No.288 - ナイトホークス

No.203「ローマ人の "究極の娯楽"」で、フランスの画家・ジェロームが古代ローマの剣闘士を描いた『差し下おろされた親指』(1904)がハリウッド映画『グラディエーター』(2000)の誕生に一役買ったという話を書きました。そのあたりを復習すると次のようです。 20世紀末、ハリウッド映画で "古代ローマもの" を復活させようと熱意をもった映画人が集まり、おおまかな脚本を書き上げました。紀元180年代末の皇帝コンモドスを悪役に、架空の将軍をヒーローにした物語です。将軍は嫉妬深いコンモドス帝の罠にはまり、奴隷の身分に落とされ、剣闘士(グラディエーター)にされてしまう。そして彼は剣闘士として人気を博し、ついにはローマのコロセウムで、しかもコンモドス帝の面前で命を賭けた戦いをすることになる。果たして結末は ・・・・・・。 制作サイドは監督にリドリー・スコットを望んだ。『エイリアン』『ブレードランナー』『ブラック・レイン』『白い嵐』など、芸術性とエンターテインメント性を合体させたヒット作を連打していたスコットなら、古代ローマものを再創造してくれるに違いない、と。 だがスコットは最初はあまり乗り気ではなかったらしい。そこで制作総指揮者は彼に『差し下された親指』を見せた。フランスのジェロームが百年以上も昔に発表した歴史画である。後にスコット曰く、「ローマ帝国の栄光と邪悪じゃあくを物語るこの絵を目にした途端、わたしはこの時代の虜とりこになった」(映画パンフレットより)。 こうして完…

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No.287 - モディリアーニのミューズ

このブログでは中野京子さんの絵画評論から数々の引用をしてきましたが、今回は『画家とモデル』(新潮社 2020。以降「本書」と書くことがあります)からモディリアーニを紹介したいと思います。本書の「あとがき」で中野さんは次のように書いています。 「画家とモデル」といえば、男性画家と彼に愛された女性モデルを想起しがちです。実際、シーレとヴァリ、ピカソと愛人たちなどが、評論、伝記、映画といったさまざまな媒体で幾度も取り上げられ、美術ファン以外にもよく知られているようです。本書では、そこにはあまりこだわりませんでした。もちろんそうした範疇はんちゅうにあるシャガールやモディリアーニも扱いましたが、むしろこれまであまり触れられることがなかった画家とモデルの関係に、できるだけ焦点を当てたいと思いました。 中野京子『画家とモデル』 (新潮社 2020) 中野京子 「画家とモデル」 表紙はワイエスが描いたヘルガ この「あとがき」どおり、本書には "これまであまり触れられることがなかった" クラーナハとマルティン・ルター、同性愛を公言できなかったサージェントと男性モデル、女性画家・フォンターナと多毛症の少女、ピエロ・デラ・フランチェスカと傭兵隊長(ウルビーノ公)など、全部で18のエピソードトが取り上げられています。全く知らなかった話もいろいろあって、大いに参考になりました。 その18のエピソードの中から敢あえてモディリアーニなのですが、"男性画家と彼に愛された女性モデル" の典型であ…

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