No.95 - バーンズ・コレクション

前回の No.94「貴婦人・虎・うさぎ」の最後の方で、アンリ・ルソーのウサギの絵を紹介しましたが、この絵を所蔵しているのは、アメリカのフィラデルフィアにある「バーンズ財団 The Barnes Foundation」でした。今回はこの財団が管理するバーンズ・コレクションのことを書きます。 バーンズ・コレクションは、現在はフィラデルフィアの中心部に近い財団の「施設」に展示され、公開されています。施設の正式名は「The Barnes Foundation Philadelphia Campus」のようですが、以降、この「施設」も、その中の「展示作品」も区別せずに「バーンズ・コレクション」と表記します。 アメリカの美術館を訪れる もしあなたが美術好きで、美術館を訪れるのが趣味で、海外旅行の際にも美術館によく行き、かつ、パリやローマには行ったので、今度はアメリカに行くとします。 アメリカの有名美術館は、ヨーロッパ絵画、特に19世紀以降の近代絵画の宝庫です。ヨーロッパ絵画に興味があるなら、パリ、ロンドン、アムステルダム、ローマ、フィレンツェ、マドリードに旅行するだけでは不十分であり、特に近代絵画をおさえておくためにはアメリカに行く必要があります。2011年に日本で開催された「ワシントン・ナショナル・ギャラリー展」の宣伝文句に「これを見ずに、印象派は語れない」とありましたが、これは大袈裟でもなんでもなく、事実をストレートに言っているに過ぎないのです。 そのアメリカの有名美術館を訪…

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No.94 - 貴婦人・虎・うさぎ

前回の No.93「生物が主題の絵」で西欧絵画に描かれた動物のことを書きましたが、今回はその補足です。 忠節のシンボルとしての犬 No.93 で引用したヤン・ファン・エイクの『アルノルフィーニ夫妻の肖像』(1434)には、夫妻の足もとに一匹の犬(グリフォン犬)が描かれていました。神戸大学准教授で美術史家の宮下規久朗氏によると、この犬は「忠節」のシンボルとして描かれたものです。犬は主人を裏切らないから忠節を表すのです。 この「足もとに一匹の犬が描かれている」ということで気になる作品があります。パリのクリュニー中世美術館にある『貴婦人と一角獣』(1500年頃)という有名なタペストリーです。このタペストリーは2013年に日本に貸し出され、東京では国立新美術館で4月27日~7月15日に展示されました(大阪展は国立国際美術館で、7/27-10/20)。 『貴婦人と一角獣』は6枚のタペストリーから構成され、そのうち5枚の意味(表現しているもの)は明確になっています。つまり「味覚」「聴覚」「視覚」「嗅覚」「触覚」という人間の五感です。しかし最後の一枚、「我が唯一の望みへ」との文字が書かれたタペストリーの意味は謎であり、これまでさまざまな説が提出されてきました。 この「我が唯一の望みへ」をよく見ると、貴婦人の足もとに一匹の犬が描かれている(というより、タペストリーだから織られている)のですね。 「貴婦人と一角獣 - 我が唯一の望みへ」 (パリ。クリュニー中世美術館) この犬…

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No.93 - 生物が主題の絵

No.85「洛中洛外図と群鶴図」で、尾形光琳(1658-1716)の「群鶴図屏風」(米国・フリーア美術館蔵)のことを書きました。この六曲一双の屏風には19羽の鶴が描かれているのですが、西洋の絵画と対比したところで、 野生動物を主題にした西洋絵画はあまり思い当たらない と書きました。 尾形光琳「群鶴図屏風」(米・ワシントンDC。フリーア美術館) 確かに近代までの西洋の絵画は圧倒的に人物が中心で、宗教画・神話画・歴史画・肖像画・自画像など、人物(ないしは神や聖人)が画題になっています。中には「希望」「哲学」「妬み」といった抽象概念を擬人化して人物の格好で表した絵まである。「そこまでやるか」という感じもするのですが、とにかく人物が溢れています。人物画の次は静物画や風俗画、近代以降の風景画でしょうか。光琳の群鶴図のような野生動物はもとより、動物・植物・昆虫などの生物を描いた有名な絵はあまり思い当たらなかったのです。今回はそのことについての随想を書いてみたいと思います。 なお以下の話は、主として記録を目的とした「植物画」や「博物画」を除いて考えます。 もちろん動物が登場する絵はいっぱいあります。たとえばNo.87「メアリー・カサットの少女」で感想を書いた、メアリー・カサットの『青い肘掛け椅子の少女』(1878)です。 グリフォン犬 『青い肘掛け椅子の少女』では、少女の向かって左の椅子に寝そべっている犬がいます。この犬については、No.86「ドガとメアリー・カサット」で…

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