No.65 - 中島みゆきの詩(2)愛を語る言葉

No.64「中島みゆきの詩(1)自立する言葉」の続きで、本題である中島さんの「詩」の特徴と思える点について書きます。中島さんは30年以上に渡って500を超える多数の作品を作っているので、とても全部を「概観」するようなことは出来ません。以下はその一部を眺めてみるに過ぎないことを断っておきます。対象はCDとして発売された曲に限定します。 よく言われるように、中島作品には失恋の歌が多いのですが、まずこれについてです。 報むくわれない愛 中島さんの書く失恋の詩には一つの傾向があります。「報われない愛」とでも言うべきテーマの作品が多いことです。つまり これだけ私(女)はあなた(男)を愛しているのに、 ・あなたの態度は曖昧・あなたは本気ではない・あなたは友達だとしか思っていない  ・あなたは私から離れていく・あなたは別の女性を愛している・あなたは私を嫌っている という言い方で語られる失恋 です。これに伴って「私」の「深いあきらめ」や「絶望感」が語られる。それは「自己嫌悪」にもつながる。時には男に「懇願」することもあるが、反対に「恨み言」や「恨みそのもの」にも転化する。それは男に対してだけでなく「恋敵」にも及ぶことがある・・・・・・。そういった心理がないまぜになった「報われない愛、または、報われなかった愛」です。 No.64「中島みゆきの詩(1)自立する言葉」で引用した詩の朗読 「元気ですか」 が、まさに「報われない愛」の詩でした。この中に出てくる「いやな私です…

続きを読む

No.64 - 中島みゆきの詩(1)自立する言葉

No.35「中島みゆき・時代」に続いて「中島みゆきの詩」を取り上げます。今回は特定の曲ではなく、楽曲全体に関わることです。私は評論家ではないので詩の内容についての深いコメントはできないのですが、中島さんの詩が「どういう特徴や特質を持っているか」に絞って書いてみたいと思います。なお、歌詞は歌として歌われることが前提ですが、その言葉だけに注目して鑑賞する場合に「詩」と言うことにします。 No.35「中島みゆき・時代」において、朝日新聞社が『中島みゆき歌集』を3冊も出版していることに触れて、 歌は最低限「 詞 + 曲 」で成り立つので、詩だけを取り出して議論するのは本来の姿ではないとは思うのですが、中島さんの曲を聞くと、どうしても詩(詞)を取り上げたくなります。朝日新聞社の(おそらく)コアな「みゆきファン」の人が、周囲の(おそらく)冷ややかな目をものともせずに歌集(詩集)を出した気持ちも分かります。 中島みゆき全歌集Ⅱ (朝日新聞社 1998)と書きました。 確かに、曲として歌われる「詞」の言葉だけに注目し「詩」として鑑賞したりコメントしたりすることの妥当性が問題になるでしょう。あまり意味がないという意見もあると思います。特に「夜会」のために作られた曲となると、本来は劇の一部なので話は複雑です。 しかし、こと中島作品に限って言うと、彼女はそのキャリアの初期から「私は言葉を大変重要視する」と暗黙に宣言していると思うのです。その点が「詩」として鑑賞する大きな「よりどころ」です。そ…

続きを読む