No.244 - ポロック作品に潜むフラクタル

No.243「視覚心理学が明かす名画の秘密」で、三浦佳世氏の同名の著書の "さわり" を紹介したのですが、その中で、ジャクソン・ポロックのいわゆる "アクション・ペインティング"( = ドリップ・ペインティング)がフラクタル構造を持っているとありました。 日経サイエンス (2003年3月号) 実はこのことは 2002年の「Scientific American」誌で論文が発表されていて、その日本語訳が「日経サイエンス 2003年3月号」に掲載されました。おそらく三浦氏もこの論文を参照して「視覚心理学が明かす名画の秘密」のポロックの章を書いたのだと思います。 今回はその論文を紹介したいと思います。リチャード P. テイラー「ポロックの抽象画にひそむフラクタル」です。筆者は米・オレゴン大学の物理学の教授で、オーストラリアのニューサウスウェールズ大学の物性物理学科長だった時に、ポロックの抽象画に潜むフラクタルに気づいて謎解きを始めました。 アートかデタラメか テイラー教授の論文はまず、ジャクソン・ポロックの代表作である『Blue Poles : No.11, 1952』の話から始まります。 ジャクソン・ポロック(Jackson Pollock, 1912 ~ 1956)は米国の美術史を代表する抽象表現主義の画家だ。彼が傑作『Blue Poles : No.11, 1952』の制作に取りかかったのは、ある3月の嵐の夜だった。すきま風が吹き込む納屋のようなアトリエで、酒…

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No.243 - 視覚心理学が明かす名画の秘密

No.217「ポルディ・ペッツォーリ美術館」で、ルネサンス期の女性の横顔肖像画(= プロフィール・ポートレート。以下、プロフィール)で傑作だと思う4作品をあげました。 ◆ピエロ・デル・ポッライオーロ  「若い貴婦人の肖像」(1470頃)  ポルディ・ペッツォーリ美術館(ミラノ) ◆アントニオ・デル・ポッライオーロ  「若い女性の肖像」(1465頃)  ベルリン絵画館 ◆ジョバンニ・アンブロジオ・デ・プレディス  「ベアトリーチェ・デステの肖像」(1490)  アンブロジアーナ絵画館(ミラノ) ◆ドメニコ・ギルランダイヨ  「ジョヴァンナ・トルナボーニの肖像」(1489/90)  ティッセン・ボルネミッサ美術館(マドリード) 三浦佳世 「視覚心理学が明かす名画の秘密」 (岩波書店 2018) の4作品ですが、これらはすべて左向きの顔でした。そして、「プロフィールには右向きのものもあるが(たとえば丸紅が所有しているボッティチェリ)、数としては圧倒的に左向きが多いようだ、これに何か理由があるのだろうか、多くの画家は右利きなので左向きが描きやすいからなのか、その理由を知りたいものだ」という意味のことを書きました。 最近、ある本を読んでいたらプロフィールの左向き・右向きについての話がありました。三浦佳世『視覚心理学が明かす名画の秘密』(岩波書店 2018。以下、本書)です…

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No.242 - ホキ美術館

「個人美術館」という言い方があります。これには2つの意味があって、 ◆一人のアーティストの作品だけを展示する美術館 ◆一人のコレクターが蒐集した作品だけを展示する美術館(以下、個人コレクション美術館) の2つです。今まで、バーンズ・コレクションからはじまって9つの "個人コレクション美術館" について書きました。  No. 95バーンズ・コレクション米:フィラデルフィア  No.155コートールド・コレクション英:ロンドン  No.157ノートン・サイモン美術館米:カリフォルニア  No.158クレラー・ミュラー美術館オランダ:オッテルロー  No.167ティッセン・ボルネミッサ美術館スペイン:マドリード  No.192グルベンキアン美術館ポルトガル:リスボン  No.202ボイマンス・ファン・ベーニンゲン美術館オランダ:ロッテルダム  No.216フィリップス・コレクション米:ワシントンDC  No.217ポルディ・ペッツォーリ美術館イタリア:ミラノ の9つの美術館です。これらはいずれもコレクターの名前を冠していました。また、フィリップス・コレクションとポルディ・ペッツォーリ美術館はコレクターの私邸がそのまま美術館となっている「私邸美術館」、ないしは「邸宅美術館」(ジャーナリストの朽木くちきゆりこ氏の表現)です。 今回はその「コレクター名を冠した個人…

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