一般の5次方程式の可解性をどう判断するのか | |
5次方程式のガロア群の求め方 |
を書きます。もちろんこれは、「高校数学で理解するガロア理論」シリーズの一部であり、前に書いた以下の記事の知識を前提とします。
No.354 - 高校数学で理解するガロア理論(1)証明の枠組み
No.355 - 高校数学で理解するガロア理論(2)整数の群・多項式・体
No.356 - 高校数学で理解するガロア理論(3)線形空間・群・ガロア群
No.357 - 高校数学で理解するガロア理論(4)可解性の必要条件
No.358 - 高校数学で理解するガロア理論(5)可解性の十分条件
No.359 - 高校数学で理解するガロア理論(6)可解な5次方程式・定理一覧
5次方程式の可解性とガロア群の判定
No.359 で、可解な5次方程式 \(x^5-2=0\) のガロア群が、位数 \(20\) のフロベニウス群 \(F_{20}\) であることを確認しました。一般に5次方程式のガロア群は、
\(S_5\) | :5次対称群 | (位数 \(120\)) | |
\(A_5\) | :5次交代群 | (位数 \(60\)) | |
\(F_{20}\) | :フロベニウス群 | (位数 \(20\)) | |
\(D_{10}\) | :5次2面体群 | (位数 \(10\)) | |
\(C_5\) | :5次巡回群 | (位数 \(5\)) |
の5種しかないことが知られています。このうち、
\(F_{20}\)、\(D_{10}\)、\(C_5\)
が可解群です(\(D_{10}\) は \(D_5\) と書く流儀もある)。\(S_5\) と \(A_5\) が可解でないことは「対称群の可解性」(65G)で証明しました。これらの群の、集合としての包括関係は、
\(S_5\:\supset\:A_5\) | \(\supset\:D_{10}\:\supset\:C_5\) | |
\(S_5\:\supset\:F_{20}\) | \(\supset\:D_{10}\:\supset\:C_5\) |
です。\(F_{20}\)(下図)は奇置換と偶置換の両方を含むので、\(A_5\) の部分集合ではありあません。
![]() |
フロベニウス群 \(\boldsymbol{F_{20}}\) |
ガロア群 \(F_{20}\) の \(20\)個の元を、4つの5角形の頂点に配置した図。\((1,2,3,4,5)\) などはガロア群を構成する巡回置換を表す。また \(23451\) などは、その巡回置換によって \(12345\) を置換した結果を表す(白ヌキ数字は置換で不動の点)。この群の生成元は、色を付けた \((1,2,3,4,5)\) と \((2,3,5,4)\) である。一般にフロベニウス群とは、不動の点が無いか、あるいは不動の点が1個である置換(不動の点が高々1個である置換)と、恒等置換から成る群である。 |
そこで問題になるのは、ある5次方程式があったとき可解かどうか、ないしはガロア群が何かを判定する方法です。この判定のアルゴリズムを以下に書きます。それには「剰余類」と「共役群」の知識が必要なので、まずそれについて書きます。以降の内容は次の2つの文献を参考にしました。
文献1
Alexander D. Healy :
"Resultants, Resolvents and the Computation of Galois Groups"
文献2
D. S. Dummit :
"Solving Solvable Quintics"
剰余類 |
剰余類については No.356 の「4.一般の群」で書きましたが(41E)、改めて復習します。群 \(G\) の部分群を \(H\) とし、群 \(G\) の全ての元、
\(g_1=e,\:g_2,\:g_3,\:\cdots\:,g_n\:\:(n=|G|)\)
を \(H\) に群演算した \(n\) 個の集合、
\(g_1H,\:g_2H,\:\cdots\:,\:g_nH\)
を考えます(ここでは左から掛けるとしますが、右からでも同じ議論になります)。これらの任意の2つの集合 \(g_iH\) と \(g_jH\:(i\neq j)\) を比較すると、
\(g_iH\) と \(g_jH\) は全く同じ集合(全ての元が同じ) | |
\(g_iH\) と \(g_jH\) は全く違う集合(同じ元はない) |
のどちらかになります。なぜなら、もし \(g_1H\) と \(g_2H\) に同じ元があるとして、それが \(g_1H\) では \(g_1h_i\)、\(g_2H\) では \(g_2h_j\) と表されているとします。
\(g_1h_i=g_2h_j\)
です。これに左から \(g_2^{-1}\)、右から \(h_i^{-1}\) を掛けると、
\(g_2^{-1}g_1=h_jh_i^{-1}\:\in\:H\)
\(g_2^{-1}g_1\:\in\:H\)
となります。一般に \(h\in H\) と \(hH=H\) は同値なので(41C)、
\(g_2^{-1}g_1H=H\)
が得られますが、これに左から \(g_2\) を掛けると、
\(g_1H=g_2H\)
となります。従って、
\(g_1H\) と \(g_2H\) に一つでも同じ元があれば全体が同じ(\(g_1H=g_2H\)) |
になります。このことの対偶は
\(g_1H\) と \(g_2H\) が違えば(=一つでも違う元があれば)\(g_1H\) と \(g_2H\) に同じ元は全く無い(\(g_1H\cap g_2H=\phi\)) |
です。\(g_1H\) と \(g_2H\) の選択は任意なので、2つの剰余類について「全く同じか、全く違う」が成り立ちます。そこで、集合として同じものを一つにまとめてしまいます。その結果として \(d\) 個の集合ができたとして、
\(g_iH\:\:(1\leq i\leq d)\)
を「剰余類」と呼び、\(G/H\) で表します。\(g_i\) の選び方には自由度がありますが、どれかを採用して \(g_i\) を代表元と言います。この結果、
\(G=g_1H\:\cup\:g_2H\:\cup\:\cdots\cup\:g_dH\)
\(g_iH\cap g_jH=\phi\:\:(i\neq j)\)
\(|G|=d|H|\)
となり、\(G\) が \(H\) による剰余類で "分割" できたことになります。この分割は、\(g_1=e\) として、\(H\) に含まれない \(G\) の元を \(g_2\) とし、\(g_1H\) と \(g_2H\) に含まれない \(G\) の元を \(g_3\) とし・・・というように \(G\) の元が尽きるまで続ける、と考えても同じです。
\(G=S_5\)、\(H=F_{20}\) の例で考えます。\(F_{20}\) の生成元は、巡回置換で表して、
\((1,\:2,\:3,\:4,\:5),\:(2,\:3,\:5,\:4)\)
とします。\(|S_5|/|F_{20}|=6\) なので、\(S_5\) は 部分群 \(F_{20}\) によって6つの剰余類 \(S_5/F_{20}\) に分割されます。その代表元を \(g_1,\) \(g_2,\) \(g_3,\) \(g_4,\) \(g_5,\) \(g_6\) とします。実際に計算してみると、たとえば代表元として、
\(g_1=e\)
\(g_2=(1,\:2,\:3)\)
\(g_3=(1,\:3,\:2)\)
\(g_4=(1,\:2)\)
\(g_5=(1,\:3)\)
\(g_6=(2,\:3)\)
とすることができます。以降、\(S_5/F_{20}\) を問題にするときには、この代表元を使って計算します。もちろん代表元の選び方には自由度があって、たとえば \(e,\) \((1,\:2),\) \((1,\:3),\) \((1,\:4),\) \((1,\:5),\) \((2,\:5)\) と選ぶこともできます。
さらに計算してみると、6つの剰余類 \(S_5/F_{20}\) には次の性質があることがわかります。つまり、\(\sigma\) を、
\(\sigma=(1,\:2,\:3,\:4,\:5)\in H\)
の巡回置換とすると、
\(\sigma\:g_1H=g_1H\)
\(\sigma\:g_2H=g_5H\)
\(\sigma\:g_3H=g_4H\)
\(\sigma\:g_4H=g_6H\)
\(\sigma\:g_5H=g_3H\)
\(\sigma\:g_6H=g_2H\)
が成り立ちます。これが成り立つことは、たとえば、
\(\begin{eqnarray}
&&\:\:g_5^{-1}\sigma\:g_2&=(1,\:3)(1,\:2,\:3,\:4,\:5)(1,\:2)\\
&&&=(2,\:4,\:5,\:3)\in H\\
&&&\longrightarrow\:g_5^{-1}\sigma\:g_2H=H\\
&&&\longrightarrow\:\sigma\:g_2H=g_5H\\
\end{eqnarray}\)
と確認できます。同様にして、
\(\begin{eqnarray}
&&\:\:g_4^{-1}\sigma\:g_3&=(1,\:2)(1,\:2,\:3,\:4,\:5)(1,\:3,\:2)\\
&&&=(1,\:4,\:5,\:2)\in H\\
&&&\longrightarrow\:\sigma\:g_3H=g_4H\\
\end{eqnarray}\)
\(\begin{eqnarray}
&&\:\:g_6^{-1}\sigma\:g_4&=(2,\:3)(1,\:2,\:3,\:4,\:5)(1,\:2)\\
&&&=(1,\:2,\:3,\:4,\:5)\in H\\
&&&\longrightarrow\:\sigma\:g_4H=g_6H\\
\end{eqnarray}\)
\(\begin{eqnarray}
&&\:\:g_3^{-1}\sigma\:g_5&=(1,\:3,\:2)^{-1}(1,\:2,\:3,\:4,\:5)(1,\:3)\\
&&&=(1,\:2,\:3)(1,\:2,\:3,\:4,\:5)(1,\:3)\\
&&&=(1,\:4,\:5,\:2)\in H\\
&&&\longrightarrow\:\sigma\:g_5H=g_3H\\
\end{eqnarray}\)
\(\begin{eqnarray}
&&\:\:g_2^{-1}\sigma\:g_6&=(1,\:2,\:3)^{-1}(1,\:2,\:3,\:4,\:5)(2,\:3)\\
&&&=(1,\:3,\:2)(1,\:2,\:3,\:4,\:5)(2,\:3)\\
&&&=(2,\:4,\:5,\:3)\in H\\
&&&\longrightarrow\:\sigma\:g_6H=g_2H\\
\end{eqnarray}\)
であり、上の式が成り立つことが確認できます。つまり、\(g_1H\:(=H)\) だけは \(\sigma\) を作用させても不変ですが、その他の剰余類に \(\sigma\) を作用させると、順に、
\(g_2H\:\)\(\overset{\large\sigma}{\longrightarrow}\:\)\(g_5H\:\)\(\overset{\large\sigma}{\longrightarrow}\:\)\(g_3H\:\)\(\overset{\large\sigma}{\longrightarrow}\:\)\(g_4H\:\)\(\overset{\large\sigma}{\longrightarrow}\:\)\(g_6H\:\)\(\overset{\large\sigma}{\longrightarrow}\:\)\(g_2H\:\)\(\overset{\large\sigma}{\longrightarrow}\:\)\(\cdots\) |
と "巡回" します。このことは、後で可解性の条件定理で使います。
共役群 |
群 \(G\) の部分群を \(H\) とします。群 \(G\) の任意の元 を \(x\) とするとき、
\(xHx^{-1}\) \((x\in G)\)
を「\(H\) と共役な群」と言います(\(x^{-1}Hx\) と定義してもよい)。これが群になることは、\(h_1,\:h_2,\:h_3\:\in\:H\)、\(h_1h_2=h_3\) のとき、
\(\begin{eqnarray}
&&\:\:(xh_1x^{-1})(xh_2x^{-1})&=xh_1h_2x^{-1}\\
&&&=xh_3x_{-1}\:\in\:xHx^{-1}\\
\end{eqnarray}\)
というように、\(xHx^{-1}\) が群演算で閉じていることから分かります。
\(H\) と共役な群 \(xHx^{-1}\) は \(x\) の個数=群の位数だけあることになりますが、これら全てが違う群ではありません。もし \(H\) が \(G\) の正規部分群であれば、\(G\) の任意の元 \(x\) について \(xHx^{-1}=H\) が成り立つので、\(H\) と共役な部分群は \(H\) 自身だけです。
また、\(x,\:y\:\in\:G\) が同じ剰余類 \(G/H\) に属しているとすると、その剰余類の代表元を \(g_1\) として、
\(x=g_1h_i\)
\(y=g_1h_j\)
と表現できますが、
\(\begin{eqnarray}
&&\:\:xHx^{-1}&=g_1h_iHh_i^{-1}g_1^{-1}\\
&&&=g_1Hg_1^{-1}\\
&&\:\:yHy^{-1}&=g_1h_jHh_j^{-1}g_1^{-1}\\
&&&=g_1Hg_1^{-1}\\
&&\:\:xHx^{-1}&=yHy^{-1}\\
\end{eqnarray}\)
となって、\(x,\:y\) による \(H\) の共役群は同じものです。従って、\(H\) の共役群の数は最大で \(G\) の \(H\) による剰余類の数\(=|G|/|H|\) です。
フロベニウス群 \(F_{20}\) は \(S_5\) の正規部分群ではありません。計算してみると、剰余類 \(G/H\) の代表元 \(g_i\:(1\leq i\leq6)\)に対して、次の6つの共役な部分群があることが分かります。\(H=\langle\:(1,2,3,4,5),\:(2,3,5,4)\:\rangle\) とすると、\(H_i=g_iHg_i^{-1}\) はそれぞれ、
\(g_1=e\)
\(H_1=\langle\:(1,2,3,4,5),\:(2,3,5,4)\:\rangle=H\)
\(g_2=(1,\:2,\:3)\)
\(H_2=\langle\:(1,2,4,3,5),\:(2,4,5,3)\:\rangle\)
\(g_3=(1,\:3,\:2)\)
\(H_3=\langle\:(1,2,4,5,3),\:(2,4,3,5)\:\rangle\)
\(g_4=(1,\:2)\)
\(H_4=\langle\:(1,2,5,4,3),\:(2,5,3,4)\:\rangle\)
\(g_5=(1,\:3)\)
\(H_5=\langle\:(1,2,3,5,4),\:(2,3,4,5)\:\rangle\)
\(g_6=(2,\:3)\)
\(H_6=\langle\:(1,2,5,3,4),\:(2,5,4,3)\:\rangle\)
です。また \(S_5\) の任意の元を \(g\) とすると、\(H\) の \(g\) による共役群 \(gHg^{-1}\) は、\(g\) が属する剰余類の代表元 \(g_i\) を用いて、
\(gHg^{-1}=g_iHg_i^{-1}\) \((g,\:g_i\in H_i)\)
と表せることになります。
ある5次方程式のガロア群がフロベニウス群である、という場合、共役な6つの群のどれかであることを言っています。総称してフロベニウス群、とも言えます。
固定化群とリゾルベント
固定化群 |
以下は5次方程式を念頭に記述しますが、一般の \(n\)次方程式としても同じです。
\(S_5\) の部分群を \(G\) とします(\(G\subset S_5\))。\(G\) は \(S_5\) そのものであってもかまいません。次に、5変数、\(X_1,\:X_2,\:X_3,\:X_4,\:X_5\) の任意の多項式、
\(F(X_1,\:X_2,\:X_3,\:X_4,\:X_5)\)
を考えます。そして「\(S_5\) の任意の元 \(\sigma\) による \(F\) への作用」を考えます。\(F\) は \(\sigma\) の作用によって変数の入れ替えが起こります。たとえば、
\(\begin{eqnarray}
&&\:\:F&=X_1^2X_2+X_2^2X_3\\
&&\:\:\sigma&=(1,\:2)\\
\end{eqnarray}\)
だと、
\(\sigma F=X_2^2X_1+X_1^2X_3\)
です。この、多項式とそれへの作用を用いて固定化群(ないしは安定化群)の定義をします。
