1}\right)\)
\(|F_5|=11\)
です。\(n\)次ファレイ数列 \(F_n\) の一般項を、
\(\dfrac{q_k}{p_k}\:\:(1\leq k\leq|F_n|)\)
とし、この数列を x-y 平面上に描くことを考えます。そのため、\(\dfrac{q_k}{p_k}\) から 格子点 \((p_k,\:q_k)\) を作り、それを数列の順に結んだ折れ線を「ファレイ線」と呼ぶことにし、\(P_n\) で表します。\(P_n\) の始点は \((1,\:0)\) で、終点は \((1,\:1)\) です。\(F_6\) から作ったファレイ線 \(P_6\) が次です。
6次のファレイ線 \(P_6\) (Wikipedia より) |
実は、ファレイ線 \(P_n\) は、ファレイ数列を全く持ち出さなくても定義できます。つまり、
\(0\leq x\leq n,\:0\leq y\leq x\) の範囲の格子点で、原点から "見える" 格子点を、\((1,\:0)\) の方向から始まって、順に反時計回りに \((1,\:1)\) の方向まで結んだ折れ線 |
が、ファレイ線 \(P_n\) です。ここでの "見える" の意味ですが、いま、格子点 \(A\) があったとき、
| 原点と \(A\) を結ぶ直線上に他の格子点が無ければ「\(A\) は見える」 | |
| 原点と \(A\) を結ぶ直線上に他の格子点があれば 「\(A\) は見えない」 |
と定義します。"原点から見える/見えない" の意味です。\(P_6\) の例で言うと、\(x=6\) の格子点 \((0\leq y\leq6)\) のうち、\((6,\:0)\) は \((1,\:0)\) にさえぎられて" "見えません"。\((6,\:1)\) は "見えます"。\((6,\:2)\) は \((3,\:1)\) にさえぎられて見えず、\((6,\:3)\) は \((2,\:1)\) にさえぎられて見えない。\((6,\:4)\) も \((3,\:2)\) にさえぎられて見えません。\((6,\:5)\) は見えます。\((6,\:6)\) はさえぎるものが一杯あって見えない。
\(1\) 以上、\(n\) 以下で、\(n\) と互いに素な(=最大公約数が \(1\) の)自然数の個数を \(\varphi(n)\) で表し、オイラー関数と呼びます(「高校数学で理解する・・・」シリーズで何回も出てきました)。\(x=6\) の格子点 \((0\leq y\leq6)\) のうち、原点から見えるのは \(\varphi(6)=2\) 点です。これが ファレイ線 \(P_6\) の \(x=6\) である格子点の数です。
ファレイ数列の一般項、\(\dfrac{q_k}{p_k}\) は既約分数なので、\(\mathrm{gcd}(p_k,\:q_k)=1\) です。従って、原点から \((p_k,\:q_k)\) に直線を引くと、その直線上に格子点はありません(=\((p_k,\:q_k)\) が見える)。格子直角3角形がピックの定理を満たす証明で、\(\mathrm{gcd}(a,\:b)=1\) なら \((a,\:0)\) と \((0,\:b)\) を結ぶ直線上に格子点はないことを書きましたが、それと同じ原理です。
さらに、\(x=5\) だと、\(5\) は素数なので \(\varphi(5)=4\) 点が見えます。\(x=4\) だと、\(\varphi(4)=2\) 点が見える・・・というように続いていって、結局、\(P_6\) の格子点の数(\(=|F_6|\))は、
| \(|F_6|\) | \(=\) | \(\varphi(1)+\varphi(2)+\varphi(3)+\) | |
| \(\varphi(4)+\varphi(5)+\varphi(6)+1\) | |||
| \(=\) | \(1+1+2+2+4+2+1\) | ||
| \(=\) | \(13\) |
です。\(\varphi(1)=1\) は格子点 \((1,\:1)\) のカウントです。式の最後の \(1\) は、オイラー関数ではカウントできていない \((1,\:0)\) を表します。これを一般化すると、
\(|F_n|=\displaystyle\sum_{k=1}^{n}\varphi(k)+1\)
となります。ファレイ線の作り方を視点を変えて表現すると、
原点から見える格子点は、すべてファレイ線上の格子点である
となります。ということは、
ファレイ線の終点と始点を結んで多角形を作ったとしたとき、その多角形の領域内部に格子点はない
わけです。このことが次の論証のポイントです。
この \(P_6\) を \(y=x\) の直線で線対称に折り返し、全体を統合すると、\((1,\:0)\) から \((0,\:1)\) に至る第1象限の折れ線になります。さらにそれを反時計回りに 90° 回転を3回繰り返すと、第2象限から第4象限へと折れ線が伸びていって、最後には第1象限と繋がり、全体として大きな多角形になります。この多角形を \(S_6\) と名付けます。\(S_6\) を描いたのが次図です。
ファレイの太陽光線(\(S_6\)) |
Farey sunburst (Wikipedia より) |
この多角形(一般には \(F_n\) を元にして描いた多角形 \(S_n)\) を「ファレイの太陽光線」と呼んでいます。英語で Farey sunburst です。sunburst とは、太陽が雲間から顔を出したようなときに、太陽光線が放射状の爆発(burst)のように感じる姿を言います。ピッタリの訳が見つからないので「太陽光線」としておきます。
