No.124 - パガニーニの主題による狂詩曲

変奏という音楽手法 今まで何回かクラシック音楽をとりあげていますが、今回はその継続で、「変奏」ないしは「変奏曲」がテーマです。 No.14-17「ニーベルングの指環」で中心的に書いたのは「変奏」という音楽手法の重要性でした。ちょっと振り返ってみると、ワーグナーが作曲した15時間に及ぶ長大なオペラ『ニーベルングの指環』には、「ライトモティーフ」と呼ばれる旋律(音楽用語で「動機」)が多種・大量に散りばめられていて、個々のライトモティーフは、人物、感情、事物、動物、自然現象、抽象概念(没落、勝利、愛、・・・・・・)などを象徴しているのでした。そして重要なことは「ライトモティーフ・A」が変奏、ないしは変形されて別の「ライトモティーフ・B」になることにより、AとBの関係性が音楽によって示されることでした。 たとえば「自然の生成」というライトモティーフの変奏(の一つ)が「神々の黄昏」であり、これは「生成と没落は表裏一体である」「栄えた者は滅びる」という、このオペラの背景となっている思想を表現しています。また、主人公の一人である「ジーフリート」を表すライトモティーフの唯一の変奏は「呪い」であり、それは「ジーフリートは呪いによって死ぬ」という、ドラマのストーリーの根幹のところを暗示しているのでした。 もちろん『ニーベルングの指環』だけでなく、変奏はクラシック音楽(や、ジャズ)のありとあらゆる所に出現します。ベートーベンの『運命』を聞くと、第1楽章の冒頭の「運命の動機」がさまざまに変奏さ…

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No.123 - ローマ帝国の盛衰とインフラ

No.112-113「ローマ人のコンクリート」の続きです。 古代ローマ人は社会のインフラストラクチャー(道路・街道、上水道・下水道、城壁、各種の公共建築物、など。以下、インフラ)を次々と建設したのですが、その建設にはコンクリート技術が重要な位置を占めていました。またその建設資金は、元老院階級(貴族)の富裕層の寄付が多々あったことも書きました。 No.112 に写真を掲げたインフラの中に、「ポン・デュ・ガール」(世界遺産)がありました。これは南フランスの都市、ニームに水を供給するために敷設された「ニーム水道」の一部です。古代ローマ人の驚異的なインフラ建設技術を物語るものなので、写真と図を掲載しておきます。 ポン・デュ・ガール(Wikipedia) ポン・デュ・ガール付近に残る、ニーム水道の遺跡。 (http://www.avignon-et-provence.com/) 「ニーム水道」のルートを示した図。水源地のユゼス(上方)からニーム(左下)までの直線距離は約20kmであるが、水道は約50kmもある。水源からニームの町はずれのカステルム(貯水槽)までの高低差はわずか12m程度で、平均すると1kmで24cmの傾斜がついていることになる(=1000分の0.24の勾配)。そのため導水路は、途中の山地を避けつつ、できるだけ平坦になるように曲がりくねって建設された。 ポン・デュ・ガール付近を拡大した図。青色がガルドン川(その古名がガール川)で、ローヌ川に合流する。緑色が導水路で…

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No.122 - 自己と非自己の科学:自然免疫

今まで4回にわたって、ヒトの「免疫」に関する話題を取り上げました。 No.69-70自己と非自己の科学 No.119-120「不在」という伝染病 (免疫関連疾患の話) です。これらの記事の意図は、免疫についての科学的知見が、我々の生活態度や社会での行動様式に何らかの示唆を与えるに違いないというものでした。 今回もその継続で、「自然免疫」についてです。今までは「獲得免疫」しか書いてないので、それだけではヒトの免疫システムの全貌を知ることはできません。以下、「新・現代免疫物語:抗体医薬と自然免疫の驚異」(岸本 忠三・中島 彰 著。講談社ブルーバックス 2009)と、「新しい自然免疫学」(審良 静男 監修・坂野上 淳 著。技術評論社 2010)の2冊をもとに、ヒトの自然免疫のしくみをまとめてみます。 「新・現代免疫物語」 岸本 忠三・中島 彰 著 講談社ブルーバックス 2009 「新しい自然免疫学」 審良 静男 監修・坂野上 淳 著 技術評論社 2010 自然免疫とは 我々がインフルエンザにかかったとき、39度を越えるような高熱になり、筋肉が痛み、関節が疼くという症状覚えます。この時点で体の中で起こっているの「自然免疫」による防御反応で、インフルエンザ・ウイルスという「非自己」を排除しようとします。獲得免疫が働き始めるのは感染後4~5日後からで、感染した特定種のインフルエンザを狙い撃ちする抗体やリンパ球が大量に増殖し、ウイルスを次々と無力化してい…

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