No.188 - リチウムイオン電池からの撤退

今までの記事で、リチウムイオン電池について2回、書きました。 No.39リチウムイオン電池とノーベル賞 No.110リチウムイオン電池とモルモット精神 の二つです。No.39はリチウムイオン電池を最初に作り出した旭化成の吉野氏の発明物語、No.110はそのリチウムイオン電池の製品化(量産化)に世界で初めて成功した、ソニーの西氏の話でした。 そのソニーですが、リチウムイオン電池から撤退することを先日発表しました。その新聞記事を振り返りながら、感想を書いてみたいと思います。No.110にも書いたのですが、ソニーのリチウムイオン電池ビジネスの事業方針はブレ続けました。要約すると次の通りです。 ◆盛田社長・岩間社長・大賀社長時代(1971-1995)  携帯機器用電池・自動車用電池を推進。1991年、世界で初めて携帯機器用を製品化。車載用は日産自動車のEVに供給。 ◆出井社長時代(1995-2000)  自動車用電池から撤退(1999年頃) ◆安藤・中鉢・ストリンガー社長時代(2000-2012)  自動車用電池に再参入を表明(2009年、2011年の2回) ◆平井社長時代(2012-)  電池ビジネス全体の売却を検討し(2012年末)、それを撤回(2013年末) この詳しい経緯は、No.110「リチウムイオン電池とモルモット精神」に書きました。こういった事業方針の "ブレ" が過去にあり、そして今回の発表となったことを…

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No.187 - メアリー・カサット展

今回は、横浜美術館で開催されたメアリー・カサット展の感想を書きます。横浜での会期は 2016年6月25日 ~ 9月11日でしたが、京都国立近代美術館でも開催されます(2016年9月27日 ~ 2016年12月4日)。 メアリー・カサットの生涯や作品については、今まで3つの記事でとりあげました。 No.86ドガとメアリー・カサット No.87メアリー・カサットの「少女」 No.125カサットの「少女」再び の3つです。また次の2つの記事ですが、 No.93生物が主題の絵 No.111肖像画切り裂き事件 No.93では、カサットの愛犬を抱いた女性の肖像画を引用し、またNo.111では、ドガが描いた「メアリー・カサットの肖像」と、その絵に対する彼女の発言を紹介しました。これら一連の記事の継続になります。 メアリー・カサット展 横浜美術館 (2016年6月25日~9月11日) 絵は「眠たい子どもを沐浴させる母親」(1880。36歳。ロサンジェルス美術館蔵) 浮世絵版画の影響 1867年(23歳)に撮影されたメアリー・カサットの写真。彼女がパリに到着した、その翌年である。手にしているのは扇子のようである。フィリップ・クック「印象派はこうして世界を征服した」(白水社。2009)より。今回の展覧会の大きな特徴は、画家・版画家であるメアリー・カサット(1844-1926)の "版画家" の部分を念入りに紹介してあったことです。カサットの回顧展なら当然かも…

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No.186 - もう一つのムーラン・ド・ラ・ギャレット

ポンピドゥー・センター傑作展 2016年6月11日から9月22日の予定で「ポンピドゥー・センター傑作展」が東京都美術館で開催されています。今回はこの展示会の感想を書きます。この展示会には、以下の4つほどの "普通の展示会にあまりない特徴" がありました。  1年・1作家・1作品  まず大きな特徴は「1年・1作家・1作品」という方針で、1906年から1977年に制作された71作家の71作品を制作年順に展示したことです。展示会の英語名称は、 Masterpieces from the Centre Pompidou : Timeline 1906-1977 とありました。つまり Timeline = 時系列という展示方法です。制作年順の展示なので、当然、アートのジャンルや流派はゴッチャになります。 デュフィ 「旗で飾られた通り」(1906) しかし、だからこそ20世紀アートの同時平行的なさまざまな流れが体感できました。Timeline 1906-1977 だと72作品になるはずですが、71作品なのは1945年(第2次世界大戦の終了年)だけ展示が無いからです。 ちなみに、最後の1977年はポンピドゥー・センターの開館の年です。では、なぜ1906年から始まっているのでしょうか。なぜ1901年(20世紀最初の年)ではないのか。おそらくその理由は、1906年のデュフィの作品 = フランス国旗を大きく描いた作品を最初にもって来たかったからだと思いました。…

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