固定化群の定義 \(G\subset S_5\) とし、5変数、\(X_1,\:X_2,\:X_3,\:X_4,\:X_5\) の任意の多項式を \(F\) とする。\(G\) の元 \(\sigma\) で、\(F\) に作用しても \(F\) を不変にする元の集合、 \(H_{(F,G)}\:=\:\{\sigma\:|\:\sigma\subset G,\:\sigma\:F=F\}\) は群を成す。この \(H\) を(\(G\) における)\(F\) の固定化群(ないしは安定化群。stabilizer)と呼ぶ。 |
固定化群 \(H\) は、多項式 \(F\) と群 \(G\) に依存しているので \(H_{(F,G)}\) としました。いくつかの例をあげます。\(G=D_6\)(3次の2面体群。\(=S_3\))とすると、
\(F=X_1X_2+X_2X_3+X_3X_1\)
\(F=X_1^2X_2+X_2^2X_3+X_3^2X_1\)
\(\longrightarrow\:H=C_3=\{e,\:(1,2,3),\:(1,3,2)\}\)
\(F=X_1+X_2\)
\(\longrightarrow\:H=\{e,\:(1,2)\}\)
\(F=X_1-X_2\)
\(\longrightarrow\:H=\{\:e\:\}\)
\(\longrightarrow\:H\) | \(=\) | \(D_6\:\)\((=S_3)\) | |
\(=\) | \(\{e,\:\)\((1,2,3),\:\)\((1,3,2),\:\)\((1,2),\:\)\((1,3),\:\)\((2,3)\}\) |
\(F=X_1^2X_2+X_2^2X_3+X_3^2X_1\)
\(\longrightarrow\:H=C_3=\{e,\:(1,2,3),\:(1,3,2)\}\)
\(F=X_1+X_2\)
\(\longrightarrow\:H=\{e,\:(1,2)\}\)
\(F=X_1-X_2\)
\(\longrightarrow\:H=\{\:e\:\}\)
などです。
リゾルベント(Resolvent) |
以降、一般の既約な5次多項式を、
\(f(x)\) | \(=\) | \(x^5+\)\(ax^4+\)\(bx^3+\)\(cx^2+\)\(dx+\)\(e\) | |
\(=\) | \((x-x_1)\)\((x-x_2)\)\((x-x_3)\)\((x-x_4)\)\((x-x_5)\) |
係数 \(a\) ~ \(e\) は有理数 | |
\(x_i\) は \(f(x)=0\) の根 |
で表します。根と係数の関係から、 \(a\) ~ \(e\) は \(x_i\) の基本対称式で表現できます。その具体的な形は No.357「高校数学で理解するガロア理論(4)」の「6.5 5次方程式に解の公式はない」の定理(65H)にあげました。
次にリゾルベントを定義します。定義に使うのは、
5次方程式 \(f(x)=0\) | |
多項式 \(F(X_1,\:X_2,\:X_3,\:X_4,\:X_5)\) | |
\(f(x)=0\) の根を多項式に代入した値 \(F(x_1,x_2,x_3,x_4,x_5)\) | |
群 \(G\:\:(\subset S_5)\) | |
多項式 \(F\) の \(G\) における固定化群 \(H\:(\subset G)\) | |
剰余類 \(G/H\) |
です。
リゾルベントの定義 既約な有理係数の5次方程式 \(f(x)=0\) の根を \(x_1,x_2,x_3,x_4,x_5\) とする。 \(G\subset S_5\) とし、5変数、\(X_1,\:X_2,\:X_3,\:X_4,\:X_5\) の任意の多項式を \(F\) とする。\(G\) における \(F\) の固定化群を \(H\) とする。 剰余類 \(G/H\) の代表元を \(g_1,\:g_2,\:\cdots\:,g_d\) とする。\(|G|=d|H|\) である。このとき、リゾルベント \(R(x)\) を \(R(x)=\displaystyle\prod_{i=1}^{d}(\:x-g_i\cdot F(x_1,x_2,x_3,x_4,x_5)\:)\) と定義する。 |
\(g_i\cdot F(x_1,x_2,x_3,x_4,x_5)\) という表記は、
多項式 \(F(X_1,\:X_2,\:X_3,\:X_4,\:X_5)\) に \(g_i\) を作用させてできた多項式に \(X_i=x_i\:(1\leq i\leq5)\) 代入した値
の意味です。\(g\in G\) とすると、
\(g\cdot F(X_1,X_2,X_3,X_4,X_5)=\)
\(F(X_{g(1)},X_{g(2)},X_{g(3)},X_{g(4)},X_{g(5)})\)
\(g\cdot F(x_1,x_2,x_3,x_4,x_5)=\)
\(F(x_{g(1)},x_{g(2)},x_{g(3)},x_{g(4)},x_{g(5)})\)
の意味です。\(g=(1,2,3)\) とすると、\(g(1)=2\)、\(g(2)=3\)、\(g(3)=1\)、\(g(4)=4\)、\(g(5)=5\) です。また以降で、関数 \(F(X_1,X_2,X_3,X_4,X_5)\) と 値 \(F(x_1,x_2,x_3,x_4,x_5)\) を \(F\) と簡略表記します。どちらを指すかは文脈によります。
このように、剰余類 \(G/H\) の代表元 \(g_i\) を \(F(x_1,x_2,x_3,x_4,x_5)\) に作用させることの意味を考えてみます。いま \(G\) の任意の元を \(g_\alpha,\:g_\beta\)とし、同じ剰余類 \(g_iH\) に属するとします。そうすると、\(H\) の適当な元 \(h_s,\:h_t\) を用いて、
\(g_\alpha=g_ih_s\)
\(g_\beta=g_ih_t\)
と表現できます。すると、
\(g_\alpha\cdot F=g_ih_s\cdot F=g_i\cdot F\)
\(g_\beta\cdot F=g_ih_t\cdot F=g_i\cdot F\)
となるので(\(H\) の元 \(h_s,\:h_t\) を \(F\) に作用させても不変)、
\(g_\alpha\cdot F=g_\beta\cdot F\)
となり、\(g_\alpha\cdot F\) と \(g_\beta\cdot F\) は同じ多項式です。ということは、\(G\) の元を \(F\) に作用させた多項式は最大、
\(g_1\cdot F,\:\:g_2\cdot F,\:\cdots\cdots\:,\:\:g_d\cdot F\)
の \(d\) 種類(=剰余類の数)あることになります(\(g_1,\:g_2,\:\cdots\:g_d\) は \(G/H\) の代表元)。逆に、\(1\leq i,\:j\leq d\)(但し、\(i=j=1\) ではない) とし、
\(g_i\cdot F=g_j\cdot F\)
になるとすると、
\(g_j^{-1}g_i\cdot F=F\)
\(g_j^{-1}g_i\in H\)
\(g_j^{-1}g_iH=H\)
\(g_iH=g_jH\)
\(g_i=g_j\)
となります。この対偶は「\(g_i\neq g_j\) なら \(g_iF\neq g_jF\)」であり、\(G\) の元を \(F\) に作用させた多項式は、
\(g_1\cdot F,\:\:g_2\cdot F,\:\cdots\cdots\:,\:g_d\cdot F\)
の \(d\) 種類です。これらを「(\(\boldsymbol{G}\) における)\(\boldsymbol{F}\) と共役な多項式」と呼ぶことにします。
そもそも \(G/H\) の代表元は、\(g_iH\:(1\leq i\leq|G|)\) の集合から同じもを集めて、それらの代表として \(g_1H,\:g_2H,\:\cdots\:g_dH\) としたものであり、
\(G=g_1H\:\cup\:g_2H\:\cup\:\cdots\:\cup\:g_dH\)
が成り立つのでした。従って、\(G\) の任意の元を \(g\) とすると、\(gG=G\) なので、\(gg_iH\:(1\leq i\leq|G|)\) の集合から同じもを集めると、それらの代表として \(gg_1H,\:gg_2H,\:\cdots\:,\:gg_dH\) とすることができ、
\(G=gg_1H\:\cup\:gg_2H\:\cup\:\cdots\:\cup\:gg_dH\)
も成り立ちます。つまり、\(G/H\) の代表元を \(g_1,\:g_2,\:\cdots\:,\:g_d\) とすると、\(gg_1,\:gg_2,\:\cdots\:,\:gg_d\) も \(G/H\) の代表元です。従って、多項式 \(F\) へ作用させた、
\(gg_1\cdot F,\:gg_2\cdot F,\:\cdots\:,\:gg_d\cdot F\)
の \(d\) 個の多項式も「\(F\) と共役な多項式」です。つまり、これら \(\boldsymbol{d}\) 個の多項式の集合を考えると、
\(\{g_1\cdot F,\:g_2\cdot F,\:\cdots\:,\:g_d\cdot F\}=\)
\(\{gg_1\cdot F,\:gg_2\cdot F,\:\cdots\:,\:gg_d\cdot F\}\)
であり、集合としては同じもの( \(\boldsymbol{\textbf{①}}\) )です。ここでリゾルベントの定義式を振り返ると、
\(R(x)=\displaystyle\prod_{i=1}^{d}(x-g_i\cdot F(x_1,x_2,x_3,x_4,x_5))\)
であり、\(g_1\cdot F,\:g_2\cdot F,\:\cdots\:,\:g_d\cdot F\) の対称式になっています。つまり \(\boldsymbol{R(x)}\) は任意の2つの \(\boldsymbol{g_i\cdot F,\:g_j\cdot F}\) の入れ替えで不変( \(\boldsymbol{\textbf{②}}\) )です。結局、\(\boldsymbol{\textbf{①}}\) と \(\boldsymbol{\textbf{②}}\) を合わせると、
\(g\cdot R(x)=R(x)\)
が分かります。つまり \(\boldsymbol{R(x)}\) は \(\boldsymbol{G}\) の任意の元の作用で不変です。\(G\) は \(S_5\) かその部分群で、\(f(x)=0\) の5つの根 \(x_1,\:x_2,\:x_3,\:x_4,\:x_5\) を置換するものでした。この置換で不変(=対称式)ということは、 \(R(x)\) の係数は \(x_1,\:x_2,\:x_3,\:x_4,\:x_5\) の基本対称式で表現できます(対称式が基本対称式で表現できることは「補記」参照)。従って \(R(x)\) の係数は \(f(x)\) の係数で表現できる有理数です。
\(G\) における \(F\) の固定化群は \(H\) でした。では、\(g\cdot F\:(g\in G)\) の固定化群は何かを調べてみると、\(H\) の任意の元を \(h\) として、
\(ghg^{-1}g\cdot F=gh\cdot F=g\cdot F\)
なので、\(ghg^{-1}\) は \(g\cdot F\) を固定します。 \(h\) は任意なので、
\(g\cdot F\) の固定化群は \(gHg^{-1}\) であり、\(H\) とは共役な群
であることがわかります。以上を踏まえて次の定理を証明します。この定理は文献1によります。
ガロア群とリゾルベントの関係
ガロア群とリゾルベントの関係性定理 \(G\subset S_5\) とし、5変数、\(X_1,\:X_2,\:X_3,\:X_4,\:X_5\) の任意の多項式を \(F\) とする。\(G\) の元 \(\sigma\) で、\(F\) に作用しても \(F\) を不変にする元の集合を \(H\) とする。 \(H_{(F,G)}\:=\:\{\sigma\:|\:\sigma\subset G,\:\sigma\cdot F=F\}\) であり、\(H\) は群を成す(固定化群)。 既約な有理係数の5次方程式 \(f(x)=0\) の根を \(x_1,x_2,x_3,x_4,x_5\) とする。\(f(x)\) の最小分解体を、 \(\boldsymbol{L}=\boldsymbol{Q}(x_1,x_2,x_3,x_4,x_5)\) とし、ガロア群を \(\mathrm{Gal}(\boldsymbol{L}/\boldsymbol{Q})\) で表す。 剰余類 \(G/H\) の代表元を \(g_1,\:g_2,\:\cdots\:,g_d\) とする。\(|G|=d|H|\) である。このとき、リゾルベント \(R(x)\) を、\(d\) 次多項式、 \(R(x)=\displaystyle\prod_{i=1}^{d}(\:x-g_i\cdot F(x_1,x_2,x_3,x_4,x_5)\:)\) と定義する。以上の前提のもとに、次の2つの主張が成り立つ。 主張1 \(\mathrm{Gal}(\boldsymbol{L}/\boldsymbol{Q})\) が \(H\) の部分群(\(H\)を含む)と共役であれば、\(R(x)=0\)(リゾルベント方程式と呼ぶ)は有理数の根をもつ。 主張2 \(R(x)=0\)(リゾルベント方程式)が重複度1の有理数の根をもてば、\(\mathrm{Gal}(\boldsymbol{L}/\boldsymbol{Q})\) は \(H\) と共役な群の部分群である(重複度1の根とは重根ではない根=単根を指す)。 |
[主張1の証明]
\(\mathrm{Gal}(\boldsymbol{L}/\boldsymbol{Q})\) が \(H\) の部分群 \(N\:(N\subset H)\) と共役とすると、\(\sigma\in G\) である \(\sigma\) が存在し、\(\mathrm{Gal}(\boldsymbol{L}/\boldsymbol{Q})=\sigma N\sigma^{-1}\) と表せる。従って \(\tau\in\mathrm{Gal}(\boldsymbol{L}/\boldsymbol{Q})\) である任意の \(\tau\) をとると、\(\tau=\sigma\:\mu\:\sigma^{-1}\:(\mu\in N)\) と表せる。また、\(\sigma\) が含まれる剰余類 \(G/H\) を \(g_iH\) とすると、\(\sigma\) は適当な \(H\) の元 \(\eta\) を用いて \(\sigma=g_i\:\eta\) と表せる。
ここでリゾルベントの定義式のうちの、
\(g_i\cdot F(x_1,x_2,x_3,x_4,x_5)\)
に着目すると(以下、\(F(x_1,x_2,x_3,x_4,x_5)\) を \(F\) と書く)、
\(\begin{eqnarray}
&&\:\:\tau(g_i\cdot F)&=\sigma\:\mu\:\sigma^{-1}(g_i\cdot F)\\
&&&=g_i\:\eta\:\mu\:\eta^{-1}g_i^{-1}g_i\cdot F\\
&&&=g_i\:\eta\:\mu\:\eta^{-1}\cdot F\\
\end{eqnarray}\)
となるが、\(\eta\)、\(\mu\)、\(\eta^{-1}\) はいずれも \(H\) の元なので、\(F\) に作用すると \(F\) を固定する。従って、
\(\tau(g_i\cdot F)=g_i\cdot F\)
であり、\(g_i\cdot F\) は \(\tau\) の作用で不変である。\(\tau\) は \(\mathrm{Gal}(\boldsymbol{L}/\boldsymbol{Q})\) の任意の元であり、ガロア群の任意の元で不変な \(g_i\cdot F\) は有理数である。\(g_i\cdot F\) はリゾルベント方程式の根の一つだから、方程式は有理数の根を持つ。[証明終]
[主張2の証明]
\(g_i\cdot F(x_1,x_2,x_3,x_4,x_5)\) がリゾルベント方程式の重複度1の有理数の根であったとする。\(\mathrm{Gal}(\boldsymbol{L}/\boldsymbol{Q})\) の任意の元 \(\tau\) は 有理数を固定する。\(g_i\cdot F\) は重複度1の根なので、\(g_i\cdot F\) 以外に有理数の根 \(g_j\cdot F\) があったとしても、\(g_i\cdot F\neq g_j\cdot F\:\:(i\neq j)\) である。従って、
\(\begin{eqnarray}
&&\:\:\tau\:g_i\cdot F=&g_i\cdot F\\
&&\:\:\tau\:g_i\cdot F\neq&g_j\cdot F\:\:(i\neq j)\\
\end{eqnarray}\)
