No.358 - 高校数学で理解するガロア理論(5)

(前回から続く)(目次)7.可解性の十分条件 第6章では、方程式が可解であれば(=解が四則演算とべき根で表現できれば)ガロア群が可解群であることをみました。第7章ではその逆、つまり、ガロア群が可解群であれば方程式が可解であることを証明します。  7.1 1の原始\(n\)乗根  可解性の十分条件を証明するために、まず、\(1\) の原始\(n\)乗根がべき根で表せることを証明します。このことを前提にした証明を最後で行うからです。念のために「1.1 方程式とその可解性」でのべき根の定義を振り返ると、  \(\sqrt[n]{\:a\:}\) (\(n=2\) の場合は \(\sqrt{\:a\:}\)) という表記は、 ・ \(a\) が正の実数のとき、\(n\)乗して \(a\) になる正の実数を表わす ・ \(a\) が負の実数や複素数の場合は、\(n\)乗して \(a\) になる数のどれかを表わす のでした。\(\sqrt{2}\) は \(1.4142\cdots\) と \(-1.4142\cdots\) のどちらかを表わすのではなく、\(1.4142\cdots\) のことです。\(\sqrt[3]{2}\) は \(3\)乗して \(2\) になる3つの数のうちの正の実数(\(\fallingdotseq1.26\))を表わします。一方、\(\sqrt{-1\:}\) は\(2\)乗して \(-1\…

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No.357 - 高校数学で理解するガロア理論(4)

(前回から続く)(目次)6.可解性の必要条件  6.1 可解群  正規部分群の概念、および剰余群と巡回群を使って「可解群」を定義します。可解群は純粋に群の性質として定義できますが、方程式の可解性と結びつきます。 (可解群の定義:61A) 群 \(G\) から 単位元 \(e\) に至る部分群の列、 \(G=\)\(H_0\:\supset H_1\supset\cdots\supset H_i\)\(\supset H_{i+1}\)\(\supset\cdots\supset H_k=\{\:e\:\}\) があって、\(H_{i+1}\) は \(H_i\) の正規部分群であり、剰余群 \(H_i/H_{i+1}\) が巡回群であるとき、\(G\) を可解群(solvable group)と言う。 \(H_{i+1}\) が \(H_i\) の正規部分群であるとき、\(H_i\) を正規列と言う。加えて、\(H_i/H_{i+1}\) が巡回群のとき、\(H_i\) を可解列という。 (巡回群は可解群:61B) 巡回群は可解群である。また、巡回群の直積も可解群である。 [証明] 群 \(G\) を巡回群とし、\(G\) から 単位元 \(e\) に至る部分群の列として、  \(G=H_0\:\supset\:H_1=\{\:e\:\}\) をとる。\(H_1=\{\:e\:\}\) は \(H_0=G…

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No.356 - 高校数学で理解するガロア理論(3)

(前回から続く)(目次)3.多項式と体(続き)  3.3 線形空間  ガロア理論の一つの柱は、代数拡大体を線形空間(ベクトル空間)としてとらえることで、線形空間の「次元」や「基底」を使って理論が組み立てられています。線形空間には精緻な理論体系がありますが、ここではガロア理論に必要な事項の説明をします。  線形空間の定義  (線形空間の定義:33A) 集合 \(V\) と 体 \(\boldsymbol{K}\) が次を満たすとき、\(V\) を \(\boldsymbol{\boldsymbol{K}}\) 上の線形空間(=ベクトル空間。linear space / vector space)と言う。 加算の定義 \(V\) の任意の元 \(\textbf{u},\:\textbf{v}\) に対して \((\textbf{u}+\textbf{v})\in V\) が定義されていて、この加算(\(+)\) の定義に関して \(V\) は可換群である。すなわち、 \((1)\) 単位元の存在 \(\textbf{u}+\textbf{x}=\textbf{x}\) となる \(\textbf{x}\) が存在する。これを \(0\) と書く。 \((2)\) 逆元の存在 \(\textbf{u}+\textbf{x}=0\) となる \(\textbf{x}\) が存在する。これを \(-\textbf{u}…

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