No.4 - プラダを着た悪魔

「プラダを着た悪魔」のあらずじ No.2 『千と千尋の神隠しとクラバート(2)』で「最近もクラバート型のストーリーをもつハリウッド映画があった」と書きましたが、その『プラダを着た悪魔』(2006年公開。米映画)についてです。この映画のあらずじはざっと次のようです。 米国中西部の大学を卒業したジャーナリスト志望のアンドレア・サックス(=アンディ。演じるのはアン・ハサウェイ)は、ニューヨークの著名ファッション雑誌「ランウェイ」の編集長、ミランダ・プリーストリー(メリル・ストリープ)の第2アシスタントとして「奇跡的に」採用され、働き始めます。 プラダを着た悪魔ミランダは知る人ぞ知る「鬼」編集長で、雑誌の内容は隅々まで彼女の意向一つで決まり、編集部員たちは彼女を恐れ、奴隷のように従っています。ミランダのアンディに対する要求の厳しさも半端ではなく、日々の仕事についてはもちろんのこと、悪天候で欠航した飛行機を運行するよう航空会社とかけあえ、など、理不尽な要求も突きつけます。 アンディは必死にミランダの過酷な要求に従っていくのですが、なかなか彼女に認めてもらえません。その鬱積した不満を、ファッション・ディレクターのナイジェルに相談したところ「甘ったれるな」と諭されます。根本的な問題はアンディがファッションに無関心であり、世界的に著名なこの雑誌の価値を認めていないことです。つまり「ランウェイ」編集長のアシスタントは女の子のあこがれの職業であり、ここで働くなら多くの者は命も捧げる…

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No.3 - 「ドイツ料理万歳!」(川口マーン惠美)

ドイツ料理 No.2「千と千尋の神隠しとクラバート(2)」の最後で、ドイツのザクセン地方を舞台にした小説『クラバート』と料理の関係を書きました。今回はそのドイツと料理の関係についてです。 そもそも「ドイツ料理」は世界から「おいしい料理」だとは認められていないと思います。たとえば、例の「アイスバイン」です。豚の「すね肉」の塊を茹でたものですが、こういう料理がドイツ料理の代表(の一つ)となっていること自体、世界におけるドイツ料理のポジションを暗示しています。ひょっとしたらアイスバインをドイツ料理の代表のように喧伝するのは、ドイツをおとしめるための、周辺の「食通国」の人たちの陰謀ではないだろうか、と思えるほどです。 ベルリンに旅行した時のことです。ある夜、「地球の歩き方」に載っている「ドイツ家庭料理」の店に入ったところ、隣のテーブルに20歳過ぎらしい若いカップルがいて、その女性のほうがアイスバインを注文していました。皿の上に骨付きの豚肉が「ゴロッと」置いてあります。「どうするのだろう」と思って食事をしながらチラチラと見ていましたが、その若い女性はぺろっと食べてしまったのです。注文したのだから食べるのはあたりまえ、と言ってしまえばそれまでですが、真実を目のあたりにして軽いショックを受けました。 もし私が20歳前後の学生で、ドイツの大学に留学していたとして、地元の女子学生に「淡い好意」をもち、首尾良くレストランに誘い出したとします。そこで彼女がアイスバインを注文して平らげたとしたら・…

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