No.53 - ジュリエットからの手紙

イタリアへの興味 今までに何回かイタリアに関係したテーマを取り上げました。 ◆オペラ(ベッリーニ) No. 7「ローマのレストランでの驚き」 No. 8「リスト:ノルマの回想」◆ヴェネチア(中世の貿易) No.23「クラバートと奴隷(ヴェネチア)」◆古代ローマ(宗教を中心に) No.24-27「ローマ人の物語」◆イタリア・ワイン No.31「ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ」◆キリスト教 No.41-42「ふしぎなキリスト教」 などです。キリスト教はイタリアのものではありませんが、今日のキリスト教が形作られて中心地となったのはローマです。 私は歴史も含めてイタリアに興味があるのですが、なぜ興味が沸くのか、その理由を(少々こじつけて)考えてみると以下のようになると思います。 ◆現代の日本は「西洋近代文明」に多大な影響を受けている。それにどっぷりとつかり、時には違和感を感じながら生活している。◆もともと日本は中国文化の影響を受けたし、日本固有の文化の発達も大いにあったが(いまでもあるが)、明治以降は西洋近代文明の影響が極めて大きい(日本だけではないが)。◆その西洋近代文明のルーツに(現在の)イタリア発祥のものが多々ある。古代ローマ帝国の数々の遺産(法体系、学芸、建築、技術、など)、ヨーロッパを形成したキリスト教、ルネサンス期の芸術、音楽や楽器の発達などである。ヨーロッパは「イタリアに学べ」ということで(時には反発しながら)文化を作ってきた。日本を含む世界に多大な影…

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No.52 - 華氏451度(2)核心

(前回から続く)『華氏451度』が描くアンチ・ユートピア(続き) クラリスの言葉による『華氏451度』の世界の描写(前回の最後の部分参照)は、この世界になじめない側からの発言でした。このクラリスの「世の中からの距離感」がモンターグの心を揺さぶることになるのです。 一方、ファイアーマンの署長であるビーティは「体制側」の人間です。彼がモンターグに、こういう世界ができた経緯や理由を語るシーンがあります。なぜ本が禁止されているのかも語られます。ここが『華氏451度』の核心と言えるでしょう。 [ビーティ] 20世紀の初期になって、映画が出現した。つづいて、ラジオ、テレビ、こういった新発明が、大衆の心をつかんだ。大衆の心をつかむことは、必然的に単純化につながらざるをえない。かつては書物が、ここかしこ、いたるところで、かなりの人たちの心に訴えていた。むろん訴える内容となると、書物ごとに、さまざまだった。なにしろ、まだまだ世界は、のんびりと余裕があったからだ。ところが、その後地球上は、眼と肘と口とが、ぐんぐん数をまして、人口は倍になり、3倍になり、4倍になった。映画、ラジオ、雑誌の氾濫。そしてその結果、書物はプディングの規格みたいに、可能なかぎり、低いレベルに内容を落とさねばならなくなった。 この世界では、簡略化、ダイジェスト化、短縮化が徹底的に進んでいます。 『ハムレット』を知っているという連中の知識にしたところで、例の、《これ一冊で、あらゆる古典を読破したとおなじ、隣人との会話のため、…

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