No.230 - 消えたベラスケス(1)

今まで17世紀スペインの宮廷画家、"王の画家にして画家の王" と呼ばれるベラスケスについて5回書きました。 ◆No.  19 - ベラスケスの「怖い絵」 ◆No.  36 - ベラスケスへのオマージュ ◆No.  45 - ベラスケスの十字の謎 ◆No.  63 - ベラスケスの衝撃:王女と「こびと」 ◆No.133 - ベラスケスの鹿と庭園 の5つです。今回はその続きで、2018年に発売されたローラ・カミング著『消えたベラスケス』(五十嵐加奈子訳。柏書房 2018)を紹介します。著者は英国の美術評論家で、もとBBCの美術担当プロデューサーです。 ローラ・カミング 「消えたベラスケス」 五十嵐加奈子訳(柏書房 2018) 消えたベラスケス この本については中野京子さんが書評を書いていました。まずそれを引用します。日本経済新聞の読書欄からで、下線は原文にはありません。 芸術が魂に与える力を熱く 「消えたベラスケス」   ローラ・カミング 著 著者曰いわく、本書は巨匠の中の巨匠ベラスケスを称たたえる書である。 その言葉どおり熱い本だ。芸術作品というものは各時代の賛美者たちが熱く語り続けることで、次代へ繋つながれてゆく。ベラスケスはスペイン宮廷の奥に隠されていた時代にはゴヤが、公共美術館に展示されてからはマネが、その超絶技巧と魅力を喧…

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No.229 - 糖尿病の発症をウイルスが抑止する

今回は、No.225「手を洗いすぎてはいけない」と同じく、No.119-120「"不在" という伝染病」の続きです。No.119-120 をごく簡単に一言で要約すると、  人類が昔から共存してきた微生物(細菌や寄生虫)が少なくなると、免疫関連疾患(アレルギーや自己免疫疾患)のリスクが増大する ということでした。「衛生仮説」と呼ばれているものです。その No.119 の中に糖尿病のことがありました。今回はその糖尿病の話です。 糖尿病には「1型糖尿病」と「2型糖尿病」があります。我々がふつう糖尿病と呼ぶのは「2型糖尿病」のことで、肥満や過食といった生活習慣から発症するものです。もちろん、生活習慣から発症するといっても2型糖尿病になりやすい遺伝的体質があります。No.226「血糖と糖質制限」で書いた糖質制限は、もともと2型糖尿病を治療するためのものでした。 一方、「1型糖尿病」は遺伝で決まる自己免疫疾患です。幼少期から20歳以下の年齢で発症するので、小児糖尿病とか若年性糖尿病とも言われます。これは、膵臓すいぞうにある膵島すいとう(ランゲルハンス島)を攻撃する自己免疫細胞が体内で作られ、膵島のβ細胞で生成されるインスリンが作られにくくなり(あるいは作られなくなり)、血糖値が上昇したままになって糖尿病になるというタイプです。No.119 で、この「1型糖尿病」について次の意味のことを書きました。 ◆「1型糖尿病」は20世紀後半に激増した。 ◆「1型糖尿病」の発症…

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