No.210 - 鳥は "奇妙な恐竜"

日経サイエンス (2017年6月号) 今までに生物の進化に関する記事を2つ書きました。  No.  56 - 強い者は生き残れない No.148 - 最適者の到来 の2つですが、今回はその続きです。2017年6月号の「日経サイエンス」に恐竜から鳥への進化に関する解説記事が掲載されました。英国エディンバラ大学の古生物学者、ステファン・ブルサット(Stephen Brusatte。アメリカ国籍)が書いた「羽根と翼の進化」です。最新の研究成果をふまえた、大変興味深い内容だったので、その要旨を紹介したいと思います。 始祖鳥 そもそも鳥の祖先は恐竜ではないかと言われ出したのは、今から150年も前、19世紀の半ばです。きっかけは、鳥の "先祖" である "始祖鳥" の発見でした。 1860年代、ダーウィンの親友の1人で最も声高な支持者だった英国の生物学者ハックスリー(Thomas Henry Huxley)は、鳥類の起源の謎に挑みはじめた。ダーウィンが1859年に『種の起源』を出版してからわずか数年後、独バイエルンの採石場で労働者が割った石灰岩の中から1億5000万年前の骨格が現れた。爬虫類のような鋭いかぎ爪と長い尾、鳥のような羽毛と翼を併せもつ動物の化石だった。 始祖鳥(Archaeopteryx)と命名されたこの動物が、やはりその当時に見つかりはじめていたコンプソグナトゥス(Compsognathus)などの小型肉食恐竜に不気味な…

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No.209 - リスト:ピアノ・ソナタ ロ短調

今までにフランツ・リストの曲を2つとりあげました。 ◆No.  8 - リスト:ノルマの回想 ◆No.44 - リスト:ユグノー教徒の回想 の2つですが、そもそもローマのレストランのテレビでやっていた「素人隠し芸大会」で、オペラ「ノルマ」の有名なアリア「清き女神よ」を偶然に聞いたことが発端でした(No.7「ローマのレストランでの驚き」参照)。 この2つはいわゆる "パラフレーズ" 作品です。つまりそれぞれ、ベッリーニのオペラ「ノルマ」とマイヤベーアのオペラ「ユグノー教徒」のなかの数個のアリアの旋律をもとに、それを変奏したり発展させたりして自由に構成した作品です。まさにオペラを観劇したあとに、それを回想しているという風情の作品です。 今回は方向性を全く変えて、同じリストの作品ですが「ピアノ・ソナタ ロ短調」を取り上げます。なぜこの曲かというと、恩田陸さんの小説『蜜蜂と遠雷』に出てきたからです。この小説は直木賞(2016年下半期)と本屋大賞(2017年)をダブル受賞したことで大きな話題になりました。 恩田陸「蜜蜂と遠雷」 (幻冬舎 2016) 蜜蜂と遠雷 『蜜蜂と遠雷』は、日本での国際ピアノコンクールに参加した4人のコンテスタント(16歳、19歳、20歳、28歳の4人)を中心に、彼らをとりまく友人、師匠、審査員なども含めた群像劇です。これらコンテスタントのなかで、マサル(=マサル・カルロス・レヴィ・アナトール。19歳)の演奏曲目に、リス…

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