が成り立つ。これは、\(\mathrm{Gal}(\boldsymbol{L}/\boldsymbol{Q})\) の任意の元 \(\tau\) が \(g_i\cdot F\) の固定化群に含まれることを意味する。\(F\) の固定化群 \(H\) の 任意の元を \(h\) とすると、\(h\cdot F=F\) であるが、
\(\begin{eqnarray}
&&\:\:g_ihg_i^{-1}g_i\cdot F&=g_ih\cdot F\\
&&&=g_i\cdot F\\
\end{eqnarray}\)
なので \(g_ihg_i^{-1}\) は \(g_i\cdot F\) を固定する。\(h\) は \(H\) の任意の元だから、\(g_i\cdot F\) の固定化群は \(H\) と共役な \(g_iHg_i^{-1}\) である。つまり、\(\mathrm{Gal}(\boldsymbol{L}/\boldsymbol{Q})\) の任意の元 \(\tau\) が \(\tau\in g_iHg_i^{-1}\) なので、\(\mathrm{Gal}(\boldsymbol{L}/\boldsymbol{Q})\) は \(H\) と共役な群の部分群である。[証明終]
リゾルベント \(R(x)\) を計算するためには、定義どおりにすると \(f(x)=0\) の根、\(x_1,\:x_2,\:x_3,\:x_4,\:x_5\) が必要です。しかし \(G=S_5\) の場合は、任意の \(g\in S_5\) について
\(g\cdot R(x)=R(x)\)
です。ということは、\(R(x)\) の係数は \(x_1,\:x_2,\:x_3,\:x_4,\:x_5\) の基本対称式で表されることになり、つまり方程式 \(\boldsymbol{f(x)=0}\) の係数だけから \(\boldsymbol{R(x)}\) の計算が可能です。
主張1の対偶は、
\(R(x)=0\) が有理数の根をもたなければ、\(\mathrm{Gal}(\boldsymbol{L}/\boldsymbol{Q})\) は \(H\) の部分群ではありえない
であり、これを方程式のガロア群の判断に使えます。たとえば、\(G=S_5,\:H=F_{20}\) の場合、\(R(x)=0\) が有理数の根をもたなければ、ガロア群は \(S_5\) か \(A_5\) です。
主張2の証明の流れをみると「\(\mathrm{Gal}(\boldsymbol{L}/\boldsymbol{Q})\) は \(H\) と共役な群の部分群である」ではなく、「\(\mathrm{Gal}(\boldsymbol{L}/\boldsymbol{Q})\) は \(H\) の部分群である」というようにできることが分かります。つまり、方程式 \(f(x)=0\) の根を \(x_1,\:x_2,\:x_3,\:x_4,\:x_5\) と求め、\(g_i\cdot F(x_1,x_2,x_3,x_4,x_5)\) が有理数だと分かったとき、根を入れ替えて、
\(x_i=x_{g_i(i)}\)
とし、変換後の \(x_i\) で \(R(x)\) を計算すれば、\(g_1\cdot F(x_1,x_2,x_3,x_4,x_5)\) が有理数になり、\(g_1=e\) なので \(\mathrm{Gal}(\boldsymbol{L}/\boldsymbol{Q})=H\) となります。つまり、根の入れ替えによってガロア群を "互いに共役な複数の群の中のどれかに一つに固定" できる。これは、\(G=F_{20}\)、\(H=C_5\) の場合に、\(G\) を \(F_{20}\) の6つの共役群のなかの \(\langle\:(1,2,3,4,5),\:(2,3,5,4)\:\rangle\) に固定したいときに使います(後述)。
3次方程式のガロア群とリゾルベント
ここで、5次方程式のガロア群を調べる前に、3次方程式を例として「ガロア群とリゾルベントの関係性定理」を検証します。3次方程式は5次方程式より簡単なので定理の意味が分かりやすいからです。
3次方程式のガロア群は、No.358「 高校数学で理解するガロア理論(5)」で計算しましたが、復習すると以下の通りです。3次方程式のガロア群 \(G\) は、3次方程式の3つの解、\(\alpha,\:\beta,\:\gamma\) を入れ替える(置換する)群であり、
\(G=\{e,\:\sigma,\:\sigma^2,\:\tau,\:\sigma\tau,\:\sigma^2\tau\}\)
と表せます。3つの解をそれぞれ \(1,\:2,\:3\) の文字で表し、巡回置換の記法で書くと、
\(e\) | \(=\) 恒等置換 | |
\(\sigma\) | \(=(1,\:2,\:3)\) | |
\(\sigma^2\) | \(=(1,\:3,\:2)\) | |
\(\tau\) | \(=(2,\:3)\) | |
\(\sigma\tau\) | \(=(1,\:2)\) | |
\(\sigma^2\tau\) | \(=(1,\:3)\) |
\(H=\{e,\:\sigma,\:\sigma^2\}\)
とすると、\(H\) は \(G\) の部分群になり、巡回群(\(C_3\))です。また、
\(\tau H\) | \(=H\tau\) | |
\(\sigma H\) | \(=H\sigma\) |
\(G\) の \(H\) による剰余群は、
\(G/H=\{H,\:\tau H\}\)
であり、単位元は \(H\) で、
\((\tau H)^2=\tau H\tau H=\tau\tau HH=H\)
となって、位数\(2\) の巡回群です(\(G/H\cong C_2)\)。この結果、
\(G\:\supset\:H\:\supset\:\{\:e\:\}\)
は可解列になり、\(G\) は可解群で、従って3次方程式は可解です(=四則演算とべき根で解が表現可能)。さらに、\(H\:\supset\:\{\:e\:\}\) も可解列であり、3次方程式のガロア群は \(S_3\) か \(C_3\) のどちらかです。
ガロア群が \(S_3\) か \(C_3\) かは、以下のようにして決定できます。以降、3次方程式の \(x^2\) の項を変数変換で消去し、
\(x^3+px+q=0\)
の形で扱います。既約多項式 \(f(x)\) を、
\(f(x)=x^3+px+q\)
とし、\(f(x)=0\) の3次方程式の根を \(\alpha,\:\beta,\:\gamma\) とすると、
\(x^3+px+q=(x-\alpha)(x-\beta)(x-\gamma)\)
であり、根と係数の関係から、
\(\alpha+\beta+\gamma=0\)
\(\alpha\beta+\beta\gamma+\gamma\alpha=p\)
\(\alpha\beta\gamma=-q\)
です。3次方程式のガロア群が \(S_3\) か \(C_3\) かを決めるポイントとなるのは、
\(\theta=(\alpha-\beta)(\beta-\gamma)(\gamma-\alpha)\)
で定義される、根の差積と呼ばれる値です。差積は普通、\(\Delta\)(ギリシャ文字・デルタの大文字)で表しますが、ここでは \(\theta\) と書きます。差積は任意の2つの根の互換で \(-\theta\) になります。差積の2乗が判別式 \(D\) で、
\(D=(\alpha-\beta)^2(\beta-\gamma)^2(\gamma-\alpha)^2\)
です。つまり \(\theta=\sqrt{D}\) ですが、\(\sqrt{D}\) は「2乗して \(D\) となる2つの数のどちらか」の意味です。\(D\) は \(\alpha,\:\beta,\:\gamma\) の任意の置換(\(S_3\) の任意の元の作用)で不変な対称式なので、\(\alpha,\:\beta,\:\gamma\) の基本対称式、
\(\alpha+\beta+\gamma\)
\(\alpha\beta+\beta\gamma+\gamma\alpha\)
\(\alpha\beta\gamma\)
で表現できます。つまり \(D\) は、3次方程式の係数である \(p,\:q\) で表せる有理数です。それを具体的に計算すると、
\(D=-4p^3-27q^2\)
となります。ここでもし、\(D\) がある有理数 \(a\) の2乗(\(D=a^2\))なら(そういう条件が成立するなら)、
\(\theta=\sqrt{D}=a\)
となり、\(\theta\) は有理数です。\(\theta\) が有理数(\(\theta=a\))の場合、\(\beta\) と \(\gamma\) は、
\(\beta=\dfrac{2p\alpha+3q-a}{2(3\alpha^2+p)}\)
\(\gamma=\dfrac{2p\alpha+3q+a}{2(3\alpha^2+p)}\)
と表わされます(具体的計算は No.358 参照。\(\beta\) と \(\gamma\) は逆でもよい)。つまり、\(\boldsymbol{\beta}\) と \(\boldsymbol{\gamma}\) が \(\boldsymbol{\alpha}\) の有理式(=分母・分子が \(\boldsymbol{\alpha}\) の多項式)で表現できるので、\(\boldsymbol{Q}(\alpha,\beta,\gamma)\subset\boldsymbol{Q}(\alpha)\) であり、もちろん \(\boldsymbol{Q}(\alpha,\beta,\gamma)\supset\boldsymbol{Q}(\alpha)\) なので、
\(\boldsymbol{Q}(\alpha,\beta,\gamma)=\boldsymbol{Q}(\alpha)\)
です。つまり、\(\boldsymbol{Q}\) 上の既約多項式 \(f(x)=x^3+px+q\) の最小分解体 \(\boldsymbol{L}=\boldsymbol{Q}(\alpha,\beta,\gamma)\) は、方程式の解の一つである \(\alpha\) の単拡大体であり、単拡大体の基底の定理(33F)により \(\boldsymbol{L}\) の次元は \(3\) です。すると次数と位数の同一性(52B)により、\(\mathrm{Gal}(\boldsymbol{L}/\boldsymbol{Q})\) の群位数は \(3\) です。従って、ラグランジュの定理(41E)により群位数が素数の群は巡回群なので、\(\mathrm{Gal}(\boldsymbol{L}/\boldsymbol{Q})\) は群位数 \(3\) の巡回群( \(C_3\) )です。以上をまとめると、3次方程式の最小分解体のガロア群は、次のようになります。
前提として、 ・\(f(x)=x^3+px+q\:\:(p,\:q\in\boldsymbol{Q})\) ( \(f(x)\) は既約多項式 ) ・\(f(x)=0\) の解を \(\alpha,\:\beta,\:\gamma\) ・\(\theta=(\alpha-\beta)(\beta-\gamma)(\gamma-\alpha)\) \(\theta^2=-4p^3-27q^2=D\) ・\(f(x)\) の最小分解体を \(\boldsymbol{L}=\boldsymbol{Q}(\alpha,\beta,\gamma)\) ・\(G=\mathrm{Gal}(\boldsymbol{L}/\boldsymbol{Q})\) とする。この前提のもとで、 \(\boldsymbol{\theta}\):有理数のとき \(G\cong C_3\) \(G=\{\:e,\:\sigma,\:\sigma^2\:\}\) \(\sigma=(1,\:2,\:3)\) \(G\) は巡回群なので可解群 \(\boldsymbol{\theta}\):有理数でないとき \(G\cong S_3\) \(G=\{e,\:\sigma,\:\sigma^2,\:\tau,\:\sigma\tau,\:\sigma^2\tau\}\) \(\sigma=(1,\:2,\:3)\:\:\tau=(2,\:3)\) \(H=\{e,\:\sigma,\:\sigma^2\}\) は \(G\) の正規部分群 \(G\:\supset\:H\:\:\supset\:\{\:e\:\}\) は可解列
|
なお、\((1,\:2,\:3)\) の巡回置換を \((1,\:3,\:2)\)、 \((2,\:3)\) の巡回置換を \((1,\:2)\:\:(1,\:3)\) などとしても同じです。
以上のように、3次方程式のガロア群は一般には \(S_3\) ですが、\(\theta=\sqrt{D}\) が有理数という条件が成立すれば \(C_3\) になります。その \(C_3\) の方程式の例は、
\(x^3-3x+1=0\:\:\:(D=\phantom{0}81,\:\sqrt{D}=\phantom{0}9)\)
\(x^3-7x+6=0\:\:\:(D=400,\:\sqrt{D}=20)\)
\(x^3-7x+7=0\:\:\:(D=\phantom{0}49,\:\sqrt{D}=\phantom{0}7)\)
\(x^3-9x+9=0\:\:\:(D=729,\:\sqrt{D}=27)\)
などです。ここまでが、No.358「高校数学で理解するガロア理論(5)」の中の "3次方程式" の復習です。
以上の議論を「ガロア群とリゾルベントの関係性定理」の文脈に即して述べると次のようになります。ガロア群は、前と同様に、
\(G=\{e,\:\sigma,\:\sigma^2,\:\tau,\:\sigma\tau,\:\sigma^2\tau\}\cong S_3\)
\(\sigma\) | \(=(1,\:2,\:3)\) | |
\(\sigma^2\) | \(=(1,\:3,\:2)\) | |
\(\tau\) | \(=(2,\:3)\) | |
\(\sigma\tau\) | \(=(1,\:2)\) | |
\(\sigma^2\tau\) | \(=(1,\:3)\) |
\(H=\{e,\:\sigma,\:\sigma^2\}\cong C_3\)
と表記します。これ以降は3次方程式の根を \(x_1,\:x_2,\:x_3\) で表します。
\(f(x)\) | \(=x^3+px+q\) | |
\(=(x-x_1)(x-x_2)(x-x_3)\) |
です。また、3文字(3変数)の基本対称式を \(s_1,\:s_2,\:s_3\) と書くと、
\(s_1=x_1+x_2+x_3\)
\(s_2=x_1x_2+x_2x_3+x_3x_1\)
\(s_3=x_1x_2x_3\)
で、方程式の係数とは、
\(s_1=0\)
\(s_2=p\)
\(s_3=-q\)
の関係(=根と係数の関係)があります。
ガロア群が \(H\)(\(C_3\))となる条件を見つけるために、3変数 \(X_1,\:X_2,\:X_3\) の多項式で固定化群が \(H\) になるものを考えます。すると
\((X_1-X_2)\)\((X_1-X_3)\)\((X_2-X_3)\) |
がそれにあたります。この多項式 \(F\) は、\(H\) の元を作用させると、
\(e\cdot F\) | \(=F\) | |
\(\sigma\cdot F\) | \(=F\) | |
\(\sigma^2\cdot F\) | \(=F\) |
であり、\(H\) に含まれない \(G\) の元を作用させると、
\(\tau\cdot F\) | \(=(2,\:3)\cdot F\) | \(=-F\) | |
\(\sigma\tau\cdot F\) | \(=(1,\:2)\cdot F\) | \(=-F\) | |
\(\sigma^2\tau\cdot F\) | \(=(1,\:3)\cdot F\) | \(=-F\) |
となるので、\(G\) における \(F\) の固定化群は \(H\) です。\(G\) の \(H\) による剰余群は、その代表元を \(g_1=e,\:g_2=\tau\) とすることができて、
\(G/H=\{g_1H,\:g_2H\}=\{H,\:\tau H\}\)
です。従って、リゾルベント \(R_{S3/C3}(x)\) は、\(F_1\) と \(F_2\) を、
\(F_1=F(x_1,x_2,x_3)\)
\(F_2=\tau\cdot F(x_1,x_2,x_3)=-F_1\)
と表すことにして、
\(R_{S3/C3}(x)\) | \(=\) | \((x-F_1)(x-F_2)\) | |
\(=\) | \((x-F_1)(x+F_1)\) | ||
\(=\) | \(x^2-F_1^2\) | ||
\(=\) | \(x^2-(x_1-x_2)^2\cdot\)\((x_1-x_3)^2\cdot\)\((x_2-x_3)^2\) |
