No.314 - 人体に380兆のウイルス

No.307-308「人体の9割は細菌」で、ヒトは体内や皮膚に棲む微生物と共存していることを書きました。これら微生物には、もちろんヒトに有害な事象を引き起こすものもありますが、ヒトの役に立ったり、ヒトの免疫機構を調整しているものもある。人体は微生物と共存することを前提に成り立っています。 No.307-308での "微生物" は、題名にあるように主に細菌でした。しかし忘れてはいけない微生物のジャンルはウイルスです。そして人体はウイルスとも共存しています。人体に共存する微生物の総体(=微生物叢そう)をマイクロバイオーム(Microbiome。厳密にはヒトマイクロバイオーム)と言いますが、ウイルスの総体(=ウイルス叢そう)をバイローム(Virome。ヒトバイローム)と言います。言葉がややこしいのですが、マイクロバイオームの一部としてバイロームがあると考えてよいでしょう。 ウイルスというと、病気を引き起こす "ヒトの敵" というイメージが強いわけです。新型コロナウイルスがまさにそうだし、No.302「ワクチン接種の推奨中止で4000人が死亡」でとりあげたのは、子宮頸癌を引き起こすヒトパピローマウイルス(HPV)とそのワクチンの話でした(HPV は他の癌の原因にもなりうる)。大きな社会問題にもなった肝炎を引き起こすウイルスがあるし、エイズもウイルスの感染で発症する病気です。もちろんインフルエンザもウイルスが原因です。 しかしウイルスの中にはヒトに "好ましい" 影響を与えるものもあります…

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No.313 - 高校数学で理解する公開鍵暗号の数理

No.310-311「高校数学で理解するRSA暗号の数理」の続きです。公開鍵暗号の "老舗しにせ" である RSA暗号は、1978年に MIT の研究者であったリベスト(米)、シャミア(イスラエル)、エーデルマン(米)の3人によって発明されました(RSAは3人の頭文字)。3人はこの功績によって2002年のチューリング賞を受賞しました。チューリング賞は計算機科学分野の国際学会である ACM(Association of Computing Machinary)が毎年授与している賞で、この分野では最高の栄誉とされているものです。 しかし公開鍵暗号そのもののアイデアを最初に提示したのは、スタンフォード大学の研究者だったディフィー(米)とヘルマン(米)で、1976年のことでした。2人も 2015年にチューリング賞を受賞しています。この「鍵を公開する」という、画期的というか逆転の発想である公開鍵暗号の登場以降、暗号の研究は一変してしまいました。そして RSA暗号のみならず各種の公開鍵暗号が開発され、現代のインターネットの基盤になっています。たとえばインターネットのWebサーバへのアクセス(閲覧やフォーム入力など)で使われる SSL/TSL という暗号化通信(https:// のサイトで使われる)は、まさに公開鍵方式を使っています。 今回はその公開鍵暗号を "発明した" ディフィーとヘルマンに敬意を表して、彼らが発表した「鍵共有システム」の内容と、その数学的背景を書いてみたいと思います。また、それ…

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