No.148 - 最適者の到来
No.56「強い者は生き残れない」で、吉村仁氏(静岡大学教授・当時)の著書である『強いものは生き残れない』(新潮選書 2009)を紹介しました。この本は "数理的アプローチ" による生物進化の研究成果を述べているのですが、最近それとも関連がある本が出版されたので内容を紹介したいと思います。アンドレアス・ワグナー著『進化の謎を数学で解く』(垂水雄二・訳。文藝春秋。2015)です。
著者はチューリッヒ大学の進化生物学・環境研究所の教授であり、本の内容は現代進化論の「不備」とも言える事項に解決の方向を提示した、非常に印象的なものです。本の原題は「Arrival of the Fittest」であり、「最適者の到来」という意味です。
現代の進化論への「疑問」
チャールズ・ダーウィン(1809-1882)から始まった近代の進化論は数々の発展を遂げ、現代では以下のプロセスで生物が進化してきたというのが定説になっています。
①遺伝子(その中心となっているのはDNA)はランダムに突然変異を起こす。このことによって生物の形質が少し変化する。
②その中から、生物の生息環境にとって最適なものが選択される(natural selection。自然選択=自然淘汰。)。
③このような小さな変化が膨大に積み重なることによって、現在の生物の形ができあがった。
細かいことを言うとキリがありませんが、ごくアバウトに説明するとこのようになると思います。この中で素人しろうとにもわかりやすいのは「…