となります。この最後の形は \(x_1,\:x_2,\:x_3\) の対称式なので、基本対称式 \(s_1,\:s_2,\:s_3\) で表すことができます。計算してみると(過程は省略しますが)、
\(x^2+\)\(4s_1^3s_3-\)\(s_1^2s_2^2-\)\(18s_1s_2s_3+\)\(4s_2^3+\)\(27s_3^2\) |
となります。ここに根と係数の関係を入れると、
\(R_{S3/C3}(x)=x^2+p^3+27q^2\)
です。つまり方程式 \(x^2+p^3+27q^2=0\) が重複度1の有理数の解をもてばガロア群は \(C_3\) です。この条件は、ある有理数 \(a\:(\neq0)\) があって、
\(p^3+27q^2=-a^2\)
であるときに成り立ちます。具体的な方程式では、
\(f(x)=x^3-3x+1\)
\(R_{S3/C3}(x)\) | \(=x^2-81\) | |
\(=(x-9)(x+9)\) |
\(f(x)=x^3+3x+1\)
\(R_{S3/C3}(x)=x^2+135\)(= 既約多項式)
\(\longrightarrow\) ガロア群は \(S_3\)
となります。以上のように、No.358「 高校数学で理解するガロア理論(5)」で展開した差積(\(\boldsymbol{\theta}\))と判別式(\(\boldsymbol{D}\))によるガロア群の判定と、リゾルベント \(\boldsymbol{R_{S3/C3}(x)}\) によるガロア群の判定は全く等価です。
今までの考察では、3変数 \(X_1,\:X_2,\:X_3\) の多項式で \(G\) における固定化群が \(H\) であるものを、
\((X_1-X_2)\)\((X_1-X_3)\)\((X_2-X_3)\) |
としました。しかし固定化群が \(H\) になる多項式はこれ以外にもあります。たとえば、
\(X_1X_2^2+\)\(X_2X_3^2+\)\(X_3X_1^2\) |
がそうです。\(G\) の元をこの多項式に作用させると、、
\(e\cdot F\) | \(=F\) | |
\(\sigma\cdot F\) | \(=F\) | |
\(\sigma^2\cdot F\) | \(=F\) |
であり、さらに、
\(\tau\cdot F\) | \(=(2,\:3)\cdot F\) | |
\(=X_1X_3^2+X_3X_2^2+X_2X_1^2\) | ||
\(=X_1^2X_2+X_2^2X_3+X_3^2X_1\) | ||
\(\sigma\tau\cdot F\) | \(=(1,\:2)\cdot F\) | |
\(=X_1^2X_2+X_2^2X_3+X_3^2X_1\) | ||
\(=(2,\:3)\cdot F\) | ||
\(\sigma^2\tau\cdot F\) | \(=(1,\:3)\cdot F\) | |
\(=X_1^2X_2+X_2^2X_3+X_3^2X_1\) | ||
\(=(2,\:3)\cdot F\) |
となって、\(G\) における \(F\) の固定化群は \(H\) であることが分かります。そこで、
\(F_1\) | \(=x_1x_2^2+x_2x_3^2+x_3x_1^2\) | |
\(F_2\) | \(=\tau\cdot F_1\) | |
\(=x_1^2x_2+x_2^2x_3+x_3^2x_1\) |
とおくと、リゾルベントは、
\(R_{S3/C3}(x)=(x-F_1)(x-F_2)\)
です。\(\sigma\cdot F_1=F_1,\) \(\sigma\cdot F_2=F_2,\) \(\tau\cdot F_1=F_2,\) \(\tau\cdot F_2=F_1\) なので、このリゾルベントに \(G\) の任意の元を作用させても不変です。つまり、\(R_{S3/C3}(x)\) は基本対称式で表現できる有理数係数の式です。それを計算してみると、
\(R_{S3/C3}(x)\) | \(=\) | \((x-(x_1x_2^2+\)\(x_2x_3^2+\)\(x_3x_1^2))\cdot\)\((x-(x_1^2x_2+\)\(x_2^2x_3+\)\(x_3^2x_1))\) | |
\(=\) | \(x^2+\)\((3s_3-s_1s_2)x+\)\(s_1^3s_3-6s_1s_2s_3+\)\(s_2^3+\)\(9s_3^2\) |
となります(基本対称式への変換は Python の数式処理を使いました)。ここに、\(s_1=0,\:s_2=p,\:s_3=-q\) を代入すると、
\(R_{S3/C3}(x)=x^2-3qx+p^3+9q^2\)
という2次式が得られます。具体的な方程式でこのリゾルベントを求めると、
\(f(x)=x^3-3x+1\)
\(R_{S3/C3}(x)\) | \(=x^2-3x-18\) | |
\(=(x-6)(x+3)\) |
\(f(x)=x^3+3x+1\)
\(R_{S3/C3}(x)=x^2-3x+36\)(= 既約多項式)
\(\longrightarrow\) ガロア群は \(S_3\)
と計算でき、ガロア群の判定は、\((X_1-X_2)(X_1-X_3)(X_2-X_3)\) を用いたリゾルベントと同じ結果になります。このように、リゾルベントを構成するには、固定化群が \(C_3\) になる任意の多項式を用いればよいことが分かりました。
以上が3次方程式を例にした「リゾルベントによるガロア群の判定の原理」です。以上を踏まえて、次に、本題である5次方程式を検討します。
5次方程式のガロア群とリゾルベント
以下、\(x^5+11x-44=0\)(ガロア群:\(D_{10}\)) を例に、「ガロア群とリゾルベントの関係性定理」を使って可解性とガロア群を判定します。
固定化群:\(F_{20}\) |
5次方程式の可解性の判定のためには、ガロア群が \(F_{20}\) の部分群かどうかを判定すればよいわけです。\(F_{20}\) の部分群であれば可解です。そこでまず \(G=S_5\) とし、多項式 \(F(X_1,X_2,X_3,X_4,X_5)\) を、
\(F(X_1,X_2,X_3,X_4,X_5)\)
\(=\) | \(X_1^2(X_2X_5+X_3X_4)+\)\(X_2^2(X_1X_3+X_4X_5)+\)\(X_3^2(X_1X_5+X_2X_4)+\)\(X_4^2(X_1X_2+X_3X_5)+\)\(X_5^2(X_1X_4+X_2X_3)\) |
と定義します。そうするとこの多項式の固定化群 \(H\) は、
\(H=\langle\:(1,2,3,4,5),\:(2,3,5,4)\:\rangle\)
のフロベニウス群 \(F_{20}\) になります。そのことを確認してみると、
\((1,2,3,4,5)\cdot F\)
\(=\) | \(X_2^2(X_3X_1+X_4X_5)+\)\(X_3^2(X_2X_4+X_5X_1)+\)\(X_4^2(X_2X_1+X_3X_5)+\)\(X_5^2(X_2X_3+X_4X_1)+\)\(X_1^2(X_2X_5+X_3X_4)\) | |
\(=\) | \(F\) |
\((2,3,5,4)\cdot F\)
\(=\) | \(X_1^2(X_3X_4+X_5X_2)+\)\(X_3^2(X_1X_5+X_2X_4)+\)\(X_5^2(X_1X_4+X_3X_2)+\)\(X_2^2(X_1X_3+X_5X_4)+\)\(X_4^2(X_1X_2+X_3X_5)\) | |
\(=\) | \(F\) |
となって、確かに \(H\) が \(F\) を固定化することが分かります(ここで \(H\) は6つある共役群のうちの特定の1つであることに注意します)。剰余類 \(G/H\) の代表元を、
\(e,\:(1,2,3),\:(1,3,2),\:(1,2),\:(1,3),\:(2,3)\)
として計算してみると、\((1,2,3)\cdot F,\) \((1,3,2)\cdot F,\) \((1,2)\cdot F,\) \((1,3)\cdot F,\) \((2,3)\cdot F\) は全て \(F\) とは違った多項式です。つまり \(F\) を固定化する \(G\) の元は \(H\) の元しかありません。つまり \(H\) は \(F\) の固定化群です。そこで、
\(F_1=F\)
\(F_2=(1,2,3)\cdot F\)
\(F_3=(1,3,2)\cdot F\)
\(F_4=(1,2)\cdot F\)
\(F_5=(1,3)\cdot F\)
\(F_6=(2,3)\cdot F\)
とします。方程式 \(f(x)=0\) の5つの解を \(x_1,x_2,x_3,x_4,x_5\) とし、\(X_i\) に \(x_i\) を代入したものを改めて \(F_i\) として(\(1\leq i\leq6\))、
\((x-F_1)\)\((x-F_2)\)\((x-F_3)\)\((x-F_4)\)\((x-F_5)\)\((x-F_6)\) |
でリゾルベントを定義します。この \(R(x)\) を \(x_1,x_2,x_3,x_4,x_5\) の基本対称式で表し、基本対称式に方程式の係数を割り当てれば、\(R(x)\) の具体的な形が求まります。ちなみに代表元のとり方には自由度があるので、上で書いたように、たとえば \((1,2)\) \((1,3)\) \((1,4)\) \((1,5)\) \((2,5)\) などとしても、同じ \(R(x)\) になります。
まず、方程式を \(x^5+px+q=0\) として \(R(x)\) を求めてみます。この計算は、さすがに手計算では厳しいので、Python の SymPy モジュールで計算することにします。コードの例は後述します。この結果、
\(x^6+\)\(8px^5+\)\(40p^2x^4+\)\(160p^3x^3+\)\(400p^4x^2+\)\((512p^5-3125q^4)x+\)\(256p^6-9375pq^4\) |
となります。これに \(x^5+11x-44\) の係数を入れると、
\(R_{S5/F20}(x)\) | \(=\) | \(x^6+\)\(88x^5+\)\(4840x^4+\)\(212960x^3+\)\(5856400x^2-\)\(11630341888x-\)\(386068880384\) | |
\(=\) | \((x-\)\(88)(x^5+\)\(176x^4+\)\(20328x^3+\)\(2001824x^2+\)\(182016912x+\)\(4387146368)\) |
です。この結果、リゾルベント方程式が \(x=88\) の根をもつので、\(x^5+11x-44=0\) の方程式は可解であると判断できます。ガロア群は \(F_{20},\:D_{10},\:C_5\) のどれかです。もし仮に \(R_{S5/F20}(x)=0\) が有理数の根をもたなければ、ガロア群は \(S_5\) か \(A_5\) です。
実は、リゾルベント方程式、\(R_{S5/F20}(x)=0\) が有理数根を持てば、その有理数根は重複度1の根(単根)であり、他に有理数根はないことが言えます。その理由ですが、いま、\(F_1\) が有理数だとします。もし \(F_1\) が有理数でなければ、根 \(x_1,\:x_2,\:x_3,\:x_4,\:x_5\) の順序を入れ替えて \(F_1\) を有理数にできるので、こう仮定して一般性を失いません。そして、
\((x-F_2)\)\((x-F_3)\)\((x-F_4)\)\((x-F_5)\)\((x-F_6)\)\(=0\) |
の5次方程式を考えます。この \(r(x)\) の最小分解体を \(\boldsymbol{L}_{r(x)}\) とし、ガロア群を \(\mathrm{Gal}(\boldsymbol{L}_{r(x)}/\boldsymbol{Q})\) とします。
ここで一般論です。既約多項式のガロア群は根の集合に対して根を置換するように作用しますが、この作用は推移的(transitive)です。推移的とは、群(たとえばガロア群 \(G\))が集合(たとえば方程式の根の集合 \(X\))に対して作用(たとえば、根 \(x_1,\) \(x_2,\) \(x_3,\) \(x_4,\) \(x_5\) の置換)するとき、\(X\) の任意の2つの元 \(x_i,\:x_j\) について、
\(\sigma(x_i)=x_j\) \((\sigma\in G)\)
となる \(\sigma\) が必ず存在することを意味します。既約多項式のガロア群は、その定義から推移的です。この逆で、ガロア群が推移的であれば方程式は既約であることも成り立ちます。
\(r(x)=0\) の根は、\(F_2,\:F_3,\:F_4,\:F_5,\:F_6\) であり、
\(F_1=F\)
\(F_2=(1,2,3)\cdot F\)
\(F_3=(1,3,2)\cdot F\)
\(F_4=(1,2)\cdot F\)
\(F_5=(1,3)\cdot F\)
\(F_6=(2,3)\cdot F\)
ですが、剰余類の説明のところに書いたように、\(\sigma\) を \((1,\:2,\:3,\:4,\:5)\) の巡回置換とすると、
\(\sigma\:(1,2,3)\cdot F\) | \(=(1,3)\cdot F\) | |
\(\sigma\:(1,3,2)\cdot F\) | \(=(1,2)\cdot F\) | |
\(\sigma\:(1,2)\cdot F\) | \(=(2,3)\cdot F\) | |
\(\sigma\:(1,3)\cdot F\) | \(=(1,3,2)\cdot F\) | |
\(\sigma\:(2,3)\cdot F\) | \(=(1,2,3)\cdot F\) |
となり、\(\boldsymbol{\sigma}\) は、\(\boldsymbol{F_2,\:F_3,\:F_4,\:F_5,\:F_6}\) という \(\boldsymbol{r(x)=0}\) の5つの根を置換するように作用します。かつ \(\sigma\) を順々に作用させると根は 、
\(F_2\:\)\(\overset{\large\sigma}{\longrightarrow}\:\)\(F_5\:\)\(\overset{\large\sigma}{\longrightarrow}\:\)\(F_3\:\)\(\overset{\large\sigma}{\longrightarrow}\:\)\(F_4\:\)\(\overset{\large\sigma}{\longrightarrow}\:\)\(F_6\:\)\(\overset{\large\sigma}{\longrightarrow}\:\)\(F_2\:\)\(\overset{\large\sigma}{\longrightarrow}\cdots\) |
と巡回します。これは、
\(\begin{eqnarray}
&&\:\:C_5&=\langle\:(1,2,3,4,5)\:\rangle\\
&&&=\{\:\sigma,\:\sigma^2,\:\sigma^3,\:\sigma^4,\:\sigma^5=e\:\}\\
\end{eqnarray}\)
が \(\mathrm{Gal}(\boldsymbol{L}_{r(x)}\:/\boldsymbol{Q})\) の部分群であり、\(\boldsymbol{\mathrm{Gal}(\boldsymbol{L}_{r(x)}\:/\boldsymbol{Q})}\) の \(\boldsymbol{r(x)=0}\) の根に対する作用は推移的であることを意味します。従って \(\boldsymbol{r(x)}\) は既約多項式です。これから言えるのは、
リゾルベント方程式 \(R_{S5/F20}(x)=0\) に有理数根 \(a\) が一つあったとすると、\(R_{S5/F20}(x)/(x-a)\) は既約多項式である。つまり、\(a\) は重複度1の根(単根)であり、他に有理数根はない
ということです。従って、5次方程式の可解性判断は次のように結論づけられます。
5次方程式の可解性定理 5次方程式が可解である必要十分条件は、\(R_{S5/F20}(x)=0\) というリゾルベント方程式が有理数根を持つことである |
固定化群:\(A_5\) |
ガロア群が \(F_{20},\:D_{10},\:C_5\) のどれかを調べるには、固定化群が5次交代群 \(\boldsymbol{A_5}\) となる多項式を利用します。
\(F(X_1,X_2,X_3,X_4,X_5)\)
\((X_1-X_2)\)\((X_1-X_3)\)\((X_1-X_4)\)\((X_1-X_5)\)\((X_2-X_3)\)\((X_2-X_4)\)\((X_2-X_5)\)\((X_3-X_4)\)\((X_3-X_5)\)\((X_4-X_5)\) |
