No.255 - フォリー・ベルジェールのバー

No.155「コートールド・コレクション」で、エドゥアール・マネの傑作『フォリー・ベルジェールのバー』のことを書きました。この作品は、英国・ロンドンにあるコートールド・ギャラリーの代表作、つまりギャラリーの "顔"と言っていい作品です。 最近ですが、中野京子さんが『フォリー・ベルジェールのバー』の評論を含む本を出版されました。これを機会に再度、この絵をとりあげたいと思います。 エドゥアール・マネ(1832-1883) 「フォリー・ベルジェールのバー」(1881-2) (96×130cm) コートールド・ギャラリー(ロンドン) マネ最晩年の傑作 まず、中野京子さんの解説で本作を見ていきます。以下の引用で下線は原文にはありません。また漢数字を算用数字に直したところがあります。 『フォリー・ベルジェールのバー』は、エドゥアール・マネ最晩年の大作。画面左端にある酒瓶のラベルに、マネのサイン「Manet」と制作年「1882」が見える。この翌年、彼は51歳の若さで亡くなるのだ。 高級官僚の息子に生まれ、生涯、経済的に不自由せず、生活のため絵を売る必要もなく、生粋きっすいのパリジャン、人好きするダンディーで知られたマネだが、二十代で罹患りかんした梅毒ばいどくが進んで末期症状を迎え、壊死えしした片足を切断したものの、ついに回復できなかった。本作制作中も手足の麻痺まひや痛みに苦しみ、現地でデッサンした後はもはや外出できず、わざわざ自分のアトリエにカウンターを設しつらえ、…

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No.254 - 横顔の肖像画

No.217「ポルディ・ペッツォーリ美術館」の続きです。No.217 ではルネサンス期の女性の横顔の肖像画で傑作だと思う作品を(実際に見たことのある絵で)あげました。次の4つです。 A:ピエロ・デル・ポッライオーロ  「若い貴婦人の肖像」(1470頃)  ポルディ・ペッツォーリ美術館(ミラノ) B:アントニオ・デル・ポッライオーロ  「若い女性の肖像」(1465頃)  ベルリン絵画館 C:ドメニコ・ギルランダイヨ  「ジョヴァンナ・トルナボーニの肖像」(1489/90)  ティッセン・ボルネミッサ美術館(マドリード) D:ジョバンニ・アンブロジオ・デ・プレディス  「ベアトリーチェ・デステの肖像」(1490)  アンブロジアーナ絵画館(ミラノ) A と C はそれぞれ、ポルディ・ペッツォーリ美術館とティッセン・ボルネミッサ美術館の "顔" となっている作品です。そもそも横顔の4枚を引用したのは、ポルディ・ペッツォーリ美術館の "顔" が「A:若い貴婦人の肖像」だからでした。その A と B の作者は兄弟です。また D は、ミラノ時代のダ・ヴィンチの手が入っているのではないかとも言われている絵です。 これらはすべて「左向き」の横顔肖像画で、一般的に横顔を描く場合は左向きが圧倒的に多いわけです。もちろん「右向き」の肖像もあります。有名な例が、丸紅株式会社が所有している…

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No.253 - マッカーサー・パーク

前回の No.252「Yes・Noと、はい・いいえ」で、2012年に日本で公開された映画『ヒューゴの不思議な発明』に出てくる、ある台詞せりふを覚えているという話を書きました。それは「本は好きではないの?」という問いに対するヒューゴ少年の、  "No, I do." という返事で、変な英語(= 中学校以来、間違いだと注意されてきた英語)だったので心に残ったわけです。ただし心に残っただけで、このせりふが映画のストーリーで重要だとか、そういうことでは全くありません。 「重要ではないが、ふとしたことで覚えている映画のせりふ」があるものです。No.98「大統領の料理人」で書いたのは、フランス大統領の専属料理人であるオルタンスが言う、 (クタンシー産の牛肉は)"神戸ビーフに匹敵する" というせりふでした。『大統領の料理人』は美食の国・フランスの威信をかけて制作された(かのように見える)映画で、その映画でフランスのエリート料理人がフランス産牛肉のおいしさを表現するのに神戸ビーフを持ち出したことで "エッ" と思ったわけです。フランスの著名シェフなら、たとえ心の中では思っていたとしても口には出さないと考えたのです。 今回は、こういった「ふとしたことで覚えている映画のせりふ」を、最近の映画から取りあげたいと思います。2018年に日本で公開されて大ヒットした(というより世界中で大ヒットした)『ボヘミアン・ラプソディー』の中のせりふです。 「ボヘミアン・ラプソディー」…

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