No.373 - 伊藤若冲「動植綵絵」の相似形

No.371「自閉スぺクトラムと伊藤若冲」の続きです。No.371 は、精神科医の華園はなぞの力つとむ氏の論文を紹介したものでした。華園先生は各種資料から、伊藤若冲を AS者(AS は Autism Spectrum = 自閉スペクトラム)であると "診断" し、臨床医としての経験も踏まえて、AS者によく見られる視覚表現の特徴が若冲の絵にも現れていると指摘されたのでした。その特徴とは、 ◆ 細部への焦点化 ◆ 多重視点 ◆ 表情認知の難しさ ◆ 反復繰り返し表現 の4つで、詳細は No.371 で紹介した通りです。その No.371 には書かなかったのですが、華園先生の論文「自閉スペクトラムの認知特性と視覚芸術」(日本視覚学会誌 VISION Vol.30-4, 2018)には気になる記述があります。それは、必ずしもAS者が備えているわけではないが、AS者に随伴することが多い能力があるとの指摘です。その能力とは、 ◆ 共感覚 ◆ カメラアイ ◆ 法則性の直感的洞察力 です。「共感覚」というのは、文字や数字、音、形に色を感じたりする例で、ある刺激を感覚で受け取ったときに、同時にジャンルの異なる感覚が生じる現象を言います。 「カメラアイ」は、見たものをまるでカメラで写したように記憶できる「視覚映像記憶」のことです。たとえばある都市の写真を見て、その後、記憶だけを頼りに都市風景を詳細に描き起…

続きを読む

No.372 - ヒトの進化と "うま味"

No.360「ヒトの進化と苦味」の続きです。味覚の "基本5味" は、甘味・塩味えんみ・酸味・苦味・うま味で、このそれぞれに対応した味覚受容体(= 舌の味蕾みらい細胞の表面にある味覚センサー)が存在します。 味覚受容体のうち、苦味受容体だけは多種類あり、それは霊長類(サルの仲間)の進化と密接な関係があります。つまり小型の霊長類では、マーモセットが20種、リスザルが22種、メガネザルが16種などですが、大型霊長類ではそれよりも種類が多く、ゴリラは25種、チンパンジーは28種、ヒトは26種です。 多くの苦味受容体を持つに至ったのは、進化の過程に深く関係がある。苦味受容体は、ヒトの祖先である霊長類が「主食を昆虫から植物の葉へと変えていく過程で増えていった」と北海道大学大学院 地球環境科学研究院 助教の早川卓志さん(博士)は解説する。早川さんはゲノム解析を通じて野生動物の行動や進化を研究する。 霊長類の祖先にあたる哺乳類は昆虫を主食としていたが、体が大きくなるにつれて虫だけでは栄養が不足し、葉に含まれるたんぱく質を摂取するようになる。植物はもともと毘虫に食べられないよう多様な毒を蓄えており、ヒ卜の祖先は「それを避けるように『苦味感覚』というセンサーを発達させ、受容体の数も増やした」(早川さん)。従って、植物を食べない哺乳類では苦味感覚の出番はあまりなく、受容体の数も少ない傾向にある。肉食のネコは霊長類の約3分の1、イルカ・クジラに至ってはゼロだ。 No.360「ヒトの進化と…

続きを読む