6.可解性の必要条件 |
6.1 可解群
正規部分群の概念、および剰余群と巡回群を使って「可解群」を定義します。可解群は純粋に群の性質として定義できますが、方程式の可解性と結びつきます。
(可解群の定義:61A) |
群 \(G\) から 単位元 \(e\) に至る部分群の列、
\(H_0\supset\)\( H_1\supset\)\(\cdots\supset\)\( H_i\supset\)\( H_{i+1}\supset\)\(\cdots\supset\)\( H_k=\{\:e\:\}\) |
があって、\(H_{i+1}\) は \(H_i\) の正規部分群であり、剰余群 \(H_i/H_{i+1}\) が巡回群であるとき、\(G\) を可解群(solvable group)と言う。
\(H_{i+1}\) が \(H_i\) の正規部分群であるとき、\(H_i\) を正規列と言う。加えて、\(H_i/H_{i+1}\) が巡回群のとき、\(H_i\) を可解列という。
(巡回群は可解群:61B) |
巡回群は可解群である。また、巡回群の直積も可解群である。
[証明]
群 \(G\) を巡回群とし、\(G\) から 単位元 \(e\) に至る部分群の列として、
\(G=H_0\:\supset\:H_1=\{\:e\:\}\)
をとる。\(H_1=\{\:e\:\}\) は \(H_0=G\) の正規部分群である。また、
\(H_0/H_1\:\cong\:H_0\:(=G)\)
であり、\(G\) は巡回群だから、\(H_0/H_1\) は巡回群である。従って \(G\) は可解群である。
3つの巡回群の直積 \(G\) で考える。\(G\) を、
\(G\) | \(=\) | \(\boldsymbol{Z}/k\boldsymbol{Z}\times\boldsymbol{Z}/m\boldsymbol{Z}\times\boldsymbol{Z}/n\boldsymbol{Z}\) | |
\(=\) | \(\{(a,b,c)\:\)\(|\:\)\(a\in\boldsymbol{Z}/k\boldsymbol{Z},\:\)\(b\in\boldsymbol{Z}/m\boldsymbol{Z},\:\)\(c\in\boldsymbol{Z}/n\boldsymbol{Z}\}\) |
\(H_1\) | \(=\{(a,b,0)\:|\:a\in\boldsymbol{Z}/k\boldsymbol{Z},\:b\in\boldsymbol{Z}/m\boldsymbol{Z}\}\) | ||
\(H_2\) | \(=\{(a,0,0)\:|\:a\in\boldsymbol{Z}/k\boldsymbol{Z}\}\) | ||
\(\{e\}\) | \(=\{(0,0,0)\}\) |
\(G\:\supset\:H_1\:\supset\:H_2\:\supset\:\{e\}\)
となる。巡回群は可換群であり、巡回群の直積 \(G\) も可換群である。従って、\(G\) の部分群である \(H_1,\:H_2\) も可換群であり、すなわち \(G\) の正規部分群である(41F)。
\(G\) の任意の2つの元を
\(g=(g_a,\:g_b,\:g_c)\)
\(h=(h_a,\:h_b,\:h_c)\)
とする。剰余類 \(g+H_1\) と \(h+H_1\) を考える。\((g_a,0,0)+H_1=H_1\)、\((0,g_b,0)+H_1=H_1\) だから、\((g_a,g_b,0)+H_1=H_1\) である。また同様に\((h_a,h_b,0)+H_1=H_1\) である。従って、\(g_c=h_c\) なら、\(g_a\)、\(g_b\)、\(h_a\)、\(h_b\) の値に関わらず \(g+H_1=h+H_1\) である。逆に、\(g_c\neq h_c\) なら \(g+H_1\neq h+H_1\) である。このことから剰余類の代表元(41E)として、\((0,0,0)\)、\((0,0,1)\)、\(\cdots\)、\((0,0,n-1)\) の \(n\)個をとることができる。つまり、
\(\begin{eqnarray}
&&\:\:G/H_1=\{&(0,0,0)+H_1,\\
&&&(0,0,1)+H_1,\\
&&&(0,0,2)+H_1,\\
&&& \vdots\\
&&&(0,0,n-1)+H_1\}\\
\end{eqnarray}\)
である。これは \((0,0,1)+H_1\) を生成元とする位数 \(n\) の巡回群である。まったく同様の議論により、
\(\begin{eqnarray}
&&\:\:H_1/H_2=\{&(0,0,0)+H_2,\\
&&&(0,1,0)+H_2,\\
&&&(0,2,0)+H_2,\\
&&& \vdots\\
&&&(0,m-1,0)+H_2\}\\
\end{eqnarray}\)
であり、\(H_1/H_2\) は \((0,1,0)+H_2\) を生成元とする位数 \(m\) の巡回群である。以上により、
\(G=H_0\:\supset\:H_1\:\supset\:H_2\:\supset\:H_3=\{e\}\)
は、正規列であり、\(H_i/H_{i+1}\) が巡回群なので、\(G\) は可解群である。この議論は \(G\) が\(4\)個以上の巡回群の直積の場合でも全く同様に成り立つ。つまり、巡回群の直積は可解群である。[証明終]
(可解群の部分群は可解群:61C) |
可解群の部分群は可解群である。
[証明]
可解群を \(G\) とすると、可解群の定義により、
\(H_0\supset\)\( H_1\supset\)\( H_2\supset\)\(\cdots H_{n-1}\supset\)\( H_n=\{e\}\) |
という列で、\(H_{i+1}\) が \(H_i\) の正規部分群であり、\(H_i/H_{i+1}\) が巡回群のものが存在する。
ここで、\(G\) の任意の部分群を \(N\) としたとき、
\(N\cap H_0\supset\)\( N\cap H_1\supset\)\( N\cap H_2\supset\)\(\cdots N\cap H_{n-1}\supset\)\( N\cap H_n=\{e\}\) |
という集合の列を考える。部分群の共通部分は部分群の定理(41D)により、\(N\cap H_i\:(0\leq i\leq n)\) は \(G\) の部分群の列である。と同時に、これが可解列であることを以下で証明する。
列の \(N\cap H_{i-1}\supset N\cap H_i\) の部分を取り出して考える。\(H_i\) は \(H_{i-1}\) の正規部分群なので、\(H_{i-1}\) の任意の元 \(x\) について \(xH_i=H_ix\) が成り立つ。
\(N\cap H_{i-1}\) の任意の元を \(y\) とすると、\(y\in N\) かつ \(y\in H_{i-1}\) であるが、\(y\in N\) なので \(yN=Ny=N\) である。また \(y\in H_{i-1}\) なので、正規部分群の定義により、\(yH_i=H_iy\) が成り立つ。ゆえに、
\(y(N\cap H_i)=\)\(yN\cap yH_i=\)\(Ny\cap H_iy=\)\((N\cap H_i)y\) |
次に第2同型定理(43B)によると、\(N\) が \(G\) の部分群、\(H\) が \(G\) の正規部分群のとき、
\(N/(N\cap H)\:\cong\:NH/H\)
が成り立つ。\(N\) を \(N\cap H_{i-1}\) とし、\(H\) を \(H_i\) として定理を適用すると、
\(N\cap H_{i-1}/((N\cap H_{i-1})\cap H_i)\)
\(\cong\:(N\cap H_{i-1})H_i/H_i\)
\((\textbf{A})\)
となる。ここで、\(H_i\:\subset\:H_{i-1}\) なので、\((N\cap H_{i-1})\cap H_i=N\cap H_i\) である。従って、
\((\textbf{A})\) 式の左辺 \(=\:(N\cap H_{i-1})/(N\cap H_i)\)
となる。また、 \((\textbf{A}\,')\)
\((N\cap H_{i-1})\:\subset\:H_{i-1}\)
は常に成り立つ。さらに、\(H_i\:\subset\:H_{i-1}\) だから、この式に左から \(H_{i-1}\) をかけて、 \((\textbf{B})\)
\(H_{i-1}H_i\:\subset\:H_{i-1}H_{i-1}\)
\(H_{i-1}H_i\:\subset\:H_{i-1}\)
が成り立つ。\((\textbf{B})\) 式に右から \(H_i\) をかけると、 \((\textbf{C})\)
\((N\cap H_{i-1})H_i\:\subset\:H_{i-1}H_i\)
となるが、これと \((\textbf{C})\) 式を合わせると、
\((N\cap H_{i-1})H_i\:\subset\:H_{i-1}\)
となる。従って、\((N\cap H_{i-1})H_i\) と \(H_{i-1}\) の \(H_i\) による剰余類を考えると、
\((N\cap H_{i-1})H_i/H_i\:\subset\:H_{i-1}/H_i\)
の関係にある。これで、
\((\textbf{A})\) 式の右辺 \(=\:H_{i-1}/H_i\) の部分群
であることが分かった。 \((\textbf{A}\,'')\)
以上の \((\textbf{A})\:\:(\textbf{A}\,')\:\:(\textbf{A}\,'')\) をあわせると、
\((N\cap H_{i-1})/(N\cap H_i)\:\cong\:H_{i-1}/H_i\) の部分群
である。\(G\) は可解群なので \(H_{i-1}/H_i\) は巡回群である。巡回群の部分群は巡回群なので、それと同型である \(\boldsymbol{(N\cap H_{i-1})/(N\cap H_i)}\) は巡回群である。まとめると、
\(N\cap H_i\) は \(N\cap H_{i-1}\) の正規部分群
\((N\cap H_{i-1})/(N\cap H_i)\) は巡回群
となる。このことは \(1\leq i\leq n\) のすべてで成り立つから、\(N\cap H_0\:=\:N\cap G\:=\:N\) は可解群である。つまり、可解群 \(G\) の任意の部分群 \(N\) は可解群である。[証明終]
(可解群の像は可解群:61D) |
可解群の準同型写像による像は可解群である。
このことより、
可解群の剰余群は可解群
であることが分かる。なぜなら、群 \(G\) の部分群を \(N\) とすると、\(G\) から \(G/N\) への自然準同型、つまり \(x\in G\) として、
\(x\:\longmapsto\:xN\)
の準同型写像を定義できるからである。
[証明]
可解群を \(G\) とすると、可解群の定義により、
\(G=H_0\supset H_1\supset\:H_2\supset\cdots H_{n-1}\supset H_n=\{e\}\)
という列で、\(H_i\) が \(H_{i-1}\) の正規部分群であり、剰余群 \(H_{i-1}/H_i\) が巡回群の列(=可解列)が存在する。群 \(G\) に作用する準同型写像を \(\sigma\) とすると、上記の可解列の \(\sigma\) による像、
\(\sigma(G)=\sigma(H_0)\supset\)\(\sigma(H_1)\supset\)\(\sigma(H_2)\supset\)\(\cdots\sigma(H_{n-1})\supset\)\(\sigma(H_n)\)
が正規列になっていることを以下に示す。 \((\textbf{D})\)
\(\sigma\) による像の列から \(\sigma(H_{i-1})\supset\sigma(H_i)\) を取り出して考える。\(\sigma\) を \(H_{i-1}\) から \(\sigma(H_{i-1})\) への写像と考えると、\(\sigma(H_{i-1})\) は \(\sigma\) による \(H_{i-1}\) の像なので、\(\sigma\) は全射である。従って、\(H_{i-1}\) の元 \(h\) を選ぶことによって \(\sigma(h)\) で \(\sigma(H_{i-1})\) の全ての元を表すことができる。
\(\sigma(H_{i-1})\) の任意の元を \(\sigma(h)\) とおくと、
\(\begin{eqnarray}
&&\:\:\sigma(h)\sigma(H_i)&=\sigma(hH_i)=\sigma(H_ih)\\
&&&=\sigma(H_i)\sigma(h)\\
\end{eqnarray}\)
であるから、\(\sigma(H_i)\) は \(\sigma(H_{i-1})\) の正規部分群である。つまり \((\textbf{D})\) は正規列である。従って、\(\sigma(H_{i-1})\) の \(\sigma(H_i)\) による剰余類は群であり、剰余群 \(\sigma(H_{i-1})/\sigma(H_i)\) になる。
次に、剰余群 \(\sigma(H_{i-1})/\sigma(H_i)\) が巡回群であることを示す。\(H_{i-1}\) の任意の元を \(x\) とし、剰余群 \(H_{i-1}/H_i\) の元を \(xH_i\) で表す。\(H_{i-1}/H_i\) から \(\sigma(H_{i-1})/\sigma(H_i)\) への写像 \(f\) を、
\(f\::\:xH_i\:\longmapsto\:\sigma(x)\sigma(H_i)\)
と定める。もし、剰余群 \(H_{i-1}/H_i\) の元が \(xH_i\) と \(yH_i\:(x,y\in H_{i-1})\) という異なる表現を持っているとすると、
\(xH_i=yH_i\)
\(\sigma(xH_i)=\sigma(yH_i)\)
\(\sigma(x)\sigma(H_i)=\sigma(y)\sigma(H_i)\)
であるが、\(f\) の定義によって、
\(f(xH_i)=\sigma(x)\sigma(H_i)\)
\(f(yH_i)=\sigma(y)\sigma(H_i)\)
であり、異なる表現の \(f\) による写像先は一致する。従って \(f\) は2つの剰余群の間の写像として矛盾なく定義されている。また \(f\) は、
\(f(xH_iyH_i)\) | \(=\) | \(f(xyH_iH_i)=\)\(f(xyH_i)\) | |
\(=\) | \(\sigma(xy)\sigma(H_i)=\)\(\sigma(x)\sigma(y)\sigma(H_i)\) | ||
\(=\) | \(\sigma(x)\sigma(y)\sigma(H_iH_i)=\)\(\sigma(x)\sigma(yH_iH_i)\) | ||
\(=\) | \(\sigma(x)\sigma(H_iyH_i)=\)\(\sigma(x)\sigma(H_i)\sigma(yH_i)\) | ||
\(=\) | \(\sigma(xH_i)\sigma(yH_i)=\)\(\sigma(x)\sigma(H_i)\sigma(y)\sigma(H_i)\) | ||
\(=\) | \(f(xH_i)f(yH_i)\) |
\(f\::\:xH_i\:\longmapsto\:\sigma(x)\sigma(H_i)\)
と定義されたが、\(\sigma(xH_i)=\sigma(x)\sigma(H_i)\) だから \(f\)は全射であり、
\(\mathrm{Im}\:f\:=\:\sigma(H_{i-1})/\sigma(H_i)\)
である(=\(\:\textbf{②}\:\))。\(\textbf{①}\) と \(\textbf{②}\)、および準同型定理(43A)により、
\((H_{i-1}/H_i)/\mathrm{Ker}\:f\:=\:\sigma(H_{i-1})/\sigma(H_i)\)
である。\(H_{i-1}/H_i\) は巡回群なので、巡回群の剰余群は巡回群の定理(41H)により、\((H_{i-1}/H_i)/\mathrm{Ker}\:f\) は巡回群である。従って、それと同型である \(\sigma(H_{i-1})/\sigma(H_i)\) も巡回群である。
結局、\((\textbf{D})\) は正規列であると同時に \(\sigma(H_{i-1})/\sigma(H_i)\) が巡回群なので、\(\sigma(G)\) は可解群である。[証明終]
6.2 巡回拡大
巡回拡大 |
(巡回拡大の定義:62A) |
\(\boldsymbol{Q}\) のガロア拡大を \(\boldsymbol{K}\) とする。\(\mathrm{Gal}(\boldsymbol{K}/\boldsymbol{Q})\) が巡回群のとき、\(\boldsymbol{K}/\boldsymbol{Q}\) を巡回拡大(cyclic extension)と言う。
累巡回拡大 |
(累巡回拡大の定義:62B) |
\(\boldsymbol{Q}\) の拡大体を \(\boldsymbol{K}\) とする。
\(\boldsymbol{K}_0\subset\)\(\boldsymbol{K}_1\subset\)\(\cdots\subset\)\(\boldsymbol{K}_i\subset\)\(\boldsymbol{K}_{i+1}\subset\)\(\cdots\subset\)\(\boldsymbol{K}_k=\boldsymbol{K}\) |
となる拡大列があって(\(k > 1\))、\(\boldsymbol{K}_{i+1}/\boldsymbol{K}_i\:(0\leq i < k)\) が巡回拡大のとき、\(\boldsymbol{K}/\boldsymbol{Q}\) は累巡回拡大であると言う。ただし、\(\boldsymbol{\boldsymbol{K}/\boldsymbol{Q}}\) が累巡回拡大だとしても、\(\boldsymbol{\boldsymbol{K}/\boldsymbol{Q}}\) がガロア拡大であるとは限らない。
\(\boldsymbol{K}/\boldsymbol{Q}\) が累巡回拡大だとしてもガロア拡大であるとは限りません。たとえばシンプルな例で考えてみると、
\(\alpha=\sqrt{\sqrt{2}+1}\)
という代数的数があったとします。この式から \(\sqrt{\phantom{A}}\) を消去すると \(\alpha^4-2\alpha^2-1=0\) なので、\(\alpha\) の最小多項式 \(f(x)\) は、
\(f(x)=x^4-2x^2-1\)
です。\(f(x)\) は、
\(f(x)=(x^2-(\sqrt{2}+1))(x^2+(\sqrt{2}-1))\)
と変形できるので、方程式 \(f(x)=0\) の解は
\(x=\pm\sqrt{\sqrt{2}+1},\:\:\pm i\sqrt{\sqrt{2}-1}\)
です。従って \(f(x)\) の最小分解体 \(\boldsymbol{L}\) は、
\(\boldsymbol{L}=\boldsymbol{Q}(\sqrt{\sqrt{2}+1},\:i\sqrt{\sqrt{2}-1})\)
であり、また、
\(\sqrt{\sqrt{2}+1}\cdot\sqrt{\sqrt{2}-1}=1\)
の関係があるので、
\(\boldsymbol{L}=\boldsymbol{Q}(i,\:\alpha)\)
と表現できます。\(\boldsymbol{L}/\boldsymbol{Q}\) はガロア拡大です。
一方、
\(\boldsymbol{K}=\boldsymbol{Q}(\alpha)\)
と定義すると、\(\boldsymbol{K}\) は \(f(x)=0\) の一つの解 \(\alpha\) だけによる単拡大体なので、\(\boldsymbol{K}/\boldsymbol{Q}\) はガロア拡大ではありません( \(\boldsymbol{Q}(\alpha)\neq\boldsymbol{Q}(i,\:\alpha)\) )。ここで、
\(\boldsymbol{Q}\:\subset\:\boldsymbol{Q}(\sqrt{2})\:\subset\:\boldsymbol{Q}(\alpha)=\boldsymbol{K}\)
という体の拡大列を考えます。\(\boldsymbol{Q}\) 上の方程式 \(x^2-2=0\) の解は \(\pm\sqrt{2}\) なので、\(\boldsymbol{Q}(\sqrt{2})/\boldsymbol{Q}\) はガロア拡大です。また、ガロア群は、
\(\mathrm{Gal}(\boldsymbol{Q}(\sqrt{2})/\boldsymbol{Q})=\{e,\:\sigma\}\)
\(\sigma(\sqrt{2})=-\sqrt{2}\)
\(\sigma^2=e\)
なので巡回群であり、\(\boldsymbol{Q}(\sqrt{2})/\boldsymbol{Q}\) は巡回拡大です。
同様に、\(\boldsymbol{Q}(\sqrt{2})\) 上の方程式 \(x^2-(\sqrt{2}+1)=0\) の解は \(\pm\alpha\) で、\(\boldsymbol{Q}(\sqrt{2},\alpha)\) は \(\boldsymbol{Q}(\sqrt{2})\) の巡回拡大です。\(\sqrt{2}=\alpha^2-1\) なので、\(\boldsymbol{Q}(\sqrt{2},\alpha)=\boldsymbol{Q}(\alpha)\) であり、\(\boldsymbol{Q}(\alpha)/\boldsymbol{Q}(\sqrt{2})\) が巡回拡大となります。
結局、\(\boldsymbol{K}/\boldsymbol{Q}\) は \(\boldsymbol{Q}(\sqrt{2})/\boldsymbol{Q},\:\:\boldsymbol{Q}(\alpha)/\boldsymbol{Q}(\sqrt{2})\) という2つの巡回拡大の列で表されるので、定義(62B)により累巡回拡大です。しかしそうであっても、\(\boldsymbol{K}/\boldsymbol{Q}\) は ガロア拡大ではないのです。
これがもし \(\alpha=\sqrt{2}+\sqrt{3}\) だとすると、\(2\) も \(3\) も \(\boldsymbol{Q}\) の元なので、
\(\boldsymbol{Q}\:\subset\:\boldsymbol{Q}(\sqrt{2})\:\subset\:\boldsymbol{Q}(\sqrt{2},\sqrt{3})=\boldsymbol{K}\)
の拡大列は累巡回拡大であり、かつ \(\boldsymbol{K}/\boldsymbol{Q}\) がガロア拡大です。
