No.136 - グスタフ・マーラーの音楽(1)

『小澤征爾さんと、音楽について話をする』 前回のNo.135「音楽の意外な効用(2)村上春樹」では、『小澤征爾さんと、音楽について話をする』(新潮社。2011)という本から、村上春樹氏が「文章の書き方を音楽から学んだ」と語っている部分を紹介しました。今回はこの本から別の話題をとりあげたいと思います。 『小澤征爾さんと、音楽について話をする』は、村上春樹さんが小澤征爾さんに長時間のインタビューをした内容(2010年11月~2011年7月の期間に数回)にもとづいていて、語られている話題は多岐に渡っています。小澤さんが師事したカラヤンやバーンスタインのこと、欧米の交響楽団やサイトウ・キネンの内輪話、ベートーベンやブラームスのレコードを聞きながらの指揮や演奏の "キモ" の解説、小澤さん主宰の「スイス国際音楽アカデミー」の様子などです。 しかし何と言ってもこの本の最大の "読みどころ" は、グスタフ・マーラーの音楽について二人が語り合った部分でしょう(個人的感想ですが)。本のうちの 84 ページが「グスタフ・マーラーの音楽をめぐって」と題した章になっています。360 ページほどの本なので、4分の1近くが「マーラー論」ということになります。そして、ここで展開されている「マーラー論」は納得性が高く「その通り!」と思うことが多々あったので、何点かのポイントを以下に紹介したいと思います。以下、引用中の下線・太字は原文にはありません。 「小澤征爾さんと、音楽について話をする」 (新潮社…

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No.135 - 音楽の意外な効用(2)村上春樹

(前回から続く) 前回からの続きです。「音楽を愛めでるサル」(No.128, No.129)の要点は、以下の3つでした。 ◆音楽の記憶は「手続き記憶=体の記憶」であり、言葉の記憶とは異なる。手続き記憶とは、 ・覚えていることすら自覚しない ・覚えたつもりはない、けれども自分のからだが勝手に動く たぐいの記憶であり、音楽の記憶はその一種である。 ◆音楽は「認知的不協和」を緩和する働きをもつ。「認知的不協和」とは、「したくてもできない」という状況に置かれたときの心の葛藤を言う。この音楽の働きは、俗に言う「モーツァルト効果」の一つである。 ◆ ヒト(霊長類)は、節ふしをつけて声を発することをまず覚え、そこから言語が発達した(と推定できる)。 今回は最後の項目の「言葉と音楽の関係」です。 小澤征爾さんと音楽を語る 『小澤征爾さんと、音楽について話をする』という本があります(新潮社。2011)。この本は作家の村上春樹氏が企画し、村上さんが小澤さんとの対談を何回か行って、その録音をもとに村上さんがまとめた本です。小澤征爾さんが経験した音楽界の「内幕」がいろいろ語られていたりして、大変に興味をそそる本です。 この本の大きなポイントは、村上春樹さんが大の音楽好きで(クラシック音楽とジャズ)、またレコード・マニアだということです。本の中では、小澤さんもびっくりするような音楽知識を村上さんが知っていたり、また超レアなレコードを持っていたりなど、いろいろと出て…

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