No.25 - ローマ人の物語(2)宗教の破壊

(前回より続く)ローマの衰退 本題のローマの衰退についてです。「ローマ人の物語」は「キリスト教の国教化が、ローマの衰退から滅亡への最後の決定的な要因になった」と言っているのだと思います。このようにダイレクトに書かれた箇所はなかったかと思いますが、その有力な「状況証拠」としては第14巻が「キリストの勝利」題されていることです。これは「ローマの敗北」の裏返しです。 もちろん「キリスト教の国教化」に至った背景には、そうなるぐらいにキリスト教が広まったということがあるわけです。キリスト教徒は最も多い都市で5%と書かれています。5%というと少ないようですが、これ以外に人口の何分の1かの「シンパ」がいるはずだから、それなりの数ではあるわけです。広まった理由としては、経済の混乱や、度重なる外敵の進入、疫病の流行などによるローマ市民の救いを求める心情があるようです。キリスト教徒の拡大の理由については、「第12巻:迷走する帝国」に詳細な分析が書かれています。 ローマの衰退や滅亡の要因にはキリスト教以外の要因もさまざまなものが考えられます。前回の No.24 「ローマ人の物語 (1) 」にも書いたように、領土が固定化され、奴隷の新規獲得もなくなり、市民権をもつ人が増え、それ以上のローマ化を多くが望まなくなったとき、しかも軍隊が傭兵だらけになったとき、ローマの国家の活力を維持していたダイナミックなメカニズムは働かなくなると思うし、その方が衰退要因としては大きいと感じます。また、No.16「ニーベルング…

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No.24 - ローマ人の物語(1)寛容と非寛容

No.7「ローマのレストランでの驚き」で、ローマのカピトリーノ美術館の「マルクス・アウレリウス帝の騎馬像」について「唯一、ローマ皇帝の騎馬像で破壊をまぬがれたもの」と書きました。これは、塩野 七生 著「ローマ人の物語」に沿って記述しているわけです。またNo.16「ニーベルングの指環(指環とは何か)」でも、ローマ帝国の銀貨改鋳の歴史を「ローマ人の物語」から引用しました。 その「ローマ人の物語」についての感想を書いてみたいと思います。「ローマ人の物語」は全15巻という大著であり、感想を書き出したらきりがなくなります。ここでは、著者の塩野さんが書いている「ローマの隆盛と滅亡の要因、特に滅亡の要因」に絞って記述したいと思います。なお「ローマ」とは、塩野さんの考えに従って「古代ローマの建国から西ローマ帝国の滅亡までの、ローマという都市を中心(首都)とする国をさすもの」とします。 前提事項-1 歴史を素材とする小説 まず断っておくべき前提事項が3点あります。第1点は「ローマ人の物語」は歴史書というより小説に近いということです。つまりこの本は「過去の歴史研究に基づくローマの歴史、特に政治史・軍事史を素材にし、それを詳細に記述する中で著者の人間観や社会観を述べた小説」と考えた方がよいと思います。従って「ローマ帝国滅亡の原因」というような歴史研究の範疇に属するテーマは本書の第1の主旨ではないわけです。この本はあくまで、随所に記述されている塩野さんの「人間性や社会の本質」に迫ろうとする多様…

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