このように、\(\boldsymbol{K}/\boldsymbol{Q}\) が累巡回拡大だとしてもガロア拡大であるとは限らないのですが、もし \(\boldsymbol{K}/\boldsymbol{Q}\) が累巡回拡大でかつガロア拡大だとすると、\(\mathrm{Gal}(\boldsymbol{K}/\boldsymbol{Q})\) は可解群になります。それが、累巡回拡大と可解群を結びつける次の定理です。
累巡回拡大ガロア群の可解性 |
(累巡回拡大ガロア群の可解性:62C) |
\(\boldsymbol{Q}\) のガロア拡大を \(\boldsymbol{K}\)、そのガロア群を \(G\) とする。このとき、
\(G\) が可解群である | |
\(\boldsymbol{K}/\boldsymbol{Q}\) が累巡回拡大である |
の2つは同値である。
[① \(\boldsymbol{\Rightarrow}\) ②の証明]
\(G\) が可解群であることを示す部分群の列と、それとガロア対応をする体の拡大列を、
\(H_0\supset\)\( H_1\supset\)\( H_2\supset\)\(\cdots\supset\)\( H_i\supset\)\( H_{i+1}\supset\)\(\cdots\supset\)\( H_k=\{e\}\) |
\(\boldsymbol{F}_0\subset\)\(\boldsymbol{F}_1\subset\)\(\boldsymbol{F}_2\subset\)\(\cdots\subset\)\(\boldsymbol{F}_i\subset\)\(\boldsymbol{F}_{i+1}\subset\)\(\cdots\subset\)\(\boldsymbol{F}_k=\boldsymbol{K}\) |
とする。\(G\) が可解群なので、\(H_{i+1}\) は \(H_i\) の正規部分群であり、\(H_{i+1}/H_i\:(0\leq i\leq k-1)\) は巡回群である。以降、\(H_i,\:H_{i+1}\) を取り出して考える。
\(H_i\:\supset\:H_{i+1}\:\supset\:\{e\}\)
\(\boldsymbol{F}_i\:\subset\:\boldsymbol{F}_{i+1}\:\subset\:\boldsymbol{K}\)
\(\boldsymbol{K}/\boldsymbol{Q}\) がガロア拡大なので、中間体からのガロア拡大の定理(52C)により、\(\boldsymbol{K}/\boldsymbol{F}_i\) もガロア拡大である。\(\boldsymbol{F}_i\) の固定群は \(H_i\) なので \(\mathrm{Gal}(\boldsymbol{K}/\boldsymbol{F}_i)=H_i\) である。同様に、\(\boldsymbol{K}/\boldsymbol{F}_{i+1}\) もガロア拡大であり、\(\mathrm{Gal}(\boldsymbol{K}/\boldsymbol{F}_{i+1})=H_{i+1}\) である。
ここで、\(H_{i+1}\) は \(H_i\) の正規部分群なので、正規性定理(53C)により \(\boldsymbol{F}_{i+1}/\boldsymbol{F}_i\) はガロア拡大であり、そのガロア群は、
\(\mathrm{Gal}(\boldsymbol{F}_{i+1}/\boldsymbol{F}_i)\cong H_i/H_{i+1}\)
となる。\(H_i/H_{i+1}\) は巡回群なので、それと同型の \(\mathrm{Gal}(\boldsymbol{F}_{i+1}/\boldsymbol{F}_i)\) も巡回群になる。従って、\(\boldsymbol{F}_{i+1}/\boldsymbol{F}_i\) は、「ガロア拡大で、かつ \(\mathrm{Gal}(\boldsymbol{F}_{i+1}/\boldsymbol{F}_i)\) が巡回群」なので、巡回拡大である。
以上が \(\boldsymbol{F}_i\:(0\leq i\leq k-1)\) で成り立つから、\(\boldsymbol{K}/\boldsymbol{Q}\) は累巡回拡大である。
[② \(\boldsymbol{\Rightarrow}\) ①の証明]
\(\boldsymbol{K}\) が \(\boldsymbol{Q}\) の累巡回拡大であることを示す体の拡大列と、それとガロア対応する \(G\) の部分群の列を、
\(\boldsymbol{F}_0\subset\)\(\boldsymbol{F}_1\subset\)\(\boldsymbol{F}_2\subset\)\(\cdots\subset\)\(\boldsymbol{F}_i\subset\)\(\boldsymbol{F}_{i+1}\subset\)\(\cdots\subset\)\(\boldsymbol{F}_k=\boldsymbol{K}\) |
\(H_0\supset\)\( H_1\supset\)\( H_2\supset\)\(\cdots\supset\)\( H_i\supset\)\( H_{i+1}\supset\)\(\cdots\supset\)\( H_k=\{e\}\) |
とする。\(\boldsymbol{F}_i\)と \(\boldsymbol{F}_{i+1}\) を取り出して考える。
\(\boldsymbol{F}_i\:\subset\:\boldsymbol{F}_{i+1}\:\subset\:\boldsymbol{K}\)
\(H_i\:\supset\:H_{i+1}\:\supset\:\{e\}\)
\(\boldsymbol{K}/\boldsymbol{Q}\) がガロア拡大なので、\(\boldsymbol{K}/\boldsymbol{F}_i\) も \(\boldsymbol{K}/\boldsymbol{F}_{i+1}\) もガロア拡大である。また \(\boldsymbol{F}_{i+1}/\boldsymbol{F}_i\) は巡回拡大なので、すなわちガロア拡大である。従って正規性定理(53C)により、\(H_{i+1}\) は \(H_i\) の正規部分群であり、
\(\mathrm{Gal}(\boldsymbol{F}_{i+1}/\boldsymbol{F}_i)\cong H_i/H_{i+1}\)
となる。\(\boldsymbol{F}_{i+1}/\boldsymbol{F}_i\) は巡回拡大なので \(\mathrm{Gal}(\boldsymbol{F}_{i+1}/\boldsymbol{F}_i)\) は巡回群であり、それと同型である \(H_i/H_{i+1}\) も巡回群である。まとめると「\(H_{i+1}\) は \(H_i\) の正規部分群であり、かつ \(H_i/H_{i+1}\) は巡回群」である。
このことは \(H_i\:(0\leq i\leq k-1)\) で成り立つから、定義によって \(G\) は可解群である。[証明終]
6.3 原始\(n\)乗根を含む体とべき根拡大
この節の目的は「1の原始\(\boldsymbol{n}\)乗根を含む体のべき根拡大」の性質を解明することです。そのためにまず、1の原始\(n\)乗根を \(\zeta\) を含む体 \(\boldsymbol{Q}(\zeta)\)に関する次の定理を数ステップに分けて証明します。
1の原始\(n\)乗根を \(\zeta\) とする。このとき
・\(\boldsymbol{Q}(\zeta)/\boldsymbol{Q}\) はガロア拡大
・\(\mathrm{Gal}(\boldsymbol{Q}(\zeta)/\boldsymbol{Q})\:\cong\:(\boldsymbol{Z}/n\boldsymbol{Z})^{*}\)
が成り立つ。
\(1\) の原始\(n\)乗根 |
(原始n乗根の数:63A) |
\(x^n-1=0\) の \(n\)個の解のうち、\(n\)乗して初めて \(1\) になる解を \(1\)の原始\(n\)乗根という。
原始\(n\)乗根は \(\varphi(n)\) 個ある。\(\varphi(n)\) はオイラー関数で、\(n\) と互いに素である \(n\) 以下の自然数の数を表す。
[証明]
まず、
\(\omega=\mathrm{cos}\dfrac{2\pi}{n}+i\:\mathrm{sin}\dfrac{2\pi}{n}\)
とおくと、明らかに \(\omega\) は原始\(n\)乗根である。さらに、
\(\omega^k=\mathrm{cos}\dfrac{2\pi k}{n}+i\:\mathrm{sin}\dfrac{2\pi k}{n}\:(1\leq k\leq n)\)
で \(1\) の\(n\)乗根の全体を表現できる。ここで \(\omega^k\) が原始\(n\)乗根になる条件を考える。いま、
\((\omega^k)^x=1\:(1\leq x\leq n)\)
とすると、この式を満たす \(x\) の最小値が \(n\) であれば、\(\omega^k\) は原始\(n\)乗根である。これを満たす \(x\) は、\(j\) を任意の整数として、 \((\textbf{A})\)
\(\dfrac{2\pi k}{n}x=2\pi j\)
のときである。つまり、
\(\dfrac{k}{n}x=j\)
のときである。いま、\(k\) と \(n\) の最大公約数を \(d\) とすると( \(\mathrm{gcd}(k,n)=d\:)\)、
\(\left\{
\begin{array}{l}
\begin{eqnarray}
&&k=sd&\\
&&n=td&\\
\end{eqnarray}
\end{array}\right.\)
と表せて、このとき \(s\) と \(t\) は互いに素である。これを使うと、
\(\dfrac{s}{t}x=j\)
のときに \(x\) は \((\textbf{A})\) 式を満たすことになる。\(s\) と \(t\) は互いに素であり、\(j\) は任意の整数だったから、\(x\) は \(t\) の倍数でなければならない。つまり、\(x\) は \(t=\dfrac{n}{d}\) の倍数である。ということは、\(x\) の最小値は \(\dfrac{n}{d}\) である。そして、\(\dfrac{n}{d}\) が \(n\) に等しいのは \(d=1\) の場合に限る。つまり \(\mathrm{gcd}(k,n)=1\) なら、\((\textbf{A})\) 式を満たす最小の \(x\) は \(n\) ということになる。従って、そのときに限り \(\omega^k\) は原始\(n\)乗根である。
\(\mathrm{gcd}(k,n)=1\) となる \(k\) は \(\varphi(n)\) 個あり、\(1\) の原始\(n\)乗根は \(\varphi(n)\) 個ある。[証明終]
(原始n乗根の累乗:63B) |
\(1\) の原始\(n\)乗根の一つを \(\zeta\) とすると、
\(\zeta^m\:\:(1\leq m\leq n)\)
は、\(1\) の\(n\)乗根の全体を表す。また、
\(\zeta^m\:\:(\mathrm{gcd}(m,n)=1)\)
は、\(1\) の原始\(n\)乗根の全体を表す。
[証明]
\(\zeta^m\:(1\leq m\leq n)\) の \(n\) 個の値は全部異なっている。なぜなら、もし、 \(\zeta^j=\zeta^i\:(1\leq i < j\leq n)\)
だとすると、
\(\zeta^{j-i}=1\:(1\leq i < j\leq n)\)
となり、\(j-i < n\) だから、\(\zeta\) が原始\(n\)乗根という前提に反するからである。\(\zeta^m\:(1\leq m\leq n)\) は全部異なっているので、これら \(n\) 個の値は \(1\) の\(n\)乗根全体を表す。
\(\zeta\) は、\(\mathrm{gcd}(k,n)=1\) である \(k\) を用いて、
\(\zeta=\omega^k\)
\(\omega=\mathrm{cos}\dfrac{2\pi}{n}+i\:\mathrm{sin}\dfrac{2\pi}{n}\)
と表せる(63A)。すると
\(\zeta^m=(\omega^k)^m=\omega^{km}\)
である。\(\mathrm{gcd}(k,n)=1\) なので \(\mathrm{gcd}(m,n)=1\) なら \(\mathrm{gcd}(km,n)=1\) である。逆に、\(\mathrm{gcd}(km,n)=1\) が成り立つのは \(\mathrm{gcd}(m,n)=1\) のときに限る。従って、
\(\zeta^m\:(=\omega^{km})\)
は \(\mathrm{gcd}(m,n)=1\) のとき(かつ、そのときに限って)\(1\) の原始\(n\)乗根である。[証明終]
(原始n乗根の最小多項式:63C) |
\(1\) の原始\(n\)乗根の一つを \(\zeta\) とする。\(\zeta\) の最小多項式を \(f(x)\) とし、\(k\) を \(n\) とは素な数とする。
このとき \(f(\zeta^k)=0\) である。
[証明]
証明を2つのステップで行う
第1ステップ
\(p\) を \(\boldsymbol{n}\) と素な素数とし、\(k=p\) のとき題意が成り立つことを証明する。
第2ステップ\(k\) を \(\boldsymbol{n}\) と素な数とし、第1ステップを使って題意が成り立つことを証明する。
第1ステップ(\(p\) は \(\boldsymbol{n}\) と素な素数)
本論に入る前に、2つことを確認する。まず、\(p\) を素数とし \(a\) を \(p\) とは素な整数とするとき、\(a\neq0\) ならフェルマの小定理(25B)により、
\(a^{p-1}\equiv1\:(\mathrm{mod}\:p)\)
が成り立つ。この両辺に \(a\) をかけると、
\(a^p\equiv a\:(\mathrm{mod}\:p)\)
となるが、この形の式にすると \(a=0,\:p\) でも成り立つ。つまり \(a\) が任意の整数のとき \((\textbf{A})\) 式が成り立つ。 \((\textbf{A})\)
次に、有限体 \(\boldsymbol{F}_p\) 上の多項式(係数が \(\boldsymbol{F}_p\) の元である多項式。「2.4 有限体」参照)についての定理である。\(p\) を素数とし \(x,\:y\) を変数とするとき、
\((x+y)^p=x^p+y^p\:\:\:[\boldsymbol{F}_p]\)
が成り立つ。その理由であるが、等式の左辺を整数係数として2項展開すると、
\(x^p+\)\({}_{p}\mathrm{C}_{1}x^{p-1}y+\)\(\:\cdots\:+\)\({}_{p}\mathrm{C}_{p-1}xy^{p-1}+\)\(y^p\) |
\({}_{p}\mathrm{C}_{k}=\dfrac{p!}{k!\cdot(p-k)!}\:\:(1\leq k\leq p-1)\)
であるが、\(p\) が素数なので、分母の素因数に \(p\) はなく、分子の素因数にある \(p\) は分母で割り切れない。従って、
\({}_{p}\mathrm{C}_{k}\equiv0\:\:(\mathrm{mod}\:p)\:\:(1\leq k\leq p-1)\)
となり、\(\boldsymbol{F}_p\) 上の多項式としては、
\((x+y)^p=x^p+y^p\:\:\:[\boldsymbol{F}_p]\)
が成り立つ。
さらに、3変数、\(x,\:y,\:z\) では、
\(\begin{eqnarray}
&&\:\:(x+y+z)^p&=(x+y)^p+z^p\\
&&&=x^p+y^p+z^p\:\:\:[\boldsymbol{F}_p]\\
\end{eqnarray}\)
となり、これを繰り返すと \(n\) 変数に拡張できるのは明らかだから、\(x_1,\:\cdots\:,\:x_n\) を変数として、
\((x_1+x_2+\:\cdots\:+x_n)^p=\)
\(x_1^p+x_2^p+\:\cdots\:+x_n^p\:\:\:[\boldsymbol{F}_p]\)
が成り立つ。 \((\textbf{B})\)
以上の \((\textbf{A})\) 式と \((\textbf{B})\) 式を前提として以下の本論を進める。
\(\zeta\) の最小多項式 \(f(x)\) は、最小多項式は既約多項式(31I)によって \(\boldsymbol{Q}\) 上の既約多項式である。\(\zeta\) は \(x^n-1=0\) と \(f(x)=0\) の共通の解だから、既約多項式の定理1(31E)により、\(x^n-1\) は \(f(x)\) で割り切れる。そこで、商の多項式を \(g(x)\) として、
\(x^n-1=f(x)g(x)\)
\((\textbf{C})\)
とおく。この式の左辺の \(x^n-1\) は整数係数の多項式である。つまり上の式は、整数係数の多項式が \(\boldsymbol{Q}\) 上で(有理数係数の多項式として)因数分解できることになり、整数係数多項式の既約性の定理(31C)によって、\(x^n-1\) は整数係数の多項式で因数分解できる。従って、\(f(x)\) と \(g(x)\) は整数係数としてよい。ということは、\(f(x)\) と \(g(x)\) を有限体 \(\boldsymbol{F}_p\) 上の多項式と見なすこともできる。以降の証明にはこのことを使う。
\(p\) は \(n\) と互いに素だから \(\zeta^p\) も \(1\) の原始\(n\)乗根である(63B)。従って \((\textbf{C})\) 式に \(x=\zeta^p\) を代入すると、左辺は \(0\) だから、
\(f(\zeta^p)g(\zeta^p)=0\)
となり、\(f(\zeta^p)=0\) もしくは \(g(\zeta^p)=0\) である。
ここから、\(f(\zeta^p)=0\) であることを言うために背理法を使う。以下に \(f(\zeta^p)\neq0\) と仮定すると矛盾が生じることを証明する。
この背理法の仮定のもとでは \(g(\zeta^p)=0\) だから、\(\zeta\) は方程式 \(g(x^p)=0\) の解である。ということは、\(f(x)=0\) と \(g(x^p)=0\) は \(\zeta\) という共通の解をもつことになり、かつ \(f(x)\) は既約多項式であるから、既約多項式の定理1(31E)によって、\(g(x^p)\) は \(f(x)\) で割り切れる。その商を \(h(x)\) とすると、
\(g(x^p)=f(x)h(x)\)
と表せる。\(h(x)\) も整数係数の多項式である。 \((\textbf{D})\)
\(g(x)\) を、
\(a_mx^m+\)\(a_{m-1}x^{m-1}+\)\(\:\cdots\:+\)\(\:a_1x+\)\(a_0\) |
\(g(x^p)\) | \(=\) | \(a_m(x^p)^m+\)\(a_{m-1}(x^p)^{m-1}+\)\(\:\cdots\:+\)\(a_1(x^p)+\)\(a_0\) | |
\(=\) | \(a_m^p(x^p)^m+\)\(a_{m-1}^p(x^p)^{m-1}+\)\(\:\cdots\:+\)\(a_1^p(x^p)+\)\(a_0^p\) | ||
\(=\) | \((a_mx^m)^p+\)\((a_{m-1}x^{m-1})^p+\)\(\:\cdots\:+\)\((a_1x)^p+\)\(a_0^p\:\:\:[\boldsymbol{F}_p]\) |
この最後の式は、\((\textbf{B})\) 式の右辺の \(x_1\) を \(a_mx^m\)、\(x_2\) を \(a_{m-1}x^{m-1}\)、\(\cdots\:x_n\) を \(a_0\) と置き換えた形をしている。従って \((\textbf{B})\) 式を使うと、
\(g(x^p)\) | \(=\) | \((a_mx^m+a_{m-1}x^{m-1}+\:\cdots\:+a_1x+a_0)^p\) | |
\(=\) | \((g(x))^p\:\:\:[\boldsymbol{F}_p]\) |
\(g(x^p)=(g(x))^p\:\:\:[\boldsymbol{F}_p]\)
となる。同時に、\((\textbf{D})\) 式の \(f(x),\:h(x)\) も \(\boldsymbol{F}_p\) 上の多項式と見なして \((\textbf{E})\) 式 を \((\textbf{D})\) 式に代入すると、 \((\textbf{E})\)
\((g(x))^p=f(x)h(x)\:\:\:[\boldsymbol{F}_p]\)
が得られる。 \((\textbf{F})\)
\(f(x)\) は \(\boldsymbol{Q}\) 上の(整数係数の)既約多項式であった。しかし \(f(x)\) を \(\boldsymbol{F}_p\) 上の多項式と見なしたとき、それが既約多項式だとは限らない。たとえば \(x^2+1=0\) は \(\boldsymbol{Q}\) 上の既約多項式であるが、\(\boldsymbol{F}_5\) では、
\(x^2+1=(x-2)(x-3)\:\:\:[\boldsymbol{F}_5]\)
と因数分解できるから既約ではない。そこで、\(\boldsymbol{F}_p\) 上の多項式 \(f(x)\) を割り切る \(\boldsymbol{F}_p\) 上の既約多項式を \(q(x)\) とする。もし \(f(x)\) が \(\boldsymbol{F}_p\) 上でもなおかつ既約であれば \(q(x)=f(x)\) である。そうすると \(q(x)\) は \((\textbf{F})\) 式の右辺を割り切るから、左辺の \((g(x))^p\) も割り切る。ということは、既約多項式と素数の類似性(31D)によって、\(q(x)\) は \(g(x)\) を割り切る。
ここで \((\textbf{C})\) 式に戻って考えると、\((\textbf{C})\) 式は、
\(x^n-1=f(x)g(x)\)
であった。この式を \(\boldsymbol{F}_p\) 上の多項式とみなすと、\(f(x)\) と \(g(x)\) は共に \(q(x)\) という因数をもつから、\((\textbf{C})\) 式の右辺は \(q(x)^2\) という因数をもつ。従って \((\textbf{C})\) 式は、 \((\textbf{C})\)
\(x^n-1=q(x)^2\cdot r(x)\:\:\:[\boldsymbol{F}_p]\)
と書ける。\(r(x)\) は \(f(x)g(x)\) を \(q(x)^2\) で割ったときの商である。 \((\textbf{G})\)
ここで \((\textbf{G})\) 式の両辺の導多項式(多項式の形式的微分)を求める。\(\boldsymbol{F}_p\) では距離が定義されていないので極限による微分の定義はできないが、形式的微分( \(x^k\:\rightarrow\:kx^{k-1}\) の変換)はできる。すると、
