No.92 - コーヒーは健康に悪い?

No.83-84「社会調査のウソ」で、主に谷岡一郎著『「社会調査」のウソ』に従って、社会調査が陥りやすい誤りのパターンを紹介しました。今回はその補足です。 新聞報道 先日、コーヒーと死亡リスクについての記事が朝日新聞に掲載されていました。 コーヒー1日4杯、死亡リスク高め  - 55歳未満 男性1.5倍、女性2.1倍  - 米研究チーム 4万人調査 毎日4杯以上のコーヒーを飲む55歳未満の人は、飲まない人に比べ、死亡率が高いとする疫学調査結果を、米サウスカロライナ大などが米医学誌に発表した。研究チームは「若い人はコーヒーを毎日3杯までに」と注意を呼びかけている。 チームが、米国の約4万4千人にコーヒーを飲む習慣を書面で尋ね、その後17年ほど死亡記録などを調べた。その結果、55歳未満に限ると週に28杯以上コーヒーを飲む人の死亡率は、男性では1.5倍、女性では2.1倍になっていた。55歳以上では変化はなかった。 コーヒーは世界で最もよく飲まれている飲み物の一つだが健康影響はよくわかっていない。 世界保健機構(WHO)の国際がん研究機構は1991年、膀胱(ぼうこう)がんについてコーヒーを「発がんの可能性がある」物質に分類。含まれるカフェインが心臓に負担をかけるとの見方もある。 一方で、米国立保健研究所(NIH)などは昨年、50~71歳の男女40万人対象の疫学調査で、コーヒーを1日3杯以上飲む人の死亡率が1割ほど低いとの結果を発表…

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No.91 - サン・サーンスの室内楽

「時代錯誤」の音楽 No.9「コルンゴルト:ヴァイオリン協奏曲」で、この曲について以下の主旨のことを書きました。 ◆この曲は1945年にアメリカで作曲されたが、その50年前の1895年にウィーンで作曲されたとしても全くおかしくない曲である。それほど19世紀末のウィーン音楽に似ている。 ◆この曲の発表当時、音楽批評家は「時代錯誤だ」という批判を浴びせた。ニューヨーク・タイムス紙は「これはハリウッド協奏曲である」と切り捨てた。コルンゴルトが映画音楽を作曲していたことによる。 ◆しかし、時代錯誤であろうとなかろうと、映画音楽であろうとなかろうと、音楽の良し悪しとは関係がない。 コルンゴルトの『ヴァイオリン協奏曲』(譜例9は第1楽章の冒頭)はCDも出ているし、コンサートでも演奏されます。私も1年ほど前に初めてナマ演奏を聞きました。しかし、これほどの名曲(私見)にもかかわらず『ヴァイオリン協奏曲』のジャンルでは、世間の一般的な評価はそれほど高くはないようです。その理由ですが「発表された時に時代錯誤などという評価を受け、その評価が現代まで続いているのではないか」と疑っています。 実は、これと類似の状況が他の作曲家にもあると思うのです。同時代の批評家や音楽家からのネガティブな評価(時代錯誤など)を受け、現代も評価が低い作曲家です。その例としてフランスの作曲家、サン・サーンスをあげたいと思います。 サン・サーンスの音楽 サン・サーンスは19世紀前半(1835)に…

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No.90 - ゴヤの肖像画「サバサ・ガルシア」

No.86-87 の  ◆ ドガとメアリー・カサット  ◆ メアリー・カサットの「少女」 でメアリー・カサット(1844-1926)が描いた絵を何点か取り上げました。そのときに書いたのですが、彼女は30歳になる前にスペインに滞在し、スペインの巨匠の絵を研究し、模写をし、また自らも絵の制作に励みました。その彼女に影響を与えた画家の一人がフランシスコ・デ・ゴヤ(1746-1828)です。今回はそのスペイン絵画の巨匠・ゴヤが描いた一枚の絵について書いてみたいと思います。 National Gallery of Art ( Washington DC )No.87「メアリー・カサットの少女」で『青い肘掛け椅子の少女』(1878)の感想を書きましたが、この作品を所蔵しているのはアメリカの首都・ワシントン DC にあるナショナル・ギャラリー(National Gallery of Art)でした。その同じ美術館に、ゴヤが描いた一人の女性の肖像画があります。『セニョーラ・サバサ・ガルシア』という作品です。私はワシントン・ナショナル・ギャラリーに一度だけ行ったことがあるのですが、そのときにこの絵は展示してあり、実物を鑑賞することができました。 『セニョーラ・サバサ・ガルシア』 フランシスコ・デ・ゴヤ 「セニョーラ・サバサ・ガルシア」 (c. 1806/1811 71×58cm) (ワシントン・ナショナル・ギャラリー) 西欧絵画史の巨匠・ゴヤはいろいろ…

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