とおきます。\(F\) は 任意の互換の作用で \(-F\) になるので、任意の偶数個の互換を作用させても不変です。つまり \(F\) の固定化群は \(A_5\) です。剰余類 \(S_5/A_5\) の代表元としては、互換のどれかを選ぶことができます。従って、
\(F_1=F\)
\(F_2=(1,2)\cdot F=-F\)
とすることができて、これに方程式の5つの解 \(x_1,x_2,x_3,x_4,x_5\) を代入して、
\(\begin{eqnarray}
&&\:\:R_{S5/A5}(x)&=(x-F_1)(x-F_2)\\
&&&=x^2-F^2\\
\end{eqnarray}\)
でリゾルベントを定義します。リゾルベント方程式 \(R_{S5/A5}(x)=0\) は、相異なる2つの有理数根(\(F\) と \(-F\))をもつか、ないしは有理数根をもたないかのどちらかです。この \(R(x)\) を \(x_1,x_2,x_3,x_4,x_5\) の基本対称式で表し、基本対称式に方程式の係数を割り当てれば、\(R(x)\) の具体的な形が求まります。ちなみに、\(F\) は差積(数学記号では \(\Delta\))、\(F^2\) は判別式(数学記号では \(D\))と呼ばれています。
方程式を \(x^5+px+q\) として \(R(x)\) を求めてみると、
\(R_{S5/A5}(x)=x^2-(256p^5+3125q^4)\)
となります。これに \(x^5+11x-44\) の係数を入れると、
\(\begin{eqnarray}
&&R_{S5/A5}(x)&=x^2-11754029056\\
&&&=(x-108416)(x+108416)\\
\end{eqnarray}\)
となり、リゾルベント方程式が有理数の根をもつので、ガロア群は \(A_5\) の部分群であり、\(D_{10},\:C_5\) のどちらかです。もし仮に有理数の根をもたなければ、ガロア群は \(F_{20}\) です。
固定化群:\(C_5\) |
さらに、\(G=F_{20},\:H=C_5\) とすることで、\(x^5+11x-44=0\) のガロア群が \(D_{10}\) か \(C_5\) かを調べます。この場合、\(G\) の生成元を \((1,2,3,4,5),\:(2,3,5,4)\) 、\(H\) の生成元を \((1,2,3,4,5)\) と固定して計算します。そのためにまず、方程式 \(x^5+11x-44=0\) を数値計算で解き、根を求めます。根が \(x_1,\:x_2,\:x_3,\:x_4,\:x_5\) と求まったとします。
フロベニウス群 \(\langle\:(1,2,3,4,5),(2,3,5,4)\:\rangle\) を固定化群とする多項式 \(F_1\) に \(x_1,\:x_2,\:x_3,\:x_4,\:x_5\) を代入したもの、およびそれと共役な多項式(\(F_2\)~\(F_6\))は、
\(\begin{eqnarray}
&&\:\:F_1=&x_1^2(x_2x_5+x_3x_4)+x_2^2(x_1x_3+x_4x_5)+\\
&&&x_3^2(x_1x_5+x_2x_4)+x_4^2(x_1x_2+x_3x_5)+\\
&&&x_5^2(x_1x_4+x_2x_3)\\
\end{eqnarray}\)
\(F_2=(1,2,3)\cdot F_1\)
\(F_3=(1,3,2)\cdot F_1\)
\(F_4=(1,2)\cdot F_1\)
\(F_5=(1,3)\cdot F_1\)
\(F_6=(2,3)\cdot F_1\)
でした。このうちの1つが有理数です。たとえば、\(F_3=(1,3,2)\cdot F_1\) が有理数だとすると、\(g=(1,3,2)\) として、
\(x_{g(1)},\:x_{g(2)},\:x_{g(3)},\:x_{g(4)},\:x_{g(5)}\)
を改めて \(x_1,\:x_2,\:x_3,\:x_4,\:x_5\) と定義し直せば、\(F_1\) が有理数になります。この準備をした上で、固定化群が \(H=\langle\:(1,2,3,4,5)\:\rangle\) になる多項式 \(F_{C1}\) を考えると、
\(X_1X_2^2+\)\(X_2X_3^2+\)\(X_3X_4^2+\)\(X_4X_5^2+\)\(X_5X_1^2\) |
がそれに相当します。冒頭に掲げたフロベニウス群の図を参考にして剰余類 \(G/H\) の代表元を選ぶと、\(F_{C1}\) に共役な多項式は、
\(\begin{eqnarray}
&&\:\:F_{C2}&=(2,3,5,4)&\cdot F_{C1}\\
&&\:\:F_{C3}&=(2,3,5,4)^2&\cdot F_{C1}\\
&&&=(2,5)(3,4)&\cdot F_{C1}\\
&&\:\:F_{C4}&=(2,3,5,4)^3&\cdot F_{C1}\\
&&&=(2,4,5,3)&\cdot F_{C1}\\
\end{eqnarray}\)
です。従ってリゾルベントは、
\((x-F_{C1})\)\((x-F_{C2})\)\((x-F_{C3})\)\((x-F_{C4})\) |
で求まります。実際に \(x^5+11x-44=0\) のリゾルベントを求めると、
\(R_{F20/C5}(x)\) | \(=\) | \(x^4+\)\(968x^2+\)\(15972x+\)\(395307\) | |
\(=\) | \((x^2-22x+1089)\)\((x^2+22x+363)\) |
です。因数分解の結果の2つの2次式はいずれも既約なので、リゾルベント方程式には有理数の根がありません。従って \(x^5+11x-44=0\) のガロア群は \(C_5\) ではなく \(D_{10}\) です。
もし仮に、\(R_{F20/C5}(x)=0\) のリゾルベント方程式が重複度1の有理数根をもてば、「ガロア群とリゾルベントの関係性定理」に従って、ガロア群は \(H\) の共役群の部分群ということになります。
ただし、No.359「高校数学で理解するガロア理論(6)」で書いたように、\(H=\langle\:(1,2,3,4,5)\:\rangle\)(\(=C_5\)) は \(G=\langle\:(1,2,3,4,5),\:(2,3,5,4)\:\rangle\)(\(=F_{20}\))の正規部分群です。従って、\(G\) における \(H\) と共役な群は \(H\) だけです。また、\(H\) に部分群はありません。つまり、ガロア群は \(H=\langle\:(1,2,3,4,5)\:\rangle\) です。
さらに、その \(H\) は \(F_{C1}\) と共役な \(F_{C2},\:F_{C3},\:F_{C4}\) の固定化群でもある。ということは、ガロア群で固定される \(F_{C2},\:F_{C3},\:F_{C4}\) は全て有理数です。これは、ガロア群が \(C_5\) になる方程式の例(後述)で確認できます。
実は、\(x^5+px+q=0\) の形の方程式のガロア群が \(C_5\)(=位数 \(5\) の巡回群)になることはありません。これはガロア理論から分かります。つまり、5次方程式の根 \(x_1,\:x_2,\:x_3,\:x_4,\:x_5\) のうち、実数根の数は1、3、5のどれかです。方程式が可解である前提では「実数解が3つの5次方程式は可解ではない(66B)」ので、実数根の数は1、5のどちらかです。\(x_1\) が実数だとすると、拡大次数(33G)は、
\([\:\boldsymbol{Q}(x_1)\::\:\boldsymbol{Q}\:]=5\)
です(33F)。従って、最小分解体を \(\boldsymbol{L}=\boldsymbol{Q}(x_1,x_2,x_3,x_4,x_5)\) とすると、
\([\:\boldsymbol{L}\::\:\boldsymbol{Q}\:]\geq5\)
ですが、複素数根があるとすると、\([\:\boldsymbol{L}\::\:\boldsymbol{Q}\:] > 5\) です。従って、\([\:\boldsymbol{L}\::\:\boldsymbol{Q}\:]=5\) となるのは、複素数根がないとき、つまり実数根が5つの場合で、かつ、
\(\boldsymbol{Q}(x_1)=\boldsymbol{Q}(x_2)=\boldsymbol{Q}(x_3)=\boldsymbol{Q}(x_4)=\boldsymbol{Q}(x_5)\)
が成り立つときだけです。つまり \(x_1\) の四則演算で他の実数根が表わされる場合です(3次方程式のガロア群が \(C_3\) になる場合と同じ原理。No.358 参照)。
しかし、\(f(x)=x^5+px+q\) を微分すると \(f\,'(x)=5x^4+p\) ですが、\(f\,'(x)=0\) の実数根の数は高々2つであり、これから \(f(x)=0\) の実数根は高々3つであることが分かります。つまり、\([\:\boldsymbol{L}\::\:\boldsymbol{Q}\:]=5\) はあり得ません。従って \(|\mathrm{Gal}(\boldsymbol{L}/\boldsymbol{Q})|=5\) とはならず(52B)、ガロア群が \(C_5\) になることはないのです。
可解な方程式の根をべき根で求める計算手法は文献2に書かれていますが、ガロア理論とは離れるので省略します。
|
\(\begin{eqnarray}
&&\:\:\alpha&=1.8777502748964972576\cdots\\
&&&=\dfrac{\sqrt[5]{11}}{(\sqrt[5]{5})^4}(\alpha_1+\alpha_2-\alpha_3+\alpha_4)\\
\end{eqnarray}\)
\(\alpha_1=\sqrt[5]{\phantom{-}75+50\sqrt{5}-12\sqrt{5-\sqrt{5}}-59\sqrt{5+\sqrt{5}}}\)
\(\alpha_2=\sqrt[5]{\phantom{-}75-50\sqrt{5}+59\sqrt{5-\sqrt{5}}-12\sqrt{5+\sqrt{5}}}\)
\(\alpha_3=\sqrt[5]{-75+50\sqrt{5}+59\sqrt{5-\sqrt{5}}-12\sqrt{5+\sqrt{5}}}\)
\(\alpha_4=\sqrt[5]{\phantom{-}75+50\sqrt{5}+12\sqrt{5-\sqrt{5}}+59\sqrt{5+\sqrt{5}}}\)
ガロア群が \(C_5,\:F_{20},\:S_5,\:A_5\) の5次方程式
以上のように \(x^5+11x-44=0\) のガロア群は \(D_{10}\) であることが確認できましたが、それ以外のガロア群についても例を挙げます。
ガロア群:\(C_5\) |
文献2には、ガロア群が \(C_5\) になる方程式の例として、
\(x^5-110x^3-55x^2+2310x+979=0\)
\((\textbf{A})\)
という、少々ややこしい式があげてあります。このリゾルベントを計算してみると次の通りで、ガロア群が \(C_5\) であることが確認できます。このケースでは、前述の通り、リゾルベント方程式 \(R_{F20/C5}(x)=0\) が重複度を含めて4つの有理数根(そのうちの一つは重複度1の根、\(990\))をもっています。
\(R_{S5/F20}(x)\)
\(x^6+\)\(18480x^5+\)\(47764750x^4-\)\(580262760000x^3-\)\(1796651418959375x^2+\)\(2980357148316659375x-\)\(360260685644469671875\) |
\((x+\)\(9955)(x^5+\)\(8525x^4-\)\(37101625x^3-\)\(210916083125x^2+\)\(303018188550000x-\)\(36188918698590625)\) |
\({}\)
\(R_{S5/A5}(x)\) \((\textbf{B})\)
\(=x^2-1396274566650390625\)
\(=(x-1181640625)(x+1181640625)\)
\(R_{F20/C5}(x)\)
\(x^4+165x^3-\)\(698775x^2-\)\(383161625x-\)\(56495958750\) |
文献2にはありませんが、もっとシンプルな5次方程式でガロア群が \(C_5\) になる例をあげると、たとえば、
\(x^5+x^4-4x^3-3x^2+3x+1=0\)
\((\textbf{C})\)
がそうです。このリゾルベントを計算すると、3つのリゾルベントが重複度1の有理数根をもっており、ガロア群が \(C_5\) であることが確認できます。
\(R_{S5/F20}(x)\)
\(x^6+\)\(30x^5+\)\(133x^4-\)\(2340x^3-\)\(12284x^2+\)\(29519x-\)\(\:3856\) |
\((x+\)\(16)(x^5+\)\(14x^4-\)\(91x^3-\)\(884x^2+\)\(1860x-\)\(241)\) |
\(R_{S5/A5}(x)\)
\(=x^2\:-1464\)
\(=(x-121)(x+121)\)
\(R_{F20/C5}(x)\)
\(=x^4+5x^3-36x^2-272x-448\)
\(=(x-7)(x+4)^3\)
\(x^5+x^4-4x^4-3x^2+3x+1=0\) の解を Python の SymPy モジュールで求めると次のようになります。この方程式は \(C_5\) なので、5つの実数根をもちます。その中の最大の実数根を \(\alpha\) とすると、\(\alpha\) の近似値と厳密値は次の通りです。確かに、べき根と四則演算で表現可能です。
\(\alpha\) | \(=1.6825070656623624\:\cdots\) | |
\(=-\dfrac{1}{5}+\dfrac{\sqrt[5]{88}}{40}(\alpha_1+\alpha_2+\alpha_3+\alpha_4)\) |
\((-1+\sqrt{5}-\sqrt{-10-2\sqrt{5}})\cdot\)\(\sqrt[5]{-89+25\sqrt{5}+25\sqrt{-10-2\sqrt{5}}+20\sqrt{-10+2\sqrt{5}}}\) |
\((-1+\sqrt{5}-\sqrt{-10-2\sqrt{5}})\cdot\)\(\sqrt[5]{-89-25\sqrt{5}-25\sqrt{-10+2\sqrt{5}}+20\sqrt{-10-2\sqrt{5}}}\) |
\((-1+\sqrt{5}+\sqrt{-10-2\sqrt{5}})\cdot\)\(\sqrt[5]{-89-25\sqrt{5}+25\sqrt{-10+2\sqrt{5}}-20\sqrt{-10-2\sqrt{5}}}\) |
\((-1+\sqrt{5}+\sqrt{-10-2\sqrt{5}})\cdot\)\(\sqrt[5]{-89+25\sqrt{5}-25\sqrt{-10-2\sqrt{5}}-20\sqrt{-10+2\sqrt{5}}}\) |
実は、この方程式の解は、\(1\) の原始\(11\)乗根を \(\zeta\) とすると、
\(x=\zeta+\dfrac{1}{\zeta}\)
です。\(1\) の原始\(11\)乗根は、\(\zeta^{11}-1=0\) の \(1\) ではない解なので、
\(\zeta^{10}+\)\(\zeta^9+\)\(\zeta^8+\)\(\zeta^7+\)\(\zeta^6+\)\(\zeta^5+\)\(\zeta^4+\)\(\zeta^3+\)\(\zeta^2+\)\(\zeta+\)\(1=0\) |
を満たす \(10\)個の値です。\(\zeta^5\) で割ると、
\(\zeta^5+\)\(\dfrac{1}{\zeta^5}+\)\(\zeta^4+\)\(\dfrac{1}{\zeta^4}+\)\(\zeta^3+\)\(\dfrac{1}{\zeta^3}+\)\(\zeta^2+\)\(\dfrac{1}{\zeta^2}+\)\(\zeta+\)\(\dfrac{1}{\zeta}+\)\(1=0\) |
になりますが、この式を \(\zeta+\dfrac{1}{\zeta}=x\) とおいて書き直すと、
\(x^5+x^4-4x^4-3x^2+3x+1=0\)
の方程式になります。ここで改めて、原始\(11\)乗根のどれか一つを \(\zeta\) とします。すると、方程式の解、\(x_1,\:x_2,\:x_3,\:x_4,\:x_5\) は、
\(x_1=\zeta\) | \(+\zeta^{-1}=\zeta\) | \(+\zeta^{10}\) | |