\(nx^{n-1}\) | \(=2q(x)q\,'(x)r(x)+q(x)^2\cdot r\,'(x)\) | |
\(=q(x)\cdot(2q\,'(x)r(x)+q(x)r\,'(x))\) \([\boldsymbol{F}_p]\) |
\({}\)
となる。\((\textbf{G})\) 式と \((\textbf{H})\) 式により、\(\boldsymbol{F}_p\) 上の多項式として、 \((\textbf{H})\)
\(x^n-1\) と \(nx^{n-1}\) は共通の因数をもつ
ことになる。ここで矛盾が生じる。
なぜなら、\(n\) と \(p\) は互いに素だから、\(\boldsymbol{F}_p\) における \(n\) の逆数 \(n^{-1}\) がある。これを用いて \(x^n-1\) と \(nx^{n-1}\) に多項式の互除法を適用すると、
\(x^n-1=n^{-1}x(nx^{n-1})-1\:\:\:[\boldsymbol{F}_p]\)
となって、\(x^n-1\) と \(nx^{n-1}\) の最大公約数は \(-1\:(=p-1)\:\:[\boldsymbol{F}_p]\) という定数である。つまり、\(\boldsymbol{F}_p\) 上の多項式として、
\(x^n-1\) と \(nx^{n-1}\) は互いに素
である。これは明らかに矛盾している。この矛盾の発端は \(f(x)=0\) と \(g(x^p)=0\) が \(\zeta\) という共通の解をもつとしたことにあり、つまり \(g(\zeta^p)=0\) としたことにある。
従って、そもそもの仮定である \(f(\zeta^p)\neq0\) は間違っている。つまり \(f(\zeta^p)=0\) である。[第1ステップの証明終]
第2ステップ(\(k\) は \(\boldsymbol{n}\) と素な数)
\(k\) を \(n\) とは素な(しかし素数ではない)数とし、\(k\) の素因数分解を、
\(k=p_1p_2\cdots p_m\)
とする。この形での素因数分解は、素因数が重複することもありうる。\(k\) は \(n\) と素だから、\(p_1,\:p_2,\:\cdots\:,p_m\) のすべての素数は \(n\) と素である。
\(1\) の原始\(n\)乗根の一つを \(\zeta\) とし、第1ステップの \(p=p_1\) とする。\(p_1\) は \(n\) と素だから、原始\(\boldsymbol{n}\)乗根の累乗の定理(63B)により、\(\zeta^{p_1}\) も \(1\) の原始\(n\)乗根である。また、第1ステップの証明により、\(f(\zeta^{p_1})=0\) である。
次に、その \(\zeta^{p_1}\) を原始\(n\)乗根としてとりあげ、\(p=p_2\) とする。\(p_2\) は \(n\) と素だから、\((\zeta^{p_1})^{p_2}=\zeta^{p_1p_2}\) もまた原始\(n\)乗根になる(63B)。従って、第1ステップでの証明を適用して \(f(\zeta^{p_1p_2})=0\) である。
このプロセスは次々と続けることができる。結局 \(\zeta^{p_1p_2\:\cdots\:p_m}=\zeta^k\) は \(1\) の原始\(n\)乗根であると同時に、\(f(\zeta^k)=0\) を満たす。\(k\) につけた条件は「\(n\) と互いに素」だけである。
原始\(\boldsymbol{n}\)乗根の累乗の定理(63B)により、\(k\) が \(n\) と素という条件で、\(\zeta^k\) は原始\(n\)乗根のすべてを表す。従って、\(f(x)=0\) は原始\(n\)乗根のすべてを解とする方程式である。[証明終]
この原始\(\boldsymbol{n}\)乗根の最小多項式の定理(63C)より、次の定理がすぐに導けます。
(円分多項式:63D) |
\(1\) の原始\(n\)乗根の一つを \(\zeta\) とし、\(\zeta\) の最小多項式を \(f(x)\) とすると、\(f(x)\) は円分多項式である。円分多項式とは、方程式 \(f(x)=0\) が \(\varphi(n)\) 個の解をもち、それらすべてが原始\(n\)乗根である多項式である。
従って、原始\(\boldsymbol{n}\)乗根は互いに共役である。最小多項式は既約多項式なので(31I)、円分多項式は既約多項式である。
\(\boldsymbol{Q}\) に \(\zeta\) を添加した単拡大体 \(\boldsymbol{Q}(\zeta)\) は円分多項式の最小分解体であり、\(\boldsymbol{\boldsymbol{Q}(\zeta)/\boldsymbol{Q}}\) はガロア拡大である。
\(\boldsymbol{Q}(\zeta)\)のガロア群 |
(Q(ζ)のガロア群:63E) |
\(1\) の原始\(n\)乗根の一つを \(\zeta\) とすると、
\(\mathrm{Gal}(\boldsymbol{Q}(\zeta)/\boldsymbol{Q})\cong(\boldsymbol{Z}/n\boldsymbol{Z})^{*}\)
である。つまり \(1\) の原始\(n\)乗根の一つを \(\boldsymbol{Q}\) に添加した拡大体のガロア群は、既約剰余類群に同型である。
[証明]
\(1\) の原始\(n\)乗根の一つを \(\zeta\) とし、最小多項式を \(f(x)\) とすると、円分多項式の定理(63D)により、\(f(x)=0\) の解は \(\varphi(n)=m\) 個の原始\(n\)乗根である。
原始\(n\)乗根を
\(1\leq i\leq m,\:\)\(1\leq k_i\leq n\) かつ \(\mathrm{gcd}(k_i,n)=1)\) |
\(\boldsymbol{Q}(\zeta^{k_1},\zeta^{k_2},\cdots,\zeta^{k_m})=\boldsymbol{Q}(\zeta)\)
である。
\(\zeta\) に作用する同型写像 \(\sigma\) を考えると、\(\sigma\) は \(\zeta\) を共役な元に移すから、
\(\sigma_{k_i}(\zeta)=\zeta^{k_i}\)
で \(m\) 個の同型写像が定義できる。この \(\sigma\) による移り先はすべて \(\boldsymbol{Q}(\zeta)\) の元だから、\(\sigma\) は \(\boldsymbol{Q}(\zeta)\) の自己同型写像である。また、\(\sigma_{k_i}\) と \(\sigma_{k_j}\) の積は、
\(\begin{eqnarray}
&&\:\:\sigma_{k_i}(\sigma_{k_j})&=\sigma_{k_i}(\zeta^{k_j})\\
&&&=(\zeta^{k_j})^{k_i}\\
&&&=\zeta^{k_ik_j}\\
\end{eqnarray}\)
と計算できる。そこで \(\sigma\) の演算規則を、
\(\sigma_{k_i}\sigma_{k_j}=\sigma_{k_ik_j}\)
と定める。
ここで \(k_ik_j\) は、\(1\leq k_i,\:k_j\leq n\) かつ \(\mathrm{gcd}(k_i,n)=1\) かつ \(\mathrm{gcd}(k_j,n)=1\) だから、既約剰余類群 \((\boldsymbol{Z}/n\boldsymbol{Z})^{*}\) の元であり、乗算で閉じている。すなわち \(\sigma_{k_ik_j}\) は \(\sigma\) のどれかである。つまり、自己同型写像である \(\sigma\) は上の演算規則で群になり、ガロア群 \(\mathrm{Gal}(\boldsymbol{Q}(\zeta)/\boldsymbol{Q})\) である。
\(\mathrm{Gal}(\boldsymbol{Q}(\zeta)/\boldsymbol{Q})\) から \((\boldsymbol{Z}/n\boldsymbol{Z})^{*}\) への写像 \(f\) を、
\(f\::\) | \(\mathrm{Gal}(\boldsymbol{Q}(\zeta)/\boldsymbol{Q})\) | \(\longrightarrow\) | \((\boldsymbol{Z}/n\boldsymbol{Z})^{*}\) | |
\(\sigma_{k_i}\) | \(\longmapsto\) | \(k_i\) |
\(f(\sigma_{k_i}\sigma_{k_j})\) | \(=f(\sigma_{k_ik_j})\) | |
\(=k_ik_j\) | ||
\(f(\sigma_{k_i})f(\sigma_{k_j})\) | \(=k_ik_j\) |
既約剰余類群 \((\boldsymbol{Z}/n\boldsymbol{Z})^{*}\) は巡回群の直積と同型です(25G)。従って次の定理が得られます。
(Q(ζ)のガロア群は巡回群:63F) |
\(1\) の原始\(n\)乗根の一つを \(\zeta\) とすると、\(\mathrm{Gal}(\boldsymbol{Q}(\zeta)/\boldsymbol{Q})\) は巡回群の直積と同型である。
従って、\(\mathrm{Gal}(\boldsymbol{Q}(\zeta)/\boldsymbol{Q})\) は可解群であり(61B)、累巡回拡大である(62C)。
累巡回拡大は、可解性の必要条件を証明する重要ポイントです。そこで次に、\(\boldsymbol{Q}(\zeta)/\boldsymbol{Q}\) が累巡回拡大になる様子を、ガロア群の計算で示します。
円分拡大は累巡回拡大 |
\(1\) の原始\(n\)乗根 \(\zeta\) を \(\boldsymbol{Q}\) に添加する拡大、\(\boldsymbol{Q}(\zeta)/\boldsymbol{Q}\) を円分拡大と言います。\(\mathrm{Gal}(\boldsymbol{Q}(\zeta)/\boldsymbol{Q})\) は巡回群の直積と同型で、従って 円分拡大 \(\boldsymbol{Q}(\zeta)/\boldsymbol{Q}\) は累巡回拡大です。
\(\mathrm{Gal}(\boldsymbol{Q}(\zeta)/\boldsymbol{Q})\) が巡回群の直積と同型になる理由は、既約剰余類群と同型であること、つまり、
\(\mathrm{Gal}(\boldsymbol{Q}(\zeta)/\boldsymbol{Q})\cong(\boldsymbol{Z}/n\boldsymbol{Z})^{*}\)
でした(63E)。その \((\boldsymbol{Z}/n\boldsymbol{Z})^{*}\) について振り返ってみると、次の通りです。\(\varphi\) はオイラー関数です。
\(\boldsymbol{n}\) が奇素数 \(\boldsymbol{p}\) 、または奇素数 のべき乗のとき
(\(n=p^k,\:1\leq k\))(25D)(25E)
\((\boldsymbol{Z}/p^k\boldsymbol{Z})^{*}\) は生成元をもつ巡回群
群位数:\(\varphi(p^k)=p^{k-1}(p-1)\)
\(\boldsymbol{n}\) が2のべき乗のとき
(\(n=2^k,\:2\leq k\))(25F)
\((\boldsymbol{Z}/2^k\boldsymbol{Z})^{*}\cong(\boldsymbol{Z}/2\boldsymbol{Z})\times(\boldsymbol{Z}/2^{k-2}\boldsymbol{Z})\)
群位数:\(\varphi(2^k)=2^{k-1}\)
\(\boldsymbol{n=p^a\cdot q^b\cdot r^c}\)のとき
(\(p,\:q,\:r\) は素数)(25G)
\((\boldsymbol{Z}/p^a\boldsymbol{Z})^{*}\times\)\((\boldsymbol{Z}/q^b\boldsymbol{Z})^{*}\times\)\((\boldsymbol{Z}/r^c\boldsymbol{Z})^{*}\) |
もちろん最後の式は、素因数が4個以上でも同様に成り立ちます。以下、それぞれの例をあげます。
\(\zeta\) が 原始\(25\)乗根のとき
\(\zeta\) が 原始\(25\)乗根の(一つ)のとき、原始\(25\)乗根の全体は \(\zeta^k\:\:(\mathrm{gcd}(k,25)=1)\) で表され(63B)、その数は \(25\) と互いに素な自然数の数、\(\varphi(25)=20\) です。\(\boldsymbol{Q}(\zeta)\) のガロア群は、
\(\mathrm{Gal}(\boldsymbol{Q}(\zeta)/\boldsymbol{Q})\cong(\boldsymbol{Z}/5^2\boldsymbol{Z})^{*}\)
でした(63E)。\((\boldsymbol{Z}/5\boldsymbol{Z})^{*}\) の最小の生成元は \(2\) ですが(25D)、ほどんどの場合、\((\boldsymbol{Z}/p\boldsymbol{Z})^{*}\) の生成元は同時に \((\boldsymbol{Z}/p^2\boldsymbol{Z})^{*}\) の生成元です(25E)。実際、\(2\) は \((\boldsymbol{Z}/25\boldsymbol{Z})^{*}\) の生成元であることが確認できます。
そこで、\(\boldsymbol{Q}(\zeta)\) の自己同型写像 \(\sigma\) を、
\(\sigma(\zeta)=\zeta^2\)
と定義すると、\(\sigma^k(\zeta)\:\:(1\leq k\leq20)\) は、
\(\zeta^2,\:\)\(\zeta^4,\:\)\(\zeta^8,\:\)\(\zeta^{16},\:\)\(\zeta^7,\:\)\(\zeta^{14},\:\)\(\zeta^3,\:\)\(\zeta^6,\:\)\(\zeta^{12},\:\)\(\zeta^{24},\:\)\(\zeta^{23},\:\)\(\zeta^{21},\:\)\(\zeta^{17},\:\)\(\zeta^9,\:\)\(\zeta^{18},\:\)\(\zeta^{11},\:\)\(\zeta^{22},\:\)\(\zeta^{19},\:\)\(\zeta^{13},\:\)\(\zeta\) |
となって、原始\(25\)乗根の全部を尽くします。つまり、
\(\{e,\)\(\:\sigma,\)\(\:\sigma^2,\)\(\:\cdots\:,\)\(\:\sigma^{19}\}\) |
であり、\(\mathrm{Gal}(\boldsymbol{Q}(\zeta)/\boldsymbol{Q})\) は位数 \(20\) の巡回群で、
\(\boldsymbol{Q}\:\subset\:\boldsymbol{Q}(\zeta)\)
は巡回拡大です。
\(\zeta\) が 原始\(16\)乗根のとき
原始\(16\)乗根は、自然数 \(k\) を \(16\) 以下の奇数として \(\zeta^k\) で表され、次の8個です。
\(\zeta,\:\zeta^3,\:\zeta^5,\:\zeta^7,\:\zeta^9,\:\zeta^{11},\:\zeta^{13},\:\zeta^{15}\)
ここで、\(n\) が2のべき乗のときの同型は、
\((\boldsymbol{Z}/16\boldsymbol{Z})^{*}\cong(\boldsymbol{Z}/2\boldsymbol{Z})\times(\boldsymbol{Z}/4\boldsymbol{Z})\)
でした(25F)。つまり、\((\boldsymbol{Z}/16\boldsymbol{Z})^{*}\) は巡回群ではありませんが、位数 \(2\) の巡回群と位数 \(4\) の巡回群の直積に同型です。このことの証明(25F)を振り返ってみると、\(\mathrm{mod}\:16\) でみて \(5^k\:\:(0\leq k\leq3)\) は、
\(1,\:5,\:9,\:13\)
であり、\((\boldsymbol{Z}/16\boldsymbol{Z})^{*}\) の元のうちの「4で割って1余る数」が全部現れるのでした。そこで、\(\boldsymbol{Q}(\zeta)\) の自己同型写像 \(\sigma\) を、
\(\sigma(\zeta)=\zeta^5\)
と定義すると、\(\sigma^k(\zeta)\:\:(0\leq k\leq3)\) は、
\(\zeta,\:\zeta^5,\:\zeta^9,\:\zeta^{13}\)
で、原始\(16\)乗根の半数を表現します。
\(G=\mathrm{Gal}(\boldsymbol{Q}(\zeta)/\boldsymbol{Q})\)
\(H=\{e,\:\sigma,\:\sigma^2,\:\sigma^3\}\)
と書くと、\(H\) は \(G\) の部分群で、\(H\) の位数 \(4\) は \(G\) の位数 \(8\) の半分です。
\(H\) の固定体を \(\boldsymbol{K}\) とします。
\(\sigma(\zeta^4)=\sigma(\zeta)^4=(\zeta^5)^4=\zeta^{20}\)
ですが、\(\zeta^{16}=1\) なので、
\(\sigma(\zeta^4)=\zeta^4\)
です。\(\zeta^4\) は \(\sigma\) で不変であり、従って \(\zeta^4\) は \(H\) のすべての元で不変です。\(\zeta^4\) は4乗して初めて \(1\) になる数で、\(1\) の原始4乗根、つまり \(i\)(または \(-i\)。\(i\) は虚数単位)です。つまり \(i\) は固定体 \(\boldsymbol{K}\) の元であり、
\(\boldsymbol{Q}(i)\:\subset\:\boldsymbol{K}\)
です。\(\boldsymbol{K}\) が \(H\) の固定体なので、ガロア対応は、
\(G\:\supset\:H\:\supset\:\{\:e\:\}\)
\(\boldsymbol{Q}\:\subset\:\boldsymbol{K}\:\subset\:\boldsymbol{Q}(\zeta)\)
です。ガロア対応の定理(53B)により、
\(\mathrm{Gal}(\boldsymbol{Q}(\zeta)/\boldsymbol{K})=H\)
であり、次数と位数の同一性(52B)により、体の拡大次数はガロア群の位数と等しいので、
\([\:\boldsymbol{Q}(\zeta):\boldsymbol{K}\:]=|H|=4\)
です。また、
\([\:\boldsymbol{Q}(\zeta):\boldsymbol{Q}\:]=\varphi(16)=8\)
なので、拡大次数の連鎖律(33H)により、
\([\:\boldsymbol{K}:\boldsymbol{Q}\:]=2\)
です。一方、\(i\) は既約な2次方程式 \(x^2+1=0\) の根なので、\([\:\boldsymbol{Q}(i):\boldsymbol{Q}\:]=2\) です。つまり \(\boldsymbol{K}\) と \(\boldsymbol{Q}(i)\) は次元(\(=\:2\))が一致し、かつ \(\boldsymbol{Q}(i)\:\subset\:\boldsymbol{K}\) なので、体の一致の定理(33I)によって、
\(\boldsymbol{K}=\boldsymbol{Q}(i)\)
です。まとめると、\(\mathrm{Gal}(\boldsymbol{Q}(\zeta)/\boldsymbol{Q}(i))\) は位数 \(4\) の巡回群であり、\(\boldsymbol{Q}(\zeta)/\boldsymbol{Q}(i)\) は巡回拡大です。
また、
\(\tau(i)=-i\)
と定義すると、\(\tau\) は \(\boldsymbol{Q}(i)\) の自己同型写像です。従って、
\(\mathrm{Gal}(\boldsymbol{Q}(i)/\boldsymbol{Q})=\{e,\:\tau\}\)
であり、\(\mathrm{Gal}(\boldsymbol{Q}(i)/\boldsymbol{Q})\) は位数 \(2\) の巡回群で、\(\boldsymbol{Q}(i)/\boldsymbol{Q}\) は巡回拡大です。
以上で、
\(\boldsymbol{Q}\:\subset\:\boldsymbol{Q}(i)\:\subset\:\boldsymbol{Q}(\zeta)\)
は2つの巡回拡大を連鎖させた累巡回拡大です。
\(\zeta\) が 原始\(360\)乗根のとき
\(n\) が複数の素因数をもつ一般的な場合を確認します。分かりやすいように \(n=360\) とします。\(360=2^3\cdot3^2\cdot5\) なので、既約剰余類群の構造の定理(25G)によって、
\((\boldsymbol{Z}/360\boldsymbol{Z})^{*}\cong(\boldsymbol{Z}/8\boldsymbol{Z})^{*}\times(\boldsymbol{Z}/9\boldsymbol{Z})^{*}\times(\boldsymbol{Z}/5\boldsymbol{Z})^{*}\)
です。右辺の群位数はそれぞれ、
\(|(\boldsymbol{Z}/8\boldsymbol{Z})^{*}|=\varphi(8)=4\)
\(|(\boldsymbol{Z}/9\boldsymbol{Z})^{*}|=\varphi(9)=6\)
\(|(\boldsymbol{Z}/5\boldsymbol{Z})^{*}|=\varphi(5)=4\)
なので、
\(|(\boldsymbol{Z}/360\boldsymbol{Z})^{*}|=4\cdot6\cdot4=96=\varphi(360)\)
です。ここで、
\(1\) の原始\(8\)乗根 \(:\:\zeta^{45}\)
\(1\) の原始\(9\)乗根 \(:\:\zeta^{40}\)
\(1\) の原始\(5\)乗根 \(:\:\zeta^{72}\)
ですが、これらを用いると、
\(\boldsymbol{Q}(\zeta)=\boldsymbol{Q}(\zeta^{45},\zeta^{40},\zeta^{72})\)
が成り立ちます。その理由ですが、
\(\boldsymbol{Q}(\zeta^{45},\zeta^{40},\zeta^{72})\subset\boldsymbol{Q}(\zeta)\)
であるのは当然として、その逆である、
\(\boldsymbol{Q}(\zeta)\subset\boldsymbol{Q}(\zeta^{45},\zeta^{40},\zeta^{72})\)
