No.344 - 算数文章題が解けない子どもたち

No.234「教科書が読めない子どもたち」は、国立情報学研究所の新井紀子教授が中心になって実施した「全国読解力調査」(対象は中学・高校生)を紹介したものでした。 この調査の経緯ですが、新井教授は日本数学会の教育委員長として、大学1年生を対象に「大学生数学基本調査」を実施しました。というのも、大学に勤める数学系の教員の多くが、入学してくる学生の学力低下を肌で感じていたからです。この数学基本調査で浮かび上がったのは、そもそも「誤答する学生の多くは問題文の意味を理解できていないのでは」という疑問だったのです。 そこで本格的に子どもたちの読解力を調べたのが「全国読解力調査」でした。その結果は No.234 に概要を紹介した通りです。 ところで最近、小学生の学力の実態を詳細に調べた本が出版されました。慶応義塾大学 環境情報学部教授の今井むつみ氏(他6名)の「算数文章題が解けない子どもたち ── ことば・思考の力と学力不振」(岩波書店 2022年6月)です(以下「本書」と記述)。新井教授の本とよく似た(文法構造が全く同じの)題名ですが、触発されたのかもしれません。 今井むつみ・他6名 著 「算数文章題が解けない子どもたち」 (岩波書店 2022年6月) 新井教授は数学者ですが、本書の今井教授は心理学者であり、認知科学(特に言語の発達)や教育心理学が専門です。いわば、読解力を含む「学力」とは何かを研究するプロフェッショナルです。そのテーマは「算数文章題」で、対象は小学3年生…

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No.343 - マルタとマリア

No.341「ベラスケス:卵を料理する老婆」は、スコットランド国立美術館が所蔵するベラスケスの「卵を料理する老婆」(2022年に初来日。東京都美術館)の感想を書いたものでした。ベラスケスが10代で描いた作品ですが(19歳頃)、リアリズムの描法も全体構図も完璧で、かつ、後のベラスケス作品に見られる「人間の尊厳を描く」という、画家の最良の特質が早くも現れている作品でした。 この「卵を料理する老婆」で思い出した作品があるので、今回はそのことを書きます。ロンドン・ナショナル・ギャラリーが所蔵する「マルタとマリアの家のキリスト」です。この絵もベラスケスが10代の作品で、また、2020年に日本で開催された「ロンドン・ナショナル・ギャラリー展」で展示されました。 新約聖書のマルタとマリア まず絵の題についてです。「マルタとマリアの家のキリスト」は新約聖書に出てくる話で、聖書から引用すると次のようです。原文にあるルビは最小限に省略にしました。 一同が旅を続けているうちに、イエスがある村へはいられた。するとマルタという名の女がイエスを家に迎え入れた。この女にマリヤという妹がいたが、主の足もとにすわって、御言みことばに聞き入っていた。ところがマルタは接待のことで忙しくて心をとりみだし、イエスのところにきて言った。「主よ、妹がわたしだけに接待をさせているのを、なんともお思いになりませんか。わたしの手伝いをするように妹におっしゃってください」。主は答えて言われた、「マルタよ、マルタよ、あなたは…

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