No.316 - 高校数学で理解する楕円曲線暗号の数理(2)

(前回の No.315 より続く) 16. 楕円曲線上の点  有限体 \(\boldsymbol{F}_p\) の元 \(x\) と \(y\) のぺア \((x,\:y)\) の集合を \(\boldsymbol{F}_p^{\:2}\) と記述します。集合 \(\boldsymbol{F}_p^{\:2}\) の元で楕円曲線上の "点" はどれだけあるでしょうか。まず、楕円曲線の式を満たす \(\boldsymbol{F}_p^{\:2}\) の元がどのように計算できるかを調べます。  平方数と平方根  楕円曲線の式を、 \(\left\{ \begin{array}{l} \begin{eqnarray} &&y^2=z&\\ &&z=x^3+ax+b&\\ \end{eqnarray} \end{array}\right.\) と書くとき、\(z\)(\(z\neq0\))が \(\boldsymbol{F}_p\) での平方数なら、\(y\) の解が2つ求まります。ここで、次の命題が成立します。 16.1 平方数である条件\(z\) を \(0\) ではない \(\boldsymbol{F}_p\) の元とする。\(z^{\frac{p-1}{2}}=1\)であるとき(かつ、そのときに限り)\(z\) は平方数である(= オイラーの規準)。 \(\boldsymbol{F}_p\) で考えているので「平…

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No.315 - 高校数学で理解する楕円曲線暗号の数理(1)

このブログでは、インターネットをはじめとする情報通信インフラで使われている「公開鍵暗号」について、今まで3回にわたって書きました。 No.310-高校数学で理解するRSA暗号の数理(1)  No.311-高校数学で理解するRSA暗号の数理(2)  No.313-高校数学で理解する公開鍵暗号の数理 の3つです。今回はその継続として、公開鍵暗号の一種で広く使われている「楕円曲線暗号」について、その数学的な背景を書きます。楕円曲線暗号は、1985年に米国 IBM の Victor Miller と米国 Washington 大学の Neal Koblitz によって独立に提案されました。暗号に限らず科学技術の世界では、同時期に同じアイディアが独立に考案されるというケースが見られます。 例によって高校レベルの数学知識だけを前提にし、証明なしに用いる定理や命題はないものとします。ただし、No.310、No.311、No.313 の内容やそこで証明した定理は既知とします。特にその中の、 有限体と乗法群  生成元、および離散対数 です。なお、楕円曲線(Elliptic Curve)は、2次曲線である楕円(Ellipse)とは関係ありません。楕円の弧長を積分で求める時に出てくる数式なのでその名があるだけです。暗号の名を楕円暗号とするむきもありますが、誤解されるでしょう。楕円曲線暗号(Elliptic Curve Cryptography)が正しい言い方です。  …

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