も成り立つからです。なぜなら、
\(45x+40y+72z=1\)
の1次不定方程式を考えると、\(\mathrm{gcd}(45,40,72)=1\) なので不定方程式の解の存在の定理(21C)により必ず整数解があります。具体的には、
\(x=5,\:\:y=7,\:\:z=-7\)
が解(の一つ)です。従って、
\(\zeta=(\zeta^{45})^5\cdot(\zeta^{40})^7\cdot(\zeta^{72})^{-7}\)
であり、\(\zeta\) が \(\zeta^{45},\:\zeta^{40},\:\zeta^{72}\) の四則演算で表現できるので、
\(\boldsymbol{Q}(\zeta)\subset\boldsymbol{Q}(\zeta^{45},\zeta^{40},\zeta^{72})\)
です。この結果、
\(\boldsymbol{Q}(\zeta)=\boldsymbol{Q}(\zeta^{45},\zeta^{40},\zeta^{72})\)
となります。
以上を踏まえると、\(\boldsymbol{Q}\) から \(\boldsymbol{Q}(\zeta)\) への体の拡大は、
\(\begin{eqnarray}
&&\:\:\boldsymbol{Q}&\subset\boldsymbol{Q}(\zeta^{45})\\
&&&\subset\boldsymbol{Q}(\zeta^{45},\zeta^{40})\\
&&&\subset\boldsymbol{Q}(\zeta^{45},\zeta^{40},\zeta^{72})=\boldsymbol{Q}(\zeta)\\
\end{eqnarray}\)
と、\(\boldsymbol{Q}\) からの単拡大を3回繰り返したものと言えます。以降で、それぞれの単拡大が巡回拡大になることを確認します。
\(\boldsymbol{Q}\:\subset\:\boldsymbol{Q}(\zeta^{45})\)
\(\zeta^{45}\) は原始\(8\)乗根なので、上で検討した原始\(16\)乗根の結果がそのまま使えます。つまり、
\(\boldsymbol{Q}\subset\boldsymbol{Q}(i)\subset\boldsymbol{Q}(\zeta^{45})\)
と表され、
\([\:\boldsymbol{Q}(i):\boldsymbol{Q}\:]=2\)
\([\:\boldsymbol{Q}(\zeta^{45}):\boldsymbol{Q}(i)\:]=2\)
\([\:\boldsymbol{Q}(\zeta^{45}):\boldsymbol{Q}\:]=4\)
であり、\(\mathrm{Gal}(\boldsymbol{Q}(i)/\boldsymbol{Q}),\:\mathrm{Gal}(\boldsymbol{Q}(\zeta^{45})/\boldsymbol{Q}(i))\) は位数2の巡回群です。原始8乗根は簡単に計算できて、たとえばその一つは、
\(\begin{eqnarray}
&&\:\:\zeta^{45}&=\mathrm{cos}\dfrac{\pi}{4}+i\:\mathrm{sin}\dfrac{\pi}{4}\\
&&&=\dfrac{1}{2}(\sqrt{2}+\sqrt{2}\:i)\\
\end{eqnarray}\)
なので、
\(\boldsymbol{Q}\subset\boldsymbol{Q}(i)\subset\boldsymbol{Q}(i,\sqrt{2})=\boldsymbol{Q}(\zeta^{45})\)
と表現することができます。この結果を使って、2つのガロア群 \(G_1\) と\(G_2\) の元を表現すると、
\(G_1=\mathrm{Gal}(\boldsymbol{Q}(i)/\boldsymbol{Q})=\{e,\:\sigma_1\}\)
\(\sigma_1(i)=-i\)
\(G_2=\mathrm{Gal}(\boldsymbol{Q}(\zeta^{45})/\boldsymbol{Q}(i))=\{e,\:\sigma_2\}\)
\(\sigma_2(\sqrt{2})=-\sqrt{2}\)
となります。
\(\boldsymbol{Q}(\zeta^{45})\subset\boldsymbol{Q}(\zeta^{45},\zeta^{40})\)
\(\zeta^{40}\) は原始\(9\)乗根です。原始\(9\)乗根の一つを \(\alpha\) と書くと、原始\(9\)乗根の全体は \(1\)~\(8\) の数で \(9\) と素なものを選んで、
\(\alpha,\:\alpha^2,\:\alpha^4,\:\alpha^5,\:\alpha^7,\:\alpha^8\)
の6つになり、これらが共役な元です。\((\boldsymbol{Z}/9\boldsymbol{Z})^{*}\) の元は、
\((\boldsymbol{Z}/9\boldsymbol{Z})^{*}=\{1,\:2,\:4,\:5,\:7,\:8\}\)
ですが、生成元は \(2\) か \(5\) です。生成元として \(2\) を採用すると、\(2^k\:(\mathrm{mod}\:9)\:(1\leq k\leq6)\) は、
\(2,\:4,\:8,\:7,\:5,\:1\)
と、\((\boldsymbol{Z}/9\boldsymbol{Z})^{*}\) の元を巡回します。
\(G_3=\mathrm{Gal}(\boldsymbol{Q}(\zeta^{45},\zeta^{40})/\boldsymbol{Q}(\zeta^{45}))\)
と書くことにし、ガロア群 \(G_3\) の元 \(\sigma\) を、
\(\sigma(\alpha)=\alpha^2\)
と定義すると、
\(G_3=\{e,\:\sigma,\:\sigma^2,\:\sigma^3,\:\sigma^4,\:\sigma^5\}\)
となります。\(\alpha\) を \(\zeta\) で表すと、
\(\sigma(\zeta^{40})=\zeta^{80}\)
です。 \((\textbf{A})\)
ただし、ガロア群の定義によって \(\sigma\) は \(\zeta^{45}\) を不動にします。従って、
\(\sigma(\zeta^{45})=\zeta^{45}\)
を満たさなければなりません。ここで、\(\sigma\) が \(\zeta\) に作用したとき、 \((\textbf{B})\)
\(\sigma(\zeta)=\zeta^x\)
であると仮定します。すると \((\textbf{A})\) 式と \((\textbf{C})\) 式から、 \((\textbf{C})\)
\(40x\equiv80\:\:(\mathrm{mod}\:360)\)
\(x\equiv2\:\:(\mathrm{mod}\:9)\)
です。また、\((\textbf{B})\) 式と \((\textbf{C})\) 式から、 \((\textbf{D})\)
\(45x\equiv45\:\:(\mathrm{mod}\:360)\)
\(x\equiv1\:\:(\mathrm{mod}\:8)\)
です。\(9\) と \(8\) は互いに素です。そうすると中国剰余定理(21F)によって、\((\textbf{D})\) 式と \((\textbf{E})\) 式の連立合同方程式は \(0\leq x < 9\cdot8\) の範囲に唯一の解があります。それを求めると、 \((\textbf{E})\)
\(x=65\)
です。当然ですが、\(65\)の累乗を \((\mathrm{mod}\:9)\) で計算してみると、
\(65^{\phantom{1}}\equiv2\:\:(\mathrm{mod}\:9)\)
\(65^2\equiv4\:\:(\mathrm{mod}\:9)\)
\(65^3\equiv8\:\:(\mathrm{mod}\:9)\)
\(65^4\equiv7\:\:(\mathrm{mod}\:9)\)
\(65^5\equiv5\:\:(\mathrm{mod}\:9)\)
\(65^6\equiv1\:\:(\mathrm{mod}\:9)\)
となって、\(2\) の累乗 \((\mathrm{mod}\:9)\) と一致します。\(\mathrm{mod}\:360\) に戻すと、
\(40\cdot65^{\phantom{1}}\equiv40\cdot2\:\:(\mathrm{mod}\:360)\)
\(40\cdot65^2\equiv40\cdot4\:\:(\mathrm{mod}\:360)\)
\(40\cdot65^3\equiv40\cdot8\:\:(\mathrm{mod}\:360)\)
\(40\cdot65^4\equiv40\cdot7\:\:(\mathrm{mod}\:360)\)
\(40\cdot65^5\equiv40\cdot5\:\:(\mathrm{mod}\:360)\)
\(40\cdot65^6\equiv40\phantom{\cdot5\:\:(}(\mathrm{mod}\:360)\)
です。この結果、
\(\sigma_3(\zeta)=\zeta^{65}\) |
\(\sigma_3^{\:\phantom{1}}(\alpha)=\alpha^2,\:\:\sigma_3^{\:2}(\alpha)=\alpha^4,\:\:\sigma_3^{\:3}(\alpha)=\alpha^8\)
\(\sigma_3^{\:4}(\alpha)=\alpha^7,\:\:\sigma_3^{\:5}(\alpha)=\alpha^5,\:\:\sigma_3^{\:6}(\alpha)=\alpha\)
と巡回させます \((\zeta^{360}=1)\)。また、
\(65\cdot45=2925\equiv45\:\:(\mathrm{mod}\:360)\)
なので、
\(\sigma_3(\zeta^{45})=\zeta^{45}\)
です。結局、
\(\begin{eqnarray}
&&\:\:G_3&=\mathrm{Gal}(\boldsymbol{Q}(\zeta^{45},\zeta^{40})/\boldsymbol{Q}(\zeta^{45}))\\
&&&=\{e,\:\sigma_3,\:\sigma_3^{\:2},\:\sigma_3^{\:3},\:\sigma_3^{\:4},\:\sigma_3^{\:5}\}\\
\end{eqnarray}\)
\(\sigma_3(\zeta)=\zeta^{65}\)
がガロア群です。
\(\boldsymbol{Q}(\zeta^{45},\zeta^{40})\subset\boldsymbol{Q}(\zeta^{45},\zeta^{40},\zeta^{72})\)
\(\zeta^{72}\) は原始\(5\)乗根で、\((\boldsymbol{Z}/5\boldsymbol{Z})^{*}\) の生成元は \(2\) か \(3\) です。生成元として \(2\) を採用すると、ガロア群の元 \(\sigma\) は、先ほどと同じように考えて、
\(\sigma(\zeta^{72})=\zeta^{144}\)
です。また \(\sigma\) は \(\zeta^{45}\) と \(\zeta^{40}\) を固定するので、 \((\textbf{A}\,')\)
\(\sigma(\zeta^{45})=\zeta^{45},\:\:\:\sigma(\zeta^{40})=\zeta^{40}\)
です。\(\sigma\) が \(\zeta\) に作用したときに、 \((\textbf{B}\,')\)
\(\sigma(\zeta)=\zeta^x\)
だとすると、\((\textbf{A}\,')\:\:(\textbf{B}\,')\) と \((\textbf{C})\) により、 \((\textbf{C})\)
\(72x\equiv144\) | \((\mathrm{mod}\:360)\) | |
\(45x\equiv45\) | \((\mathrm{mod}\:360)\) | |
\(40x\equiv40\) | \((\mathrm{mod}\:360)\) |
\(x\equiv2\) | \((\mathrm{mod}\:5)\) | |
\(x\equiv1\) | \((\mathrm{mod}\:8)\) | |
\(x\equiv1\) | \((\mathrm{mod}\:9)\) |
\(x=217\)
です。従って、
\(\sigma_4(\zeta)=\zeta^{217}\) |
\(G_4=\{e,\:\sigma_4,\:\sigma_4^{\:2},\:\sigma_4^{\:3}\}\)
\(\sigma_4(\zeta)=\zeta^{217}\)
がガロア群になります。\(217^4\equiv1\:\:(\mathrm{mod}\:360)\) です。なお、
\(\boldsymbol{Q}(\zeta^{45},\zeta^{40})=\boldsymbol{Q}(\zeta^5)\)
と簡略化できます。なぜなら、\(40\) と \(45\) の最大公約数は \(5\) なので、
\(45x+40y=5\)
の1次不定方程式には整数解があり(21B)、具体的には、
\(x=1,\:\:y=-1\)
が解(の一つ)で、
\(\zeta^5=\zeta^{45}\cdot(\zeta^{40})^{-1}\)
と表せるからです。また、
\(\boldsymbol{Q}(\zeta)=\boldsymbol{Q}(\zeta^{45},\zeta^{40},\zeta^{72})\)
だったので、
\(\begin{eqnarray}
&&\:\:G_4&=\mathrm{Gal}(\boldsymbol{Q}(\zeta)/\boldsymbol{Q}(\zeta^5))\\
&&&=\{e,\:\sigma_4,\:\sigma_4^{\:2},\:\sigma_4^{\:3}\}\\
\end{eqnarray}\)
\(\sigma_4(\zeta)=\zeta^{217}\)
と表記できます。\(G_4\) は位数 \(4\) の巡回群であり、\(\boldsymbol{Q}(\zeta)/\boldsymbol{Q}(\zeta^5)\) は巡回拡大です。さらに、
\(\begin{eqnarray}
&&\:\:\sigma_4(\zeta^5)&=\zeta^{5\cdot217}=\zeta^{1085}\\
&&&=\zeta^{3\cdot360+5}=\zeta^5\\
\end{eqnarray}\)
なので、\(\sigma_4\) が \(\zeta^5\) を固定することが確認できました。
以上の考察をまとめると、\(\zeta\) が \(1\) の原始\(360\)乗根のとき、
\(\boldsymbol{Q}\subset\boldsymbol{Q}(i)\subset\boldsymbol{Q}(\zeta^{45})\subset\boldsymbol{Q}(\zeta^5)\subset\boldsymbol{Q}(\zeta)\)
という、4段階の巡回拡大が得られました。\(i\) は原始\(4\)乗根なので、\(\boldsymbol{Q}(i)\) は \(\boldsymbol{Q}(\zeta^{90})\) と同じ意味です。それそれの拡大のガロア群を \(G_1,\:G_2,\:G_3,\:G_4\) とすると、
\(G_1=\{e,\:\sigma_1\}\)
\(\sigma_1(i)=-i\)
\(G_2=\{e,\:\sigma_2\}\)
\(\sigma_2(\sqrt{2})=-\sqrt{2}\)
\(G_3=\{e,\:\sigma_3,\:\sigma_3^{\:2},\:\sigma_3^{\:3},\:\sigma_3^{\:4},\:\sigma_3^{\:5}\}\)
\(\sigma_3(\zeta)=\zeta^{65}\)
\(G_4=\{e,\:\sigma_4,\:\sigma_4^{\:2},\:\sigma_4^{\:3}\}\)
\(\sigma_4(\zeta)=\zeta^{217}\)
であり、これらすべてが巡回群です。また、体の拡大次数はガロア群の位数と一致し、順に \(2,\:2,\:6,\:4\) です。以上のことは、\(\zeta\) を \(1\) の\(360\)乗根とするとき、
\(\mathrm{Gal}(\boldsymbol{Q}(\zeta)/\boldsymbol{Q})\cong(\boldsymbol{Z}/360\boldsymbol{Z})^{*}\)
\((\boldsymbol{Z}/360\boldsymbol{Z})^{*}\) | \(\cong\) | \((\boldsymbol{Z}/8\boldsymbol{Z})^{*}\times\)\((\boldsymbol{Z}/9\boldsymbol{Z})^{*}\times\)\((\boldsymbol{Z}/5\boldsymbol{Z})^{*}\) | |
\(\cong\) | \((\boldsymbol{Z}/2\boldsymbol{Z})\times\)\((\boldsymbol{Z}/2\boldsymbol{Z})\times\)\((\boldsymbol{Z}/9\boldsymbol{Z})^{*}\times\)\((\boldsymbol{Z}/5\boldsymbol{Z})^{*}\) |
以上のガロア群の計算を通して、\(\boldsymbol{Q}(\zeta)/\boldsymbol{Q}\) は累巡回拡大であることが確認できました。
べき根拡大 |
(べき根拡大の定義:63G) |
\(\boldsymbol{K}\) 上の方程式 \(x^n-a=0\:(a\in\boldsymbol{K}\)、\(a\neq1)\) の解の一つで、\(\boldsymbol{K}\) に含まれないものを \(\sqrt[n]{a}\) とするとき、\(\boldsymbol{K}(\sqrt[n]{a})\) を \(\boldsymbol{K}\) のべき根拡大(radical extension)と呼ぶ。
また、\(\boldsymbol{K}\) からのべき根拡大を繰り返して拡大体 \(\boldsymbol{F}\) ができるとき、\(\boldsymbol{F}/\boldsymbol{K}\) を累べき根拡大と言う。
\(x^n-a\) は既約多項式とは限らないので、\(\boldsymbol{K}(\sqrt[n]{a})/\boldsymbol{K}\) の拡大次数は \(n\) とは限りません。
また一般に、べき根拡大はガロア拡大ではありません。しかし \(\boldsymbol{K}\) に特別の条件(= \(\boldsymbol{K}\) に \(1\) の原始\(n\)乗根 \(\zeta\) が含まれる)があるときは、べき根拡大がガロア拡大、かつ巡回拡大になります。この「原始\(\boldsymbol{n}\)乗根を含む体からのべき根拡大」を考えるのが、ガロア理論の巧妙なアイデアです。
\(1\) の原始\(n\)乗根を含むべき根拡大 |
(原始n乗根を含むべき根拡大:63H) |
\(1\) の原始\(n\)乗根を \(\zeta\) とし、\(\boldsymbol{K}\) に \(\zeta\) が含まれるとする。\(\boldsymbol{K}\) 上の方程式 \(x^n-a=0\:(a\in\boldsymbol{K}\)、\(a\neq1)\) の解の一つで、\(\boldsymbol{K}\) に含まれないものを \(\sqrt[n]{a}\) とし、\(\boldsymbol{L}=\boldsymbol{K}(\sqrt[n]{a})\) とすると、
\(\boldsymbol{L}/\boldsymbol{K}\) は巡回拡大である | |
\(\mathrm{Gal}(\boldsymbol{L}/\boldsymbol{K})\) の位数は \(n\) の約数である |
[証明]
\(\boldsymbol{K}(\sqrt[n]{a})\) 上の同型写像を \(\tau\) とする。\(x^n-a=0\) の解は、
\(\sqrt[n]{a},\:\sqrt[n]{a}\:\zeta,\:\sqrt[n]{a}\:\zeta^2,\:\cdots\:,\:\sqrt[n]{a}\:\zeta^{n-1}\)
であり、\(\tau\) を \(\sqrt[n]{a}\) に作用させたときの移り先は、このうちのどれかである。もともと \(\boldsymbol{K}\) には \(1\) の原始\(n\)乗根 \(\zeta\) が 含まれているから、これらの移り先はすべて \(\boldsymbol{K}(\sqrt[n]{a})\) の元である。従って \(\tau\) は自己同型写像であり、\(\boldsymbol{K}(\sqrt[n]{a})/\boldsymbol{K}\) はガロア拡大である。
次にガロア群 \(\mathrm{Gal}(\boldsymbol{K}(\sqrt[n]{a})/\boldsymbol{K})\) の元と、\(\boldsymbol{K}(\sqrt[n]{a})/\boldsymbol{K}\) の拡大次数を求める。\(\sqrt[n]{a}\) の \(\boldsymbol{K}\) 上の最小多項式を \(f(x)\) とする。最小多項式は既約多項式(31I)により \(f(x)\) は既約多項式であり、\(f(x)=0\) と \(x^n-a=0\) は共通の解 \(\sqrt[n]{a}\) を持つから、\(x^n-a=0\) は \(f(x)\) で割り切れる。従って \(f(x)=0\) の解は、\(x^n-a=0\) の解、\(\sqrt[n]{a},\:\sqrt[n]{a}\:\zeta,\:\sqrt[n]{a}\:\zeta^2,\:\cdots\:,\:\sqrt[n]{a}\:\zeta^{n-1}\) の全部、またはその一部である。\(f(x)=0\) の解で、\(\sqrt[n]{a}\:\zeta^{t}\) の\(t\) が最小となる 正の数を \(d\:(1\leq d\leq n-1)\) とする。そして \(\boldsymbol{K}\) の元を固定する \(\boldsymbol{K}(\sqrt[n]{a})\) の同型写像、\(\sigma\) を、
\(\sigma(\sqrt[n]{a})=\sqrt[n]{a}\:\zeta^{d}\)
と定義する。これは自己同型写像になるから、\(\mathrm{Gal}(\boldsymbol{K}(\sqrt[n]{a})/\boldsymbol{K})\) の元である。\(\sigma\) は \(\boldsymbol{K}\) の元を固定するから \(\sigma(\zeta)=\zeta\) である。これを用いて \(\sigma^i(\sqrt[n]{a})\) を求めると、
\(\begin{eqnarray}