\(S_6\) の面積はどうなるでしょうか。この面積計算にピックの定理が適用できます。頂点を含む辺上の格子点(境界格子点)をカウントすると、\(P_6\) の格子点が 13 個で、\(S_6\) はそれを 8 個結合したものであり、結合するときに重なる 8 個を差し引いて、13×8-8=96 個です。一方、内部格子点の数は、原点からは格子点が見えないので、原点だけの 1 個です。そこで、
\(\boldsymbol{I}=1\)
\(\boldsymbol{B}=96\)
としてピックの定理を適用すると、\(S_6\) の面積 \(\boldsymbol{S}\) は、
| \(\boldsymbol{S}\) | \(=\boldsymbol{I}+\dfrac{1}{2}\boldsymbol{B}-1\) | |
| \(=48\) |
と求まりました。これを一般化すると、「\(n\)次のファレイの太陽光線」の面積 \(S_n\) は、
\(S_n=4(|F_n|-1)\)
であり、\(|F_n|\) は、前述のようにオイラー関数の和で計算できます。\(S_n\) は \(n\) が大きくなると複雑な形になりますが、それでも面積はピックの定理によって容易に求まります。
さらに「ファレイの太陽光線」の面積は、ピックの定理の別証明に使った「基本格子3角形」からも説明できます。そのことをファレイ線に戻って考察します。
6次のファレイ線 \(P_6\) の格子点を \(R_i=(p_i,\:q_i)\:\:(1\leq i\leq13)\) とし \(R_i\) と原点 \((0,\:0)\) を結ぶ線を \(13\)本引きます。そうすると格子3角形が \(12\)個できますが、この格子3角形はすべて基本格子3角形です。なぜなら、原点からファレイ線までの間に見える格子点は無いので、\(12\)個の格子3角形には頂点以外の境界格子点も内部格子点も無いからです。
ファレイ線 \(P_6\) が作る基本格子3角形 |
\(P_6\) の \(13\)点から原点に線分を引くと、\(12\)個の格子3角形ができる。これらはすべて基本格子3角形で、それぞれの面積は \(1/2\) である。\(12\)個の合計面積は \(6\) であり、この \(8\)倍が「ファレイの太陽光線」の面積 \(48\) である。 |
ということは、定理9より基本格子3角形の面積は \(\dfrac{1}{2}\) なので、\(12\)個の格子3角形の面積は \(\dfrac{1}{2}\cdot12\) であり、「ファレイの太陽光線」の面積は、
| \(S_6\) | \(=\dfrac{1}{2}\cdot12\cdot8\) | |
| \(=48\) |
です。これを一般化すると、「\(n\)次のファレイの太陽光線」の面積は、
| \(S_n\) | \(=\dfrac{1}{2}\cdot(|F_n|-1)\cdot8\) | |
| \(=4(|F_n|-1)\) |
と求まります。さらに、\(P_6\) から作った一つ一つの基本格子3角形の面積について考えてみると、
\(\triangle OR_iR_{i+1}\) の面積が \(\dfrac{1}{2}\)
ということです(\(P_6\) の場合は、\(1\leq i\leq12\))。ファレイ数列の一般項を \(\dfrac{q_i}{p_i}\) とすると、
| \(R_i\) | \(=(p_i,\:q_i)\) | |
| \(R_{i+1}\) | \(=(p_{i+1},\:q_{i+1})\) |
なので、3角形の面積の公式を使うと
\(\dfrac{1}{2}|p_iq_{i+1}-p_{i+1}q_i|=\dfrac{1}{2}\)
が成り立ち、ここから
\(p_iq_{i+1}-p_{i+1}q_i=\pm1\)
となります。ファレイ数列に立ち返ると、ファレイ数列 \(F_n\) の定義から、
\(\dfrac{q_i}{p_i} < \dfrac{q_{i+1}}{p_{i+1}}\)
なので、
\(p_iq_{i+1} > p_{i+1}q_i\)
であり、ということは、
\(p_iq_{i+1}-p_{i+1}q_i=1\)
です。まとめると、ファレイ数列について次の定理が成り立ちます。
定理10:ファレイ数列の2項の関係 ファレイ数列 \(F_n\) の2つ並んだ項を \(\dfrac{q_i}{p_i}\)、\(\dfrac{q_{i+1}}{p_{i+1}}\) \((1\leq i\leq|F_n|-1)\) とすると、 \(p_iq_{i+1}-p_{i+1}q_i=1\) が成り立つ。 |
実際、\(F_6\) のファレイ数列、
\(\left(\dfrac{0}{1},\dfrac{1}{6},\dfrac{1}{5},\dfrac{1}{4},\dfrac{1}{3},\dfrac{2}{5},\dfrac{1}{2},\dfrac{3}{5},\dfrac{2}{3},\dfrac{3}{4},\dfrac{4}{5},\dfrac{5}{6},\dfrac{1}{1}\right)\)
で確認をしてみると、隣り合う2項のすべてで定理10が成り立っています。ファレイ数列の定義は「\(0\) 以上 \(1\) 以下の既約分数で、分母が \(n\) 以下のものを小さい順に並べたもの」でした。この定義から、定理10のシンプルな関係が \(n\) の値に関わらず成り立ちます。これは、ファレイ数列は既約分数なので、隣り合う2項から x-y 平面上の基本格子3角形を作れることの必然的な結果なのです。
以上をまとめると、ファレイ数列は基本格子3角形を介してピックの定理とつながっているのでした。