No.72 - 楽園のカンヴァス
アビニョンの娘たち
パブロ・ピカソ
「アビニョンの娘たち」(1907)
(ニューヨーク近代美術館)No.46「ピカソは天才か」で、MoMA(ニューヨーク近代美術館)が所蔵するピカソの『アビニョンの娘たち』(1907。=アビニョンの女たち)についての「違和感」を書きました。つまり「この絵が娼婦の悲惨を描いたとでも言うのなら理解できないこともない。しかし人間賛歌であるというような見方には納得できない。歴史的意義は大いにあるのだろうが、良い絵だとは思えない」という趣旨でした。
最近、原田マハ・著『楽園のカンヴァス』(新潮社。2012)を読んでいたら『アビニョンの娘たち』についての記述があり、それが的確な絵の評言になっているので印象に残りました。ちょっと引用してみます。
小説ではまず、ピカソのアトリエを訪れて『アビニョンの娘たち』を見た友人・知人の芸術家たち、つまり、アポリネール(詩人)、ガートルード・スタイン(米国の作家)、画家のブラック、ドラン、マティスなどが一様に衝撃を受け、絵を批判したことが述べられます。その後に続く文章です。
いままでピカソを支え、その才能に魅了されてきた人々を、これほどまでに混乱させ、怒らせ、絶望させた「アヴィニョンの娘たち」。それは確かに、従来、「絵画はこうあるべきだ」と人々に備わっていた概念を、まったく覆してしまうものでした。
画面には娼婦とおぼしき五人の女が描かれています。カーテンのようなものをたくしあげる左側の女、画面の中央には片手…