&&\:\:\sigma^2(\sqrt[n]{a})&=\sigma(\sigma(\sqrt[n]{a}))=\sigma(\sqrt[n]{a}\:\zeta^{d})=\sigma(\sqrt[n]{a})\zeta^{d}\\
&&&=\sqrt[n]{a}\:\zeta^{d}\zeta^{d}=\sqrt[n]{a}\:\zeta^{2d}\\
&&\:\:\sigma^3(\sqrt[n]{a})&=\sigma(\sigma^2(\sqrt[n]{a}))=\sigma(\sqrt[n]{a}\:\zeta^{2d})=\sigma(\sqrt[n]{a})\zeta^{2d}\\
&&&=\sqrt[n]{a}\:\zeta^{d}\zeta^{2}d=\sqrt[n]{a}\:\zeta^{3d}\\
\end{eqnarray}\)
となり、一般的には、
\(\sigma^i(\sqrt[n]{a})=\sqrt[n]{a}\:\zeta^{id}\:(1\leq i)\)
となる。\(i=n\) とおくと、
\(\sigma^n(\sqrt[n]{a})=\sqrt[n]{a}\:\zeta^{nd}=\sqrt[n]{a}\)
となるから、\(\sigma^n=e\) である。
\(n\) を \(d\) で割ったときの商を \(s\)、余りを \(r\) とする。
\(n=sd+r\:(1 < s\leq n,\:0\leq r < d)\)
である。ここで \(\sigma^i(\sqrt[n]{a})\) の \(i\) を \(n-s\) とおくと、
\(\begin{eqnarray}
&&\:\:\sigma^{n-s}(\sqrt[n]{a})&=\sqrt[n]{a}\:\zeta^{nd-sd}\\
&&&=\sqrt[n]{a}\:\zeta^{n(d-1)+n-sd}\\
\end{eqnarray}\)
となる。\(\zeta^n=e\) なので、\(\zeta^{n(d-1)}=e\) であることを用いると、
\(\begin{eqnarray}
&&\:\:\sigma^{n-s}(\sqrt[n]{a})&=\sqrt[n]{a}\:\zeta^{n-sd}\\
&&&=\sqrt[n]{a}\:\zeta^{r}\\
\end{eqnarray}\)
と計算できる。\(\sigma^{s}\) はガロア群の元なので、\(\sigma^{n-s}=\sigma^{-s}\) もガロア群の元である。従って \(\sigma^{n-s}(\sqrt[n]{a})\) は \(f(x)=0\) の解である。
ここでもし \(r\) がゼロでないとすると、\(1\) 以上、\(d\) 未満の数である \(r\) があって、\(\sqrt[n]{a}\:\zeta^{r}\) が \(f(x)=0\) の解となってしまう。しかしこれは、\(f(x)=0\) の解である \(\sqrt[n]{a}\:\zeta^{t}\) の \(t\) の最小値が \(d\) との仮定に反する。従って \(r=0\) である。
\(n=sd\) なので、
\(\sqrt[n]{a},\:\sqrt[n]{a}\:\zeta,\:\sqrt[n]{a}\:\zeta^2,\:\cdots\:,\:\sqrt[n]{a}\:\zeta^{n-1}\)
の中に \(f(x)=0\) の解は \(s\) 個あり、
\(\sqrt[n]{a},\:\sqrt[n]{a}\:\zeta^{d},\:\:\sqrt[n]{a}\:\zeta^{2d},\:\cdots\:,\:\sqrt[n]{a}\:\zeta^{(s-1)d}\)
である。\(\mathrm{Gal}(\boldsymbol{K}(\sqrt[n]{a})/\boldsymbol{K})\) は位数 \(s\) の巡回群であり、位数は \(n\) の約数である。\(n\) が素数 \(p\) であれば、\(\mathrm{Gal}(\boldsymbol{K}(\sqrt[p]{a})/\boldsymbol{K})\) は \(p\)次の巡回群である。[証明終]
この定理から分かることは、あらかじめ必要な原始\(n\)乗根を "仕込んで" おけば、べき根拡大列は巡回拡大列になるということです。たとえば、べき根拡大の列、
\(\boldsymbol{Q}\:\subset\:\boldsymbol{K}\:\subset\:\boldsymbol{L}\)
があり、\(\boldsymbol{K}/\boldsymbol{Q}\) の拡大次数を \(n_1\)、\(\boldsymbol{L}/\boldsymbol{K}\) の拡大次数を \(n_2\) とします。\(n_1,\:n_2\) の最小公倍数を \(n\)、\(1\) の原始\(n\)乗根を \(\zeta\) とします。そして、
\(\boldsymbol{Q}\:\subset\:\boldsymbol{Q}(\zeta)\:\subset\:\boldsymbol{K}\:\subset\:\boldsymbol{L}\)
の拡大列を考えると、\(\boldsymbol{Q}(\zeta)\) には、
\(1\) の原始\(n_1\)乗根 : \(\zeta^{\frac{n}{n_1}}\)
\(1\) の原始\(n_2\)乗根 : \(\zeta^{\frac{n}{n_2}}\)
が含まれているので、
\(\boldsymbol{Q}(\zeta)/\boldsymbol{Q}\) | : 累巡回拡大(63F) | |
\(\boldsymbol{K}/\boldsymbol{Q}(\zeta)\) | : 巡回拡大(63H) | |
\(\boldsymbol{L}/\boldsymbol{K}\) | : 巡回拡大(63H) |
\(\boldsymbol{L}/\boldsymbol{Q}\) : 累巡回拡大
になります。ここまでくると、可解性の必要条件の証明まであと一歩です。
6.4 可解性の必要条件
可解性の必要条件を証明する最終段階にきました。\(\boldsymbol{Q}\) 上の既約な方程式の解の一つを \(\alpha\) とし、\(\boldsymbol{K}=\boldsymbol{Q}(\alpha)\) の拡大体を考えます。\(\alpha\) が四則演算とべき根で表現できるということは、\(\boldsymbol{K}/\boldsymbol{Q}\) が累べき根拡大(63G)であるということです。ここが出発点です。そして証明の方針として、
\(\boldsymbol{K}/\boldsymbol{Q}\) が累べき根拡大 | |
\(\boldsymbol{K}/\boldsymbol{Q}\) が累巡回拡大 | |
ガロア拡大 | |
ガロア群が可解群 |
の4つが密接に関係していることを示します。
まず、原始\(\boldsymbol{n}\)乗根を含むべき根拡大の定理(63H)により、累べき根拡大の拡大のステップに必要な原始\(n\)乗根の全種類をあらかじめ \(\boldsymbol{Q}\) に含めておけば、① 累べき根拡大は ② 累巡回拡大と同じことなります。
さらに、累巡回拡大ガロア群の可解性(62C)の定理により、もし \(\boldsymbol{K}/\boldsymbol{Q}\) が ③ ガロア拡大であれば、累巡回拡大 \(\boldsymbol{K}/\boldsymbol{Q}\) のガロア群 \(\mathrm{Gal}(\boldsymbol{K}/\boldsymbol{Q})\) は ④ 可解群です。
しかし、累巡回拡大の定義(62B)のところで書いたように、\(\boldsymbol{K}/\boldsymbol{Q}\) が累巡回拡大であってもガロア拡大であるとは限りません。そこで、
\(\boldsymbol{Q}\:\subset\:\boldsymbol{K}\:\subset\:\boldsymbol{E}\)
となるような \(\boldsymbol{E}\) で、\(\boldsymbol{E}/\boldsymbol{Q}\) が累巡回拡大、かつガロア拡大である \(\boldsymbol{E}\) が必ず存在することを証明できれば、① \(\rightarrow\) ② \(\rightarrow\) ③ \(\rightarrow\) ④ が一気通貫でつながることになります。このような \(\boldsymbol{E}\)(そこには \(\alpha\) が含まれる)の存在を、累巡回拡大の定義(62B)の説明で書いたシンプルな例で考察します。
代数的数 \(\alpha\) を、
\(\alpha=\sqrt{\sqrt{2}+1}\)
とします。この \(\alpha\) は \(\boldsymbol{Q}\) 上の既約な方程式、
\(f(x)=x^4-2x^2-1=0\)
の解の一つです。この \(f(x)\) は \(\alpha\) の最小多項式です。ちなみに \(f(x)\) は、
\(f(x)=(x^2-(\sqrt{2}+1))(x^2+(\sqrt{2}-1))\)
と変形できるので、方程式 \(f(x)=0\) の解は
\(x=\pm\sqrt{\sqrt{2}+1},\:\:\:\pm i\sqrt{\sqrt{2}-1}\)
の4つです。
\(\alpha\) を含む \(\boldsymbol{Q}\) の拡大体 \(\boldsymbol{Q}(\alpha)\) を考えます。\(\boldsymbol{Q}\:\subset\:\boldsymbol{Q}(\alpha)\) ですが、べき根拡大だけで表現すると、
\(\boldsymbol{Q}\:\subset\:\boldsymbol{Q}(\sqrt{2})\:\:\subset\:\boldsymbol{Q}(\sqrt{\sqrt{2}+1})\)
の累べき根拡大になります。つまり、\(\boldsymbol{Q}\) 上の方程式、
\(x^2-2=0\)
の解の一つ \(\sqrt{2}\) を \(\boldsymbol{Q}\) に添加してべき根拡大をし、\(\boldsymbol{Q}(\sqrt{2})\) 上の方程式、
\(x^2-(\sqrt{2}+1)=0\)
の解の一つ \(\sqrt{\sqrt{2}+1}\) を \(\boldsymbol{Q}(\sqrt{2})\) に添加したのが \(\boldsymbol{Q}(\sqrt{\sqrt{2}+1})\) です。2つのべき根拡大の拡大次数は2です。\(1\) の原始2乗根は \(-1\) なので、始めから \(\boldsymbol{Q}\) に含まれています。従って、
\(\boldsymbol{Q}\:\subset\:\boldsymbol{Q}(\sqrt{2})\) は
・べき根拡大
・巡回拡大
\(\mathrm{Gal}(\boldsymbol{Q}(\sqrt{2})=\{\sigma_1,\:\sigma_2\}\)
\(\sigma_1=e\)
\(\sigma_2(\sqrt{2})=-\sqrt{2}\)
・\(\boldsymbol{Q}(\sqrt{2})\) は \(\boldsymbol{Q}\) 上の多項式 \(x^2-2\) の最小分解体
となります。まったく同様に、
\(\boldsymbol{Q}(\sqrt{2})\:\subset\:\boldsymbol{Q}(\sqrt{\sqrt{2}+1})\) は
・べき根拡大
・巡回拡大
です。しかし、\(\boldsymbol{Q}(\sqrt{\sqrt{2}+1})/\boldsymbol{Q}\) がガロア拡大ではありません。というのも、\(\boldsymbol{Q}(\sqrt{\sqrt{2}+1})\) は \(\boldsymbol{Q}\) 上ではなく \(\boldsymbol{Q}(\sqrt{2})\) 上の方程式、
\(x^2-(\sqrt{2}+1)=0\)
の解の一つ \(\sqrt{\sqrt{2}+1}\) を \(\boldsymbol{Q}(\sqrt{2})\) に添加したものだからです。
そこで、\(\boldsymbol{Q}(\sqrt{2})\) 上の2つの方程式、
・\(x^2-\sigma_1(\sqrt{2}+1)=0\)
・\(x^2-\sigma_2(\sqrt{2}+1)=0\)
の解を順に \(\boldsymbol{Q}(\sqrt{2})\) に追加することにします。つまり、
・\(\sqrt{\phantom{-}\sqrt{2}+1}\)
・\(\sqrt{-\sqrt{2}+1}\)
の2つを \(\boldsymbol{Q}(\sqrt{2})\) に追加します。ガロア群は必ず単位元 \(e\) を含むので、\(\sigma_1(\sqrt{2}+1)\) と \(\sigma_2(\sqrt{2}+1)\) のどちらかは \(\alpha=\sqrt{\sqrt{2}+1}\) になります。この追加は2つともべき根拡大であり、巡回拡大です。こうして出来上がった拡大体を \(\boldsymbol{E}\) とすると、
\(\boldsymbol{E}=\boldsymbol{Q}(\sqrt{\sqrt{2}+1},\sqrt{-\sqrt{2}+1})\)
です。以上のことを別の観点で言うと、多項式 \(g(x)\) を、
\(g(x)=(x^2-\sigma_1(\sqrt{2}+1))(x^2-\sigma_2(\sqrt{2}+1))\)
と定義するとき、
\(g(x)=0\) の解を \(\boldsymbol{Q}(\sqrt{2})\) に追加したのが \(\boldsymbol{E}\)
ということになります。\(g(x)\) を計算すると、
\(\begin{eqnarray}
&&\:\:g(x)&=(x^2-\sigma_1(\sqrt{2}+1))(x^2-\sigma_2(\sqrt{2}+1))\\
&&&=(x^2-(\sqrt{2}+1))(x^2+(\sqrt{2}-1))\\
&&&=x^4-2x^2-1\\
\end{eqnarray}\)
となり、\(g(x)\) は \(\boldsymbol{Q}\) 上の多項式です。なぜそうなるかと言うと、\(g(x)\) の係数は \(\sigma_1(\sqrt{2}+1)\) と \(\sigma_2(\sqrt{2}+1)\) の対称式で表されるからで、従ってガロア群の元 \(\sigma_1,\:\sigma_2\) を作用させても不変であり、つまり係数が有理数だからです。ここから得られる結論は、
\(\boldsymbol{E}\) は \(\boldsymbol{Q}\) 上の多項式 \(g(x)\) の最小分解体である
ということです。このことは、\(\alpha=\sqrt{\sqrt{2}+1}\) の最小多項式が \(x^4-2x^2-1=g(x)\) であったことからも確認できます。従ってガロア拡大の定義(52A)により、
\(\boldsymbol{E}/\boldsymbol{Q}\) はガロア拡大
です。まとめると、
\(\boldsymbol{Q}\:\subset\:\boldsymbol{Q}(\alpha)\:\subset\:\boldsymbol{E}\)
\(\boldsymbol{E}/\boldsymbol{Q}\) は累巡回拡大、かつガロア拡大
である \(\boldsymbol{E}\) の存在が証明できました。
以上は "2段階の2次拡大" という非常にシンプルな例ですが、このことを一般的に(多段階の \(n\)次拡大で)述べると次のようになります。
ガロア閉包 |
(ガロア閉包の存在:64A) |
\(\boldsymbol{Q}\) 上の方程式 \(f(x)=0\) の解の一つである \(\alpha\) がべき根で表されているとする。このとき「\(\boldsymbol{Q}\) のガロア拡大 \(\boldsymbol{E}\) で、\(\alpha\) を含み、\(\boldsymbol{E}/\boldsymbol{Q}\) が累巡回拡大」であるような 代数拡大体 \(\boldsymbol{E}\) が存在する。
[証明]
\(\boldsymbol{Q}\)上の方程式 \(f(x)=0\) の解の一つ \(\alpha\) がべき根で表されているとき、
\(\boldsymbol{K}_0\subset\)\(\boldsymbol{K}_1\subset\)\(\cdots\subset\)\(\boldsymbol{K}_i\subset\)\(\boldsymbol{K}_{i+1}\subset\)\(\cdots\subset\)\(\boldsymbol{K}_k=\boldsymbol{K}\) |
\(\boldsymbol{K}_{i+1}=\boldsymbol{K}_i(\alpha_{i+1})\) | |
\(\alpha_{i+1}\) は \(x^{n_i}-a_i=0\:(a_i\in\boldsymbol{K}_i)\) の根の一つ | |
\([\boldsymbol{K}_{i+1}:\boldsymbol{K}_i]=n_i\) | |
\(\alpha_k=\alpha\:\in\:\boldsymbol{K}_k=\boldsymbol{K}\) |
となる、べき根拡大列 \(\boldsymbol{K}_i\) が存在する(= \(\boldsymbol{K}/\boldsymbol{Q}\) が累べき根拡大)。このべき根拡大列を修正して、
\(\boldsymbol{Q}\subset\)\(\boldsymbol{F}_0\subset\)\(\boldsymbol{F}_1\subset\)\(\cdots\subset\)\(\boldsymbol{F}_i\subset\)\(\boldsymbol{F}_{i+1}\subset\)\(\cdots\subset\)\(\boldsymbol{F}_k=\boldsymbol{E}\) |
\(\boldsymbol{K}_i\:\subset\:\boldsymbol{F}_i\) | |
\(\boldsymbol{F}_{i+1}/\boldsymbol{F}_i\) は累巡回拡大 | |
\(\boldsymbol{E}/\boldsymbol{Q}\) はガロア拡大 | |
\(\alpha_k=\alpha\:\in\:\boldsymbol{K}_k\:\subset\:\boldsymbol{F}_k=\boldsymbol{E}\) |
とできることを以下に示す。まず、\(n_i\:(0\leq i < k)\) の最小公倍数を \(n\) とし、\(1\) の原始\(n\)乗根を \(\zeta\) とする。そして、
\(\boldsymbol{F}_0=\boldsymbol{Q}(\zeta)\)
とおくと、\(\boldsymbol{K}_0(=\boldsymbol{Q})\:\subset\:\boldsymbol{F}_0\) であり、\(\boldsymbol{F}_0\) は \(1\) の原始\(n_i\)乗根 \((0\leq i < k)\) を全て含むことになる。
\(\boldsymbol{F}_0\) は \(\boldsymbol{Q}(\zeta)\) だから、\(\mathrm{Gal}(\boldsymbol{F}_0/\boldsymbol{Q})=\mathrm{Gal}(\boldsymbol{Q}(\zeta)/\boldsymbol{Q})\) は巡回群の直積に同型であり(63F)、従って可解群である(61B)。つまり、\(\boldsymbol{F}_0/\boldsymbol{Q}\) は累巡回拡大である(62C)。
次に、
\(\boldsymbol{F}_1=\boldsymbol{F}_0(\alpha_1)\)
とおく。\(\alpha_1\) は \(\boldsymbol{K}_0=\boldsymbol{Q}\) 上の方程式 \(x^{n_0}-a_0=0\:(a_0\in\boldsymbol{K}_0\:\subset\:\boldsymbol{F}_0)\) の根の一つで、\(\alpha_1=\sqrt[n_0]{a_0}\) であるから、\(\boldsymbol{F}_1\) は \(\boldsymbol{F}_0\) のべき根拡大になる。
すると、\(\boldsymbol{F}_0\)は \(1\) の原始\(n_0\)乗根を含むから、原始\(\boldsymbol{n}\)乗根を含むべき根拡大の定理(63H)により、\(\boldsymbol{F}_1/\boldsymbol{F}_0\) は巡回拡大である。この拡大次数は \([\boldsymbol{F}_1:\boldsymbol{F}_0]=[\boldsymbol{K}_1:\boldsymbol{K}_0(=\boldsymbol{Q})]=n_0\) である。
また \(\boldsymbol{F}_1\)は、\(\boldsymbol{Q}\) 上の方程式 \(x^{n_0}-a_0=0\) の解 \(\alpha_1\eta^j\)(\(\eta\) は \(1\) の原始\(n_0\)乗根。\(0\leq j < n_0\))をすべて含むから、\(\boldsymbol{F}_1/\boldsymbol{Q}\) はガロア拡大である。
次に \(\boldsymbol{K}_2\) を修正した \(\boldsymbol{F}_2\) を考える。\(\mathrm{Gal}(\boldsymbol{F}_1/\boldsymbol{Q})\) の元を \(\sigma_j\:(1\leq j\leq m,\:\sigma_1=e)\) の \(m\)個とする。
\(\alpha_2\) は \(x^{n_1}-a_1=0\:\:(a_1\in\boldsymbol{K}_1\:\subset\:\boldsymbol{F}_1)\) の根の一つであった。そこで、
\(\sigma_j(a_1)\) \((1\leq j\leq m)\)
という \(m\)個の元をもとに、
\(x^{n_1}-\sigma_j(a_1)=0\:(a_1\in\boldsymbol{K}_1\:\subset\:\boldsymbol{F}_1,\:\:1\leq j\leq m)\)
という \(m\)個の方程式群を考える。\(\sigma_j\) の中には単位元 \(e\) が含まれるため、\(x^{n_1}-a_1=0\) も方程式群の中の一つである。
この \(m\)個の方程式の \(m\)個の解、
\(\sqrt[n_1]{\sigma_j(a_1)}\) \((1\leq j\leq m)\)
を \(\boldsymbol{F}_1\) に順々に添加していき、最終的にできた体を \(\boldsymbol{F}_2\) とする。\(\boldsymbol{F}_1\) は \(1\) の原始 \(n_1\)乗根を含むから、\(\sqrt[n_1]{\sigma_j(a_1)}\) \((1\leq j\leq m)\) の添加はすべて巡回拡大である(63H)。つまり、\(\boldsymbol{F}_2\) は \(\boldsymbol{F}_1\) の累巡回拡大である。\(\sigma_j\) の中には単位元があるから、\(\boldsymbol{F}_2\) には \(\alpha_2=\sqrt[n_1]{a_1}\) を含む。
ここで多項式 \(g(x)\) を、