\(x_2=\zeta^2\) | \(+\zeta^{-2}=\zeta^2\) | \(+\zeta^{9}\) | |
\(x_3=\zeta^3\) | \(+\zeta^{-3}=\zeta^3\) | \(+\zeta^{8}\) | |
\(x_4=\zeta^4\) | \(+\zeta^{-4}=\zeta^4\) | \(+\zeta^{7}\) | |
\(x_5=\zeta^5\) | \(+\zeta^{-5}=\zeta^5\) | \(+\zeta^{6}\) |
と表わせます。さらに、写像 \(\sigma\) を、
\(\sigma\::\:\zeta\:\longmapsto\:\zeta^2\)
と定義すると、
\(\sigma\cdot x_1=\zeta^2\) | \(+\zeta^{20}=\zeta^2\) | \(+\zeta^{9}\) | \(=x_2\) | |
\(\sigma\cdot x_2=\zeta^4\) | \(+\zeta^{18}=\zeta^4\) | \(+\zeta^{7}\) | \(=x_4\) | |
\(\sigma\cdot x_3=\zeta^6\) | \(+\zeta^{16}=\zeta^6\) | \(+\zeta^{5}\) | \(=x_5\) | |
\(\sigma\cdot x_4=\zeta^8\) | \(+\zeta^{14}=\zeta^8\) | \(+\zeta^{3}\) | \(=x_3\) | |
\(\sigma\cdot x_5=\zeta^{10}\) | \(+\zeta^{12}=\zeta^{10}\) | \(+\zeta\) | \(=x_1\) |
となって、\(\sigma\) は方程式の解を、
\(x_1\longrightarrow x_2\longrightarrow x_4\longrightarrow x_3\longrightarrow x_5\longrightarrow x_1\)
と巡回させます。従って、方程式のガロア群は、
\(\{\sigma,\:\sigma^2,\:\sigma^3,\:\sigma^4,\:\sigma^5=e\}\cong C_5\)
の巡回群です。つまり、この方程式に限ってはリゾルベントを用いなくてもガロア群が \(C_5\) であることが分かるのでした。さらに、\((\textbf{A})\) の5次方程式 は \((\textbf{C})\) と実質的に同じものです。\((\textbf{C})\) を \(5^5\) 倍すると、
\(5(5x)^4-\)\(4\cdot5^2(5x)^3-\)\(3\cdot5^3(5x)^2+\)\(3\cdot5^4(5x)+\)\(5^5=0\) |
が得られますが、この左辺に \(5x=t-1\) を代入すると、
\(5(t-1)^4-\)\(100(t-1)^3-\)\(375(t-1)^2+\)\(1875(t-1)+\)\(3125\) |
となり、4乗の項が消えて \((\textbf{A})\) になります。ということで、\((\textbf{A})\) の "元ネタ" は \((\textbf{C})\) でした。
ガロア群:\(F_{20}\) |
No.359 で、可解な5次方程式 \(x^5-2=0\) のガロア群が、位数 \(20\) のフロベニウス群 \(F_{20}\) であることを書きましたが、そのリゾルベントを計算してみると次の通りです。
\(f(x)=x^5-2\)
\(\begin{eqnarray}
&&\:\: R_{S5/F20}(x)&=x^6-50000x\\
&&&=x(x^5-50000)\\
&&\:\: R_{S5/A5}(x)&=x^2-50000\\
\end{eqnarray}\)
\(R_{S5/F20}(x)=0\) は \(x=0\) の根がありますが、\(R_{S5/A5}(x)\) は既約多項式であり、ガロア群は \(F_{20}\) です。
もう一つ、\(F_{20}\) の例を挙げます。
\(f(x)=x^5+15x+44\)
\(R_{S5/F20}(x)\) | \(=\) | \(x^6+\)\(120x^5+\)\(9000x^4+\)\(540000x^3+\)\(20250000x^2-\)\(11324000000x-\)\(524160000000\) | |
\(=\) | \((x-\)\(80)(x^5+\)\(200x^4+\)\(25000x^3+\)\(2540000x^2+\)\(223450000x+\)\(6552000000)\) |
この \(R_{S5/A5}(x)\) も既約多項式であり(\(11907200000\) は平方数ではない)、ガロア群は \(F_{20}\) です。\(x^5+15x+44=0\) の解を求めると次のようになります。この方程式は1つの実数根と4つの虚数根をもちます。その実数根を \(\alpha\) とすると、\(\alpha\) の近似値と厳密値は次の通りです。べき根と四則演算で表現可能です。
\(\alpha\) | \(=-1.7712057508320898\:\cdots\) | |
\(=-\dfrac{1}{\sqrt[5]{5}}(\alpha_1-\alpha_2+\alpha_3+\alpha_4)\) |
\(\alpha_1=\sqrt[5]{-5-\sqrt{\phantom{1}5(7-3\sqrt{5})}+\sqrt{\phantom{1}5(7+3\sqrt{5})}}\)
\(\alpha_2=\sqrt[5]{\phantom{-}5-\sqrt{\phantom{1}5(7-3\sqrt{5})}+\sqrt{\phantom{1}5(7+3\sqrt{5})}}\)
\(\alpha_3=\sqrt[5]{\:\:15-\sqrt{10(9-4\sqrt{5})}-\sqrt{10(9+4\sqrt{5})}}\)
\(\alpha_3=\sqrt[5]{\:\:15+\sqrt{10(9-4\sqrt{5})}+\sqrt{10(9+4\sqrt{5})}}\)
ガロア群:\(S_5\) |
No.357 の記事の末尾で、可解でない方程式の代表としてあげた方程式(実数解が3つの5次方程式)のリゾルベントは次の通りです。
\(f(x)=x^5-5x+1\)
\(R_{S5/F20}(x)\) | \(=\) | \(x^6-\)\(40x^5+\)\(1000x^4-\)\(20000x^3+\)\(250000x^2-\)\(1603125x+\)\(4046875\) | |
\(R_{S5/A5}(x)\) | \(=\) | \(x^2+\)\(796875\) |
2つのリゾルベントが共に既約多項式なので、ガロア群は \(S_5\) です。\(R_{S5/F20}(x)\) が既約である(有理数で因数分解できない)ことは SymPy で確認できます。
ガロア群:\(A_5\) |
以前に書いた記事にはありませんが、ガロア群が \(A_5\) になる例もあげておきます。
\(f(x)=x^5+20x+16\)
\(R_{S5/F20}(x)\) | \(=\) | \(x^6+\)\(160x^5+\)\(16000x^4+\)\(1280000x^3+\)\(64000000x^2+\)\(1433600000x+\)\(4096000000\) | |
\(R_{S5/A5}(x)\) | \(=\) | \(x^2-1024000000\) | |
\(=\) | \((x-32000)(x+32000)\) |
この \(R_{S5/F20}(x)\) も既約多項式です。
「ガロア群とリゾルベントの関係性定理」をよく読むと、この定理ではガロア群が決定できないケースがあります。それは、
リゾルベント方程式が有理数の根を持つが、重根の有理数根しか持たない
ケースです。固定化群が \(C_5\)(\(G=F_{20},\:H=C_5\))の場合にはこれが起こりえます。この場合、文献1では、元の方程式をガロア群が同じである別の方程式に変数変換してリゾルベントを計算するアルゴリズムが書かれていますが、詳細になるので割愛します。
リゾルベントとガロア群を求めるコード
この記事で書いたリゾルベントの計算は、実際は Python の SymPy モジュールを使ったプログラムで行いました。従って、正確かどうかはそのプログラムの正しさに依存します。念のため、そのプログラムを掲げておきます。
この中に、gCalculateResolvent() という関数がありますが、5次方程式の係数を受け取ってリゾルベントを計算し、表示します。また、ガロア群の種類を表示します。方程式の係数は、5次方程式を、
\(x^5+ax^4+bx^3+cx^2+dx+e=0\)
としたとき、\([a,\:b,\:c,\:d,\:e]\) のリストです。\(a\) ~ \(e\) は整数、ないしはプログラムの冒頭で定義された変数(=シンボル。下記では \(p,\:q\))です。一部が整数、一部が変数であってもかまいません。
SymPy の symmetrize というメソッドが出てきますが、複数シンボルの式を、それらシンボルの基本対称式で表わすものです。また factor(因数分解をする)や solve(方程式を解く)、gcd(多項式の最大公約数を求める)も使っています。
import sympy as sy from IPython.display import display, Math from sympy.polys.polyfuncs import symmetrize x1, x2, x3, x4, x5 = sy.symbols('x1:6') s1, s2, s3, s4, s5 = sy.symbols('s1:6') x, p, q = sy.symbols('x, p, q') # ================================ # メインプログラム # ================================ def main(): eq = [0, 0, 0, p, q] # x**5+p*x+q=0 gCalculateResolvent(eq) # eq = [0, 0, 0, 11, -44] # x**5+11*x-44=0 : D10 gCalculateResolvent(eq) # ================================ # リゾルベントの計算で使用する関数 # ================================ def gPermutation(x, permutaion): # リスト x の要素を置換(permutaion)に従って入替える new = [x[permutaion[i]-1] for i in range(len(x))] return new def gConjugate(equation, permutaion): # 5変数の多項式を permutaion に従って置換する v = [x1, x2, x3, x4, x5] pv = gPermutation(v, permutaion) new = equation.subs(zip(v, pv), simultaneous=True) return new def gComplexToInt(x, e=1.0e-8): # 虚部が 0 に近く、実部が整数に近い複素数を整数化する。 a = x.real; if abs(x.imag) < e and abs(round(a) - a) < e: return round(a) else: return x def gDisplayLaTex(header, eq): # LaTex 形式で表示する ltx = header.replace(' ', r'\quad') + sy.latex(eq) display(Math(ltx)) # ================================ # リゾルベントの計算関数 # ================================ def gCalculateResolvent(eq): # Galois = "UnKnown" # ガロア群の名称 # Coeff_is_Integer = True # 方程式の係数がすべて整数(変数なし) for coef in eq: if type(coef) != int: Coeff_is_Integer = False break # # 方程式を表示 # equation = x**5 + eq[0]*x**4 + eq[1]*x**3 + \ eq[2]*x**2 + eq[3]*x + eq[4] gDisplayLaTex("f(x)=", equation) # ---------------------------- # Resolvent S5/F20 を計算する # F1 : F20 で不変な多項式 # ---------------------------- F1 = x1**2*x2*x5 + x1**2*x3*x4 + \ x2**2*x1*x3 + x2**2*x4*x5 + \ x3**2*x1*x5 + x3**2*x2*x4 + \ x4**2*x1*x2 + x4**2*x3*x5 + \ x5**2*x1*x4 + x5**2*x2*x3 # S5/F20 の代表元 representatives = [[1,2,3,4,5], # e [2,3,1,4,5], # (1,2,3) [3,1,2,4,5], # (1,3,2) [2,1,3,4,5], # (1,2) [3,2,1,4,5], # (1,3) [1,3,2,4,5]] # (2,3) # S5 で F1 と共役な多項式 F2 = gConjugate(F1, representatives[1]) # (1,2,3) F3 = gConjugate(F1, representatives[2]) # (1,3,2) F4 = gConjugate(F1, representatives[3]) # (1,2) F5 = gConjugate(F1, representatives[4]) # (1,3) F6 = gConjugate(F1, representatives[5]) # (2,3) F = [F1, F2, F3, F4, F5, F6] # # Resolvent # R = (x - F1)*(x - F2)*(x - F3)* \ (x - F4)*(x - F5)*(x - F6) R = sy.expand(R) # # Resolventの係数を取り出し、基本対称式表現にし、 # 方程式の係数で置き換え、Resolventを作り直す # sympy.polys.polyfuncs.symmetrize を使う # c = [R.coeff(x, i) for i in range(6)] for i in range(6): c[i] = symmetrize(c[i], formal=True)[0] c[i] = c[i].subs([(s1, -eq[0]), \ (s2, eq[1]), \ (s3, -eq[2]), \ (s4, eq[3]), \ (s5, -eq[4])]) # s1 ... s5 は symmetrize から # 返される基本対称式のシンボル名 R = x**6 + c[5]*x**5 + c[4]*x**4 + c[3]*x**3 + \ c[2]*x**2 + c[1]*x + c[0] gDisplayLaTex(" R_{S5/F20}(x)=", R) # # Resolventを因数分解する # 因数分解できればResolvent方程式は有理数根がある # if Coeff_is_Integer: R_save = R R = sy.factor(R) if R == R_save: F20Rational = False else: F20Rational = True gDisplayLaTex(" =", R) # ----------------------------------------------- # Resolvent S5/A5 を計算する # F1 : A5 の作用で不変な多項式(5次方程式の差積) # ----------------------------------------------- F1 = (x1 - x2)*(x1 - x3)*(x1 - x4)*(x1 - x5)* \ (x2 - x3)*(x2 - x4)*(x2 - x5)*(x3 - x4)* \ (x3 - x5)*(x4 - x5) # S5 で F1 と共役な多項式 F2 = gConjugate(F1, [2, 1, 3, 4, 5]) # (1, 2) # R = (x - F1)*(x - F2) R = sy.expand(R) c = [R.coeff(x, i) for i in range(2)] for i in