No.309 - 川合玉堂:荒波・早乙女・石楠花

東京・広尾の山種美術館で「開館55周年記念特別展 川合玉堂 ── 山﨑種二が愛した日本画の巨匠」と題した展覧会が、2021年2月6日~4月4日の会期で開催されたので、行ってきました。 山種美術館の創立者の山﨑種二(1893-1983)は川合玉堂(1873-1957)と懇意で、この美術館は71点もの玉堂作品を所蔵しています。そういうわけで、広尾に移転(2009年)からも何回かの川合玉堂展が開催されましたが(2013年、2017年など)、今回は所蔵作品の展示でした。 このブログでは、過去に川合玉堂の作品を何点か引用しました。制作年順にあげると次のとおりです。 『冬嶺孤鹿』(1898。25歳) No.93「生物が主題の絵」 『吹雪』(1926。53歳) No.199「円山応挙の朝顔」 『藤』(1929。56歳) 『鵜飼』(1931。58歳。東京藝術大学所蔵) No.275「円山応挙:保津川図屏風」 これらはいずれも補足的なトピックとしての玉堂作品でしたが、今回はメインテーマにします。とは言え、展示されていた作品は多数あり、この場で取り上げるにはセレクトする必要があります。今回は "玉堂作品としてはちょっと異質" という観点から、『荒海』『早乙女さおとめ』『石楠花しゃくなげ』の3作品のことを書きます。 荒海 川合玉堂(1873-1957) 「荒海」(1944) 85.8cm × 117.6cm (山種美術館) …

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No.308 - 人体の9割は細菌(2)生態系の保全

(前回から続く) アランナ・コリン 「あなたの体は9割が細菌」 (矢野真千子 訳。河出文庫 2020) 前回の No.307「人体の9割は細菌(1)」は、アランナ・コリン著「あなたの体は9割が細菌」(訳:矢野真千子。河出書房 2016。河出文庫 2020。原題 "10% Human"。以下「本書」と書きます)の紹介でした。この本は大きく分けて次の2つのことが書かれています。 ◆ 21世紀病 20世紀後半に激増して21世紀には当たり前になってしまった免疫関連疾患、自閉症、肥満などを、著者は「21世紀病」と呼んでいます。これと、ヒトと共生している微生物の関係を明らかにしています。 ◆ 生態系の保全 ヒトと微生物が共生する「人体生態系」を正常に維持するためは何をすべきか。またその逆で、人体生態系に対するリスクは何かを明らかにしています。 前回は「21世紀病」の部分の紹介でしたが、今回は「生態系の保全」の部分から「抗生物質」「自然出産と母乳」「食物繊維」の内容を紹介します。なお本書で「生態系の保全」という言い方をしているわけではありません。 抗生物質のリスク ペニシリンの発見(1928年)以降、抗生物質は人類に多大な恩恵を与えてきました。実は本書の著者も2005年、22歳のとき、マレーシアでコウモリの調査中に熱帯病に感染し、一時まともな生活が送れないようになりましたが、抗生物質による治療で回復しました。 しかし著者は、抗生物質の意義とメリ…

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