\(g(x)=\displaystyle\prod_{j=1}^{m}(x^{n_1}-\sigma_j(a_1))\)
と定義する。\(\boldsymbol{F}_1\) は \(1\) の原始 \(n_1\)乗根を含むから、\(\boldsymbol{F}_2\) は \(g(x)=0\) のすべての解を \(\boldsymbol{F}_1\) に添加した拡大体である。
多項式 \(g(x)\) の係数は、根と係数の関係から \(\sigma_j(a_1)\:\:(1\leq j\leq m)\) の対称式であり、係数に任意の \(\sigma_j\:(=\mathrm{Gal}(\boldsymbol{F}_1/\boldsymbol{Q})\) の元\()\) を作用させても不変である。つまり係数は有理数であり、\(g(x)\) は \(\boldsymbol{Q}\) 上の多項式である。結局、\(\boldsymbol{F}_2\) は \(\boldsymbol{Q}\) 上の多項式 \(g(x)\) の最小分解体であり、\(\boldsymbol{F}_2/\boldsymbol{Q}\) はガロア拡大である(52A)。
まとめると、
\(a_1\:\in\:\boldsymbol{K}_1\:\subset\:\boldsymbol{F}_1\) | |
\(\boldsymbol{F}_1\) には \(1\) の原始\(n_1\)乗根が含まれる | |
\(\alpha_2\) は \(x^{n_1}-a_1=0\) の根の一つ | |
\(\mathrm{Gal}(\boldsymbol{F}_1/\boldsymbol{Q})\) の元が \(\sigma_j\:(1\leq j\leq m,\:\:\:\sigma_1=e)\) |
\(g(x)=\displaystyle\prod_{j=1}^{m}(x^{n_1}-\sigma_j(a_1))\)
の条件で、\(g(x)=0\) のすべての解を \(\boldsymbol{F}_1\) に添加した拡大体を \(\boldsymbol{F}_2\) とすると、
\(\boldsymbol{F}_2/\boldsymbol{F}_1\) 累巡回拡大 | |
\(\boldsymbol{F}_2/\boldsymbol{Q}\) はガロア拡大 | |
\(\alpha_2\:\in\:\boldsymbol{K}_2\:\subset\:\boldsymbol{F}_2\) |
この \(\boldsymbol{K}_i\) を \(\boldsymbol{F}_i\) に修正する操作は、\(\boldsymbol{K}_k\) を修正して \(\boldsymbol{F}_k\) にするまで続けることができる。従って、
\(\boldsymbol{Q}\subset\)\(\boldsymbol{F}_0\subset\)\(\boldsymbol{F}_1\subset\)\(\cdots\subset\)\(\boldsymbol{F}_i\subset\)\(\boldsymbol{F}_{i+1}\subset\)\(\cdots\subset\)\(\boldsymbol{F}_k=\boldsymbol{E}\) |
\(\boldsymbol{K}\:\subset\:\boldsymbol{F}_i\) | |
\(\boldsymbol{F}_{i+1}/\boldsymbol{F}_i\) は累巡回拡大 | |
\(\boldsymbol{F}_k/\boldsymbol{Q}\) はガロア拡大 | |
\(\alpha_k=\alpha\:\in\:\boldsymbol{F}_k(=\boldsymbol{E})\) |
![]() |
\(1\) の原始\(n\)乗根を含む \(\boldsymbol{Q}(\zeta)\) からのべき根拡大を考えることによって、体の拡大が巡回拡大(=ガロア群が巡回群であるガロア拡大)になり(63H)、その繰り返しは累巡回拡大になります。しかし累巡回拡大が "全体としてガロア拡大になる" とは限りません(62B)。
そこで、ひと工夫して、\(\boldsymbol{\boldsymbol{F}_i}\) が常に \(\boldsymbol{\boldsymbol{Q}}\) 上の方程式 \(\boldsymbol{g(x)}\) の最小分解体で、かつ \(\boldsymbol{\alpha_i}\) を含むようにすると、\(\boldsymbol{F}_i/\boldsymbol{Q}\) が常にガロア拡大になっているので、\(\boldsymbol{E}/\boldsymbol{Q}\) もガロア拡大になります。しかも最終到達点である \(\boldsymbol{F}_k=\boldsymbol{E}\) の中には、元々の方程式の解である \(\alpha\) がある。このような \(\boldsymbol{E}\) の存在が重要です。この \(\boldsymbol{Q}(\zeta)\:\rightarrow\:\boldsymbol{E}\) の拡大を考えることで、単なるべき根拡大列だった \(\boldsymbol{Q}\:\rightarrow\:\boldsymbol{K}\) をガロア理論の俎上に乗せることができます。
一方、\(\boldsymbol{\boldsymbol{Q}(\zeta)/\boldsymbol{Q}}\) が累巡回拡大になるのは、全く別のロジックによります。つまり、\(\boldsymbol{Q}(\zeta)/\boldsymbol{Q}\) がガロア拡大で(63D)かつ、ガロア群が巡回群の直積に同型(63F)であり、従ってガロア群が可解群(61B)だからです。そうすると累巡回拡大ガロア群の可解性(62C)によって \(\boldsymbol{Q}(\zeta)/\boldsymbol{Q}\) は累巡回拡大です。
以上の2つの合わせ技で、\(\boldsymbol{Q}\) から \(\boldsymbol{E}\) に至る累巡回拡大の列ができ、しかも \(\boldsymbol{E}/\boldsymbol{Q}\) がガロア拡大になっていて、次の可解性の必要条件の証明につながります。
可解性の必要条件 |
(可解性の必要条件:64B) |
\(\boldsymbol{Q}\) 上の \(n\)次既約方程式 \(f(x)=0\) の解の一つ がべき根で表されているとする。\(f(x)\) の最小分解体を \(\boldsymbol{L}\) とするとき、\(\mathrm{Gal}(\boldsymbol{L}/\boldsymbol{Q})\) は可解群である。
[証明]
ガロア閉包の存在定理(64A)により、\(\boldsymbol{Q}\) 上の方程式 \(f(x)=0\) の解の一つがべき根で表されているとすると、
\(\boldsymbol{K}_0\subset\)\(\boldsymbol{K}_1\subset\)\(\cdots\subset\)\(\boldsymbol{K}_i\subset\)\(\boldsymbol{K}_{i+1}\subset\)\(\cdots\subset\)\(\boldsymbol{K}_k=\boldsymbol{E}\) |
\(\boldsymbol{E}/\boldsymbol{Q}\) は累巡回拡大 | |
\(\boldsymbol{E}/\boldsymbol{Q}\) はガロア拡大 | |
\(\alpha\:\in\:\boldsymbol{E}\) |
また、\(\boldsymbol{E}/\boldsymbol{Q}\) がガロア拡大ということは、中間体からのガロア拡大の定理(52C)により、\(\boldsymbol{E}/\boldsymbol{L}\) もガロア拡大である。従って、
\(\mathrm{Gal}(\boldsymbol{E}/\boldsymbol{Q})=G\)
\(\mathrm{Gal}(\boldsymbol{E}/\boldsymbol{L})=H\)
と書くと、
\(G\) \(\supset\) \(H\) \(\supset\) \(\{\:e\:\}\)
\(\boldsymbol{Q}\) \(\subset\) \(\boldsymbol{L}\) \(\subset\) \(\boldsymbol{E}\)
のガロア対応(53B)が成り立つ。
\(\boldsymbol{L}\) は \(\boldsymbol{Q}\) 上の既約多項式 \(f(x)\) の最小分解体だから、\(\boldsymbol{L}/\boldsymbol{Q}\) はガロア拡大である(52A)。ゆえに正規性定理(53C)により、\(H\) は \(G\) の正規部分群であり、
\(\mathrm{Gal}(\boldsymbol{L}/\boldsymbol{Q})\:\cong\:G/H\)
が成り立つ。
\(\boldsymbol{E}/\boldsymbol{Q}\) はガロア拡大かつ累巡回拡大だから、累巡回拡大ガロア群の可解性(62C)の定理によって \(G\) は可解群である。\(G\) が可解群なので、その剰余群である \(G/H\) も可解群である(61D)。従って、\(G/H\) と同型である \(\mathrm{Gal}(\boldsymbol{L}/\boldsymbol{Q})\) も可解群である。[証明終]
この定理の対偶をとると、
\(\boldsymbol{Q}\) 上の既約方程式 \(f(x)=0\) の最小分解体を \(\boldsymbol{L}\) とするとき、\(\mathrm{Gal}(\boldsymbol{L}/\boldsymbol{Q})\) が可解群でなければ、\(f(x)=0\) の解のすべてはべき根で表されない(=非可解)
となります。これを用いて、非可解な5次方程式があることを証明できます。
6.5 5次方程式の解の公式はない
5次方程式には解の公式はないことをガロア理論で証明します。そのためにまず、対称群、交代群、置換の説明をします。
対称群 \(S_n\) |
集合 \(\Omega_n=\{1,\:2,\:\cdots\:n\}\) から \(\Omega_n\) への全単射写像(1対1写像)の全体を \(S_n\) と書き、\(n\)次の対称群(symmetric group)と言います。\(1,\:2,\:\cdots\) は整数ではなく、集合の元を表す文字です。一般に集合 \(X\) から \(X\) への全単射写像を置換(permutation)と呼ぶので、\(S_n\) の元は \(n\) 個の文字の置換です。
\(S_n\) の元の一つを \(\sigma\) とします。\(1\leq k\leq n\) とし、\(\sigma\)による \(k\) の移り先を \(\sigma(k)\) とすると、\(\sigma\) は全単射写像なので、\(k\neq k\,'\) なら\(\sigma(k)\neq\sigma(k\,')\) です。従って、\((\sigma(1),\sigma(2),\cdots,\sigma(n))\) は、\((1,2,\cdots n)\) の一つの順列になります。逆に、\((1,2,\cdots n)\) の順列の一つを \((i_1,i_2,\cdots i_n)\) とすると、\(\sigma(k)=i_k\) で \(\Omega_n\) から \(\Omega_n\) への全単射写像が得られます。つまり \(S_n\) は \((1,2,\cdots n)\) のすべての順列と同一視できます。
\(S_n\) の元の2つを \(\sigma\)、\(\tau\) とし、\(\sigma\) と \(\tau\) の合成写像 \(\sigma\tau\) を、
\(\sigma\tau(k)=\sigma(\tau(k))\:\:(1\leq k\leq n)\)
で定義すると、\(\sigma\tau\) も全単射写像なので \(S_n\) の元であり、\(S_n\) は群になります。単位元 \(e\) は \(e(k)=k\:(1\leq k\leq n)\) である恒等写像です。また、\(\sigma\) は全単射写像なので逆写像 \(\sigma^{-1}\) があり、群の定義を満たしています。
\(S_n\) は \((1,2,\cdots n)\) のすべての順列と同一視できるので、その位数は
\(|S_n|=n\:!\)
です。\(S_n\) の元 \(\sigma\) を、
\(\sigma=\left(\begin{array}{c}1&2&\cdots&n\\\sigma(1)&\sigma(2)&\cdots&\sigma(n)\end{array}\right)\)
と表します。この表記では縦の列が合っていればよく、並び順に意味はありません。これを使うと \(\sigma\) の逆元は、
\(\sigma^{-1}=\left(\begin{array}{c}\sigma(1)&\sigma(2)&\cdots&\sigma(n)\\1&2&\cdots&n\end{array}\right)\)
です。
\(S_3\) の元を \(\sigma_1,\sigma_2,\:\cdots\:\sigma_6\) とし、具体的に書いてみると、
\(\sigma_1=\left(\begin{array}{c}1&2&3\\1&2&3\end{array}\right)\) \(\sigma_2=\left(\begin{array}{c}1&2&3\\2&3&1\end{array}\right)\)
\(\sigma_3=\left(\begin{array}{c}1&2&3\\3&1&2\end{array}\right)\) \(\sigma_4=\left(\begin{array}{c}1&2&3\\1&3&2\end{array}\right)\)
\(\sigma_5=\left(\begin{array}{c}1&2&3\\3&2&1\end{array}\right)\) \(\sigma_6=\left(\begin{array}{c}1&2&3\\2&1&3\end{array}\right)\)
となります。\(\sigma_1\) は恒等置換 \(e\) です。なお \(S_3\) は、1.3節に出てきた3次の2面体群と同じものです。
巡回置換
\(S_n\) に現れる \(n\)文字からその一部を取り出します。例えば3つ取り出して、\(i,\:j,\:k\) とします。そして、
\(i\rightarrow j,\:\:j\rightarrow k,\:\:k\rightarrow i\)
と文字を循環させ、その他の文字は不動にする置換 \(\sigma\) を考えます。これが巡回置換(cyclic permutation)です。
\(\sigma=\left(\begin{array}{c}\cdots&i&\cdots&j&\cdots&k&\cdots\\\cdots&j&\cdots&k&\cdots&i&\cdots\end{array}\right)\)
と表せて、\(\cdots\) の部分は不動です。これを簡略化して、
\(\sigma=(i,\:j,\:k)\)
と表記します。\(\sigma\) の逆元は、
\(\sigma^{-1}\) | \(=(i,\:j,\:k)^{-1}\) | |
\(=\left(\begin{array}{c}\cdots&i&\cdots&j&\cdots&k&\cdots\\\cdots&j&\cdots&k&\cdots&i&\cdots\end{array}\right)^{-1}\) | ||
\(=\left(\begin{array}{c}\cdots&j&\cdots&k&\cdots&i&\cdots\\\cdots&i&\cdots&j&\cdots&k&\cdots\end{array}\right)\) | ||
\(=\left(\begin{array}{c}\cdots&i&\cdots&j&\cdots&k&\cdots\\\cdots&k&\cdots&i&\cdots&j&\cdots\end{array}\right)\) | ||
\(=(k,\:j,\:i)\) |
\(\sigma=(i_1,\:i_2,\:\cdots\:,i_m)\)
です。長さ \(m\) の巡回置換、とも言います。逆元は文字の順序を逆順にした、
\(\sigma^{-1}=(i_m,\:i_{m-1},\:\cdots\:,i_1)\)
です。\(m\)文字の巡回置換を群としてとらえたとき、 \(C_m\) で表します。\(C_m\) は位数 \(m\) の巡回群で、可換群です。
特に、2文字の巡回置換を互換(transposition)と言います。巡回置換と互換について、次の定理が成り立ちます。
(置換は巡回置換の積:65A) |
すべての置換は共通文字を含まない巡回置換の積で表せる。
[証明]
\(n\)次対称群 \(S_n\) の任意の元を \(\sigma\) とすると、\(\sigma\) は \(n\)文字の任意の置換である。\(n\)文字の中から \(\sigma(a)\neq a\) である文字 \(a\) を選ぶ。そして \(\sigma(a),\:\sigma^2(a),\:\sigma^3(a),\:\cdots\) という、\(\sigma\) による \(a\) の写像を繰り返す列を考える。\(\sigma\)による \(a\) の移り先は最大 \(n\)個なので、列の中には、
\(\sigma^j(a)=\sigma^i(a)\:\:(i < j)\)
となる \(i,\:j\) が必ず出てくる。つまり、
\(\sigma^{j-i}(a)=a\)
となる \(i,\:j\) が存在する。\(k_a\) を \(\sigma^{k_a}(a)=a\) となる最小の数とすると、
\(\sigma(a),\:\sigma^2(a),\:\cdots\:,\sigma^{k_a}(a)=a,\:\sigma(a),\:\cdots\)
となり、\(k_a+1\)番目で \(\sigma(a)\) に戻って以降は巡回する。\(\sigma_1\) を、 \((\textbf{A})\)
\(\sigma_1=(\sigma(a),\:\sigma^2(a),\:\cdots\:,\sigma^{k_a}(a))\)
の巡回置換と定義する。
もし仮に列 \((\textbf{A})\) が、\(\sigma\) で変化する文字全部を尽くしているなら、題意は正しい。そうでないとき、列 \((\textbf{A})\) に現れない文字で \(\sigma(b)\neq b\) である \(b\) を選ぶ。上と同様にして、
\(\sigma(b),\:\sigma^2(b),\:\cdots\:,\sigma^{k_b}(b)=b\)
の列が作れる。\((\textbf{B})\) 列に \((\textbf{A})\) 列と同じ文字は現れない。なぜなら、もし列 \((\textbf{B})\) の \(\sigma^i(b)\) が \((\textbf{A})\) 列に現れるとすると、\(\sigma^i(b)\) に \(\sigma\) による置換を繰り返すといずれは \(b\) になるから、\(b\) が \((\textbf{A})\) 列に現れることになってしまい、「列 \((\textbf{A})\) に現れない文字 \(b\)」ではなくなるからである。従って、 \((\textbf{B})\)
\(\sigma_2=(\sigma(b),\:\sigma^2(b),\:\cdots\:,\sigma^{k_b}(b)=b)\)
という、2つ目の巡回置換が定義できる。列 \((\textbf{A})\) と \((\textbf{B})\) が \(\sigma\) で変化する文字全部を尽くすなら、\(\sigma=\sigma_2\sigma_1\) である。\(\sigma_1\) と \(\sigma_2\) に共通の文字は現れないので、\(\sigma=\sigma_1\sigma_2\) と書いてもよい。
以上の操作は、\(\sigma\) で変化する文字全部を尽くすまで繰り返すことができる。その繰り返し回数を \(m\) とすると、
\(\sigma=\sigma_1\sigma_2\:\cdots\:\sigma_m\)
であり、任意の置換 \(\sigma\) は巡回置換の積で表せることになる。なお、恒等置換 \(e\) は、
\(e=(i,\:j)^2\)
\(e=(i,\:j,\:k)^3\)
などであり、巡回置換の積で表せることに変わりはない。[証明終]
置換を巡回置換の積で表すと、例えば、
\(\sigma\) | \(=\left(\begin{array}{c}1&2&3&4&5&6\\1&4&5&6&3&2\end{array}\right)\) | |
\(=(2,\:4,\:6)(3,\:5)\) |
(置換は互換の積:65B) |
すべての置換は互換の積で表せる。
[証明]
巡回置換 \((1,\:2,\:3)\) は
\((1,\:2,\:3)=(1,\:3)(1,\:2)\)
と表せる(積は右から読む)。また、巡回置換 \((1,\:2,\:3\). \(4)\) は、
\((1,\:2,\:3,\:4)=(1,\:4)(1,\:3)(1,\:2)\)
である。一般に、
\((i_1,\:i_2,\:\cdots\:,i_m)=(i_1,\:i_m)\:\cdots\:(i_1,\:i_2)\)
である。このように巡回置換は互換の積で表せる。すべての置換は巡回置換の積で表せる(65A)ので、題意は正しい。[証明終]
交代群 \(A_n\) |
一つの置換を互換の積で表す方法が一意に決まるわけではありません。たとえば、
\((1,\:2,\:3)\) | \(=(1,\:3)(1,\:2)\) | |
\(=(1,\:3)(2,\:3)(1,\:2)(1,\:3)\) |
(置換の偶奇性:65C) |
一つの置換を互換の積で表したとき、その互換の数は奇数か偶数かのどちらかに決まる。
[証明]
\(n\)変数の多項式 \(f(x_1,x_2,\cdots,x_n)\) を、
\(f(x_1,x_2,\cdots,x_n)=\displaystyle\prod_{1\leq i < j\leq n}^{}(x_i-x_j)\)
と定義する(差積と呼ばれる)。\(S_n\) の一つの元を \(\sigma\) とし、\(\sigma\) を \(f(x_1,x_2,\cdots,x_n)\) に作用させることを、
\(\sigma\cdot f(x_1,x_2,\cdots,x_n)=f(x_{\sigma(1)},x_{\sigma(2)},\cdots,x_{\sigma(n)})\)
と定義する。\(\sigma\) が互換、つまり \(\sigma=(i,\:j)\) であれば、
\((i,\:j)\cdot f(x_1,x_2,\cdots,x_n)=-f(x_1,x_2,\cdots,x_n)\)
となる。これはすべての互換で成り立つ。
\(\sigma\) が \(k\)個の互換の積で表されていると、
\(\sigma\cdot f(x_1,x_2,\cdots,x_n)=(-1)^kf(x_1,x_2,\cdots,x_n)\)
である。もし、\(m\neq k\) として \(\sigma\) が \(m\)個の互換の積で表せたとしたら、