range(2): c[i] = symmetrize(c[i], formal=True)[0] c[i] = c[i].subs([(s1, -eq[0]), \ (s2, eq[1]), \ (s3, -eq[2]), \ (s4, eq[3]), \ (s5, -eq[4])]) R = x**2 + c[1]*x + c[0] gDisplayLaTex(" R_{S5/A5}(x)=", R) # # Resolventを因数分解 # if Coeff_is_Integer: R_save = R R = sy.factor(R) if R == R_save: A5Rational = False else: A5Rational = True gDisplayLaTex(" =", R) # # Galois群を決める # if Coeff_is_Integer: if F20Rational: if A5Rational: Galois = "D10/C5" else: Galois = "F20" else: if A5Rational: Galois = "A5" else: Galois = "S5" # # Resolvent F20/C5 を計算(別関数) # if Galois == "D10/C5": Galois = gCalculateResolventC5(eq, F, representatives) print(f" (Galois group = {Galois})") # return # ================================ # リゾルベントの計算関数(F20/C5) # ================================ def gCalculateResolventC5(eq, F, representatives): # # 方程式の解を求める(sympy.solve) # sols = sy.solve(x**5 + eq[0]*x**4 + eq[1]*x**3 + \ eq[2]*x**2 + eq[3]*x + eq[4]) xvalue = [] # 方程式の根(複素数) for sol in sols: xvalue.append(complex(sol.evalf())) # # F20 の生成元を (1,2,3,4,5), (2,3,5,4) とするため # 共役な多項式のうちの F1 (=F[0]) が有理数になるように # 根を入れ替える # xsymbol = [x1, x2, x3, x4, x5] # 有理数となるFiを探索 for rational, Fi in enumerate(F): val = Fi.subs(zip(xsymbol, xvalue)) val = complex(sy.expand(val)) if type(gComplexToInt(val)) == int: break # 根を入れ替える xvalue = gPermutation(xvalue, representatives[rational]) # # F1 : C5 (1,2,3,4,5) で不変な多項式 # F1 = x1*x2**2 + x2*x3**2 + x3*x4**2 + \ x4*x5**2 + x5*x1**2 # # F20 において F1 と共役な多項式を求める # 剰余類 F20/C5 の代表元は # e, (2,3,5,4), (2,5)(3,4), (2,4,5,3) # F2 = gConjugate(F1, [1,3,5,2,4]) # (2,3,5,4) F3 = gConjugate(F1, [1,5,4,3,2]) # (2,5)(3,4) F4 = gConjugate(F1, [1,4,2,5,3]) # (2,4,5,3) # # Resolvent F20/C5 # R = (x - F1)*(x - F2)*(x - F3)*(x - F4) R = R.subs(zip(xsymbol, xvalue)) R = sy.expand(R) c = [complex(R.coeff(x, i)) for i in range(4)] for i in range(4): c[i] = gComplexToInt(c[i], e=1.0e-4) R = x**4 + c[3]*x**3 + c[2]*x**2 + c[1]*x + c[0] gDisplayLaTex(" R_{F20/C5}(x)=", R) R = sy.factor(R) # 因数分解 gDisplayLaTex(" =", R) # # Galois群を決める # sols = sy.solve(R) # リゾルベント方程式の根を求める IntegerRoot = False # True : 有理数根をもつ SimpleRoot = False # True : 単根の有理数根をもつ for a in sols: if type(a) != sy.core.numbers.Integer: continue # sy. ... .Integer : sympy の整数クラス IntegerRoot = True multiple_root = sy.expand((x - int(a))**2) if sy.gcd(R, multiple_root) != multiple_root: SimpleRoot = True break # if SimpleRoot: Galois = "C5" else: if not IntegerRoot: # 有理数根がない Galois = "D10" else: Galois = "D10/C5" return Galois # ================================ # メインプログラムを呼び出す # ================================ main() |
実行結果
\(f(x)=px+q+x^5\) \(\begin{eqnarray} &&\:\:R_{S5/F20}(x)&=&256p^6+400p^4x^2+160p^3x^3+40p^2x^4\\ &&&&-9375pq^4+8px^5+x^6+x(512p^5-3125q^4)\\ &&\:\:R_{S_5/A_5}(x)&=&-256p^5-3125q^4+x^2\\ \end{eqnarray}\) \(f(x)=x^5+11x-44\) \(\begin{eqnarray} &&\:\:R_{S5/F20}(x)&=&x^6+88x^5+4840x^4+212960x^3+\\ &&&&5856400x^2-11630341888x-386068880384\\ &&&=&(x-88)(x^5+176x^4+20328x^3+2001824x^2+\\ \end{eqnarray}\) \(182016912x+4387146368)\) \(\begin{eqnarray} &&\:\:R_{S5/A5}(x)&=&x^2-11754029056\\ &&&=&(x-108416)(x+108416)\\ &&\:\:R_{F20/C5}(x)&=&x^4+968x^2+15972x+395307\\ &&&=&(x^2-22x+1089)(x^2+22x+363)\\ \end{eqnarray}\) (Galois group = D10) |
上の実行結果は Python コードの出力を見やすいように多少整形してあります。ちなみに文献2には、
\(f(x)=x^5+px^3+qx^2+rx+s\)
としたときのリゾルベント \(R_{S5/F20}(x)\) が記述されています。方程式に4乗の項がないのは、一般の5次方程式が簡単な変数変換で4乗の項をなくせるからです。この式のリゾルベントを上の Python コードで計算すると、
\(R_{S5/F20}(x)\)
\(x^6+\)\(8rx^5+\)\(x^4(-\)\(6p^2r+\)\(2pq^2-\)\(50qs+\)\(40r^2)+\)\(x^3(-\)\(15p^2qs-\)\(40p^2r^2+\)\(21pq^2r+\)\(125ps^2-\)\(2q^4-\)\(400qrs+\)\(160r^3)+\)\(x^2(9p^4r^2-\)\(6p^3q^2r+\)\(p^2q^4+\)\(90p^2qrs-\)\(136p^2r^3-\)\(50pq^3s+\)\(76pq^2r^2+\)\(500prs^2-\)\(8q^4r+\)\(625q^2s^2-\)\(1400qr^2s+\)\(400r^4)+\)\(x(-\)\(108p^5s^2+\)\(117p^4qrs+\)\(32p^4r^3-\)\(31p^3q^3s-\)\(51p^3q^2r^2+\)\(525p^3rs^2+\)\(19p^2q^4r-\)\(325p^2q^2s^2+\)\(260p^2qr^2s-\)\(256p^2r^4-\)\(2pq^6+\)\(105pq^3rs+\)\(76pq^2r^3+\)\(625pqs^3-\)\(500pr^2s^2-\)\(58q^5s+\)\(3q^4r^2+\)\(2750q^2rs^2-\)\(2400qr^3s+\)\(512r^5-\)\(3125s^4)-\)\(27p^7s^2+\)\(18p^6qrs-\)\(4p^6r^3-\)\(4p^5q^3s+\)\(p^5q^2r^2-\)\(99p^5rs^2-\)\(150p^4q^2s^2+\)\(196p^4qr^2s+\)\(48p^4r^4+\)\(12p^3q^3rs-\)\(128p^3q^2r^3+\)\(1200p^3r^2s^2-\)\(12p^2q^5s+\)\(65p^2q^4r^2-\)\(725p^2q^2rs^2-\)\(160p^2qr^3s-\)\(192p^2r^5+\)\(3125p^2s^4-\)\(13pq^6r-\)\(125pq^4s^2+\)\(590pq^3r^2s-\)\(16pq^2r^4-\)\(1250pqrs^3-\)\(2000pr^3s^2+\)\(q^8-\)\(124q^5rs+\)\(17q^4r^3+\)\(3250q^2r^2s^2-\)\(1600qr^4s+\)\(256r^6-\)\(9375rs^4\) |
となりますが、これは文献2の記述と完全に一致します。また文献2には、
\(x^5-110x^3-55x^2+2310x+979=0\)
\((\textbf{A})\)
のリゾルベント方程式 \(R_{S5/F20}(x)=0\) が \(x=-9955\) の有理数根をもつと書かれていますが、これは本文中に書いた Python コードの出力結果 = \((\textbf{B})\) と一致しています。
補記:対称式 |
本文中に、
対称式は基本対称式で表現できる |
ことを前提とした記述をしました。No.354-359「高校数学で理解するガロア理論」(1~6)ではこの前提を使いませんでしたが、本記事では何回か出ています。例としてあげたコードでも、Python の Sympy.polys.polyfuncs.symmetrize を使って、対称式を基本対称式から成る多項式に変換しています。
そこで、「高校数学で理解する\(\cdot\cdot\cdot\)」シリーズの原則(高校数学を越える事項は証明をする)にのっとって、「対称式は基本対称式で表現できる」ことの証明をここに書くことにします。この証明の流儀には大きく2つあって、
(1) | 対称式に出てくる変数の種類数についての数学的帰納法で証明する | ||
(2) | 対称式を基本対称式であらわすアルゴリズムが存在することを言う |
の2つです。ここでは後者に沿って証明します。まず各種の定義からです。
対称式と基本対称式
まず、対称式(Symmetric polynominal)の定義ですが、
\(n\)変数(\(n\)文字)の対称式とは、\(n\)個の変数の任意の置換を変数に作用させても不変な多項式 |
です。\(n\)変数の任意の置換は、群論の言葉では \(n\)次対称群 \(S_n\) で、元の数は \(n!\) です。この任意の一つの元を \(\sigma\) と書くと、対称式を \(S(x_1,x_2,\cdots,x_n)\) として、
\(S(\sigma(x_1),\sigma(x_2),\cdots,\sigma(x_n))\)
\(=S(x_1,x_2,\cdots,x_n)\) \((\sigma\in S_n)\)
となる多項式が対称式です。本文に出てきた例では、
\(-(x_1-x_2)^2\cdot(x_1-x_3)^2\cdot(x_2-x_3)^2\)
\(4s_1^3s_3-\)\(s_1^2s_2^2-\)\(18s_1s_2s_3+\)\(4s_2^3+\)\(27s_3^2\) |
\(s_2=x_1x_2+x_2x_3+x_3x_1\)
\(s_3=x_1x_2x_3\)
などです。一方の基本対称式(Elementary symmetric polynominal)ですが、
\(n\)変数の基本対称式とは、 \(s_1(x_1,x_2,\cdots,x_n)=\displaystyle\sum_{1\leq a\leq n}^{}x_a\) \(s_2(x_1,x_2,\cdots,x_n)=\displaystyle\sum_{1\leq a < b\leq n}^{}x_ax_b\) \(s_3(x_1,x_2,\cdots,x_n)=\displaystyle\sum_{1\leq a < b < c\leq n}^{}x_ax_bx_c\) \(\vdots\) \(s_k(x_1,x_2,\cdots,x_n)=\displaystyle\sum_{1\leq a_1 < \cdots< a_k\leq n}^{}x_{a_1}\cdots x_{a_k}\) \(\vdots\) \(s_n(x_1,x_2,\cdots,x_n)=x_1x_2x_3\cdots x_n\) の \(n\)個の対称式 |
がその定義です。以降、基本対称式を単に \(s_1,\:s_2,\:\cdots,\:s_n\) と書きます。ガロア理論では5次方程式を取り上げることが多いので、5変数の基本対称式を書くと、
\(s_1\) | \(=\) | \(x_1+\)\(x_2+\)\(x_3+\)\(x_4+\)\(x_5\) | |
\(s_2\) | \(=\) | \(x_1x_2+\)\(x_1x_3+\)\(x_1x_4+\)\(x_1x_5+\)\(x_2x_3+\)\(x_2x_4+\)\(x_2x_5+\)\(x_3x_4+\)\(x_3x_5+\)\(x_4x_5\) | |
\(s_3\) | \(=\) | \(x_1x_2x_3+\)\(x_1x_2x_4+\)\(x_1x_2x_5+\)\(x_1x_3x_4+\)\(x_1x_3x_5+\)\(x_1x_4x_5+\)\(x_2x_3x_4+\)\(x_2x_3x_5+\)\(x_2x_4x_5+\)\(x_3x_4x_5\) | |
\(s_4\) | \(=\) | \(x_1x_2x_3x_4+\)\(x_1x_2x_3x_5+\)\(x_1x_2x_4x_5+\)\(x_1x_3x_4x_5+\)\(x_2x_3x_4x_5\) | |
\(s_5\) | \(=\) | \(x_1x_2x_3x_4x_5\) |
となります。\(s_1,\:s_2\:\cdots\) などの \(1,\:2\:\cdots\) は、基本対称式に含まれる項の次数(=掛け合わせる変数の個数)です。これらの基本対称式は方程式と関係していて、
\(f(x)\) | \(=\) | \((x-x_1)\)\((x-x_2)\)\((x-x_3)\)\((x-x_4)\)\((x-x_5)\) | |
\(=\) | \(x^5-s_1x^4+\)\(s_2x^3-s_3x^2+\)\(s_4x-s_5\) |
という「根と係数の関係」があります。
証明の前提 |
以降、記述を読みやすくするため、3変数の場合の証明をします。ただし、一般の \(\boldsymbol{n}\) 変数の場合でも全く同じように証明できる書き方をします(\(n=3\) の特殊性は使わない)。また、分かりやすさのために変数を \(x_1,\:x_2,\:x_3\) の代わりに \(x,\:y,\:z\) とします。3変数の基本対称式は
\(s_1=x+y+z\)
\(s_2=xy+xz+yz\)
\(s_3=xyz\)
です。このとき、それぞれの基本対称式で、一つの項の変数は「辞書順に」並べることとし(\(xy,\:xz,\:xyz\) など)、項を並べる順序も「辞書順」にします。たとえば、\(s_2\) については、
\(s_2=xy+yz+zx\) ではなく
\(s_2=xy+xz+yz\)
とします。この2つは数学的には同じ意味ですが、あとの証明で辞書順表記を使います。さらに、以降では、
すべての項の次数が \(k\)次である対称式が基本対称式で表せる |
