No.6 - メアリー・ダイアー

No.3「ドイツ料理万歳」 で書いた「ウィーンの白アスパラ」のように、海外旅行の大きな楽しみは「日本ではできなかった経験や発見」をすることでしょう。それは No.3 のように食事であったり、また、遺跡などの観光、美術館・博物館、自然の景観などの体験です。しかし現代では日本に居ながらにして入手できる「海外情報」が大量にあるので「日本ではできない経験」も予想の範囲内や想定内であることが多いわけです。「思ってもみない経験をして、強く印象に残った、感動した」ということは少なくなったのではないでしょうか。 もちろん「想像以上だった」というのはあると思います。「ローマのコロッセオは想像以上に巨大な建造物だった」とか「カナディアンロッキーの雄大な眺めは想像以上にすばらしかった」とかのたぐいです。しかしこれは、ガイドブックやテレビ番組を見て想像していたのよりはレベルが上だったとか、予想以上の規模であったということであって、「全く想像だにしなかった発見、経験だった」というものではありません。スリにあったというようなネガティブな突発事態でさえ、現代では「想定範囲内のこと」となってしまった感があります。 その、比較的まれになった「想定範囲外の、意外な発見」を米国のボストンでしたことがあります。 ボストンとフリーダムトレイル ボストンはアメリカの「建国の地」であり、国内からの観光客はもとより世界各国からの観光客も多い街です。日本で言うと京都・奈良でしょうか。かつての米国大統領、ジョン・F・ケネ…

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No.5 - 交響詩「モルダウ」

ドイツ文化とスラヴ文化 No.1 とNo.2 でとりあげた「クラバート」ですが、訳者の中村浩三氏の紹介によると、作者のプロイスラーはドイツ人だが生まれはチェコのリベレツであり、リベレツのドイツ名はライヒェンベルクだとのことです。つまり「クラバート」はチェコ生まれのドイツ人が、ドイツ(当時はザクセン公国)に住むスラヴ系民族・ヴェンド人(チェコもスラヴ系です)のことを書いた物語ということになります。 このヴェンド人という言い方もドイツ語ですね。自民族の言語では「ソルブ人」であり、最近はソルブ人という言い方に統一されてきたようです。ドイツ系文化圏とスラヴ系文化圏は、ドイツ東部、チェコ、ポーランドあたりでは入り交じっているわけです。 スメタナ これで思い出すことがあります。 スメタナ(ヴェドルジハ・スメタナ)という19世紀チェコの作曲家(1824-1884)がいます。交響詩「モルダウ」の作者として大変に有名ですが、チェコの国民楽派の祖であり、チェコやボヘミア地方(チェコ西部から中央部にかかての地域)を題材にした名曲を残しました。あのドボルザークにも大きな影響を与えたと言います。このことは学校の音楽の教科書にも出ていたはずです。 このスメタナの「母語」が実はドイツ語であり、日常会話はドイツ語で、チェコ語はできなかったということなのです。チェコ人としてチェコ語ができないことを恥ずかしく思ったスメタナは、成人してからチェコ語を学んだようです。 国民楽派というと、ドイツ、…

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