No.76 - タイトルの「誤訳」

No.53「ジュリエットからの手紙」において、この映画(2010年。米国)の原題である  Letters to Juliet の日本公開タイトルを  ジュリエットからの手紙 とすることの違和感を書きました。Letters to Juliet という原題は、世界中からイタリア・ヴェローナの「ジュリエットの家」に年に何千通と届くレター、つまり女性が恋の悩みを打ち明けたレターを指しています。映画のストーリーになっているクレアが書いた手紙はその中の一通です。しかし「ジュリエットからの手紙」という日本語タイトルでは、クレアの手紙に対するソフィーの返信のことになってしまいます。この返信が映画で重要な位置にあることは確かなのですが、原作者がタイトルに込めた意味を無視してまで、反対の意味のタイトルをつける意味があるのかどうか・・・・・・と思ったわけです。 大学入試の英文和訳で「Letters to Juliet」を「ジュリエットからの手紙」と訳せば減点されるし、そもそもそういう学力の人は入試に失敗するでしょう。しかし、日本語タイトルをつけた映画配給会社の担当者の英語力が劣っているわけはないはずです。何らかの意図があってタイトルをつけている。その意図はおそらく  興行成績を上げるために有利なタイトルは何か という判断基準だと推測されます。「ジュリエットからの手紙」というタイトルが「興行成績のために有利」かどうかは知りませんが、あえて「誤訳」をするのはそ…

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No.75 - 結核と初キス

前回の No.74「現代感覚で過去を見る落とし穴」を連想させる日本経済新聞の記事が最近あったので、その記事を紹介したいと思います。作家の渡辺 淳一氏が連載している『私の履歴書』です。 渡辺淳一「私の履歴書」 2013年1月12日付の日本経済新聞の『私の履歴書』で、渡辺 淳一氏は以下のような文章を書いていました。札幌南高等学校のときに同級生の加清かせい純子という女性と恋をした話です。その女性は絵が大変に上手で、中学生の頃から「天才少女画家」と言われていたようです。渡辺少年は純子と知り合って逢瀬を重ねます。そして高校3年生になりました。 図書館での逢瀬  - ためらいつつ初キス  受験控え会えない日々へ - ・・・・・・・・・・・・・・・・ 間もなく、私が高校3年生になり、図書部の部長になったので、図書部の部員室の鍵を自由に持ち歩くことができたので、夜、部員室で2人だけで密会した。 彼女は此処にウイスキーや煙草たばこを持ってきて、わたしも誘われるままに飲んでいたが、ある夜、突然、純子に「キスをして」といわれた。 思わず、わたしは応じかけたが、咄嗟とっさに、彼女が肺結核で、血を吐いたことを思い出した。ここで接吻せっぷんをしたら、自分も結核に感染してしまう。 怯おびえて戸惑っていると、彼女が「できないの?」とつぶやき、それに誘われるようにわたしは思いきって、接吻をした。 そのまま、彼女の舌がわたしの口の中でゆらめくのを感…

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