ことを証明します。「項の次数が \(k\)次の対称式」とは、項を \(x^ay^bz^c\) としたとき、\(a+b+c=k\) の項だけからなる対称式(\(0\leq a,\:b,\:c\leq k\))です。\(k\)次の対称式だけの証明でよい理由は、\(n\)変数(\(n\)文字)の対称式 \(S(x,\:y,\:z)\) に含まれる項の最大の次数を \(m\) とすると
\(S(x,\:y,\:z)=\displaystyle\sum_{k=1}^{m}(k\)次の多項式\()\)
となることは明白なので、\(k\)次の対称式が基本対称式で表すことができれば、任意の対称式が基本対称式で表現できるからです。以降、\(S(x,\:y,\:z)\) と書けば、特にことわりがない限り \(k\)次の多項式を指すこととします。また、\(k\) 次の対称式を実際に例示するときは \(k=8\) の場合を例示します。
大小関係の定義
対称式の項と、対称式そのものに "大小関係" を次のように定義します。
項の大小の定義 |
対称式に含まれる項の大小関係 2つの項、 \(A\::\:x^{a_1}y^{b_1}z^{c_1}\) \(B\::\:x^{a_2}y^{b_2}z^{c_2}\) があったとき、
に、\(A\) 項は \(B\) 項より大きいと定義 |
します。\(A\) 項と \(B\) 項に係数(=整数)があっても、係数は無視します。「\(A\) 項が \(B\) 項より小さい」ことの定義は、この逆です。この定義は簡潔に言うと「辞書順で前にくる項が大きい」ということです。\(x^4x^3z\) を \(xxxxyyyz\) として辞書の見出しを決めると、上の定義は辞書順になります。なお、\(a_1=a_2,\:b_1=b_2,\:c_1=c_2\) であれば大小関係がイコールですが、同じ対称式の中で大小関係がイコールの項はありません。ただし、2つの別の対称式であれば項同士のイコールがあり得ます。
\(A\) 項が \(B\) 項より大きいとき、
\(x^{a_1}y^{b_1}z^{c_1}\) >> \(x^{a_2}y^{b_2}z^{c_2}\) |
と記述することにします。
最大の項
項の大きさの性質として、対称式の中から最大の項を選ぶと、その項は、
\(x^ay^bz^c\:\:\:(a\geq b\geq c)\)
となります。もし(たとえば)\(a < b\geq c\) だとすると、対称式の中には \(x^by^az^c\) という項が必ずあるので、大小の定義から、
\(x^ay^bz^c\) << \(x^by^az^c\)
となって、\(x^ay^bz^c\) が対称式の中の最大ではなくなるからです。
対称式の大小の定義 |
2つの対称式 \(S_1(x,\:y,\:z)\) と \(S_2(x,\:y,\:z)\) があったとき \(S_1\) に含まれる最大の項 >> \(S_2\) に含まれる最大の項 のとき、\(S_1(x,\:y,\:z)\) が \(S_2(x,\:y,\:z)\) より大きいと定義し、 \(S_1(x,\:y,\:z)\) >> \(S_2(x,,\:y,\:z)\) と書く |
ことにします。「\(S_1\) が \(S_2\) より小さい」はその逆です。ただし、この定義だと大小関係がつけられない場合があります。つまり、\(S_1\) に含まれる最大の項 と \(S_2\) に含まれる最大の項の大小関係がイコールの場合です。その場合は2つの対称式の大小関係は未定義とします。
単純対称式
一つの項、\(x^{a\,'}y^{b\,'}z^{c\,'}\) があったとき、\(x,\:y,\:z\) の任意の置換の結果としての異なる項を足し合わせた多項式を、単純対称式と呼ぶことにします(ここだけの用語です)。単純対称式の中の最大の項を \(x^ay^bz^c\) とし(\(a\geq b\geq c,\:\:a+b+c=k\))、この単純対称式を、
単純対称式 : \(s[abc]\)
と書くことにします。\(k=8\) のとき、つまり \(8\)次の単純対称式を列挙すると、
\(s[800]=x^8+y^8+z^8\)
\(s[710]=x^7y+xy^7+x^7z+xz^7+y^7z+yz^7\)
\(x^6y^2+\)\(x^2y^6+\)\(x^6z^2+\)\(x^2z^6+\)\(y^6z^2+\)\(y^2z^6\) |
\(x^5y^3+\)\(x^3y^5+\)\(x^5z^3+\)\(x^3z^5+\)\(y^5z^3+\)\(y^3z^5\) |
\(x^5y^2z+\)\(x^5yz^2+\)\(x^2y^5z+\)\(x^2yz^5+\)\(xy^5z^2+\)\(xy^2z^5\) |
\(x^4y^3z+\)\(x^4yz^3+\)\(x^3y^4z+\)\(x^3yz^4+\)\(xy^4z^3+\)\(xy^3z^4\) |
\(s[332]=x^3y^3z^2+x^3y^2z^3+x^2y^3z^3\)
の\(10\)個です。\(n\) 種類のものから重複を許して \(k\)個取り出す組合わせの数(いわゆる重複組合わせ)は、\({}_{n+k-1}\mathrm{C}_{k}={}_{n+k-1}\mathrm{C}_{n-1}\) です。従って \(a+b+c=k\:\:(0\leq a,\:b,\:c\leq k\))を満たす \(a,\:b\:c\) の組は、\(n=3,\:\:k=8\) の場合 \({}_{10}\mathrm{C}_{2}=45\) です。実際、上のリストの項の総計は \(45\)です。\(45\)項のうち \(a=b=c\) の項は \(k=8\) の場合ありません。\(a,\:b,\:c\) のうち2つが同じ数となるのは、2つの同じ数として \(0,\:1,\:2,\:3,\:4\) の5種類であり、それぞれに単純対称式が対応します。各単純対称式の項の数は \(3!/2!=3\) で、総計 \(15\) です。\(a,\:b,\:c\) が全部違う項の数は \(45-15=30\) で、これらは \(30/3!=5\) つの単純対称式に分類されます。従って、\(8\)次の単純対称式の数は \(10\)個です。
これらの単純対称式には式の間に大小関係をつけることができ、
\(s[800]\) >> \(s[710]\) >> \(s[620]\) >> \(s[611]\) >> \(s[530]\) >> \(s[521]\) >> \(s[440]\) >> \(s[431]\) >> \(s[422]\) >> \(s[332]\) |
です。単純多項式の概念を使うと、
任意の \(8\)次の対称式 \(S\) は、\(10\)種の単純対称式の1次結合で表現できる
ことがわかります。たとえば \(S\) の中に \(x^2y^5z\) の項があったとすると、単純対称式 \(s[521]\) が \(S\) に含まれていなれけばなりません。でないと、\(S\) が対称式ではなくなるからです。
さらに、\(S_1=S-s[521]\) の中に \(x^2y^4z^2\) が含まれていたなら、単純対称式 \(s[422]\) が \(S_1\) にあるはずです。さらに、\(S_2=S-s[521]-s[422]\) というように、\(S\) に含まれる単純対称式を順に取り外していけば、\(S\) の多項式は無くなり、結局、\(S\) は単純対称式の1次結合で表現できることになります。
基本対称式は単純対称式の一種であり、最もシンプルなものです。3変数の基本対称式は、
\(s_1=s[100]\)
\(s_2=s[110]\)
\(s_3=s[111]\)
です。また、5変数の基本対称式を単純対称式の記号で書くと、
\(s_1=s[10000]\)
\(s_2=s[11000]\)
\(s_3=s[11100]\)
\(s_4=s[11110]\)
\(s_5=s[11111]\)
です。基本対称式は \(1\)次から \(k\)次(\(k\) は変数の数)までがそろっていて、かつ、それぞれの次数で最も小さな単純対称式です。基本対称式のこの性質が、後ほどの証明の鍵となります。
定理の証明
ここまでが準備で、ここからが次の定理の証明です。
対称式は基本対称式で表現できる。 |
任意の \(k\) 次の対称式を \(S_0(x,\:y,\:z)\) とします( \(0\) という添え字を付けたのは、以下の証明のプロセスを意識したものです)。この中から最大の項を選び、それを、
\(m_1\cdot x^ay^bz^c\:\:\:(a\geq b\geq c,\:\:a+b+c=k)\)
とします。一つの対称式の中の項の大小は必ず定義できるので、最大の項は一意に決まります。このことが証明の一つのポイントです。\(m_1\) は整数の係数ですが、表記を見やすくするため、\(m_1=1\) とします。この最大の項を、基本対称式、
\(s_1=x+y+z\)
\(s_2=xy+xz+yz\)
\(s_3=xyz\)
のそれぞれの先頭の項(=それぞれの基本対称式の中での最大の項)だけの乗算で、
\(x^ay^bz^c=(x)^A(xy)^B(xyz)^C\)
と書き換えることを考えます。たとえば、
\(x^4y^3z\) | \(=(x)(xy)^2(xyz)\) | |
\(x^5y^3\) | \(=(x)^2(xy)^3\) | |
\(x^3y^3z^2\) | \(=(xy)(xyz)^2\) |
です。そのためには、
\(A+\) | \(B+\) | \(C\) | \(=a\) | |
\(B+\) | \(C\) | \(=b\) | ||
\(C\) | \(=c\) |
の関係から、
\(A=a-b\)
\(B=b-c\)
\(C=c\)
とすればよく、
\((x)^A(xy)^B(xyz)^C\)
\(=(x)^{a-b}(xy)^{b-c}(xyz)^c\)
\(=x^ay^bz^c\)
となって書き換えができます。この書き換えは一意であるのがポイントです。次に、
\(e_1(x,\:y,\:z)\) | \(=\) | \(s_1^{a-b}\cdot\)\( s_2^{b-c}\cdot\)\( s_3^c\) | |
\(=\) | \((x+y+z)^{a-b}\cdot\)\((xy+xz+yz)^{b-c}\cdot\)\((xyz)^c\) |
という、基本対称式を掛け合わせた対称式 \(e_1(x,\:y,\:z)\) を考えます。この対称式 \(e_1(x,\:y,\:z)\) に含まれる項の次数は、
\((a-b)+2(b-c)+3c=a+b+c=k\)
で、すべて \(k\)次です。つまり \(e_1(x,\:y,\:z)\) は \(k\)次の対称式です。この \(e_1\) の中の最大の項が何かというと、それは基本対称式 \(s_1,\:s_2,\:s_3\) の先頭の項を選んで、それぞれをべき数の分だけ掛け合わせたものになります。つまり、
\(e_1(x,\:y,\:z)\) の最大の項
\(=x^{a-b}(xy)^{b-c}(xyz)^c\)
\(=x^ay^bz^c\)
\(=S_0(x,\:y,\:z)\) の最大の項
です。基本対称式の中の項は辞書順に並べてあり、また項の大小の定義を辞書順(=辞書で前にくる項が大きい)としたため、そうなります。
ちなみに(証明の本筋ではありませんが)、\(e_1(x,\:y,\:z)\) の中で2番目に大きい項は、"大きい" の定義から、
と項を選んで、それらを掛け合わせたものです(\(b-c > 0\) とします)。つまり、\(e_1(x,\:y,\:z)\) の2番目に大きい項は次になります。
\((x+y+z)^{a-b}\) の展開形から \(x^{a-b}\) を選ぶ | |
\((xy+xz+yz)^{b-c}\) の展開形から \((xy)^{b-c-1}\cdot xz\) を選ぶ(\(b-c\) 個ある) | |
\((xyz)^c\) を選ぶ |
と項を選んで、それらを掛け合わせたものです(\(b-c > 0\) とします)。つまり、\(e_1(x,\:y,\:z)\) の2番目に大きい項は次になります。
\(x^{a-b}\cdot(b-c)(xy)^{b-c-1}(xz)\cdot(xyz)^c\)
\(=(b-c)x^ay^{b-1}z^{c+1}\)
\(=(b-c)x^ay^{b-1}z^{c+1}\)
以上を踏まえて、新たな \(k\)次の対称式 \(S_1(x,\:y,\:z)\) を、
\(S_1(x,\:y,\:z)=S_0(x,\:y,\:z)-m_1\cdot e_1(x,\:y,\:z)\)
と定義します。\(S_0(x,\:y,\:z)\) と \(e_1(x,\:y,\:z)\) が \(k\)次の対称式なので \(S_1(x,\:y,\:z)\) も \(k\)次の対称式です。このように定義すると、\(S_0(x,\:y,\:z)\) の中の最大の項は \(m_1\cdot x^ay^bz^c\) で、\(e_1(x,\:y,\:z)\) の中の最大の項も \(m_1\cdot x^ay^bz^c\) なので、\(S_1(x,\:y,\:z)\) の中には \(x^ay^bz^c\) の項がありません。つまり、
\(S_0(x,\:y,\:z)\) >> \(S_1(x,\:y,\:z)\)
の大小関係になります。ちなみに、\(S_1(x,\:y,\:z)\) の中には \(x^ay^bz^c\) の項が無いと同時に、単純対称式 \(s[abc]\) に属する項もすべてありません。もしどれかがあるとすると、対称式の性質から \(x^ay^bz^c\) の項があることになり、矛盾するからです。以上の、
対称式 \(S_{i-1}(x,\:y,\:z)\) の中から 最大の項 \(m_i\cdot x^{a_i}y^{b_i}z^{c_i}\) を選ぶ(一意に決まる) | |
そこから \(e_i(x,\:y,\:z)\) を作る(一意に決まる)。 | |
\(S_i(x,\:y,\:z)=S_{i-1}(x,\:y,\:z)-m_i\cdot e_i(x,\:y,\:z)\) で \(S_i\) を定義する |
の手順を繰り返していけば、\(S_i\) の "大きさ" は単調減少するので、
\(S_0(x,\:y,\:z)\) | >> \(S_1(x,\:y,\:z)\) | |
>> \(S_2(x,\:y,\:z)\) | ||
>> \(\vdots\) | ||
>> \(S_n(x,\:y,\:z)\) >> \(0\) |
となって、新たに作った式が \(0\) となる時点が必ず来ます。そうすると、
\(S_0(x,\:y,\:z)=\displaystyle\sum_{i=1}^{n}m_i\cdot e_i(x,\:y,\:z)\)
であり、\(k\) 次の対称式 \(S_0(x,\:y,\:z)\) が "3変数の基本対称式だけの多項式" で表現できました。
\(k\)次の対称式は \(k\)次の単純対称式の1次結合で表されます。そこから "最大の単純対称式を取り去った新たな \(k\)次の対称式" を作り、その結果から "最大の単純対称式を取り去った新たな \(k\)次の対称式" を作り、\(\cdot\cdot\cdot\cdot\cdot\) と続けていくと、\(k\)次の対称式に含まれる単純対称式の数は有限なので、最終的には取り去る単純対称式がなくなる、と解釈してもよいわけです。
しかも、① と ② は一意に決まるので、
\(\displaystyle\sum_{i=1}^{n}m_i\cdot e_i(x,\:y,\:z)\)
も一意に決まります。一つの対称式を基本対称式で表現する方法は1種類しかないことが、合わせて証明できました。
一つの例をあげます。3変数の8次の対称式を \(x^8+y^8+z^8\)(=単純対称式。記号で書くと \(s[800]\)) とし、アルゴリズムに忠実に計算してみると次の通りです。この例では10ステップで基本対称式に分解できました。\(s[800]\) は10種類ある8次の単純対称式のうち大きさが最大なので、10ステップが必要です。
\(x^8+y^8+z^8=\displaystyle\sum_{i=1}^{10}m_i\cdot e_i(x,\:y,\:z)\)
\(=\) | \((x+y+z)^8\) | |
\(-8(x+y+z)^6(xy+xz+yz)\) | ||
\(+20(x+y+z)^4(xy+xz+yz)^2\) | ||
\(+8(x+y+z)^5xyz\) | ||
\(-16(x+y+z)^2(xy+xz+yz)^3\) | ||
\(-32(x+y+z)^3(xy+xz+yz)xyz\) | ||
\(+2(xy+xz+yz)^4\) | ||
\(+24(x+y+z)(xy+xz+yz)^2xyz\) | ||
\(+12(x+y+z)^2(xyz)^2\) | ||
\(-8(xy+xz+yz)(xyz)^2\) |
\(s_1^8-\)\(8s_1^6s_2+\)\(20s_1^4s_2^2+\)\(8s_1^5s_3-\)\(16s_1^2s_2^3-\)\(32s_1^3s_2s_3+\)\(2s_2^4+\)\(24s_1s_2^2s_3+\)\(12s_1^2s_3^2-\)\(8s_2s_3^2\) |