No.59 - 電子書籍と再販制度の精神

No.1 の『クラバート』から始まって何回か本を取り上げました。『ドイツ料理万歳』『怖い絵』『ローマ人の物語』『雑兵たちの戦場』『小公女』『ふしぎなキリスト教』『ベラスケスの十字の謎』『華氏451度』『強い者は生き残れない』などです。それ以外に、部分的に引用した本もいろいろあります。今回は「本そのもの」について書いてみたいと思います。 No.51, 52 で紹介したレイ・ブラッドベリの『華氏451度』は「本を主題にした本」でした。この紹介の最後のところで、 ◆本に関する状況が今、大きく変化しようとしている。それは電子書籍の本格的な普及のきざしである。◆『華氏451度』は、電子出版が立ち上がりはじめている現代にこそ、我々に熟考すべき課題をつきつけている。 という主旨のことを書きました。以降はその「電子書籍」についてです。『華氏451度』は、本のない世界を描くことによって人間にとっての本の意味を問いかけた小説でしたが、電子書籍について考察することも人間にとって本とは何かを鮮明にすると思っています。 後世から振り返ると、2012年(ないしは2013年)は(日本における)電子書籍普及の大きな転換点と見なされるかもしれません。ちょうど1995年がパソコンとインターネットが爆発的に普及する(世界的な)ターニングポイントになったようにです。それはWindows95とNetscapeという新製品や技術革新が後押ししました。 本・書籍はコンピュータやインターネットとは比較にならないほど長い…

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No.58 - アップルはファブレス企業か

No.54「ウォークマン」で、デジタル・オーディオ・プレーヤーとしてのウォークマンとアップルのiPodを対比したのですが、これに関連した事項です。No.54の中でiPodの成功について、 この成功は大変にドラスティックでした。そのためマスコミのアップルに関する論評には過度の「礼賛記事」が見受けられるように思います。その一つが「iPodのビジネスモデル」論です。iPodはハードウェア販売とコンテンツ配信事業(iTunes Music Store による音楽の販売)をミックスしたビジネスモデルを作ったことが成功原因だ、とよく言われます。はたしてそうなのでしょうか。 と書きました。「ハードウェア販売とコンテンツ配信事業をミックスしたビジネスモデル」は、最終的にそこに至ったのであり、iPod のブレークの主な要因ではない。iPod が爆発的に広まった根本要因は、iPod がデジタル・オーディオ・プレーヤーをよそおったコンピュータだからである、という主旨でした。 この「ハードウェア販売とコンテンツ配信事業をミックスしたビジネスモデル論」以外にも、アップルに関するメディアの記事や報道には、本質を見誤っていると思える内容がいろいろと見受けられます。その一つが「アップルはファブレス企業であり、そこに成功の要因がある」といった議論です。今回は、それについて書いてみます。 マスコミ論調 すこし前、NHKの番組を見ていたら経済解説をやっていて、NHK経済部の記者がアップル社を例にあげて説明して…

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No.57 - 首都圏交通大混乱の物理学

爆弾低気圧 普通はあまりしないことなのですが、No.56「強い者は生き残れない」の半分ぐらいの "原形" は通勤電車の座席に座って書いたものです。 2012年4月3日(火曜日)、西日本から東日本にかけて「爆弾低気圧」と呼ばれる台風並みに発達した低気圧が通過し強風が吹き荒れました。私は首都圏に在住しているのですが、帰宅途中の私の乗った電車(小田急線)も相模川を渡れずに駅で3時間も立ち往生してしまいました。迂回することも何とか可能でしたが、たまたま席に座っていたのと、低気圧が通り過ぎればそのうち動くだろうと思ったので、運行再開を待つ間キーボードをたたいていたというわけです。繰り返し電車内にアナウンスされていたのは、次の3点です。 ◆相模川の鉄橋の風速計が25m/secを越えたので電車の運行を停止する。◆風速25m/secを越えると電車は転覆の危険がある。◆10分の間、風速25m/secを越えない状況になったら運行を再開する。 なるほど、しっかりしているなと思いました。風速25m/secという明確な運行停止基準と運行を再開する基準がある。さすがに「転覆の危険」というのは大袈裟だと思いましたが(かなりの安全率が見込まれているはず)明快にそう言い切るのは良いと思います。印象に残るアナウンス内容でした。 西日本でもそうだったと思いますが、当日の首都圏の列車・電車はJRや私鉄を含めて広範囲に運行見合わせが多発しました。しかし駅での混乱は以前ほどではなかったようです。当日は13時帰宅や1…

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