No.115 - 日曜日の午後に無いもの

No.114「道化とピエロ」で、中野京子さんが解説するジャン = レオン・ジェロームの『仮面舞踏会後の決闘』を紹介しました。中野さんの解説のおもしろいところは、一般的な絵の見方に留まらず、今まで気づかなかった点、漫然と見過ごしていた点、あまり意識しなかった点に焦点を当てている(ものが多い)ことです。『仮面舞踏会後の決闘』では、それは「ピエロ」という存在の社会的・歴史的な背景や意味でした。 No.19「ベラスケスの怖い絵」で取り上げた絵に関して言うと、ベラスケスの『ラス・メニーナス』では「道化」が焦点であり、ドガの『踊り子』の絵では「黒服の男」でした。そういった「気づき」を与えてくれることが多いという意味で、中野さんの解説は大変におもしろいのです。 今回もその継続で、別の絵を取り上げたいと思います。ジョルジュ・スーラの『グランド・ジャット島の日曜日の午後』です。言わずと知れた点描の傑作です。 グランド・ジャット島の日曜日の午後 ジョルジュ・スーラ(1859-1891) 『グランド・ジャット島の日曜日の午後』(1884/6) (シカゴ美術館蔵) まずこの絵の社会的背景ですが、舞台となっている19世紀後半のパリは「高度成長期」でした。1850-60年代のパリ大改造で街並みが一新し、産業革命が浸透し、貧富の差はあるものの人々は余暇を楽しむ余裕ができた。川辺でピクニックをし、清潔になった橋や大通りを散策し、鉄道に乗って郊外に出かけ、ダンスホールで夜を楽しんだ。そういった時代…

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No.114 - 道化とピエロ

No.19「ベラスケスの怖い絵」で、中野京子さんの解説によるベラスケスの『ラス・メニーナス』を紹介しましたが、話をそこに戻したいと思います。中野さんは、王女の向かって右に描かれた小人症の女性、マリア・バルボラに着目し、当時のスペイン宮廷に集められた道化の話を展開していました。 No.19 以降、「ベラスケスと道化」に関係した話題を何回か取り上げています。まず、No.45「ベラスケスの十字の謎」では、マリア・バルボラの横に描かれている小人症の少年、ニコラス・ペルトゥサトを主人公にした小説「ベラスケスの十字の謎」を紹介しました。 さらに、No.63「ベラスケスの衝撃:王女とこびと」では、英国の詩人・文学者、オスカー・ワイルドが「ラス・メニーナス」からインスピレーションを得て書いた童話『王女の誕生日』と、その童話を原案として作られたツェムリンスキーのオペラ『こびと』に関して書きました。 また、No.36「ベラスケスへのオマージュ」では、エドゥアール・マネがベラスケスの『道化師 パブロ・デ・バリャドリード』に感銘を受けて『笛を吹く少年』を描いたことに触れました。 No.19, No.36 に引用したように、ベラスケスはスペイン宮廷の道化を多数描いています。しかし宮廷道化師はスペインだけではなくヨーロッパの各国にあり、それは中世からの歴史的経緯があります。 中世ヨーロッパにおいては、「道化」と「愚者」と「精神を病んだ者」は同じ呼ばれ方をした(英語 fool、フランス語 fo…

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