No.19 - ベラスケスの「怖い絵」

No.7「ローマのレストランでの驚き」の冒頭に、ローマで訪れたカピトリーノ美術館の「皇帝マルクス・アウレリウスの騎馬像」を掲げましたが「その日はローマのいろいろの場所を訪れた」とも書きました。その訪れた場所の一つが、ドーリア・パンフィーリ宮殿です。 ドーリア・パンフィーリ宮殿はローマの中心部、ヴェネツィア広場の北に位置し、パンテオンからも近い位置にあります。ここはパンフィーリ家所有の宮殿であり、現在も住居とし使われていて、その一部が美術館として公開されています。ここにはカラヴァッジョの初期の絵画「マグダラのマリア」と「エジプトへの逃避途中の休息」があります。 しかし何といってもこの美術館の「目玉」は、絵画史上における肖像画の傑作、最高傑作と言ってもいい絵画作品です。ベラスケス(1599-1660) が描いた「インノケンティウス十世の肖像」(1650) です。スペイン王室の宮廷画家だったベラスケスがイタリアに招かれ、当時75歳のローマ教皇を描いたものです。 インノケンティウス十世の肖像 [1650] ベラスケス:インノケンティウス十世の肖像 (ローマ:ドーリア・パンフィーリ美術館) 「インノケンティウス十世の肖像」については、中野京子さんがその著書「怖い絵」(2007。朝日出版社)で「完璧」と思える解説を書いています。この絵について触れようとすると、中野さんの文章の引用は避けて通れないでしょう。 ベラスケスの肖像画家としての腕前は、まさに比類がなかった。フェ…

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No.18 - ブルーの世界

No.4「プラダを着た悪魔」 で紹介したように、この映画の中で編集長のミランダはアンディの着ているセーターを見て、 でも知らないでしょうけど、その色はブルーじゃない。ターコイズでもラピスでもない、セルリアンよ。 と言っています。このミランダのセリフに出てくるブルー、ターコイズ、ラピス、セルリアンは、すべて「青」を表す言葉です。 そこで「No.4 - プラダを着た悪魔」の補足として「青色の歴史」、特に顔料や絵の具、染料を中心とした青の歴史をまとめておきたいと思います。なお「青」といっても非常に多様です。以下は「代表的な一部の青」であることを断っておきます。また以下に掲げる「色見本」もあくまで一つの例であって、同じ色の名前でもヴァリエーションが多々あります。 現代社会において布地を染める染料、絵画用の絵の具、建築や工業製品・日用品に使われる塗料・顔料の類は、ほとんどが工業的に合成されています。どんな色でも自由に、かつ安価に作れるわけです。しかし昔はそうではありません。「色」は貴重なものであり、それを巡るさまざまな歴史があります。 ブルーと青・あお まずミランダの言う「ブルー」とは、もっとも一般的な色の名称(=色名、しきめい)としてのブルーです。ミランダがアンディに言いたいことは、 いま着ているセーターの色を「ブルー」と思っているようではファッション関係者とは言えない。どういうブルーかが分かっていないようでは・・・・・・ ということでしょう。ファッションに敬意…

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