\(\sigma\cdot f(x_1,x_2,\cdots,x_n)=(-1)^mf(x_1,x_2,\cdots,x_n)\)
である。従って、
\((-1)^k=(-1)^m\)
であり、\(k\) と \(m\) の偶奇は等しい。[証明終]
置換の偶奇性(65C)により、置換は2つのタイプに分けることができます。偶数個の互換の積で表す置換を偶置換(even permutaion)、奇数個の互換の積で表す置換を奇置換(odd permutaion)と言います。
偶置換の積は偶置換です。従って、\(S_n\) の偶置換の元を集めた集合は群になります。これを \(n\)次交代群(alternating group)といい、\(A_n\) で表します。
(交代群は正規部分群:65D) |
\(S_n\) の元は同数の偶置換と奇置換から成る。従って、
\([\:S_n\::\:A_n\:]=2\)
である。
\(A_n\) は \(S_n\) の正規部分群であり、\(S_n/A_n\) は巡回群である。
[証明]
\(B_n\) を \(S_n\) に含まれる奇置換の集合とする。\(S_n\) の任意の互換を \(\sigma\) とすると、集合 \(\sigma A_n\) のすべての元は奇置換だから、
\(\sigma A_n\subset B_n\)
が成り立つ。それとは逆に、集合 \(\sigma B_n\) のすべての元は偶置換だから、
\(\sigma B_n\subset A_n\)
も成り立つ。この式に左から \(\sigma\) を作用させると、
\(\sigma^2B_n\subset\sigma A_n\)
\(B_n\subset\sigma A_n\)
となる。\(\sigma A_n\subset B_n\) かつ \(B_n\subset\sigma A_n\) なので、
\(B_n=\sigma A_n\)
となり、\(B_n\) と \(A_n\) の元の数は等しい。\(S_n=A_n\cup B_n\) なので、
\([\:S_n\::\:A_n\:]=2\)
である。
\(S_n\) の部分群 \(A_n\) の元の数は \(S_n\) の元の数の半分なので、\(S_n\) は \(A_n\) の2つの左剰余類(または右剰余類)の和集合である。従って、\(B_n\) の 任意の元を \(b\) とすると、
(\(A_n\) の左剰余類) \(S_n=A_n\cup bA_n\:\:(A_n\cap bA_n=\phi)\)
(\(A_n\) の右剰余類) \(S_n=A_n\cup A_nb\:\:(A_n\cap A_nb=\phi)\)
となり、\(bA_n=A_nb\) である。また \(A_n\) の元 \(a\) については、\(A_n\) が群なので \(aA_n=A_n,\:A_na=A_n\) である。従って \(S_n\) の任意の元 \(\sigma\) について \(\sigma A_n=A_n\sigma\) が成り立ち、\(A_n\) は \(S_n\) の正規部分群である。
\(A_n\) が正規部分群なので、\(S_n/A_n\) は剰余群である。\(S_n\) の任意の元を \(\sigma\) とし、\(S_n/A_n\) の元を \(\sigma A_n\) とすると、
\((\sigma A_n)^2=\sigma A_n\sigma A_n=\sigma\sigma A_nA_n=\sigma^2A_n\)
となるが、\(\sigma A_n=B_n\) であり \(\sigma B_n=A_n\) だから、\(\sigma^2A_n=A_n\) である。つまり、
\((\sigma A_n)^2=A_n\)
を満たす。\(A_n\) は 剰余群 \(S_n/A_n\) の単位元だから、\(S_n/A_n\) は巡回群でである。[証明終]
(交代群は3文字巡回置換の積:65E) |
交代群 \(A_n\) の任意の元は、3文字の巡回置換の積で表せる。
[証明]
\(A_n\) の任意の元は偶数個の互換の積で表せる。この互換の積を2つずつ右から(ないしは左から)取り出すことを考える。2つの互換の積には4つの文字があるが、それには次の2つパターンがある。
異なる4文字
\((i,\:j)(k,\:m)\)
異なる3文字
\((i,\:j)(i,\:k)\)
異なる3文字のうち、\((i,\:j)(j,\:k)\) のパターンは、\(i\) を \(j\) と読み替え、\(j\) を \(i\) と読み替えると \((j,\:i)(i,\:k)\) となり、\((i,\:j)(i,\:k)\) と同じである。また、\((i,\:j)(k,\:i)\) や \((i,\:j)(k,\:j)\) も \((i,\:j)(i,\:k)\) と同じである。
異なる2文字から成る \((i,\:j)(i,\:j)\) は恒等互換なので無視してよい。
2つの互換の積の2パターンは、いずれも3文字の巡回置換の積で表せる。つまり、
\(\left(\begin{array}{c}i&j&k&m\\k&i&j&m\end{array}\right)=(i,\:k,\:j)\)
\(\left(\begin{array}{c}k&i&j&m\\j&i&m&k\end{array}\right)=(j,\:m,\:k)\)
\(\left(\begin{array}{c}i&j&k&m\\j&i&m&k\end{array}\right)=(i,\:j)(k,\:m)\)
なので、
\((i,\:j)(k,\:m)=(j,\:m,\:k)(i,\:k,\:j)\)
である。また、巡回置換を互換の積で表す標準的な方法(65B)から、
\((i,\:j)(i,\:k)=(i,\:k,\:j)\)
である。
\(A_n\) は「2つの互換の積」の積、で表現でき、「2つの互換の積」は「3文字の巡回置換の積」で表せるので、題意は正しい。[証明終]
なお、上の交代群は正規部分群(65D)の証明では、「交代群 \(A_n\) の元の数が、対称群 \(S_n\) の元の数の半分である」ことしか使っていません。従って次の定理が成り立ちます。
(半分の部分群は正規部分群:65F) |
群 \(G\) の部分群を \(N\) とする。
\(|G|=2|N|\)
のとき(つまり 群の指数 \([G:N]=2\) のとき)、\(N\) は \(G\) の正規部分群である。
対称群の可解性 |
(対称群の可解性:65G) |
5次以上の対称群、\(S_n\:\:(n\geq5)\) は可解群ではない。
[証明]
\(S_n\) の交代群を \(A_n\) とする。\(A_n\) は \(S_n\) の部分群なので、もし \(A_n\) が可解群でなければ、可解群の部分群は可解群の定理(61C)の対偶により、\(S_n\) は可解群ではない。以下、\(A_n\) が可解群でないことを背理法で証明する。
\(A_n\) が可解群と仮定して矛盾を導く。\(A_n\) が可解群とすると、定義により \(A_n\) には正規部分群 \(N\:(N\neq A_n)\) があり、\(A_n/N\) が巡回群である。
\(A_n\) の任意の2つの元を \(x,\:y\) とし、剰余類 \(xN\) と \(yN\) を考える。\(A_n/N\) は巡回群なので可換群であり、\(xNyN=yNxN\) である。\(N\) は正規部分群なので、\(Ny=yN\)、\(Nx=xN\) であり、これを用いて \(xNyN=yNxN\) を変形していくと、
\(xNyN=yNxN\)
\(xyNN=yxNN\)
\(xyN=yxN\)
となる。この式に左から \(x^{-1}y^{-1}\) をかけると、
\(x^{-1}y^{-1}xyN=x^{-1}y^{-1}yxN\)
\(x^{-1}y^{-1}xyN=N\)
となる。部分群の元の条件の定理(41C)より、\(aN=N\) と \(a\in N\) は同値である。従って、
\(x^{-1}y^{-1}xy\in N\)
である。
一般に \(x^{-1}y^{-1}xy\) を \(x\) と \(y\) の交換子と呼ぶ。上の式の変形プロセスから言えることは、\(A_n\) の任意の2つの元(\(N\) の元である必要はない)の交換子は \(N\) の元になるということである。
\(S_n\:\:(n\geq5)\) の任意の3文字巡回置換を \((i,\:j,\:k)\) とする。
\((i,\:j,\:k)=(i,\:k)(i,\:j)\)
なので、\((i,\:j,\:k)\) は偶置換であり、
\((i,\:j,\:k)\in A_n\)
である。ここで、\(\boldsymbol{i,\:j,\:k}\) とは違う2つの文字 \(\boldsymbol{l,\:m}\) を選ぶ。\(\boldsymbol{n\geq5}\) ならこれは常に可能である。そして、
\(x=(i,\:m,\:j)\)
\(y=(i,\:l,\:k)\)
とし、\(x,\:y\) の交換子を作ってみる。計算すると以下のようになる。
\(x^{-1}y^{-1}xy\)
\(=(i,\:m,\:j)^{-1}(i,\:l,\:k)^{-1}(i,\:m,\:j)(i,\:l,\:k)\)
\(=(j,\:m,\:i)(k,\:l,\:i)(i,\:m,\:j)(i,\:l,\:k)\)
\((i,\:l,\:k)\) | \(=\left(\begin{array}{c}i&j&k&l&m\\l&j&i&k&m\end{array}\right)\) | |
\((i,\:m,\:j)\) | \(=\left(\begin{array}{c}l&j&i&k&m\\l&i&m&k&j\end{array}\right)\) | |
\((k,\:l,\:i)\) | \(=\left(\begin{array}{c}l&i&m&k&j\\i&k&m&l&j\end{array}\right)\) | |
\((j,\:m,\:i)\) | \(=\left(\begin{array}{c}i&k&m&l&j\\j&k&i&l&m\end{array}\right)\) |
\(x^{-1}y^{-1}xy\)
\(=(j,\:m,\:i)(k,\:l,\:i)(i,\:m,\:j)(i,\:l,\:k)\)
\(=\left(\begin{array}{c}i&j&k&l&m\\j&k&i&l&m\end{array}\right)\)
\(=(i,\:j,\:k)\)
\(x^{-1}y^{-1}xy\in N\) なので、
\((i,\:j,\:k)\in N\)
である。つまり任意の3文字巡回置換は \(N\) に含まれる。
\(A_n\) のすべての元は3文字巡回置換の積で表される(65E)から、\(A_n\) は \(N\) の元の積で表せることになる。つまり、
\(A_n\subset N\)
だが、もともと \(N\) は \(A_n\) の部分集合だから、
\(A_n=N\)
である。これは \(N\neq A_n\) という仮定と矛盾する。従って、\(A_n\) の正規部分群 \(N\:(N\neq A_n)\) で、\(A_n/N\) が巡回群であるようなものはなく、\(A_n\) は可解群ではない。
\(S_n\:\:(n\geq5)\) は可解群ではない部分群 \(A_n\) をもつから、可解群の部分群は可解群の定理(61C)の対偶によって、\(S_n\) は可解群ではない。[証明終]
\(S_5\)(位数 \(120\)) や、その部分群 \(A_5\)(位数 \(60\))は可解群ではありません。しかし、「\(S_5\) のすべての部分群が可解群ではない」というわけではありません。\(S_5\) の部分群では、\(F_{20}\)(位数 \(20\))、\(D_{10}\)(位数 \(10\))、\(C_5\)(位数 \(5\))が可解群であることが知られています。これについては第7章で述べます。
一般5次方程式 |
5次方程式には代数的に解けるものと解けないものがあります。従って、全ての5次方程式に適用可能な根の公式はありません。5次方程式に根の公式がないことはガロア以前に証明されていたのですが、なぜ根の公式がないのか、その理由を明らかにしたのがガロア理論です。
係数が変数の方程式を「一般方程式」と言います。根の公式があるということは一般方程式が解けることを意味します。以下は、一般5次方程式が代数的に解けないことの証明ですが、この証明では係数が変数ではなく、解を変数としています。
(5次方程式の解の公式はない:65H) |
\(\boldsymbol{Q}\) の代数拡大体を \(\boldsymbol{K}\) とする。\(\boldsymbol{K}\) の任意の元である5つの変数 \(b_1,b_2,b_3,b_4,b_5\) を根とする多項式を、
\(f(x)\) | \(=\) | \((x-b_1)\)\((x-b_2)\)\((x-b_3)\)\((x-b_4)\)\((x-b_5)\) \([\:b_i\in\boldsymbol{K}\:]\) | |
\(=\) | \(x^5-a_4x^4+\)\(a_3x^3-a_2x^2+\)\(a_1x-a_0\) |
\(\boldsymbol{F}=\boldsymbol{Q}(a_0,\:a_1,\:a_2,\:a_3,\:a_4)\)
である。
このとき、\(\boldsymbol{K}\) の \(\boldsymbol{F}\) 上の ガロア群 \(G\) は5次対称群 \(S_5\) である。\(S_5\) は可解群ではないので(65G)、従って \(b_i\) を \(a_i\) のべき根で表すことはできない。
[証明]
代数拡大体 \(\boldsymbol{F}\) の作り方から、\(\boldsymbol{K}\) は \(\boldsymbol{F}\) 上の多項式 \(f(x)\) の最小分解体である。従って \(\boldsymbol{K}/\boldsymbol{F}\) はガロア拡大である。\(G=\mathrm{Gal}(\boldsymbol{K}/\boldsymbol{F})\) とおくと、\(G\) は \(\boldsymbol{F}\) の元を固定する自己同型写像が作る群である。
対称群 \(S_5\) の元の一つを \(s\) とし、
\(s=\left(\begin{array}{c}1&2&3&4&5\\s(1)&s(2)&s(3)&s(4)&s(5)\end{array}\right)\)
とする。このとき、
\(\sigma(b_i)=b_{s(i)}\:\:(i=1,2,3,4,5)\)
で、\(b_i\) に作用する写像 \(\sigma\) を定義する。そうすると \(\sigma\) は \(f(x)=0\) の解 \(b_i\) を共役な解に移す写像だから、自己同型写像である。また、
\(f(x)\) | \(=\) | \((x-b_1)\)\((x-b_2)\)\((x-b_3)\)\((x-b_4)\)\((x-b_5)\) \([b_i\in\boldsymbol{K}]\) | |
\(=\) | \(x^5-a_4x^4+\)\(a_3x^3-a_2x^2+\)\(a_1x-a_0\) |
\(a_4\) | \(=\) | \(b_1+\)\(b_2+\)\(b_3+\)\(b_4+\)\(b_5\) | |
\(a_3\) | \(=\) | \(b_1b_2+\)\(b_1b_3+\)\(b_1b_4+\)\(b_1b_5+\)\(b_2b_3+\)\(b_2b_4+\)\(b_2b_5+\)\(b_3b_4+\)\(b_3b_5+\)\(b_4b_5\) | |
\(a_2\) | \(=\) | \(b_1b_2b_3+\)\(b_1b_2b_4+\)\(b_1b_2b_5+\)\(b_1b_3b_4+\)\(b_1b_3b_5+\)\(b_1b_4b_5+\)\(b_2b_3b_4+\)\(b_2b_3b_5+\)\(b_2b_4b_5+\)\(b_3b_4b_5\) | |
\(a_1\) | \(=\) | \(b_1b_2b_3b_4+\)\(b_1b_2b_3b_5+\)\(b_1b_2b_4b_5+\)\(b_1b_3b_4b_5+\)\(b_2b_3b_4b_5\) | |
\(a_0\) | \(=\) | \(b_1b_2b_3b_4b_5\) |
従って、\(\sigma(a_0)=a_0\)、\(\sigma(a_1)=a_1\)、\(\sigma(a_2)=a_2\)、\(\sigma(a_3)=a_3\)、\(\sigma(a_4)=a_4\) である。つまり \(\sigma\) は \(\boldsymbol{F}=\boldsymbol{Q}(a_0,\:a_1,\:a_2,\:a_3,\:a_4)\) の元を固定する。従って \(\sigma\) は \(\boldsymbol{F}\) の元を固定する \(\boldsymbol{K}\) の自己同型写像であり、\(G\) の元である。以上のことは \(S_5\) の任意の元 \(s\) について言えるから \(S_5\subset G\) である。
これを踏まえて \(\boldsymbol{F}\) 上の \(\boldsymbol{K}\) の拡大次数 \([\:\boldsymbol{K}\::\:\boldsymbol{F}\:]\) を考えると、\([\:\boldsymbol{K}\::\:\boldsymbol{F}\:]\) は \(\mathrm{Gal}(\boldsymbol{K}/\boldsymbol{F})\) の位数に等しいから、
\([\:\boldsymbol{K}\::\:\boldsymbol{F}\:]=|G|\geq|S_5|=5!=120\)
である。
次に、
\(\boldsymbol{F}\subset\)\(\boldsymbol{F}(b_1)\subset\)\(\boldsymbol{F}(b_1,b_2)\subset\)\(\cdots\subset\)\(\boldsymbol{F}(b_1,b_2,b_3,b_4,b_5)=\boldsymbol{K}\) |
\([\:\boldsymbol{F}(b_1)\::\:\boldsymbol{F}\:]\leq\mathrm{deg}\:f(x)\:=5\)
である。等号は \(f(x)\) が既約多項式のときである。さらに、\(b_2\) は
4次方程式 \(f(x)/(x-b_1)\) の根だから、
\([\:\boldsymbol{F}(b_1,b_2)\::\:\boldsymbol{F}(b_1)\:]\leq4\)
である。以上を順に続けると、体の拡大次数の連鎖律(33H)により、
\([\:\boldsymbol{K}\::\:\boldsymbol{F}\:]\)
\(=\) | \([\:\boldsymbol{F}(b_1,b_2,b_3,b_4,b_5)\::\:\boldsymbol{F}\:]\) | ||
\(=\) | \([\:\boldsymbol{F}(b_1,b_2,b_3,b_4,b_5)\::\:\boldsymbol{F}(b_1,b_2,b_3,b_4)\:]\cdot\) | ||
\([\:\boldsymbol{F}(b_1,b_2,b_3,b_4)\::\:\boldsymbol{F}(b_1,b_2,b_3)\:]\cdot\) | |||
\([\:\boldsymbol{F}(b_1,b_2,b_3)\::\:\boldsymbol{F}(b_1,b_2)\:]\cdot\) | |||
\([\:\boldsymbol{F}(b_1,b_2)\::\:\boldsymbol{F}(b_1)\:]\cdot\) | |||
\([\:\boldsymbol{F}(b_1)\::\:\boldsymbol{F}\:]\) | |||
\(\leq\) | \(5\cdot4\cdot3\cdot2\cdot1=5!=120\) |
である。従って、\([\:\boldsymbol{K}\::\:\boldsymbol{F}\:]\geq5!\) と合わせると \([\:\boldsymbol{K}\::\:\boldsymbol{F}\:]=5!\) であり、
\(|G|=|S_5|\)
となって、
\(G\cong S_5\)
である。つまり、一般5次方程式のガロア群は \(S_5\) と同型であることが証明できた。\(S_5\) は可解群ではないので(65G)、それと同型である \(G\) も可解群ではない。従って \(b_i\) を \(a_i\) のべき根で表すことはできず、一般5次方程式に解の公式はない。[証明終]
6.6 可解ではない5次方程式
5次方程式の全てに適用できる解の公式がないことは、ガロア以前に証明されていました(アーベル・ルフィニの定理)。しかしガロア理論によって、解の公式がないことの「原理」が明確になりました。つまり係数が変数である一般5次方程式は、解が四則演算とべき根で表現できる(=可解である)ための必要条件を満たさないから公式は作れないのです(65H)。
ということは、この「原理」を用いて、可解ではない、係数が数値の方程式を具体的に構成できることになります。それを以下で行います。そのためにまず、コーシーの定理を証明します。なお、コーシー(19世紀フランスの数学者)の名がついた定理はいくつかありますが、これは「群論のコーシーの定理」です。
コーシーの定理 |
(コーシーの定理:66A) |
群 \(G\) の位数 \(|G|\) が素数 \(p\) を約数にもつとき、\(g^p=e\:\:(g\neq e)\) となる \(G\) の元 \(g\) が存在する。つまり、\(G\) は位数 \(p\) の巡回群を部分群としてもつ。
[証明]
本論に入る前に、証明に使う定義を行う。\(X\) を、元の数が \(N\) の集合とし、そこから重複を許して \(n\)個の元を取り出して1列に並べた順列を考える。このような順列の集合を \(P\) とする。つまり、
\(P=\{\:(x_1,x_2,\cdots,x_n)\:|\:x_i\in X\:\}\)
である。\((x_1,x_2,\cdots,x_n)\) は並べる順序に意味がある、いわゆる重複順列で、集合 \(P\) の元の数は、
\(|P|=N^n\)
である。
\(P\) から自分自身 \(P\) への写像 \(\sigma\) を、
\(\sigma\::\:(x_1,x_2,\cdots,x_n)\longmapsto(x_n,x_1,x_2,\cdots,x_{n-1})\)
と定義する。最後尾の元を先頭に持ってくる "循環写像" である(ここだけの用語)。そうすると、集合 \(P\) の任意の元、\(\boldsymbol{a}\) について、
\(\sigma^n(\boldsymbol{a})=\boldsymbol{a}\)
となり、\(\sigma^n=e\) (\(e\::\) 恒等写像)である。
次に、集合 \(P\) のある元を \(\boldsymbol{a}\) としたとき、
\(\sigma^d(\boldsymbol{a})=\boldsymbol{a}\)
となる最小の \(d\:\:(1\leq d\leq n)\) を、"\(\boldsymbol{a}\) の循環位数" と定義する(ここだけの用語)。そうすると、循環位数 \(\boldsymbol{d}\) は \(\boldsymbol{n}\) の約数になる。なぜなら、もし
\(n=kd+r\:\:(1\leq r < d)\)
