No.72 - 楽園のカンヴァス

アビニョンの娘たち パブロ・ピカソ 「アビニョンの娘たち」(1907) (ニューヨーク近代美術館)No.46「ピカソは天才か」で、MoMA(ニューヨーク近代美術館)が所蔵するピカソの『アビニョンの娘たち』(1907。=アビニョンの女たち)についての「違和感」を書きました。つまり「この絵が娼婦の悲惨を描いたとでも言うのなら理解できないこともない。しかし人間賛歌であるというような見方には納得できない。歴史的意義は大いにあるのだろうが、良い絵だとは思えない」という趣旨でした。 最近、原田マハ・著『楽園のカンヴァス』(新潮社。2012)を読んでいたら『アビニョンの娘たち』についての記述があり、それが的確な絵の評言になっているので印象に残りました。ちょっと引用してみます。 小説ではまず、ピカソのアトリエを訪れて『アビニョンの娘たち』を見た友人・知人の芸術家たち、つまり、アポリネール(詩人)、ガートルード・スタイン(米国の作家)、画家のブラック、ドラン、マティスなどが一様に衝撃を受け、絵を批判したことが述べられます。その後に続く文章です。 いままでピカソを支え、その才能に魅了されてきた人々を、これほどまでに混乱させ、怒らせ、絶望させた「アヴィニョンの娘たち」。それは確かに、従来、「絵画はこうあるべきだ」と人々に備わっていた概念を、まったく覆してしまうものでした。 画面には娼婦とおぼしき五人の女が描かれています。カーテンのようなものをたくしあげる左側の女、画面の中央には片手…

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No.71 - アップルとフォックスコン

No.58「アップルはファブレス企業か」で、アップル製品の製造を支える巨大企業・フォックスコン(Foxconn)にふれました。このフォックスコンの記事が最近の雑誌に掲載されたので紹介したいと思います。フォックスコンは鴻海精密工業(Hon Hai Precision Industry)の通称ですが(正確には中国子会社の富士康科技集団の通称)、以下「フォックスコン」で統一します。 雑誌「日経ものづくり 2012年 11月号」に「世界最大のEMS企業 Foxconn のものづくりがベールをぬぐ」という寄稿記事が掲載されました。著者は東京大学名誉教授・中川威雄たけお氏です。中川氏は東京大学工学部精密工学科の出身で、東京大学生産技術研究所・教授でした。専門はプレス加工、工作機械、金型などの機械加工技術です。その後、2000年にファインテック社を創業し、現在はその社長です。中川氏はフォックスコンの技術顧問でもあり、記事を書くには最適な人物といえます。中川氏の記述内容から、フォックスコンの設立の経緯、事業内容を要約すると以下の通りです。 フォックスコンの歴史と事業内容 ◆フォックスコンはもともと、現会長の郭台銘氏が1974年に台湾で数人で創業した。最初は電子機器向けの樹脂成形部品の製造からはじめた。 ◆その後、台湾企業がパソコン部品の製造で成功し始めたころ、フォックスコンもパソコン用コネクタの製造に乗り出した。フォックスコン(Foxconn)の名前の由来は(台湾で)縁起の良い狐(Fox)…

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