No.266 - ローザ・ボヌール

No.93「生物が主題の絵」の続きです。ここで言う "生物" とは、生きている動物、鳥、樹木、植物、魚、昆虫などの総称です。日本画では定番の絵の主題ですが、No.93 で取り上げたのは西欧絵画における静物画ならぬ "生物画" でした。 その中でフランスの画家、ローザ・ボヌールが描いた「馬の市場の絵」と「牛による耕作の絵」を引用しました。この2作品はいずれも19世紀フランスの日常風景や風俗を描いていますが、実際に見ると画家の第一の目的は馬と牛を描くことだと直感できる絵です。 ローザ・ボヌール(1822-1899) 「馬市」(1853) (244.5cm × 506.7cm) メトロポリタン美術館 ローザ・ボヌール 「ニヴェルネー地方の耕作」(1849) (133.0cm × 260.0cm) オルセー美術館 日本人がニューヨークやパリに観光に行くとき、メトロポリタン美術館とオルセー美術館を訪れる方は多いのではないでしょうか。ローザ・ボヌールのこの2枚の絵は大きな絵なので、記憶に残っているかどうかは別にして、両美術館に行った多くの人が目にしていると思います(展示替えがないという前提ですが)。メトロポリタン美術館は巨大すぎて観光客が半日~1日程度で全部をまわるは不可能ですが、『馬市』は "人気コーナー" であるヨーロッパ近代絵画の展示室群の中にあり、しかも幅が5メートルという巨大な絵なので、多くの人が目にしているはずです。 多くの人が目にしているはずなのに話題に…

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No.265 - AI時代の生き残り術

今回は No.234「教科書が読めない子どもたち」と、No.235「三角関数を学ぶ理由」の続きで、「AI時代に我々はどう対応していけばよいのか」というテーマです。まず、今までにAIについて書いた記事を振り返ってみたいと思います。次の15の記事です。 ◆No.165 - データの見えざる手(1) ◆No.166 - データの見えざる手(2) ◆No.173 - インフルエンザの流行はGoogleが予測する ◆No.174 - ディープマインド ◆No.175 - 半沢直樹は機械化できる ◆No.176 - 将棋電王戦が暗示するロボット産業の未来 ◆No.180 - アルファ碁の着手決定ロジック(1) ◆No.181 - アルファ碁の着手決定ロジック(2) ◆No.196 - 東ロボにみるAIの可能性と限界 ◆No.197 - 囲碁とAI:趙治勲 名誉名人の意見 ◆No.233 - AI vs.教科書が読めない子どもたち ◆No.234 - 教科書が読めない子どもたち ◆No.237 - フランスのAI立国宣言 ◆No.240 - 破壊兵器としての数学 ◆No.250 - …

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No.264 - ベラスケス:アラクネの寓話

前回の No.263「イザベラ・ステュワート・ガードナー美術館」で、この美術館の至宝、ティツィアーノ作『エウロペの略奪』について中野京子さんが次のように書いていることを紹介しました。 本作は、後代の著名な王侯御用達画家ふたりに取り上げられた。ひとりはルーベンスで、外交官としてスペインを訪れた機会にこれを丁寧に模写している。ティツィアーノに心酔していただけであり、自らの筆致を極力抑えて写しに徹した、すばらしい作品に仕上がった。 もうひとつはベラスケス。フェリペ2世の孫にあたるフェリペ4世の宮廷画家だった彼は、『織おり女めたち』の中で、アラクネが織り上げたタペストリーの主題として、このエウロペをいわば画中画の形で描き出した。 中野京子『名画の謎:対決篇』 (文藝春秋 2015) ルーベンスによる『エウロパの略奪』の模写は No.263 に引用したので、今回はもう一つの『織り女たち』を取り上げます。前回と同じく中野京子さんの解説から始めます。 ベラスケス『織り女たち』 ディエゴ・ベラスケス 「アラクネの寓話(織り女たち)」(1657頃) (220cm × 289cm) プラド美術館 本作は、通称『織おり女めたち』、正式には『マドリード、サンタ・イザベル綴織つづれおり工場』と呼ばれてきた。王立タペストリー工場内部を描いたもので、前景にいるのは糸紡いとつむぎする女性たち、後景は買い物にやってきた高貴な女性たち、一番奥の壁に飾られているのは、売り物のタ…

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