No.378 - クロテンの毛皮の女性:源氏物語
パルミジャニーノ
「アンテア」
No.332「クロテンの毛皮の女性」のテーマは、16世紀イタリアの画家・パルミジャニーノの『アンテア』(ナポリ・カポディモンテ美術館)でした。女性の全身像を描いた絵です。この絵の大きなポイントは、超高級品であるクロテンの毛皮で、しかもその毛皮にクロテンの頭部の剥製がついている(当時の流行らしい)、そのことによる "象徴性" でした。それは、描かれた女性の気性きしょうと感情を暗示している(と、絵を見る人が感じる)のでした。
ところで『アンテア』とは何の関係もないのですが、日本文学史上で著名な、"クロテンの毛皮を身につけた女性" がいます。源氏物語の登場人物の一人である "末摘花すえつむはな" です。以下、源氏物語でクロテンの毛皮がどのように扱われているかをみていきます。漢字で書くと、クロテン = 黒貂 です。
末摘花
源氏物語の第六帖は「末摘花」と題されています。末摘花は、赤色染料に利用する紅花べにばなの別名で、同時に、源氏がある姫君につけた "あだ名" です。名前の理由は物語の中で明かされます。
第六帖「末摘花」において源氏は18歳(数え年)す。この年齢では、物語の先々まで影響する重要な出来事が起こります。まず、父(桐壺帝)の妃である藤壺との密通があり、藤壺が懐妊します。また、不遇の身である紫の上(藤壺の姪)を見い出し、二条院(源氏の邸宅)に引き取ります。これらの出来事は第五帖の「若紫」で語られますが、同時並行で進むのが「末摘花」です。
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