だとすると、
\(\begin{eqnarray}
&&\:\:\sigma^n(\boldsymbol{a})&=\sigma^{kd+r}(\boldsymbol{a})\\
&&&=\sigma^r((\sigma^d)^k(\boldsymbol{a}))\\
&&&=\sigma^r(\boldsymbol{a})\\
&&\:\:\sigma^r(\boldsymbol{a})&=\boldsymbol{a}\\
\end{eqnarray}\)
となって、\(d\) が \(\sigma^d(\boldsymbol{a})=\boldsymbol{a}\) となる最小の数ではなくなるからである。
循環位数の例をあげると、
\(\begin{eqnarray}
&&\:\:N&=6\\
&&\:\:X&=\{\:1,\:2,\:3,\:4,\:5,\:6\:\}\\
&&\:\:n&=6\\
\end{eqnarray}\)
の場合、
\(\boldsymbol{a}=(1,\:2,\:3,\:4,\:5,\:6)\:\:\rightarrow\:\:d=6\)
\(\boldsymbol{a}=(1,\:2,\:2,\:2,\:2,\:2)\:\:\rightarrow\:\:d=6\)
\(\boldsymbol{a}=(1,\:2,\:3,\:1,\:2,\:3)\:\:\rightarrow\:\:d=3\)
\(\boldsymbol{a}=(1,\:2,\:1,\:2,\:1,\:2)\:\:\rightarrow\:\:d=2\)
\(\boldsymbol{a}=(1,\:1,\:1,\:1,\:1,\:1)\:\:\rightarrow\:\:d=1\)
などである。以上を踏まえて本論に入る。
積が単位元になるような \(G\) の \(p\)個(\(p\):素数)の元の組の集合、
\(S\:=\:\{\:(x_1,x_2,\cdots,x_p)\:\:|\:\:x_i\in G,\:x_1x_2\cdots x_p=e\:\}\)
を考える。まず、\(S\) の元の数 \(|S|\) を求める。\(S\) の始めから \(p-1\) 個までの \(x_i\:(1\leq i\leq p-1)\) は、全く任意に選ぶことができる。なぜなら、そうしておいて
\(x_p=(x_1x_2\cdots x_{p-1})^{-1}\)
とすれば、
\(x_1x_2\cdots x_{p-1}x_p\)
\(=x_1x_2\cdots x_{p-1}(x_1x_2\cdots x_{p-1})^{-1}\)
\(=e\)
となり、\(S\) の元になるからである。\(x_i\:(1\leq i\leq p-1)\) の選び方はそのすべてについて \(|G|\) 通りあるから、
\(|S|=|G|^{p-1}\)
である。
次に、\(S\) の任意の元を \(\boldsymbol{a}\) とすると、\(\sigma(\boldsymbol{a})\) もまた \(S\) の元になる。なぜなら、
\(\boldsymbol{a}=(x_1,x_2,\cdots,x_p)\:\:\:(x_i\in G)\)
とおくと、
\(x_1x_2\cdots x_{p-1}x_p=e\)
だが、この式に左から \(x_p\) をかけ、右から \(x_p^{-1}\) をかけると、
\(x_px_1x_2\cdots x_{p-1}x_px_p^{-1}=x_pex_p^{-1}\)
\(x_px_1x_2\cdots x_{p-1}=e\)
となり、これは \(\sigma(\boldsymbol{a})\in S\) を意味しているからである。
\(S\) のすべての元に循環位数を割り振ると、\(\boldsymbol{p}\) が素数なので、循環位数は \(\boldsymbol{1}\) か \(\boldsymbol{p}\) のどちらかである。循環位数が \(1\) である \(S\) の元とは、
\((\overbrace{x,\:x,\:\cdots\:,\:x}^{p\:個})\:\:(x\in G)\)
のように、\(G\) の同じ元を \(p\) 個並べたものである。また、循環位数が \(p\) の元とは、\(p\)個の \(G\) の元に1つでも違うものがあるような \(S\) の元である。
そこで、循環位数 \(p\) の \(S\) の元に着目する。その一つを \(\boldsymbol{a}_1\) とすると、
\(S_1=\{\boldsymbol{a}_1,\:\sigma(\boldsymbol{a}_1),\:\sigma^2(\boldsymbol{a}_1),\:\cdots\:,\sigma^{p-1}(\boldsymbol{a}_1)\}\)
は、すべて相異なる \(p\) 個 の \(S\) の元である。さらに、\(S_1\) に含まれない循環位数 \(p\) の元を \(\boldsymbol{a}_2\) とすると、
\(S_2=\{\boldsymbol{a}_2,\:\sigma(\boldsymbol{a}_2),\:\sigma^2(\boldsymbol{a}_2),\:\cdots\:,\sigma^{p-1}(\boldsymbol{a}_2)\}\)
も、すべて相異なる \(p\) 個 の \(S\) の元であり、しかも \(S_1\) とは重複しない。この操作は順々に繰り返せるから、いずれ循環位数 \(p\) の元は \(S_1,\:S_2,\:\cdots\) でカバーできることとなる。循環位数 \(p\) の \(S\) の元の全部が、
\(S_1\:\cup\:S_2\:\cup\:\cdots\:\cup\:S_q\)
と表現できたとしたら、その元の数は \(pq\) である。
循環位数 \(1\) の \(S\) の元の数は、\(S\) の元の数から循環位数 \(p\) の元の数を引いたものである。
\(|S|=|G|^{p-1}\)
だったから、\(p\) が \(|G|\) の約数である、つまり \(|G|\) が \(p\) の倍数であることに注意すると、
循環位数 \(1\) の元の数
\(=|G|^{p-1}-pq\equiv0\:\:(\mathrm{mod}\:p)\)
となる。この、循環位数 \(1\) の元の数は \(0\) ではない。なぜなら、
\((\overbrace{e,\:e,\:\cdots\:,\:e}^{p\:個})\)
は 循環位数が \(1\) の元だからである。つまり、循環位数 \(1\) の元の数は \(p\) 以上の \(p\) の倍数である。従って、\(S\) には \((e,\:e,\:\cdots\:,\:e)\) 以外に、
\((\overbrace{g,\:g,\:\cdots\:,\:g}^{p\:個})\:\:\:\:(g\neq e,\:g\in G)\)
が必ず存在する。従って、
\(g^p=e\:\:(g\neq e)\)
である \(g\) が存在する。この式が成立するということは、\(g\) の位数は \(p\) の約数であるが、\(p\) が素数なので、\(g\) の位数は \(p\) である。従って、
\(\{\:g,\:g^2,\:\cdots\:,g^{p-1},\:g^p=e\:\}\)
は位数 \(p\) の巡回群である。[証明終]
実数解3つの5次方程式は可解ではない |
(実数解が3つの5次方程式:66B) |
\(f(x)\) を既約な5次多項式とする。方程式 \(f(x)=0\) が複素数解を2つ、実数解を3つもつなら、方程式は可解ではない。
[証明]
\(f(x)=0\) の複素数解を \(\alpha_1,\:\alpha_2\)、実数解を \(\alpha_3,\:\alpha_4,\:\alpha_5\) とする。また、それらを \(\boldsymbol{Q}\) に付加した体を \(\boldsymbol{L}=\boldsymbol{Q}(\alpha_1,\alpha_2,\alpha_3,\alpha_4,\alpha_5)\) とする。また、ガロア群 \(\mathrm{Gal}(\boldsymbol{L}/\boldsymbol{Q})\) を \(G\) と書く。
一般に、複素数 \(z=r+is\) が有理数係数の方程式の解なら、\(\overline{\,z\,}=r-is\) も解である。つまり \(z\) と \(\overline{\,z\,}\) は共役(同じ方程式の解同士)である(=共役複素数)。その理由は以下である。
まず、\(z_1\) と \(z_2\) を2つの複素数とすると、
\(\overline{z_1+z_2}=\overline{z_1}+\overline{z_2}\)
が成り立つ。また、
\(z_1=r+is\)
\(z_2=u+iv\)
とすると、
\(\begin{eqnarray}
&&\:\:z_1z_2&=ru-sv+i(su+rv)\\
&&\:\:\overline{z_1}\cdot\overline{z_2}&=(r-is)(u-iv)\\
&&&=ru-sv-i(su+rv)\\
\end{eqnarray}\)
なので、
\(\overline{z_1z_2}=\overline{z_1}\cdot\overline{z_2}\)
である。有理数係数の方程式を、3次方程式の例で、
\(x^3+ax^2+bx+c=0\)
とし、\(z\) をこの方程式の解だとすると、
\(z^3+az^2+bz+c=0\)
\(\overline{z^3+az^2+bz+c}=\overline{\,0\,}\)
\(\overline{z^3}+\overline{az^2}+\overline{bz}+\overline{\,c\,}=0\)
\(\overline{\,z\,}^3+\overline{\,a\,}\overline{\,z\,}^2+\overline{\,b\,}\overline{\,z\,}+c=0\)
\(\overline{\,z\,}^3+a\overline{\,z\,}^2+b\overline{\,z\,}+c=0\)
となって、\(\overline{\,z\,}\) も方程式の解である。もちろんこれは \(n\)次方程式でも成り立つ。
そこで、\(f(x)=0\) の複素数解 \(\alpha_1,\:\alpha_2\) を、
\(\alpha_1=a+ib\)
\(\alpha_2=a-ib\)
とする。ここで、複素数 \(r+is\) に作用する \(\boldsymbol{L}\) の写像を \(\tau\) を、
\(\tau(r+is)=r-is\)
と定める。そうすると、
\(\tau(\alpha_1)=\alpha_2,\:\tau(\alpha_2)=\alpha_1,\)
\(\tau(\alpha_3)=\alpha_3,\:\tau(\alpha_4)=\alpha_4,\:\tau(\alpha_5)=\alpha_5\)
となり(\(\alpha_3,\:\alpha_4,\:\alpha_5\) は実数なので \(\tau\) で不変)、\(\tau\) は \(f(x)=0\) の2つの解を入れ替えるから \(\boldsymbol{L}\) の自己同型写像になり(51E)、すなわち \(G\) の元である。\(\alpha_1\) を \(1\)、\(\alpha_2\) を \(2\) と書き、巡回置換の記法を使うと、
\(\tau=(1,\:2)\)
である。
一方、\(f(x)\) は既約多項式なので単拡大体の基底の定理(33F)により、\(\boldsymbol{Q}(\alpha_1)\) の次元は \(5\)、つまり \([\boldsymbol{Q}(\alpha_1)\::\:\boldsymbol{Q}]=5\) である。そうすると、拡大次数の連鎖律(33H)により、
\([\:\boldsymbol{L}\::\:\boldsymbol{Q}\:]=[\:\boldsymbol{L}\::\:\boldsymbol{Q}(\alpha_1)\:][\boldsymbol{Q}(\alpha_1)\::\:\boldsymbol{Q}]\)
が成り立つので、\([\:\boldsymbol{L}\::\:\boldsymbol{Q}\:]\) は \(5\) の倍数である。\(|G|=[\:\boldsymbol{L}\::\:\boldsymbol{Q}\:]\) なので(52B)、ガロア群 \(G\) の位数は \(5\) を約数にもつ。
そうするとコーシーの定理(66A)より、\(G\) の部分群には位数 \(5\) の巡回群がある。それを、
\(H=\{\:\sigma,\:\sigma^2,\:\sigma^3,\:\sigma^4,\:\sigma^5=e\:\}\)
とする。5つの解の置換の中で、位数 \(5\) の巡回群を生成する \(\sigma\) は、巡回置換の記法で書くと、
\(\sigma_1=(1,\:2\:,3,\:4,\:5)\)
\(\sigma_2=(1,\:3\:,5,\:2,\:4)\)
\(\sigma_3=(1,\:4\:,2,\:5,\:3)\)
\(\sigma_4=(1,\:5\:,4,\:3,\:2)\)
の4つである。これらには、
\(\sigma_1^{\:2}=\sigma_2\)
\(\sigma_1^{\:3}=\sigma_3\)
\(\sigma_1^{\:4}=\sigma_4\)
の関係がある。そこで、\(G\) の中にある位数 \(5\) の巡回群は、
\(\sigma=(1,\:2\:,3,\:4,\:5)\)
だとして一般性を失わない。そうすると、\(G\) の中には、
\(\tau=(1,\:2)\)
\(\sigma=(1,\:2\:,3,\:4,\:5)\)
の2つの元があることになる。実は、
\(\tau,\:\sigma\) から出発して、この2つの元とその逆元の演算を繰り返すことによって、5次対称群 \(\boldsymbol{S_5}\) の元が全部作り出せる
のである。それを証明する。
\(G\) は群なので \(\sigma^{-1}\) も \(G\) に含まれる(\(\sigma\) は位数 \(5\) の巡回群の元なので \(\sigma^{-1}=\sigma^4\))。まず、\(\sigma\tau\sigma^{-1}\) を計算してみると、
\(\sigma\tau\sigma^{-1}=(1,2,3,4,5)(1,2)(5,4,3,2,1)\)
\((5,4,3,2,1)\) | \(=\left(\begin{array}{c}1&2&3&4&5\\5&1&2&3&4\end{array}\right)\) | |
\((1\:2)\) | \(=\left(\begin{array}{c}5&1&2&3&4\\5&2&1&3&4\end{array}\right)\) | |
\((1,2,3,4,5)\) | \(=\left(\begin{array}{c}5&2&1&3&4\\1&3&2&4&5\end{array}\right)\) |
\(\begin{eqnarray}
&&\:\:\sigma\tau\sigma^{-1}&=\left(\begin{array}{c}1&2&3&4&5\\1&3&2&4&5\end{array}\right)\\
&&&=(2,\:3)\\
\end{eqnarray}\)
となる。同様にして、
\((5,4,3,2,1)\) | \(=\left(\begin{array}{c}1&2&3&4&5\\5&1&2&3&4\end{array}\right)\) | |
\((2,\:3)\) | \(=\left(\begin{array}{c}5&1&2&3&4\\5&1&3&2&4\end{array}\right)\) | |
\((1,2,3,4,5)\) | \(=\left(\begin{array}{c}5&1&3&2&4\\1&2&4&3&5\end{array}\right)\) |
\(\begin{eqnarray}
&&\:\:\sigma^2\tau\sigma^{-2}&=\sigma(\sigma\tau\sigma^{-1})\sigma^{-1}\\
&&&=\sigma\cdot(2,3)\cdot\sigma^{-1}\\
&&&=\left(\begin{array}{c}1&2&3&4&5\\1&2&4&3&5\end{array}\right)\\
&&&=(3,\:4)\\
\end{eqnarray}\)
である。以下、
\((5,4,3,2,1)\) | \(=\left(\begin{array}{c}1&2&3&4&5\\5&1&2&3&4\end{array}\right)\) | |
\((3,\:4)\) | \(=\left(\begin{array}{c}5&1&2&3&4\\5&1&2&4&3\end{array}\right)\) | |
\((1,2,3,4,5)\) | \(=\left(\begin{array}{c}5&1&2&4&3\\1&2&3&5&4\end{array}\right)\) | |
\(\rightarrow\:\sigma^3\tau\sigma^{-3}\) | \(=\left(\begin{array}{c}1&2&3&4&5\\1&2&3&5&4\end{array}\right)\) | |
\(=(4,\:5)\) |
\((5,4,3,2,1)\) | \(=\left(\begin{array}{c}1&2&3&4&5\\5&1&2&3&4\end{array}\right)\) | |
\((4,\:5)\) | \(=\left(\begin{array}{c}5&1&2&3&4\\4&1&2&3&5\end{array}\right)\) | |
\((1,2,3,4,5)\) | \(=\left(\begin{array}{c}4&1&2&3&5\\5&2&3&4&1\end{array}\right)\) | |
\(\rightarrow\:\sigma^4\tau\sigma^{-4}\) | \(=\left(\begin{array}{c}1&2&3&4&5\\5&2&3&4&1\end{array}\right)\) | |
\(=(1,\:5)\) |
\((1,\:2)\)、\((2,\:3)\)、\((3,\:4)\)、\((1,\:5)\)
は \(G\) の元である。
一般に、
\((i,\:j)=(1,\:i)(1,\:j)(1,\:i)\)
である。なぜなら、
\(\begin{eqnarray}
&&\:\:(1,\:i)(1,\:j)(1,\:i)\cdot1&=(1,\:i)(1,\:j)\cdot i\\
&&&=(1,\:i)\cdot i=1\\
&&\:\:(1,\:i)(1,\:j)(1,\:i)\cdot i&=(1,\:i)(1,\:j)\cdot1\\
&&&=(1,\:i)\cdot j=j\\
&&\:\:(1,\:i)(1,\:j)(1,\:i)\cdot j&=(1,\:i)(1,\:j)\cdot j\\
&&&=(1,\:i)\cdot1=i\\
\end{eqnarray}\)
が成り立つからである。従って、
\((2,\:3)=(1,\:2)(1,\:3)(1,\:2)\)
である。この両辺に左と右から \((1,\:2)\) をかけると、
\((1,\:2)(2,\:3)(1,\:2)=(1,\:3)\)
となり、\((2,\:3),\:(1,\:2)\) が \(G\) の元なので \((1,\:3)\) も \(G\) の元である。同様に、
\((3,\:4)=(1,\:3)(1,\:4)(1,\:3)\)
であるが、\((3,\:4),\:(1,\:3)\) が \(G\) の元なので、\((1,\:4)\) も \(G\) の元である。結局、
\((1,\:2)\)、\((1,\:3)\)、\((1,\:4)\)、\((1,\:5)\)
が \(G\) の元であることが分かった。
\(S_5\) は5文字の置換をすべて集めた集合である。すべての置換は互換の積で表せて(65B)、かつ任意の互換 \((i,\:j)\) は、
\((i,\:j)=(1,\:i)(1,\:j)(1,\:i)\)
と表せるから、5文字の置換はすべて、
\((1,\:2)\)、\((1,\:3)\)、\((1,\:4)\)、\((1,\:5)\)
という4つの互換の積で表現できる。つまり、\(S_5\) はこの4つの互換で生成できる。以上をまとめると、
\((1,\:2)\)、\((1,\:2\:,3,\:4,\:5)\)
\(\Downarrow\)
\((1,\:2)\)、\((2,\:3)\)、\((3,\:4)\)、\((1,\:5)\)
\(\Downarrow\)
\((1,\:2)\)、\((1,\:3)\)、\((1,\:4)\)、\((1,\:5)\)
\(\Downarrow\)
\(S_5\) のすべての元
という、"\(S_5\)を生成する連鎖" の存在が証明できた。従って \(G\cong S_5\) である。\(S_5\) は可解群ではない(65G)。従って、複素数解を2つ、実数解を3つもつ既約な5次方程式は可解ではない。[証明終]
この、実数解が3つの5次方程式の定理(66B)から、可解ではない5次方程式の実例を簡単に構成できます。たとえば、
\(f(x)=x^5-5x+a\)
とおき、\(f(x)=0\) の方程式を考えます。
\(f\,'(x)=5x^4-5\)
なので、\(f\,'(x)=0\) の実数解は \(1,\:-1\) の2つです。
\(f(\phantom{-}1)=a-4\)
\(f(-1)=a+4\)
なので、
\(a-4 < 0 < a+4\)
なら、\(f(x)=0\) には3つの実数解があります。この条件は、
\(-4 < a < 4\)
ですが、\(a=0\) のときは \(f(x)\) は既約多項式ではありません。また \(a=3,\:-3\) のときも、
\(x^5-5x+3=(x^2+x-1)(x^3-x^2+2x-3)\)
\(x^5-5x-3=(x^2-x-1)(x^3+x^2+2x+3)\)
と因数分解できるので、既約多項式ではありません。従って、
\(x^5-5x+2=0\)
\(x^5-5x+1=0\)
\(x^5-5x-1=0\)
\(x^5-5x-2=0\)
が可解ではない5次方程式の例(\(G\cong S_5\))であり、これらの方程式の解を四則演算とべき根で表すのは不可能です。
![]() |
\(\boldsymbol{y=x^5-5x+1}\) のグラフ |
方程式 \(x^5-5x+1=0\) の3つの実数解を小さい方から \(\alpha,\beta,\gamma\) とし、数式処理ソフトそので近似解を求めると、 \(\alpha\fallingdotseq-1.5416516841045247594\) \(\beta\fallingdotseq\phantom{-}0.2000641026299753912\) \(\gamma\fallingdotseq\phantom{-}1.4405003973415600893\) である。近似解の精度を上げるのはいくらでも可能であり、方程式の形もシンプルだが、これらの解を四則演算とべき根で表すことはできない。グラフと近似解は WolframAlpha による。 |
「6.可解性の必要条件」終わり
(次回に続く)
(次回に続く)