No.134 - 音楽の意外な効用(1)渋滞学

No.128, No.129「音楽を愛めでるサル」の続きというか、補足です。 「音楽を愛でるサル」で紹介した研究(京都大学霊長類研究所の正高まさたか教授による)の要点は、以下の3つでした。 ◆音楽の記憶は「手続き記憶=体の記憶」であり、言葉の記憶とは異なる。手続き記憶とは、 ・覚えていることすら自覚しない ・覚えたつもりはない、けれども自分のからだが勝手に動く たぐいの記憶であり、音楽の記憶はそういう記憶の一種である。 ◆音楽は「認知的不協和」を緩和する働きをもつ。「認知的不協和」とは、「したくてもできない」という状況に置かれたときの心の葛藤を言う。この音楽の働きは、俗に言う「モーツァルト効果」の一種である。 ◆ ヒト(霊長類)は、節ふしをつけて声を発することをまず覚え、そこから言語が発達した(と推定できる)。 このことに関係した話題を書きます。「音楽の意外な効果」と呼べるものですが、「渋滞学」に関係した話です。 渋滞学 東京大学の西成にしなり活浩かつひろ教授は『渋滞学』(新潮社。2006)という本を書き、大変に有名になりました。この本で西成教授は分野横断的にさまざまな渋滞現象を取り上げています。その中で、我々の非常に身近なものとして高速道路の「自然渋滞」が解説されています。高速道路で起こる各種の渋滞のうち、「事故」「工事」「合流」「出口」などの「通行上の障害」が原因のものは理解しやすいわけです。しかし不思議なのは自然渋滞です。自然渋滞の中…

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No.133 - ベラスケスの鹿と庭園

以前に何回かベラスケスの作品と、それに関連した話を書きました。 No.19 - ベラスケスの「怖い絵」 No.36 - ベラスケスへのオマージュ No.45 - ベラスケスの十字の謎 No.63 - ベラスケスの衝撃:王女と「こびと」 の4つの記事ですが、今回はその続きです。 スペインの宮廷画家としてのベラスケス(1599-1660)は、もちろん王侯貴族の肖像画や宗教画、歴史画を多数描いているのですが、それ以外に17世紀当時の画家としては他の画家にないような特徴的な作品がいろいろとあり、それが後世に影響を与えています。 ます「絵画の神学」と言われる『ラス・メニーナス』は後世の画家にインスピレーションを与え、ベラスケスに対するオマージュとも言うべき作品群を生み出しました。以前の記事であげた画家では、サージェント(No.36)、ピカソ(No.45)などです。オスカー・ワイルドは『ラス・メニーナス』にインスパイアされて童話『王女の誕生日』を書き(No.63)、ツェムリンスキーはそれを下敷きにオペラ『こびと』を作曲しました。近年ではスペインの作家、カンシーノが小説『ベラスケスの十字の謎』を書いています(No.45)。 圧倒的な描写力という点でベラスケスは突出しています。それは、若い時の作品、たとえば『セビーリャの水売り』(1619頃。20歳)の質感表現を見るだけで十分に分かるのですが、極めつけは『インノケンティウス10世の肖像』(1650)でしょう。この絵については N…

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