No.273 - ソ連がAIを駆使したなら

No.237「フランスのAI立国宣言」で、国立情報学研究所の新井紀子教授が朝日新聞(2018年4月18日)に寄稿した "メディア私評" の内容を紹介しました。タイトルは、 仏のAI立国宣言 何のための人工知能か 日本も示せ で、AIと国家戦略の関係がテーマでした。その新井教授が最近の "メディア私評" で再び AI についてのコラムを書かれていました(2019年10月11日)。秀逸な内容だと思ったので、その内容を紹介したいと思います。 実はそのコラムは、朝日新聞 2019年9月21日に掲載された、ヘブライ大学教授・歴史学者のユヴァル・ノア・ハラリ氏へのインタビュー記事に触発されて書かれたものです。そこでまず、そのハラリ教授の記事の関連部分を紹介したいと思います。ハラリ教授は世界的なベストセラーになった「サピエンス全史」「ホモ・デウス」の著者です。 AIが支配する世界 ユヴァル・ノア・ハラリ氏 朝日新聞が行ったハラリ教授へのインタビューは「AIが支配する世界」と題されています。サブの見出しは、 国民は常に監視下 膨大な情報を持つ独裁政府が現れるデータを使われ操作されぬため 己を知り抵抗を です。まずハラリ教授は、現代が直面する大きな課題には3つあって、それは、  ① 核戦争を含む世界的な戦争  ② 地球温暖化などの環境破壊  ③ 破壊的な技術革新 だと言います。そして「③ 破壊的な技術革新」が最も複雑な課…

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No.272 - ヒトは運動をするように進化した

No.221「なぜ痩せられないのか」の続きです。No.221では「日経サイエンス」2017年4月号に掲載された進化人類学者、ハーマン・ポンツァー(ニューヨーク市立大学・当時)の論文を紹介したのですが、そこに書かれていた彼のフィールドワークの結果は、 アフリカで狩猟採集生活をしているハッザ族のエネルギー消費量は欧米の都市生活者と同じ というものでした。言うまでもなく狩猟採集生活をしているハッザ族の人たちの身体活動レベルは、欧米の都市生活者よりも遥かに高いわけです(No.221)。それなのにエネルギー消費量は(ほとんど)変わらない。我々は「体をよく動かしている人の方がエネルギー消費量が多い」と、何の疑いもなく考えるのですが、それは「運動に関する誤解」なのです。ここから得られる「なぜ痩せられないのか」という問いに対する答は、 肥満の原因は運動不足より過食であり、運動のダイエット効果は限定的 ということでした。もちろん、運動は健康のために非常に重要です。No.221 にも「運動が、循環器系から免疫系、脳機能までに良い影響を及ぼすことはよく知られている通り。足の筋肉を鍛えることは膝の機能を正常に保つことになるし、健康に年を重ねるにも運動が大切」と運動の効用(の例)を書いたのですが、これは我々共通の認識だと思います。しかしそこに「運動に関する第2の誤解」が潜ひそんでいそうです。つまり、 ヒトは適切な食事(= 過食にならない、栄養バランスのとれた食事)をとれば普通の健康状態で過ごせ…

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No.271 - 「天気の子」が描いた異常気象

この「クラバートの樹」というブログは、少年が主人公の小説『クラバート』から始めました。それもあって、今までに少年・少女を主人公にした物語を何回かとりあげました。  『クラバート』(No.1, 2)  『千と千尋の神隠し』(No.2)  『小公女』(No.40)  『ベラスケスの十字の謎』(No.45)  『赤毛のアン』(No.77, 78) の5つです。今回はその継続で、新海誠監督の『天気の子』(2019年7月19日公開)をとりあげます。 『天気の子』は、主人公の少年と少女(森嶋帆高ほだかと天野陽菜ひな)が「運命に翻弄されながらも、自分たちの生き方を選択する物語」(=映画のキャッチコピー)ですが、今回は映画に描かれた "気象"(特に異常気象)を中心に考えてみたいと思います。 気象監修 この映画で描かれた気象や自然現象については、気象庁気象研究所の研究官、荒木健太郎博士がアドバイザーとなって助言をしています。映画のエンドロールでも「気象監修:荒木健太郎」となっていました。 この荒木博士が監修した気象について、最近の「日経サイエンス」(2019年10月号)が特集記事を組んでいました。この記事の内容を中心に「天気の子が描いた異常気象」を紹介したいと思います。ちなみ荒木博士は映画の最初の方で「気象研究所の荒木研究員」として登場します。帆高が都市伝説(=100%晴れ女)の取材で出会う人物です。荒木博士は声の出演もさ…

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